適用範囲拡大!パート労働者が社会保険に入るメリット・デメリット

社会保険とは、広い範囲においては「日常生活を送るにあたって発生しうるリスク(老齢、傷病、失業など)に対して一定の給付を国が行う保険制度」のことを言います。具体的には、労働者災害補償保険、雇用保険、健康保険、国民年金、厚生年金保険などが、社会保険となります。

平成28年10月1日より、社会保険の1つである「健康保険」と「厚生年金保険」の適用範囲が拡大されました。これに伴い、パートタイム(以下「短時間労奏者」という)で働いている人の一部の方も、健康保険と厚生年金保険に加入しなければならなくなりました。

今回は、健康保険と厚生年金保険について、短時間労働者がこれらの社会保険制度に加入することでどのような影響があるかについてお話します。

1.社会保険の適用範囲はどこまで?

社会保険の適用範囲は、広義的には「日本に住んでいる人」が対象とされていますが、各種社会保険制度ごとに適用される範囲が法令によって定められています。特に、今回取り上げます「健康保険」と「厚生年金保険」については、最近、適用される範囲が大きく拡大されたこともあり、日常生活をするうえでも影響が大きなものとなっています。

(適用範囲が拡大される者の要件):次のいずれかに該当する場合は、社会保険に加入することになります
  • 労働時間が週20時間以上であること
  • 1月当たりの賃金が88,000円以上であること
  • 1年以上雇用される見込みであること
  • 学生でないこと
  • 従業員が501人以上の適用事業所で雇用されていること など
労働時間が週20時間であること

法改正前の段階では「週30時間以上の勤務(正社員の法定労働時間の4分の3以上勤務する人)」が、社会保険の加入対象となっていましたが、今回の改正によって、「週20時間以上(雇用保険の加入要件と同じ)」の短時間労働者については、社会保険に加入する事が必要になります。

1月当たりの賃金が88,000円以上であること(106万円の壁)

賃金の額が月平均で88,000円以上になる場合も、社会保険の強制加入の対象となります。この賃金には、通勤手当等の諸手当は含まれず、基本給として計算されている部分のみで月平均88,000円かどうかの判断を行います。つまり、総支給額では88,000円を超える場合であっても、基本給の総支給額が月88,000円未満であれば、社会保険に加入する必要はないということになります。

ちなみに、最近よく耳にする「106万円の壁」の根拠は、この規定に抵触しないギリギリのラインが106万円(厳密に言えば「105.6万円未満」)を超えないようにしなければ、扶養の範囲から外れると思っているためと言われています。⇒この内容については「2.税法上の扶養の範囲と社会保険上の扶養の範囲」で詳しく説明します。

1年以上雇用される見込みであること

1年以上同じところに雇用される見込みである場合や、雇用契約によって1年以上雇用されることが約束されている場合であるときは、社会保険の共済加入の対象となります。なお、1年以上雇用される見込みがない場合であっても、週20時間以上勤務するような場合であれば、社会保険の加入の対象となります。

学生ではないこと

たとえ、上記の要件のいずれかに該当するような場合であっても「学生」である者については適用されません。なお、ここでいう学生とは「昼間学生」を指しており、夜間学生や定時制の学生、通信制の学生については含まれません。

従業員が501人以上の適用事業所で雇用されていること

従業員が501人以上の適用事業者(特定適用事業者といいます)に雇用されている短時間労働者については、社会保険の加入の対象となります。従業員が500人以下の事業所については、社会保険への加入にまつわる労使間合意をしている場合であれば、社会保険の加入をすることになります。

2.税法上の扶養の範囲と社会保険上の扶養の範囲

税法上の扶養の範囲と社会保険制度上の扶養の範囲は若干異なっているところがあります。そのため、どちらの扶養親族となることができる基準を優先して仕事を入れるべきなのかを、短時間労働者の人は計算しながら働くという労働形態が当たり前とする風潮がありました。

しかし、近年の働き方の多様化に伴い、従来の扶養の範囲内で働くという労働形態が本当に正しいのかを見直す流れに進んできています。

そこで、扶養親族の範囲内に収まる働き方を考える前に、それぞれの扶養親族の対象となる範囲がどうなっているかを把握することが重要になってきます

(1)税法上の扶養の範囲の考え方

税法上(所得税)における扶養の範囲の考え方は、所得税の所得控除の中にある「扶養控除(配偶者の方は「配偶者控除」)」の対象となる扶養親族(扶養配偶者)になるかどうかで判断されます。

「(所得税法で規定されている扶養親族・配偶者の範囲):年間の収入金額合計が103万円以下であること」

つまり、年間の総収入が103万円以内に抑えなければ、扶養親族等に入ることができないということです。言い換えると、所得税がの課税対象となる所得が1円でもあると、扶養されているとみなされなくなるということです。

そもそも、扶養とは「誰かの収入によって養ってもらっている状態」なわけですから、所得税が課税されるほどの収入がある人は扶養されているとは考えにくいというわけです。

また、金額の根拠としては「給与所得(給料などの収入による所得)の収入合計」から「給与所得控除額(最低65万円)」を控除した差額が合計所得金額となる金額です。

一つ注意してほしいことは、「課税対象となる所得の合計が103万円以下である必要がある」ということです。つまり、収入自体が103万円を超えたとしても、税金の課税対象とならない所得(各種給付金など)については、非課税となるため、この年収の金額の計算から除外しても問題ないということです。

【結論】

税法(所得税法)における扶養の範囲は、年間収入金額の合計額が103万円以下であることが「扶養される者の範囲」とされています。

ただし、実際の収入金額が103万円以下に抑える必要はなく、非課税となるものが含まれている場合は、その金額は除外した金額をもって判定されます。その場合は、以下で説明する「社会保険の扶養」の範囲から外れる可能性があります。

(2)社会保険の扶養の範囲の考え方

社会保険の場合は、「同居しているかどうか?」「収入がいくらであるか?」の2段階に分けて、扶養されているかどうかの判定が行われます。

同居しているかどうか

まず、扶養されているかどうかを判定するための要件としては、社会保険の加入者と同居しているかどうかです。具体的には、必ず同居していなければ、扶養されている者に該当しない人と同居をしていなくても人として判断される人に分かれます。具体的な判定については以下の通りです。

同居していなくても扶養されていると判定される人】

  • 配偶者
  • 子、窓、兄弟姉妹
  • 父母、祖父母などの3親等内の直系尊属

【同居していなければ扶養されている人と認定されない人】

  • 上記以外の3親等内の親族(叔父叔母、甥姪とその配偶者など)
  • 内縁関係の配偶者の父母、子(当該配偶者の死後、引き続き同居する場合を含む)

参考:「日本年金機構「健康保険(協会けんぽ)の扶養にするときの手続き」(http://www.nenkin.go.jp/service/kounen/jigyosho-hiho/hihokensha1/20141204-02.html)

収入がいくらであるか?

収入については、前提条件として「年収で130万円未満(60歳以上の人、又は、障害者は180万円未満)であること(いわゆる「130万円の壁」の事)」が要件とされています。そのうえで、同居している場合と同居していない場合とで、扶養されているかどうかの判定要件が分かれます。

ここでいう年収は、非課税とされている所得を含めた合計額で判断されるため、130万円の壁に注意が必要です。

同居している場合の収入の要件

同居している場合については「年収が扶養している者の半額未満であること。」が要件となります。つまり、同居している人に扶養してもらっている人であれば、その扶養してもらっている人の年収の半額未満の年収でなければならないということです。

例えば、夫に扶養されている妻の場合、夫の年収が500万円であれば、年収が「250万円未満」であることが要件とされますが、前提条件でもあるように、130万円(60歳以上と障害者は180万円)を超えない範囲内でなければいけませんので、実質的には「130万円未満」である必要があります。

同居していない場合の収入の要件

同居していない場合の収入の要件は「扶養してもらっている人からの仕送り等の金額未満」でなければなりません。例えば、下宿している大学生の子が扶養してもらっている者である父親から、年間100万円の仕送りを受けている場合は、年収が100万円未満であれば扶養されている者と判定されます。

【結論】

社会保険では、年間収入が「130万円未満(60歳以上の者・障碍者は180万円未満)」であり、かつ、扶養される者の年収が、同居している場合は「扶養者の年収の半額未満」、同居していない場合は「扶養者からの仕送り等の金額未満」であることが扶養の範囲とされています。

3.社会保険制度加入のメリットとデメリット

ここまで、扶養の範囲に入るための要件について説明してきましたが、税法上の扶養の範囲と社会保険の扶養の範囲は、税法上では「年間の所得の金額が103万円以下であること」が要件とされているのに対して、社会保険では「年間の所得金額が130万円未満(60歳以上の者と障害者については180万円未満)」とされています。

これを見ると、年間所得が103万円以下であれば、税法上も社会保険上も扶養対象となることが分かります。そうなると、必然的に税法の扶養範囲の上限額である103万円が一つの壁となっている(いわゆる「103万円の壁」)ところがあるといえます。

では、社会保険に加入する(つまり、扶養から外れて社会保険に加入すること)ことのメリット・デメリットをについて、具体例を交えて説明します。

【メリット】

  • 老後にもらえる年金額が増える
  • 支払った保険料が所得控除とされる
老後にもらえる年金額が増える

社会保険に加入するということは、厚生年金保険に加入することになるわけですので、扶養されているときに比べるともらうことができる年金額が増えます。

厚生年金保険は、「平均標準報酬月額×5.481/1000×加入期間」で年金額が計算されるため、加入期間が長くなれば、その分だけ年金額が多くなる仕組みとなっています。

支払った保険料が所得控除とされる

社会保険の保険料は、所得税の計算上「社会保険料控除」として、課税金額から控除することができます。そのため、毎月、源泉徴収されている所得税の清算をする年末調整の際に還付(払いすぎた税金を返してもらうこと)される金額が増えます。

【デメリット】

  • 保険料の負担が増えるため、手取りが少なくなる
  • 年収によっては、扶養に入ったままの方が有利に働くケースがある
  • 保険料の負担が増えるため、手取りが少なくなる

社会保険に加入すると、保険料の負担(会社が半額負担)することになります。今までは、扶養されていたため、保険料の負担は0円でしたので、保険料を負担する分だけ手取りが減ってしまうことになります。

年収によっては、扶養に入ったままのほうが有利に働くケースがある

社会保険に加入すべきかどうかの判断基準の中には「103万円の壁」や「106万円の壁」、「130万円の壁」といった扶養の所得制限の壁を考慮したうえで判断しなければなりません。

年収によっては、社会保険に加入した場合に得られる手取り額が、扶養の範囲内で得ることができる収入よりも少なくなるということが起こる可能性があります。社会保険に加入すると、介護保険・厚生年金保険・健康保険などの保険料と所得税・住民税が源泉徴収されることになりますので、その保険料の負担分をカバーできるだけの収入の増加額が見込めなければ、扶養のほうが有利になるということです。

つまり、保険料の負担による節税効果よりも、手取り額の増加額が大きくならなければ、扶養のほうが有利になるということがいえます。これについては、以下の具体例を参照にしてください。

4.社会保険加入すべきかどうかの境目は、年収「150万円以上」となるかどうか

(具体例):社会保険料は「健康保険・介護保険・厚生年金保険」の保険料で計算しています。

(1)年収が130万円(月収 約10.8万円)の場合

年収が130万円の人は、社会保険料が約12万円(年間)と所得税・住民税が源泉徴収されるため、実質的な手取り金額は約110万円となります。

この場合、扶養に入っている人の年収(手取り)が130万円であるのに対して、社会保険に加入した場合の年収(手取り)が約110万円となるため、扶養に入ったままのほうが有利になる可能性が高いです。

(2)年収が150万円(月収 約12.5万円)の場合

年収が150万円の人は、社会保険料が約27万円(年間)と所得税・住民税が源泉徴収されるため、実質的な手取り金額は約125万円になります。

この場合も、扶養に入っている人の年収のほうが、社会保険に加入した場合の実質的な手取り金額に比べると高くなるため、扶養に入ったままのほうが有利と考えられる可能性が高いです。

(3)年収が170万円(月収 約14.1万円)の場合

年収が170万円の人は、社会保険料が約30万円と所得税・住民税が源泉徴収されるため、実質的な手取り金額は約135万円となります。

この場合、扶養の範囲内で働いている人が得られる年収の上限の130万円を超えるため、社会保険に加入するほうが有利になる可能性が高い、ということになります。

社会保険に加入する人は、年収150万円(月収が12.5万円)以上であれば、社会保険に加入する方が有利に働く可能性が高い

5.まとめ

短時間労働者の働き方は多様化しています。それに伴い、扶養の範囲内で働く時間を抑制するべきか、扶養を考慮することなく、しっかりと収入を確保して行くべきかについて、考えなければなりません。

扶養の範囲内で働く場合も、社会保険に加入して働く場合も、それぞれにおいてメリット・デメリットはありますので、将来的な家計の見通しと並行して、生活環境の在り方について見直すきっかけとしても考えてみるといいところです。

今後、消費税の増税などによって、生活環境の変化が大きく変化する可能性を秘めているので、扶養の範囲内の収入で押さえる選択肢だけでなく、社会保険に加入する働き方をすることで、家計を少しでも支えていこうと考えて行くという選択肢も併せて念頭に入れておくことも重要です。

ここでお話した内容は、あくまでも一例にすぎませんので、働き方(パート・派遣・契約社員など)や勤務日数や勤務時間などの条件によって、選択肢も当然変化しますので、これらの要件とそれぞれの家庭環境などを考慮したうえで、働き方を決めていくことが一番大切な事です。

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