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国民年金・厚生年金保険は、「老齢」「障害」「遺族」の支給要件を中心とした給付を中心に行われる制度です。しかし、法改正などによって制度がどんどん複雑で理解しにくい制度になっています。そのため、その制度を正しく理解すれば、もらうことが出来るものを、正しく理解していない、または、誤ったイメージが定着してしまうことで、利益を享受しそびれてしまうこともあります。
今回は、年金制度の中で最も多くの人が受け取ることになる「老齢年金制度」の仕組みを解説したうえで、1円でも多くの年金をもらうために必要なこととは何か?についてお話します。
1.老齢年金制度の概要
老齢年金には、国民年金の老齢基礎年金と厚生年金保険の老齢厚生年金の2種類に分かれます。いずれの老齢年金についても、受給要件を満たさなければ、受給することができないという点では共通しています。
老齢年金は、基本的には「65歳」以降になると受給することができる点が大きな特徴となっており、所定の手続きをすることで年金の受給をすることができる仕組みとなっています。
他にも、一定の要件を満たす「子」や「配偶者」がいることで年金額の加算されるといった、本来もらえる年金額に上乗せすることができる制度もたくさんあります。この老齢基礎年金と老齢厚生年金の仕組み、特徴などについて、意外と知らない老齢年金の仕組みについて説明していきます。
2.老齢基礎年金の仕組み
(1)受給要件
老齢基礎年金の受給要件は、「保険料納付済み期間+保険料免除期間+合算対象期間=25年以上」必要とされていましたが、平成29年8月からは、上記の期間の合計が「10年以上」であれば、老齢基礎年金の受給をすることができるようになりました。
この改正では、老齢基礎年金の受給権を満たす人の範囲が拡大され、結果的に年金をもらえない人をなくすことにつながることが狙いとも言われています。
ところで、受給要件を見る上で重要となる3つの期間(保険料納付済み期間・保険料免除期間・合算対象期間)とは、具体的にはどのような期間なのか、について間違った理解をしていませんか?
間違った理解をすることで、もらえるはずの年金がもらえなくなるという可能性がありますので、「この場合はどの期間に該当するか?」を正しく理解することが大切です。
①保険料納付済み期間
保険料納付済み期間は、保険料を納付した月をいいます。保険料納付済み期間に該当するケースとしては、毎年6月ごろに送られてくる納付書で保険料を納める事だけでなく、以下のようなケースも保険料納付済み期間とされます。
- ・厚生年金保険等の被保険者であること
- ・3号被保険者である人
- ・追納(保険料の納付免除を受けた期間について、その免除額部分の保険料を納付すること)を行った期間 など
②保険料免除期間
保険料免除期間とは、保険料を納付することを免除された期間をいいます。この保険料免除期間は「法定免除期間」と「申請免除期間」とに分かれます。それぞれの期間の大きな違いは「法的に認められた免除期間かどうか」です。
(ア)法定免除期間
法定免除期間は、法令上認められている免除期間をいいます。つまり、「法律によって保険料を納免除をする期間」ということですが、注意してほしいのは「保険料を納付する義務が免除されるが、年金額の計算では1/2期間として計算される」ということです。
法定免除の要件に該当する人が法定免除を申請する時は「国民年金保険料免除事由(該当・消滅)届」をお住まいの市区町村役場に提出する必要があります。これを提出しなければ、法定免除期間として保険料の納付義務が免除されません。
具体的な法定免除期間に該当するケースには以下の期間があります。
【法定免除期間に該当する場合】
(参照資料)日本年金機構:http://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/menjo/20140710.html
- 生活保護の生活扶助を受けている人
- 障害等級2級以上の障害基礎年金ならびに障害厚生年金などの被用者年金の受給権者
- 国立および国立以外のハンセン病療養所などで療養している方
(イ)申請免除期間
申請免除期間は、申請することで保険料が免除される期間のことです。申請免除期間の特徴は世帯の所得状況で免除される割合が変化するということです。つまり、所得の状況によっては申請しても保険料が免除されないケースも存在するということもあり得ます。
具体的には、以下のような内容となっています。
【申請免除の種類と要件】
- 保険料全額免除:保険料が全額免除とされる期間で、世帯主と配偶者の年収の合計が「(扶養親族の数+1)×35万円+22万円」以下であることが要件
- 保険料3/4免除期間:保険料が3/4免除される期間で、世帯主と配偶者の年収の合計が「扶養親族の数×38万円+78万円」以下であることが要件
- 保険料半額免除期間:保険料が1/2免除される期間で、世帯主と配偶者の年収の合計が「扶養親族の数×38万円+118万円」以下であることが要件
- 保険料1/4免除期間:保険料が1/4免除される期間で、世帯主と配偶者の年収の合計が「扶養親族の数×38万円+158万円」以下であることが要件
- 30歳未満の保険料納付猶予制度(平成37年6月まで):保険料が全額免除されるが、年金額の計算上反映されない合算対象期間(カラ期間)で、配偶者の年収が全額免除の場合と同じ額以下であることが要件
- 学生納付特例:保険料が全額免除されるが、年金額の計算上反映されない合算対象期間(カラ期間)で、本人の年収が保険料半額免除の要件の額以下であることが要件
③合算対象期間
合算対象期間とは、被保険者期間として計算上反映されるが、年金額の計算上は反映されない、いわゆる「カラ期間」のことを言います。合算対象期間については、追納を行うことで保険料納付済み期間にしない限り、年金額が増えることはありません。
具体的な合算対象期間は、先ほど挙げた30歳未満の保険料納付猶予制度の期間や学生納付特例の期間以外にも以下のような期間があります。
【合算対象期間とされる期間の具体例】
- 国民年金に任意加入できる期間のうち、任意加入しなかった20歳以上60歳未満の期間
- 国民年金に任意加入していたが、保険料を納付していない期間
- 第2号被保険者としての期間のうち20歳未満及び60歳以後の期間
(2)年金額の計算方法
国民年金の老齢基礎年金の年金額の計算は、保険料納付済み期間・保険料申請免除期間がどれくらいあるかによって、年金額が算定されます。申請免除期間については免除割合に応じて年金額に反映される割合が異なります。
【年金額の計算上の反映割合】
()書きの割合は平成21年3月以前の期間の割合。(平成21年3月までは、国庫負担割合が1/3であるため)
- 保険料全額免除期間:1/2(1/3)
- 保険料3/4免除期間:5/8(1/2)
- 保険料半額免除期間:3/4(2/3)
- 保険料1/4免除期間:7/8(5/6)
平成30年度の老齢基礎年金の満額支給額は、昨年と同額の779,300円となりますので、年金額の計算式は「779,300×{(保険料納付済み期間+保険料全額免除期間×1/2+保険料1/4免除期間×7/8+保険料半額免除期間×3/4+保険料3/4免除期間×5/8)}÷480」となります。
(3)年金額を増やすためのポイント
老齢基礎年金の年金額は、先程述べた計算式で算定されます。老齢基礎年金自体の額を増やすためのポイントとしては以下の通りになります。
- 保険料免除期間について追納する
- 任意加入を利用する
①保険料免除期間について追納する
保険料免除期間は、全体のうち一部の保険料しか納付していない状態です。そのため、免除されて納付していない部分の保険料を後から納付することで、その期間については保険料納付済み期間とすることができます。これを「追納」と言います。注意点としては、10年前までの保険料免除期間についてのみ追納することができないという点です。
(参考):日本年金機構 http://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/menjo/20150331.html
②任意加入を利用する
60歳になるまでに保険料納付済み期間が480月(満額になる期間)になる見込みがない場合については、任意加入制度を利用することで年金額を増額させることができます。任意加入については65歳(老齢基礎年金の支給開始年齢)までしか加入することができないので注意が必要です。
また、60歳以降に厚生年金保険の被保険者である場合についても、任意加入をすることができないので注意が必要です。
3.老齢厚生年金の仕組み
(1)受給要件
老齢厚生年金は、65歳を境目として、特徴が大きく変化します。そのため、60歳から65歳までの間だけ受給することができる老齢年金を「特別支給の老齢厚生年金」として本来の老齢厚生年金と区別して法令の規定も制定されています。
【老齢厚生年金の受給要件】
- 特別支給の老齢厚生年金:被保険者としての加入実績が1年以上であること
- 本来の老齢厚生年金:被保険者としての加入実績が1月以上であること
(2)年金額の計算方法
老齢厚生年金の年金額は「定額部分」(60歳代前半の老齢厚生年金を受給する人の一部が対象となります)と「報酬比例部分」の2つの金額の合計額となります。
【具体的な年金額の計算式】
- 定額部分:1,628円×改定率×1.000×被保険者期間の月数
- 報酬比例部分:(ア)+(イ)の合計額
(ア):平均標準報酬月額×7.125/1,000×平成15年4月1日前の被保険者期間の月数
(イ):平均標準報酬月額×5.481/1,000×平成15年4月1日以降の被保険者期間の月数
(3)在職老齢年金制度
在職老齢年金制度は老齢厚生年金の受給者が、労働等によって収入を得た場合に、その収入額に応じて、年金額の一部を支給停止することで支給する年金額の調整を図る制度で、実際に減額された額の事を在職老齢年金と言います。
近年、定年年齢の延長や再雇用制度等、60歳以降になっても現役で働く人が増えてきたこともあり、注意が必要な制度です。
①60歳代前半(60~65歳)の方の在職老齢年金
60歳代前半の在職老齢年金は、2段階の基準が設けられています。在職老齢年金は「(ア)基本月額」と「(イ)総報酬月額相当額」を一定の算式に組み合わせた場合に、「(ウ)支給停止調整開始額」と「(エ)支給停止調整変更額」の2段階の支給停止調整額に該当するかどうかで、減額調整される年金額が決定される仕組みとなります。
【用語の定義】
(ア)基本月額
基本月額とは、毎月の老齢厚生年金の年金額のことを言います。つまり、老齢厚生年金を12で除して得た額ということです。
(イ)総報酬月額相当額
総報酬月額相当額は、標準報酬月額と老齢厚生年金の受給権者の被保険者である日の属する月以前1年間の標準賞与の総額を12で除して得た額を言います。
(ウ)支給停止調整開始額
老齢厚生年金の支給を停止する調整を開始する基準額のことで、平成30年度は28万円となります。
(エ)支給停止調整変更額
第2段階の調整額とも言われる基準額のことです。平成30年は46万円となります。
具体的な在職老齢年金の計算方法は、(ア)と(イ)の金額がいくらであるかによって大きく4つに分かれます。
【具体的な在職老齢年金の計算式】
- (ア)≦(ウ)、かつ、(イ)≦(エ)の場合:{((ア)+(イ))ー(ウ)}÷2
- (ア)≦(ウ)、かつ、(イ)>(エ)の場合:{(ア)+(エ)ー(イ)}÷2+{(イ)ー(エ)}
- (ア)>(ウ)、かつ、(イ)≦(エ)の場合:(イ)÷2
- (ア)>(ウ)、かつ、(イ)>(エ)の場合:(エ)÷2+(イ)ー(エ)
在職老齢年金制度は、働き方が変化してきた現代では、大きな影響を持つことが増えています。そのため、1円でも多く年金をもらうためには、これらの計算式についても多少なりとも押さえたうえで、働き方を工夫することが大切です。
4.その他の老齢に関する年金について
国民年金・厚生年金保険制度において、老齢年金に付随するような年金がいくつかあります。これらの年金は要件を満たすことでもらうことが出来るものや、被保険者自身が申請しなければもらうことが出来ない者もあります。
①付加年金
付加年金は国民年金の年金の一つで、言葉の通り老齢基礎年金に上乗せ(付加)される年金です。付加年金をもらうためには、付加年金保険料(毎月の保険料に400円上乗せされる)を納付することが必要です(1月以上納付実績があればいいです)。
年金額は、「200円×付加保険料納付期間」で計算されますので、最大で「200円×480月=96,000円(年額)」が老齢基礎年金に上乗せされて支給されますが、第1号被保険者の人で、かつ、保険料免除期間がない人でなければ、付加保険料を納付することが出来ません。
②加給年金
加給年金は、老齢厚生年金について発生する年金で、一定の要件を満たした配偶者や子などを有している場合に、老齢厚生年金額に上乗せして支給される年金です。
【加給年金の支給要件と年金額】
(受給要件)
定額部分の支給開始年齢に達した当時、その者(年金受給権者)によって生計を維持されていた65歳未満の配偶者・18歳の年度末までにある子(障害等級1級又は2級の受胎にある場合は20歳まで)を有しているとき
(年金額)
配偶者・2人目までの子:224,700円×改定率(平成30年度は224,300円)
3人目以降の子:74,900円×改定率(平成30年度は74,800円)
③支給繰下げ制度
支給繰下げ制度とは、本来であれば65歳になった時点から発生する年金の受給権を申請することで、支給開始年齢を遅らせる(支給繰下げ)ことで、年金額の増額ができる制度です。
支給繰下げは1月当たり0.7%年金額が増額され、最大で42%(0.7%×60月)増額された年金額を一生涯受け取ることが出来るようになりますが、70歳を超えて支給繰下げ申請をしても、繰下げ率は変わらないので注意が必要です。
5.まとめ
老齢年金を1円でも多くもらおうとする場合には、保険料の納付済み期間を増やしたり、加入期間を延ばすことが一般的な方法ですが、今回挙げたような要件を満たすことでもらえる年金額を増やすことが出来ますが、同時に、支給調整という形で、年金額を減額される仕組みもあるので、確認が必要です。
老齢年金を1円でも多くもらおうとする場合には、保険料の納付済み期間を増やしたり、加入期間を延ばすことが一般的な方法ですが、今回挙げたような要件を満たすことでもらえる年金額を増やすことが出来ますが、同時に、支給調整という形で、年金額を減額される仕組みもあるので、確認が必要です。
いずれにしても、現代社会における働き方では、年金をもらうことが可能な年齢になっても、現役として働き続けている人が多くなる傾向にあります。そのため、先ほど述べました在職老齢年金制度には注意が必要になりますし、他の制度との調整によって、年金額が減額調整されてしまうこともあるため、注意が必要なところです。