不動産賃貸に関する税金を正しく理解して節税しよう!

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昨今のシェアハウス問題でマイナスイメージがつきまとっている不動産賃貸ですが、相続税対策としては有効な手段です。

空地を単に相続した場合は、相続人は現金で1円も入手できず、相続税評価額に応じた相続税を支払うことになります。

しかし、空き地に賃貸マンションを建てる場合は、マンション建設費用の借入が発生するかもしれませんが、その後数十年の賃貸収入を入手することができます。

相続税は払わなればなりませんが、元空き地からの継続収入があります。

ただ不動産賃貸を行えば、所得税を納める必要がありますし、規模が大きくなれば、消費税も払わなければなりません。

以下の記事では不動産賃貸を行う際に留意すべき所得税と消費税について書きました。

皆様の何かの参考になりましたら、幸いです。

不動産賃貸に関する所得税

所得税のしくみ

所得税は個人の所得に対して課税される税です。

1年間のすべての所得の金額から所得控除を差し引いた課税所得金額に税率を適用して税額を計算します。

所得税の税率は、分離課税に対するものなどを除き、所得が多くなるに従って段階的に高くなる超過累進税率となっています。

課税される所得金額に対する所得税の金額は、次の速算表を使用すると簡単に求められます。

課税される所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え 330万円以下 10% 97,500円
330万円を超え 695万円以下 20% 427,500円
695万円を超え 900万円以下 23% 636,000円
900万円を超え 1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円超 40% 2,796,000円

なお、所得税は、納税者が自ら所得と税額を計算し、納税する「申告納税制度」を採用しています。

所得税の納税義務者は、その年の翌年2月16日から3月15日までの間に確定申告を提出することによって納付すべき所得税を確定する義務があります。

不動産所得の範囲

次の所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除きます。)をいいます(所得税法26条1項)。

  1. 土地や建物などの不動産の貸付けによる所得
  2. 地上権などの不動産の貸付けによる所得
  3. 船舶や航空機の貸付けによる所得

不動産所得の金額の計算

不動産所得の金額は、次のように計算します(所得税法26条2項)。

不動産所得の金額 = 総収入金額 - 必要経費

不動産所得の総収入金額

不動産所得の総収入金額には、次のようなものがあります。

  1. 賃貸料
  2. 名義書換料、承諾料、更新料又は頭金などの名目で受領するもの
  3. 敷金や保証金などのうち、返還を要しないもの
  4. 共益費などの名目で受け取る電気代、水道代や清掃代など

不動産所得の必要経費

必要経費

所得税法37条1項に定義されている必要経費の範囲は以下のとおりです。

  • 総収入金額に係る売上原価
  • 総収入金額を得るため直接に要した費用の額
  • その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用についてはその年において債務が確定したもの)

ここには、「損失の額」は規定されていないことから、損失の取り扱いは「別段の定め」によることになります。

不動産所得の必要経費

不動産所得の必要経費には、主として次のようなものがあります。

  1. 建物等の管理費
  2. 固定資産税等の租税
  3. 損害保険料
  4. 修繕費
  5. 減価償却費
  6. 賃貸不動産の取得に係る支払利子
  7. 賃貸物件の地代、家賃等

不動産賃貸に関する所得税を節税するポイント

青色申告

青色申告は、安全で確実に税負担を減少させる方法です。

青色申告特別控除

青色申告者は、最高65万円を控除する青色申告特別控除の適用を受けることができます。

所得税と住民税との合計税率は15%から55%の超過累進税率となっていますので、65万円の控除を受けると、最高で357,500円になります。

65万円の特別控除は、事業を営んでいること、正規の簿記により記帳し、貸借対照表と損益計算書を添付した確定申告書を期限内に提出していることが適用の要件です。

事業的規模でない場合や簡易な記帳を行っている場合の控除額は、最高10万円となります。

青色専業専従者給与

青色申告者は、不動産の賃貸が事業的規模である場合において、専らその事業に従事する配偶者その他の親族があるときは、その支払った青色事業者専従者給与の額を必要経費に参入することができます。

青色事業者専従者給与の必要経費算入については、「青色事業者専従者給与に関する届出書」を提出していることが要件であり、必要経費に算入する給与の額は、労務の提供に見合った届出の範囲内の金額でなければなりません。

建物等のメンテナンス

こまめな建物等のメンテナンスによって建物等を良い状態に保てば、長期的には修繕費の削減につながり、資産価値を高めることになります。

通常のメンテナンスは支出時の必要経費となりますが、修繕の周期や内容、規模、金額によっては、資本的支出として減価償却を行わなければならない場合もあり、そうすると、費用を負担する時期と必要経費算入の時期が大きくずれることになります。

日頃の管理は、税負担軽減の面からも重要です。

減価償却

所得の金額の計算は、実際の収支とは異なります。

実際の収支は、収入から支払った経費と借入金の返済額を差し引いたものですが、所得の金額の計算においては、借入金の返済額は必要経費とはならず、減価償却費を計算して必要経費に算入することとなります。

従って、減価償却費は、実際の収支に比べて所得の金額の計算を小さくする要素となります。

各年分の減価償却費の額は、その資産の取得価額と耐用年数を基礎に、定額法又は定率法に寄って計算します。

消費税の還付を受ける場合の経理処理

不動産の賃貸には、多額の初期投資が必要です。

消費税は、減価償却資産であってもその購入の日の属する課税期間において、その購入に係る課税仕入れのすべてが仕入税額控除の対象となるので、賃貸建物等を購入した場合には多額の還付税額が計算されることになります。

小規模共済控除

不動産の賃貸を行う個人は、常時使用する従業員の数が20人以下(他に小売業や卸売業を営む場合には5人以下)である場合には、中小企業基盤整備機構が運営する小規模企業共済に加入することができます。

掛金の全額が所得控除の対象となり、最高額では年間84万円(月額掛金7万円)、所得の金額を減少させることができます。

個人事業を廃止した場合に受け取る共済金は、退職所得として課税上優遇されています。

不動産賃貸に関する消費税

消費税のしくみ

消費税は、日本国内の消費に課税する税金です。

すべての消費に広く薄く税の負担を求めるものとされています。

ただし、実際に納税をするのは、消費者ではなく、商品やサービスを提供する事業者です。

事業者は、売買等の代金に消費税を上乗せして受け取り、課税期間ごとに集計し、申告・納付します。

消費税の確定申告

消費税の納税義務者は、法人及び個人事業者とされています。

消費税は、納税義務者が自ら税額を計算し、納税する申告納税制度を採用しています。

個人事業者は、免税事業者とする場合を除いて、その年の翌年3月31日までに確定申告を提出することによって納付すべき消費税を確定する義務があります。

不動産賃貸に関する課否判定

「事業として」の判断

個人事業者においては、「事業として」行った取引であるかどうかが、課税対象を判断する重要なポイントとなります。

「事業として」に該当しなければ、消費税を納付する必要はありません。

消費税法にいう「事業」は、所得税において所得区分の基準となる「事業」、あるいは不動産所得の規模を判断する場合の「事業」より範囲の広い概念であり、対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復、継続、独立して行われることを事業といい、その性質上事業に付随して対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付並びに役務の提供を含みます。

不動産の貸付けについては、所得税において事業的規模に至らないとされるものであっても、継続して貸付けを行う場合は、「事業として」に該当します。

 

土地の譲渡又は貸付に係る非課税

土地(土地の上に存する権利を含む)の譲渡及び貸付は非課税です。

なお、非課税となる土地、土地の上に存する権利の範囲は以下の通りです。

区分 非課税となるもの 非課税とならないもの
土地 土地、宅地と一体として譲渡する

庭木、石垣、庭園、庭園の

附属設備等

宅地と一体として譲渡する建物

及びその附属施設、

立木その他独立して取引の対象

となる土地の定着物

土地の上に存する権利 地上権、土地の賃借権、地役権、

永小作権等の土地の使用収益に

関する権利

鉱業権、土石採取権、温泉利用

権及び土地を目的とした抵当権、

採石法、砂利採取法等の規定に

より認可を受けて行われるべき

土石等の採取に係る権利

住宅の貸付に係る非課税

人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち居住の用に供する部分の貸付けについては、非課税となります。

なお、以下の点について留意しましょう。

旅館業及び1か月未満の貸付けは非課税から除外
ホテル等の長期滞在

旅館業法2条1項に規定する旅館業には、ホテル営業、旅館営業、簡易宿泊営業及び下宿営業が該当します。

そのため、ホテル、旅館、リゾートマンション、貸別荘等は、たとえこれらの施設の利用期間が1か月以上となる場合であっても非課税となる住宅の貸付けから除かれることになります。

集合住宅の家賃等

集合住宅においては、施設の使用料又は役務の提供の対価を家賃や共益費として収受する場合、又はこれらと別建てで収受する場合があります。具体的には、以下の通りです。

 

「賃料」又は「共益費」の内容

課税か非課税か
住宅貸付料 非課税
共用部分の管理料 非課税
駐車場料:車所有の有無にかかわらず

1戸につき1台以上の駐車場が付属する場合

非課税
駐車場料:上記以外の場合 駐車場料金を合理的に区分し課税
プール・アスレチック・温泉等施設利用料

:住人以外利用不可の場合

非課税
プール・アスレチック・温泉等施設利用料:

住人以外利用可(有料)の場合

利用料金を合理的に区分し課税
家具・電気製品等使用料:入居者の選択の

如何にかかわらず、あらかじめ一定の家具等

を設置して賃貸している場合

非課税
家具・電気製品等使用料:入居者の選択に

より家具等を設置している場合

家具等使用料を合理的に区分し課税
倉庫使用料:入居者の選択にかかわらず、

あらかじめ倉庫を設置している場合

非課税
倉庫使用料:入居者の選択により倉庫を

利用させている場合

倉庫使用料を合理的に区分し課税
駐車場の貸付
区分 課税か非課税か
一時貸し・時間貸しの駐車場賃貸 課税
入出庫の管理等をしている駐車場賃貸 課税
設備等が一切ない更地の貸付け 非課税
掘り込みガレージである場合 課税
砂利敷、アスファルト敷、コンクリート敷、

区画線ロープ、フェンス他の設備がある場合

課税
戸建住宅賃貸に伴うガレージの賃貸 非課税
マンションを賃貸して、必ずガレージが割り

当てられる場合

非課税
マンションを賃貸して、希望者にガレージ

を賃貸する場合

課税

不動産賃貸に関する消費税を節税するポイント

特定期間における課税売上高

事業者は、基準期間(前々事業年度と考えて頂いて差支えありません。)における課税売上高が1,000万円以下であっても、特定期間(前事業年度の前半6か月分)における課税売上高が1,000万円を超える場合には、課税事業者となります。

特定期間における課税売上高は、実際の売上高に代えて、給与等の額によることもできます。

したがって、実際の売上高が1,000万円を超えていても、給与等の額が1,000万円以下であれば免税事業者となることができ、実際の売上高が1,000万円を超えていても、給与等の額が1,000万円以下であれば免税事業者となることができます。

逆に実際の売上高が1,000万円以下であっても、給与等の額が1,000万円を超えていれば、課税事業者の選択の手続きを行わないでも、課税事業者となることができます。

課税事業者の選択

基準期間における課税売上高及び特定期間における課税売上高が1,000万円以下である事業者は、「消費税課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者となり、消費税の還付申告を行うことができます。

例えば、事務所ビルや店舗ビルの購入は、課税売上対応分の課税仕入れですから、課税事業者を選択すれば、他に非課税売上があって課税売上割合が低い場合であっても、個別対応方式により、その課税仕入れについて還付を受けることができます。

簡易課税制度

課税事業者は、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出して、基準期間における課税売上高が5,000万円以下である課税期間につき、簡易課税制度を選択することができます。

原則の消費税申告では仕入税額控除の金額を課税業者が集計しなければなりませんが、簡易課税制度ではその集計は必要なく、売上高の一定割合を仕入税額控除とすることで、消費税の申告をします。

届出書は事業を開始した場合を除いて、その課税期間が開始するまでに提出しておかなければなりません。

ただし、課税事業者を選択した場合の3年間の継続適用の期間は、簡易課税制度を適用することができません。

不動産賃貸を行う者は、簡易課税制度を適用すると、みなし仕入率40%が適用され、課税標準額に対する消費税額の60%が納税額となります。

簡易課税制度には、2年間の継続適用の取り扱いがあります。

簡易課税制度は、実際の課税仕入れを全く考慮しないので、多額の設備投資などを計画している場合は、慎重な判断が必要です。

不動産賃貸に関する税金でその他注意する点

取り壊し予定の建物の取得

所得税の取扱い

建物等の存する土地をその建物等と共に取得した場合に限定した話です。

そして、その取得後おおむね1年以内にその建物等の取り壊しに着手するなど、その取得が当初からその建物等を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるという条件がつきます。

その建物等の取得に要した費用の額、取り壊し後の土地の造成費用、土地及び建物に係る未経過期間の固定資産税の精算金は、その取得した土地の取得費に参入することになります。

なお、取り壊しに伴い発生した資材がある場合には、その発生資材の価額を控除した残額を土地の取得費に参入します。

消費税の取扱い

消費税において、取り壊し予定で土地と共に購入したことをもって建物の購入対価の額が土地の取得費に算入される場合であっても、消費税においては、建物の購入に要した費用は、課税仕入れ等の対価となります。

その取り壊しについても、撤去等の工事に係る費用は、役務の提供を受けた対価ですから、課税仕入れ等の対価となります。

まとめ

ここまで記事をお読み頂きましてありがとうございました。

1章では不動産賃貸に関する所得税ということで、所得税中の所得区分である不動産所得について説明しました。

必要経費はどれを入れたらよいか迷うところではありますが、支払う所得税の圧縮のため、経費の漏れがないようにしましょう。

2章では不動産賃貸に関する所得税の節税ポイントということを説明しました。建物の修繕がないときは、小規模企業共済にたくさんお金を入れて所得を圧縮するなど、毎年の状況に応じて臨機応変に対応していく必要があります。

3章では不動産賃貸に関する消費税について説明しました。収入において、何が課税で何が非課税になるのかを正しく理解する必要があります。

4章では不動産賃貸に関する消費税の節税ポイントを説明しました。課税事業者になる・非課税事業者になるということを上手に使っていくことが重要です。

5章では、その他の注意点ということで取り壊し予定の建物の取得について記載しました。

何か、皆様のお役に立ちますと幸いです。

 

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