目次
日銀の金融政策がマーケットにおいて注目されていますが、そもそも日銀の役割とはどのようなものなのか、金融緩和にはどのような種類があるのかを詳しく解説していきます。そして、現在注目をされている ETF購入 が株式市場に与えている影響を見ていきます。
日銀(日本銀行)とは
日銀には、「物価の安定」と「金融システムの安定」という2つの目的があります。
特に、物価を安定させることは、重要な要素です。日銀には、物価を安定させながら、経済を安定成長させていくという役割があるのです。 物価の安定とは、個人や企業などの経済主体が、物価水準の変動に煩わされることなく、消費や投資などの経済活動に係る意思決定を行うことができる状態を指します。
つまり、消費者が安心して買い物できたり、企業が設備投資できたりするような環境を整えるということです。
物価を判断する指標としては、速報性を備えている消費者物価指数が目安となっています。日本は長らくデフレ(モノの価値が下がること)が続いています。そこで日銀は、2013年1月の金融政策決定会合で、消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を導入しました。
中央銀行としての役割
中央銀行としての日銀の役割には次の3つがあります。
1.発券銀行としての役割
2.政府の銀行
3.銀行の銀行
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.発券銀行としての役割
日本でお札(紙幣)を発行できるのは日銀だけです。お札は「日本銀行券」で、日銀しか刷ってはいけません。他の人が刷ったら偽造になります。日銀はお金の量を調整することで、景気をコントロールしています。なお、10円玉などの硬貨は国が発行していて、「造幣局」で造られています。
2.政府の銀行
政府が国民から集めた税金や、国債のお金を預かって公共事業に使ったり、公務員の給料を支払ったりしています。
3.銀行の銀行
民間の銀行が日銀に預金をしたり、お金を借りたりすることです。銀行は一般企業や個人のお金を預かったり、お金を貸し出したりしていて、経済に対して大きな影響力があります。
その銀行が簡単に潰れてしまっては、経済に混乱をもたらしてしまいます。ですから、銀行に対しては、特別に日銀がお金を供給して経営を安定させるのです。銀行が困った時にお金を借りられるのが日銀です。それが、銀行の銀行と呼ばれる所以です。
このように、国全体のことを考えて政策を行う銀行を「中央銀行」といいます。日本では日銀、米国では FRB( 連邦準備制度理事会)、ユーロ圏では ECB( 欧州中央銀行)が中央銀行の役割を果たしています。
日銀の金融政策
日銀が金融政策を行う上でとても重要な指標があります。それは、「マネーサプライ」です。マネーサプライとは、お金の供給量のことで、世の中にどれくらいお金が出回っているかを表しています。通貨供給量ともいいます。日銀は毎月このマネーサプライの調査をして、どのくらい変化しているかを調べています。どの範囲までの預金をお金に含めるかで、以下の3つに分類されます。
- M1= 現金通貨 + 預金通貨
現金通貨とは、日銀が発行するお札と、政府が発行する硬貨のことです。
預金通貨とは、預金者の要求でいつでも引き出すことができる、当座預金・普通預金・貯蓄預金等のことです。
- M2 = M1 + 準通貨(定期性預金)
準通貨とは、解約することでいつでも現金通貨・預金通貨となって決済手段として使える金融資産のことで、定期預金や据置貯金、定期積金などがあります。
- M3 = M2+ 郵便貯金、農協、信用組合などの預金
M3はM2に郵便局・農協・信用組合などの預貯金や金銭信託を加えたものです。
さらにCD(譲渡性定期預金)を含める場合もあります。CDとは、他人に売ることができる定期預金で、自由に発行条件を定めることができる預金のことです。
CD を発行できるのは、銀行など預金を受け入れる金融機関に限られています 。CD の預金者は、金融機関及びその関連会社、証券会社などが中心で、期間は1~3ヶ月が最も多く発行されています。
マネーサプライを定義する場合は、通常「 M 2+ CD」 です。つまり、現金・普通預金・定期預金・譲渡性定期預金の合計額を指します。
マネーサプライと金融の関係
マネーサプライは、お金の供給量ですから、経済活動の大きさによって増えたり減ったりします。お金とモノの関係には次の2つの状態があります。
- インフレ
取引されるモノやサービスに対して、お金の量が増えすぎると物価が急激に上がる現象が起こります。これを、「インフレ」といいます。
- デフレ
お金の量が減りすぎると、モノが余ってしまって物価が下がる状況になります。これを「デフレ」といいます。
インフレとデフレは経済に悪影響を与えます。日銀は物価の安定を図り、インフレやデフレに日本経済が陥らないようにコントロールする必要があります。しかし、現状では日本経済は長いデフレ状態が続いています。インフレターゲットを用いてデフレを止めようとしているものの、簡単にはうまくいっていない状況です。
日銀の金融政策とマーケットの関係
金融市場は取引期間により、次に2つに分類できます。
1.期金融市場(満期までの期間が1年未満)
- インターバンク市場 コール市場と手形市場
- オープン市場 CP・CD市場
2.長期金融市場(満期までの期間が1年以上)
- 株式市場
- 公社債市場
これらの金融市場に、日銀は様々な影響を及ぼしています。
インターバンク市場とは、金融機関同士で資金を貸し借りする、つまり資金運用や資金調達する市場のことです。この市場には、銀行や証券会社、保険会社など金融機関のみが参加できます。
一方、オープン市場は金融機関以外の一般の事業会社等も、資金調達などに参加できる市場のことをいいます。インターバンク市場は、コール市場と手形市場から成り立っています。
コール市場とは、金融機関の間で1年未満の資金の貸し借りを行う市場です。主に無担保コール翌日物が取引されています。金融機関と金融機関の間で、一日だけ資金の貸し借りを行う時に適用される金利のことです。
無担保コール翌日物金利は、通常日銀の金融政策の誘導目標金利政策金利になっています。この金利を限りなくゼロに近い数字になるように日銀が誘導している状態を、一般的に「ゼロ金利政策」と呼んでいます。
金融政策の手段
基本的な方針は日銀で行われる金融政策決定会合で決められます。年8回開催され 、次の4つについて話し合われます。
- 金融市場調節方針
- 基準割引率、基準貸付利率及び預金準備率
- 金融政策手段(オペレーションに係る手形や債券の種類や条件、担保の種類等)
- 経済・金融情勢に関する基本的見解等
金融政策の手段としては、次の二つがあります。
1.公開市場操作(オープン・マーケット・オペレーション)
2.預金準備率操作
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.公開市場操作(オープン・マーケット・オペレーション)
公開市場操作は、金融政策の代表的な手段です。日銀がオープン市場で債券などの売買を行うことにより、民間金融機関の保有する資金の量を増減させ、金利などに影響を与えます。公開市場操作には、買いオペレーション(買いオペ)と売りオペレーション(売りオペ)があります。
- 買いオペレーション
日銀が市場から国債等を購入し、市場に資金を供給することで、市場の金利は低下します。日銀が金利を下げる政策を「金融緩和」といいます。金融緩和は、デフレなど景気が悪い時に行われる政策です。
出典:日本経済新聞
- 売りオペレーション
日銀が保有する国債等を市場に売却して、市場から資金を吸収することで、市場の金利は上昇します。日銀が金利を上げる政策を「金融引き締め」といいます。金融引き締めは、景気が良く、インフレ状態の時に行われる政策です。
出典:日本経済新聞
2.預金準備率操作
預金準備率の変更によって、金融機関の保有する資金量を上下させ、金利に影響を与える政策のことです。金融機関が預金量に応じ、日銀に強制的に一定割合を預け入れる資金を準備預金といいます。預金準備率は預金量に対する準備預金の割合のことです。
通常、預金準備率が上がると金融機関の金利は上昇し、預金準備率が下がると金融機関の金利も低下します。
日米およびユーロ圏の金融政策を比較してみましょう。
- 日本の金融政策
- 中央銀行 日本銀行
- 最高決定機関 金融政策決定会合
- 政策金利 無担保コール翌日物金利
- 米国の金融政策
- 中央銀行 FRB(連邦準備制度理事会)
- 最高決定機関 FOMC(連邦公開市場委員会)
- 政策金利 FFレート(フェデラル・ファンド・レート)
- ユーロ圏の金融政策
- 中央銀行 ECB(欧州中央銀行)
- 最高決定機関 ECB理事会
- 政策金利 翌日物市場金利
ゼロ金利政策とは
ゼロ金利政策が実施されたのは、1998年にバブル崩壊後の最悪の経済混乱があったからです。1997年11月に山一証券や北海道拓殖銀行などが倒産し、さらに他の金融機関まで影響が及ぶ懸念がありました。
そのような事態を避けるために、非常手段として行なったのがゼロ金利政策でした。銀行同士で安心してお金を融通し合えるようにして、通常の企業にもお金が回るようにしようという政策で、臨時的な措置でした。
元々臨時的な措置だったので、2000年に一旦ゼロ金利政策は解除。しかし、2001年に米国同時多発テロが起こり、世界的に景気が悪化したので、今度は通常の景気対策手段として使われるようになりました。
再び、ゼロ金利が解除されたのは2006年。しかし、2008年のリーマンショックで世界的な不況が起こると、再びゼロ金利に戻っています。
量的緩和政策と包括金融緩和政策
ゼロ金利政策によっても経済は活性化せず、日銀は「量的金融緩和政策」を行いました 。詳しく解説します。
量的金融緩和政策とマイナス金利政策
量的緩和政策は、日銀が金利を操作するのではなく、金融機関への資金供給量を増やすことで景気を刺激する政策です。金融機関が日銀の当座預金に預けている資金のうち、預けることが義務付けられている金額を超える部分の一定金額については、マイナス金利が適用されています。預けた方が利息を払う必要があるということです。
バブル崩壊以降、金利を下げてもなかなか日本経済が回復しなかった状態を見て、日銀は金利ではなく、流通しているお金の絶対量に注目して、政策を実施することにしました。それが「量的緩和政策」です。
包括緩和政策
包括緩和政策では、これまで国債などほとんどリスクがない債券を買い取っていましたが、投資信託などのリスク資産も含めて、日銀が民間の金融機関から買い取り、お金を市場にばらまきました。主にETF(上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)を購入しています。
ETFとは、”Exchange Traded Funds”の略で、「上場投資信託」と呼ばれています。特定の指数、例えば日経平均株価や東証株価指数 (TOPIX)な どの動きに連動する運用成果を目指し、東京証券取引所などに上昇している投資信託です。日銀が購入しているETFは以下の4つです。
1.日経平均株価
2.TOPIX(東証株価指数)
3.JPX日経400
4.設備人材
ただ、ほとんど日経平均株価とTOPIX型のETFを購入しています。
ETF買いの特徴は次の6つです。
1.2%のインフレ目標を設定するために、金融緩和の一環(包括緩和政策)としてETFを購入
2.年間6兆円の買い入れ
3.日銀がETFを買うことで、間接的に市場から株式を購入している
4.対象となるETFは日経平均株価、TOPIX(東証株価指数)が中心
5.午前中の株価が下がると(主にTOPIX)、午後から買入が入ることが多い
6.日銀がETFを購入しても株価が必ず上がるわけではない
日銀は2013年4月、異次元緩和の開始とともに、 ETF 買い入れ額を2年で2倍となる年間約1兆円に拡大しました。2010年10月には約3兆円、2016年4月から約6兆円となり、現在まで続いています。
株価は異次元緩和の開始以来、6割上昇しました。株価を押し上げる効果については疑問が残りますが、買い支えの効果があったことは間違いないでしょう。
ETFやREITは、価値がなくなってしまう可能性がある資産です。これまで購入を行ってきた国債も値段が下がります。しかし、満期になると元本で償還されますし、国債の価値がなくなる時は、日本政府が破綻する時です。ですから、投資対象としては安全で、国債がただの紙切れになる可能性はかなり小さいと考えられます。
しかし、ETFや REITは価値が大幅に下がる可能性があります。そういったものを「リスク資産」といいます。中央銀行が政策としてリスク資産を買うのは通常ではありえません。国際的に見ても、リスク資産を購入しているのは日銀だけです。
また満期がある国債と異なり、 ETF やREITはいつか売却しなければいけません。日銀が ETF やREITを購入しているのは、資産運用のためではなく、金融緩和政策の一環として世の中の現金量を調整するためです。
今度はインフレになって金融引き締めを行う時に、日銀が買っていたリスク資産が大きく毀損していたらどうなるでしょうか。 そういったことを考慮すると、リスク資産を買うのはよほどの覚悟がなければいけないのです。
また、株式市場にも弊害がでてきています。
日本株市場での日銀の存在感が一段と高まっているからです。ETF(上場投資信託)を通じた保有残高は約25兆円に達し、東証1部の約4%弱に相当します。2018年3月末時点で上場企業の約4割で、上位10位内の大株主に日銀がなっています。
日銀は ETF 購入を国債購入と並ぶ2%物価目標達成(インフレターゲット)の手段と位置付けていますが、株式市場での存在感が高まるほど出口戦略は困難になります。
東京ドーム、サッポロホールディングス、ユニチカ、日本板硝子、イオンの5社では、実質的に筆頭株主となっています。さらに、創業者などが多くの株式を保有し、市場に流通する浮動株が少ない企業への影響は一段と大きくなります。
例えば、日経平均株価に一番影響を与えるファーストリテイリング。 ETFに多く組み込まれており、日銀が一兆円ETFを買うごとに、ファーストリテイリング株を200億円買う計算になります。現在のペースで計算すると1年後に市場に流通する株がほぼ枯渇してしまいます。
このように株式市場に大きな影響を与えている日銀 ETF 買い 。日銀は個別企業に対する影響が大きい日経平均型ETFからTOPIX型ETFを増やすことを発表しましたが、株式市場に今後どのような影響を与えるかが懸念されます。
まとめ
日銀の一番の役割は「物価の安定 」です。バブル崩壊後、長らく続くデフレ経済に対して、1998年から「ゼロ金利政策」を始めました。ただ、それだけでは経済は上向かず、「量的金融緩和」と「包括金融緩和」を行っています。
しかし、包括金融緩和で ETFを 購入した結果、株式市場での存在感がとても大きくなってしまいました。現在はまだデフレから脱却していないものの、経済状況は良好になっています。これからは出口戦略が問われる時代になり、日銀がどのような対応をしていくかが注目されます。