障害年金制度を徹底解説。万一、障害状態になったときに備えるために必要なこととは?

障害年金とは、仕事中以外のけがや病気による障害によって、生活や仕事を制限される状態になった場合に受け取ることができる年金です。障害状態になると、長期的に仕事を休まなければならないことも多く、収入が途絶えてしまうことも十分考えられるため、障害状態になった場合における所得補償として障害年金制度があります。

今回は障害年金制度について、国民年金・厚生年金保険のそれぞれの制度から見た障害年金の特徴を開設するとともに、万一、障害状態になった場合にどうすればよいかについて、併せて解説していきます。

1.障害年金制度の概要

障害年金は、仕事中以外の時に発生したけがや病気が原因で一定の障害状態になってしまった場合において、障害者になったことで失われた所得を、年金という形で支給することで補てんしようとする制度です。

障害年金には、国民年金からは「障害基礎年金」、厚生年金保険からは「障害厚生年金」と「障害手当金」がそれぞれ支給要件を満たすことで受給することが出来るようになります。

障害年金を理解するうえで必要な用語の意義

・初診日

病気になったり、けがをしたこと(以下「傷病」という)について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日

・障害認定日

初診日から起算して1年6月を経過した日(1年6月を経過する前に、傷病が治癒(治った場合、又は、これ以上治療の効果が期待できない状態にあること)した日がある場合は、その日)

・障害等級

政令で定められた障害の程度のことで、重度のものから1級、2級とされています。

障害年金が支給されるには、一定の要件を満たしたうえで申請をしなければならないのですが、国民年金の障害基礎年金と厚生年金の障害厚生年金とでは、支給されるための要件が異なるため、支給要件を把握することが大切です。

2.障害基礎年金の仕組み

(1)障害基礎年金の受給要件

障害基礎年金が受給されるための要件は、以下の要件をすべて満たしている必要があります。なお、1と2についてはいずれかに該当すれば、大丈夫です。

【障害基礎年金の受給要件】

  • 初診日において、被保険者であること(20歳以上60歳未満の者・任意加入被保険者など)
  • 初診日において、被保険者であった者であって、日本国内に住所を有しており、かつ、60歳以上65歳未満であること
  • 障害認定日において、障害等級1級又は2級のいずれかに該当していること
  • 初診日の前日において、保険料納付要件を満たしていること

(初診日における要件)

障害状態になった直接の原因である傷病について、初診日の時点で被保険者であることが要件とされています。60歳以上65歳未満の者については、老齢基礎年金の支給が開始されるまでの期間内に初診日があれば、障害基礎年金の受給要件を満たすことになります。

(障害等級について)参照:国民年金法施行令別表、厚生年金保険法施行令3条の8・別表第1

障害認定日において、障害等級が1級又は2級(障害厚生年金の場合は1級・2級・3級のいずれか)のいずれかに該当している必要があります。障害等級1級・2級の状態とは、以下のような状態である者と政令で定められています。(厚生年金保険についても同様の基準になります)

【障害等級1級】

  1. 両目の視力の合計が0.04以下のもの
  2. 両耳の聴力レベルが100デシベル以上のもの
  3. 両上肢の機能に著しい障害を有するもの
  4. 両上肢のすべての指を欠くもの
  5. 両上肢のすべての指の機能に著しい障害を有するもの
  6. 両下肢の機能に著しい障害を有するもの
  7. 両下肢を足関節以上で欠くもの
  8. 体幹の機能に座っていることが出来ない程度又は立ち上がることが出来ない程度の障害を有するもの
  9. 1~8に掲げるもののほか、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が1~8の内容と同等と認められる状態であって、日常生活の用を弁ずる事を不要ならしめる程度のもの
  10. 精神の障害であって、1~9と同程度以上と認められる程度のもの
  11. 身体の機能の障害もしくは病状又は精神の障害が重複する場合であって、その状態が1~10と同程度以上と認められる程度もの

【障害等級2級】

  1. 両目の視力の合計が0.05以上0.08以下のもの
  2. 両耳の聴力レベルが90デシベル以上のもの
  3. 平衡機能に著しい障害を有するもの
  4. そしゃくの機能を欠くもの
  5. 音声又は言語機能に著しい障害を有するもの
  6. 両上肢の親指及び人差し指又は中指を欠くもの
  7. 両上肢の親指及び人差し指又は中指の機能に著しい障害を有するもの
  8. 1上肢の機能に著しい障害を有するもの
  9. 1上肢のすべての指を欠くもの
  10. 1上肢の全ての指の機能に著しい障害を有するもの
  11. 両下肢の全ての指を欠くもの
  12. 1下肢の機能に著しい障害を有するもの
  13. 1下肢を足関節以上で欠くもの
  14. 体幹の機能に歩くことが出来ない程度の障害を有するもの
  15. 1~14に掲げるもののほか、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が1~14の内容と同等と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
  16. 精神の障害であって、1~15と同等程度以上と認められる程度のもの
  17. 身体の機能の障害もしくは病状又は精神の障害が重複する場合であって、その状態が1~16と同程度以上と認められる程度のもの

【障害等級3級】:障害厚生年金の場合のみ

  1. 両目の視力が0.1以下に減じたもの
  2. 両耳の聴力が40センチメートル以上では通常の話声を解することが出来ない程度の減じたもの
  3. そしゃく又は言語の機能のに相当程度の障害を残すもの
  4. 脊柱の機能に著しい障害を残すもの
  5. 1上肢の3大関節のうち、2関節の用を廃したもの
  6. 1下肢の3大関節のうち、2関節の用を廃したもの
  7. 長管状骨に偽関節を残し、運動機能に著しい障害を残すもの
  8. 1上肢の親指及び人差し指を失ったもの又は親指及び人差し指をを併せ1上肢の3指以上を失ったもの
  9. 親指及び人差し指を併せて1上肢の4指の用を廃したもの
  10. 1下肢をリスフラン関節以上で失ったもの
  11. 両下肢の十趾の用を廃したもの
  12. 1~11のほか、身体の機能に、労働が著しい制限を受けるか、または労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの
  13. 精神又は神経系統に、労働が著しい制限を受けるか、または労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの
  14. 傷病が治らないで、身体の機能又は精神若しくは神経系統に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するものであってm厚生労働大臣が定めるもの

(保険料納付要件について)

初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までに(例えば、6月に初診日がある場合は、4月までということ)国民年金の被保険者期間がある者においては、保険料納付済み期間と保険料免除期間とを合算した期間が被保険者であった期間全体の3分の2以上であることが必要です。つまり、被保険者であった期間が15年である場合は、その3分の2である10年以上が、保険料納付済み期間と保険料免除期間である必要があるということです。

なお、平成38年4月1日までに初診日がある傷病については、その初診日において65歳未満であれば、初診月の前々月までの1年間(初診月が平成30年4月であれば、平成29年3月から平成30年2月までの1年間)に保険料未納期間がなければ、保険料納付要件を満たすことになります。

(2)障害基礎年金の年金額

障害基礎年金の年金額は、障害等級や子がいるかどうかで金額が変わります。原則として、障害等級1級の障害基礎年金は障害等級2級の障害基礎年金の1.25倍とされます。

【障害基礎年金の年金額】

  • 1級:2級の年金額×1.25+子の加算額
  • 2級:780,900×改定率+子の加算額

(子の加算額について)

障害基礎年金は、子の加算額があります。加算対象となる子は、18歳に達する日以後最初の3月31日までにある子の事で、被保険者によって生計を維持されている場合に加算されるものとなります。

加算額については、2人までは「224,700円×改定率」、3人目以降は「74,900円×改定率」が障害基礎年金の年金額に加算されますが、子が18歳に達した日後最初の3月31日以降に達したことで加算要件から外れた場合は、翌月の年金額から減額調整が行われます。

(3)その他の障害基礎年金を受給する要件を満たす方法

障害認定日に障害等級の2級以上の要件に該当しなかったために障害基礎年金の受給をすることが出来なかった場合であっても、その後一定の要件に該当することで障害等級2級以上の状態になることで、障害基礎年金を受給することが出来る場合があります。

これらの要件は、障害厚生年金においても同じような扱いとなります。ただし、③は国民年金のみの規定です。(厚生年金保険は、20歳前であっても被保険者になりうるため)

①事後重症による障害基礎年金

保険料納付要件を満たしているが、障害認定日に障害等級2級以上に該当しなかった者が、その後65歳に達する日の前日までの間に、同一の傷病により障害等級2級以上の障害状態になった場合に、障害基礎年金の支給申請をすることが出来ます。

つまり、障害認定日の時点では障害等級2級以上に該当しなかったが、症状が変化したことで障害等級2級以上に該当することになった場合を言います。ポイントとしては、同じ傷病による障害の状態が悪化したために障害等級2級以上に該当することになった場合が事後重症となります。

②基準傷病による障害基礎年金

基準傷病とは、傷病に係る初診日において被保険者である者(被保険者であった者で国内在住の60歳以上65歳未満の者を含む)であって、基準傷病以外の傷病により障害の状態にあるものが、別の傷病による障害の状態にあるものが、最初の傷病に係る障害認定日から65歳に達する日前までに、それぞれの障害を併合する事で、障害等級2級以上の障害状態になると認定された場合に、障害基礎年金の受給をすることが出来ます。

つまり、傷病による障害が2以上ある場合で、それぞれ単独では、障害等級2級以上にはならないが、それぞれの障害状態を総合的に判断すると(併合すると)障害等級2級以上に該当する場合に、障害基礎年金が受給する権利が発生するという場合が基準傷病による障害基礎年金です。

③20歳前障害による障害基礎年金

傷病の初診日が20歳未満である場合において、次のいずれかの日において障害等級2級以上の障害状態に該当する場合に、障害基礎年金の受給をすることが出来ます。

この制度は、国民年金が厚生年金保険の被保険者である場合を除き、20歳に達した日以降でなければ被保険者にならないため、20歳未満の者に鍾愛が起きた場合であっても、障害基礎年金が受給できないという事態を避けるための制度といえます。

【20歳前傷病による障害基礎年金の支給開始日】

  • 障害認定日が20歳に達する前にある場合:20歳に達した日以降に障害基礎年金が支給されます
  • 障害認定日が20歳に達した日後である場合:その傷病に係る障害認定日以降に障害基礎年金が支給されます。

3.障害厚生年金の仕組み

障害厚生年金は、障害基礎年金と仕組みがかなり似ている部分がありますが、障害厚生年金独自の要件がありますので、まずは、その違いを理解することが大切です。

【障害基礎年金との違い】

  • 障害等級3級でも支給される
  • 加算対象が子ではなく配偶者となっている
  • 他の年金との併給が出来ない など

①障害厚生年金の受給要件

障害厚生年金の受給要件は、障害基礎年金の受給要件と基本的に同じですが、障害等級3級に該当する者も受給権が発生するという点が大きく異なります。また、20歳未満の者であっても、厚生年金保険の被保険者であれば、支給要件を満たすことで、障害厚生年金の受給をすることが出来ます。

②障害厚生年金の年金額

障害厚生年金の年金額は、障害等級によって異なりますが、以下の通りとなります。

【障害厚生年金の年金額】

1級:(平均標準報酬月額×5.481/1,000×被保険者期間の月数)×1.25+配偶者加給年金額

2級:(平均標準報酬月額×5.481/1,000×被保険者期間の月数)+配偶者加給年金額

3級:平均標準報酬月額×5.481/1,000×被保険者期間の月数

(配偶者加給年金額について)

障害厚生年金は、配偶者が一定の要件を満たしていれば、障害厚生年金に加給年金額が加算されます。なお、配偶者加給年金額は、障害基礎年金の子の加給年金額と同じ額(224,700円×改定率)が支給されます。

【海隅者加給年金額の適用要件】

  1. 障害等級1級又は2級の障害厚生年金の受給権者によって、生計を維持されていること
  2. 65歳未満であること

(被保険者期間について)

障害厚生年金の計算の中に出てくる「被保険者期間」ですが、被保険者期間が300月(25年)に満たない場合は、300月とみなして年金額が計算されます。

※被保険者期間を300月に満たない場合に300月と読み替える理由

若いころに発生した障害である場合、被保険者加入月数が短くなるため、障害厚生年金の金額が少額になる恐れがあり、障害基礎年金の年金額との差が大きくなることを防ぐために、国民年金の老齢基礎年金の受給権が発生するために必要な加入期間である300月(現在は120月(10年)とされています)を最低保証する形で、年金額の差を補てんすることが狙いとされています。

4.その他の障害年金について

障害基礎年金・障害厚生年金以外の障害年金として、「障害手当金」があります。障害手当金は、厚生年金保険の障害年金の一種で、障害等級3級よりも軽い障害が残った場合において、厚生年金保険が支給する独自の障害年金制度です。

(支給要件)

傷病に係る初診日において、厚生年金保険の被保険者であった者が、その傷病の初診日から5年を経過する日までの間において、その傷病が治った(治癒の状態になった)場合において、一定の障害状態になっている場合に支給されます。

【障害手当金に係る障害等級表】:参考厚生年金保険法施行令3条の9・別表第2

  1. 両目の視力が0.6以下に減じたもの
  2. 1眼の視力が0.1以下に減じたもの
  3. 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
  4. 両眼による視野が2分の1以上欠損していたもの又は両目の視野が10度以内のもの
  5. 両眼の調節機能及び輻輳(ふくそう)機能に著しい障害を残すもの
  6. 1耳の聴力が、耳殻に接していなければ、大声による話を解することが出来ない程度に減じたもの
  7. そしゃく又は言語の機能に障害を残すもの
  8. 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの
  9. 脊柱の機能に障害を残すもの
  10. 1上肢の3大関節のうち、1関節に著しい機能障害を残すもの
  11. 1下肢の3大関節のうち、1関節に著しい機能障害を残すもの
  12. 1下肢を3センチメートル以上短縮したもの
  13. 長管状骨に著しい転移変形を残すもの
  14. 1上肢の2指以上失ったもの
  15. 1上肢の人差し指を失ったもの
  16. 1上肢の3指以上の用を廃したもの
  17. 人差し指を併せて1上肢の2指の用を廃したもの
  18. 1上肢の親指の用を廃したもの
  19. 1下肢の第1̪趾又は他の4趾以上を失ったもの
  20. 1下肢の5趾の用を廃したもの
  21. 1~20のほかに、身体の機能に、労働が著しい制限を受けるか、または労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの
  22. 精神又は神経系統に、労働が著しい制限を受けるか、または労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの

(障害手当金の金額)

障害手当金の額は「障害厚生年金の障害等級3級の年金額×200/100」が、一時金として支給されます。つまり、障害等級3級の年金額の2倍の金額を一度に支給するということです。

5.まとめ

障害年金は、障害状態になったときから支給される年金ですが、どれくらいの障害の状態にならなければ支給されないかというところは、あまり知られていないところではないかと考えられます。

障害状態になってから、手続きをするために必要な書類は?この障害の程度ではどの障害等級に該当するのか?といったことを考えている余裕はないですので、健康な時に、障害年金を受給するために必要なことが何かについて、ある程度の内容を事前に把握しておくことが大切になってきます。

また、障害年金の障害等級の範囲についても、年々見直しがされているところもありますので、常に、新しい情報を取り入れることで、万一の事態に備えられるようにしておくことが大切です。

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