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皆さんは認知症や知的障害、精神障害などで判断能力が低下した時のことを想像したことはありますでしょうか?
判断能力が低下してしまえば、良からぬ人に騙されて、今まで一生懸命働いて築き上げた財産を一気に失うということが起こりかねません。
成年後見制度は、判断能力が低下した本人を第一に考え、選び、決めることを行う人を決定し、その人が本人をサポートする制度です。
これを利用すれば、判断能力が低下しても、代わりに後見人が財産管理をしてくれます。
このような成年後見制度を知って頂きたいと思いまして、この記事を書きました。
最後までお読み頂けますと幸いです。
成年後見の概要-法定後見と任意後見の2種類がある。
成年後見には、法定後見と任意後見に2種類があります。
法定後見は、現在すでに判断能力が低下している人を支援する制度です。
一方、任意後見は、今はまだ判断能力がある人が、将来、認知症などになった場合に備えて、あらかじめ自分で後見人を選び、頼みたいことを決めておくことができるものです。
それでは、法定後見と任意後見について以下で詳しく説明していきましょう。
法定後見とは
サポートを必要とする本人(被後見人)のために、家庭裁判所から以下の3つの権限を持ちます。
代理権・取消権・同意権の3つです。
それぞれ以下に説明していきます。
代理権とは、本人に成り代わることができる、後見活動の中心となる権利です。
この代理権を使用すれば、「本人確認」が厳しい銀行の窓口でも、本人が手続きする時と同じように、いくら預金を引き出しても、口座を解約しても、何も言われません。
しかも、使い道を聞かれることさえないです。
住居や公共サービス、新聞の定期購読、ホームヘルパーとの契約など、後見人は本人に代わってサイン可能です。
次に取消権について説明します。
取消権とは、過去に遡って、本人がしてしまった必要のない契約をなかったことにできる権利です。
契約の相手方にとっては迷惑な話ですが、判断能力が低下した本人を守るためには必要です。
最後に同意権について説明します。
同意権とは、本人と後見人が一緒でなければ、契約行為等ができないようにする権利です。
他人からお金を借りる、誰かに財産を譲るといった重大行為をする場合に、判断能力の低下により、本人の決断が間違っていたりする可能性があります。
この同意権があると、本人が単独で行った契約は有効にならず、後見人の同意が必要になります。
逆の言い方をすると、後見人が同意しなければ、その契約は無効になります。
法定後見の3つの判断能力のレベル
法定後見では判断能力の度合いを3段階に分け、「本人以外の介入を最小限にする」ことを原則としています。
財産管理や生活の組み立てがひとりでは困難(意思疎通が難しい場合も含む)な場合は成年後見が対応します。
判断能力が低下し、日常の買い物などはできても銀行取引や借金、不動産の売買など重要な行為にサポートが必要な場合は保佐が対応します。
判断能力が残っていて、助言を受けながらであれば重要な法律行為についても意思表示や判断ができる場合は補助が対応します。
後見人の呼び名もそれぞれ「成年後見人」「保佐人」「補助人」と変わります。
それぞれについて、詳しく説明しましょう。
まずは成年後見です。
成年後見については、後見人等をつけるにあたっての本人の同意は不要です。
日常生活に関する行為以外の行為について、同意権が付与されます。
また、取消権が自動的に付与されます。
そして、財産管理・生活の組み立てに関するすべての法律行為について、代理権が自動的に付与されます。
次に保佐です。
後見人等をつけるにあたっての同意はやはり不要です。
そして、民法13条1項所定の行為について、同意権が自動的に付与されます。
また、財産管理・生活の組み立てに関する法律行為の中から状況に合わせて選択した行為(家庭裁判所が定めたもの)について、申立て・同意があれば、代理権が付与されます。
最後に補助です。
他の2つと異なり、後見人等をつけるにあたっての本人の同意が必要です。
そして、民法13条1項所定の行為から選択した行為(家庭裁判所が定めたもの)について、申立・同意があれば、同意権が付与されます。
また、財産管理・生活の組み立てに関する法律行為の中から状況に合わせて選択した行為(家庭裁判所が定めたもの)について、申立て・同意があれば、代理権が付与されます。
ここで、民法13条1項所定の行為とは具体的には以下を指します。
- 土地・建物を貸したり返してもらったりすること、お金を貸すこと、預貯金を払い戻すこと
- お金を借りること、保証をすること
- 土地・建物や高価な財産の売買や贈与をすること、担保権を設定すること
- 訴訟を提起すること、取り下げること
- 贈与、和解または仲裁合意をすること
- 相続の承認や放棄をすること、遺産分割をすること
- 贈与や遺贈を拒否すること、負担付きの贈与や遺贈を受けること
- 新築、改築、増築または大きな修繕の契約をすること
- 5年以上の土地の賃貸借契約、3年以上の建物の賃貸借契約、6か月以上の動産の賃貸借契約などを締結すること
財産管理とは具体的に何をするか
財産管理の例は以下のとおりです。
重要書類の保管 |
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財産の把握・管理 |
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収入の受け取り |
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支払い |
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本人が使うお金 |
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不動産の管理 |
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税金 |
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相続 |
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記録・報告 |
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終了後の引き渡し |
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本人の生活を組み立てる
後見人がおこなう「生活の組み立て」の例は以下のとおりです。
本人を知る |
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住まい |
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医療 |
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介護・福祉 |
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余暇活動・日常生活 |
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関係者とのやりとり |
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報告 |
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後見人の決め方
後見人の決め方は以下のような手順を踏みます。
まずは地域包括ケアセンターや社会福祉協議会の後見センターなどに相談し、制度の概要や手続き方法を聞きます。
次に、家庭裁判所に対して手続きをする人(申立人)を決め、必要な書類を揃えます。
そして、書類の準備と並行して後見人の候補者探しをします。
候補者がいなければ申立てができないわけではありませんが、裁判所から候補者を探すように言われることもありますので、候補者を見つけておくことが望ましいです。
準備が整ったら、家庭裁判所に申立てをする日時を予約します。
申立人、候補者、本人(保佐と補助の場合のみ、本人の同席が必要です。成年後見の場合は不要です。)の日程を合わせて1回にしてしまうのが効率的です。
申立てでは、家庭裁判所に出向いて事情を説明することになります。
申立て後、家庭裁判所の中で資料に基づく審理が行われ、後見人が決定します。
最初に地域包括支援センターなどに相談してから後見人が活動をするまで、3か月から半年程度かかるのが通常です。
任意後見とは
任意後見は、認知症や知的障害・精神障害などではなく、判断能力にも問題の無い人が将来に備えて行うものです。
任意後見では後見人を本人自ら決めることができるのが大きな特徴です。
また本人が認知症になった後には家庭裁判所が選んだ任意後見監査人がつき、後見人の仕事をチェックします。
任意後見の3つのタイプ
任意後見には次の3つのタイプがあります。
1つ目は「将来型」。
認知症になって、自分にとって適切な判断ができなくなってしまった時のためだけに後見人がつく制度のことを言います。
2つ目は「移行型」と言われるものです。
認知症への準備だけでなく、判断能力がある状態でも入院したり、介護が必要になったり、寝たきりになった時に後見人が動けるようにしておく制度のことを言います。
3つ目は「即効型」です。
任意後見契約ができるだけの判断能力はあるものの、契約後すぐに判断能力が低下したという診断を受けて後見活動を始めてもらう制度です。
任意後見人に託せること
法定後見と大きく異なる点は、後見人に託せるのは代理権だけだということです。
任意後見では、自分の代わりにやってもらいたいことを、契約で定めます。
例えば、不動産(住まいの希望、本人が所有する不動産の管理など)、財産管理(預貯金の預け入れ、口座の解約、支払い、年金関係の手続きなど)や医療(入退院の手続きや支払い、医師からの説明を聞くなど)などがあります。
任意後見の手続き
任意後見の手続きは以下のとおりです。
まずは地域包括ケアセンターや社会福祉協議会の後見センターなどに相談し、制度の概要や手続き方法を聞きます。
相談の結果、任意後見を利用することに決めたら、後見人になってくれる人を探します。
後見人の心当たりがない場合は、上記の地域包括センターや社会福祉協議会の後見センターなどに相談しましょう。
後見人の候補者を紹介してくれたりします。
後見人の候補者が見つかったら、その人が自分の思いをかなえてくれる人かどうかを慎重に判断します。
そして、候補者と契約する意思が固まったら、必要書類を揃えます。
必要書類を整えたら、公証役場と事前に打ち合わせたうえで日時を予約して契約します。
後見人に自分がなったときにどんなことをするのか
後見人になったら、まずすること
法定後見でも任意後見でも、まずは本人と面会してあいさつをし、状況を確認します。
そして、財産の管理や支払いなどをおこなうために通帳や重要書類を預かります。
預かった通帳や書類をもとに、財産の一覧表(財産目録と呼ばれます。)を作成します。
また、本人を支援する関係者に、後見人の仕事が始まったことを伝えます。
また、これまでの本人の生活や支援の内容、今後の生活について話し合います。
そして、上記の本人を支援する関係者の話等を参考に、今後の本人の生活や後見人の仕事内容について計画を立てるとともに、収入と支出のバランスを計算した予定表も作成します。
これらの計画表等は、法定後見の場合は家庭裁判所に提出します。
任意後見の場合は後見監督人に提出します。
後見開始が決まったことは後見登記により法務局に記録されます。
そして、後見人は本人の後見人となったことの証明である登記事項証明書を入手し、役所や銀行に届け出ます。
この手続きにより、後見人の仕事ができるようになります。
後見人が普段すること
定期的に本人と面会することが必要です。
また、ケアマネジャーや相談員などの本人を支える関係者とも、面会や電話などで日常的に状況確認等をすることが必要です。
ここで大事なのは、本人の日常生活を支えるのはあくまでケアマネジャーやヘルパーといった支援者です。
後見人は支援体制を確認して、改善の必要があれば、本人の代わりに支援者と相談します。
そして、「2.2 財産管理とは具体的に何をするか」に記載されている事項を行います。
本人が遺産を相続することになったらすること
後見人はまず、被相続人が遺言をしていないかを調べます。
有効な遺言があれば、基本的にはそこに書かれている通りに相続が進みます。
遺言がない場合には、後見人は本人が法定相続人がどうかを調べます。
具体的には、本人が法定相続人であると証明するために、被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍を取ります。
そして、銀行などの窓口で本人の代わりに問い合わせ、遺産がどこに、どのくらいあるのかも調べます。
その後、戸籍を取ることによってわかった法定相続人全員に連絡して、遺産分割協議を行います。
その際は本人に代わって後見人が協議を行います。
話し合いがまとまったら、話し合い結果をまとめた遺産分割協議書に相続人全員の実印をもらいます。
後見人の実印も必要です。
この遺産分割協議書等を参考に相続税申告書を作成し、申告・税金の納付をします。
成年後見に関してよくあるトラブルとその対応
後見人に財産がとられる
本人が死亡したときに法定相続人となる親族が後見人になった場合は、後見人は「いずれ相続でもらうお金だし」と思って、横領をしてしまうことがあります。
不正を防ぐために、後見人には全ての通帳のコピーと収支表を家庭裁判所に提出させて、家庭裁判所のチェックを受けるようにします。
最近では後見人を監視する監督人をつけたり、普段使う金額以外のお金にはロックをかけたりもします。
遠距離だったため、後見人になれなかった
すでに判断能力が低下した人に後見人がつく法定後見では、家庭裁判所が後見人を選びます。
そのため、本人の息子が後見人として立候補しても遠距離に住んでいて、週に1回通うのがやっという状況でしたら、近くに住んでいる他人が後見人に選ばれる可能性は十分にあります。
息子にどうしても後見人をやってほしいという場合は、本人がしっかりしているうちに任意後見で息子を後見人に決めておくのがよいです。
まとめ
ここまでこの記事をお読み頂きましてありがとうございました。
成年後見には2種類あり、法定後見と任意後見があるということでした。
法定後見では、本人の判断能力のレベルを3段階に分け、それぞれに対応したサポートを行います。
一方、任意後見は現時点ではサポートを必要とする判断能力のレベルではないが、将来に備えて後見人にやってもらうことを決めておくというものでした。
また、どうやったら後見人が選定できるのか、具体的に後見人はどんなことをするのかといったことも解説させて頂きました。
何かの参考になりましたら、幸いです。