熟年離婚から見た年金分割のメリット・デメリット

近年、熟年離婚が増えてきているという話をよく聞きます。実際に熟年離婚する時に出てくるであろう問題の一つが「年金の受給額をどのように按分するべきなのか?」というところです。

年金制度には「年金分割」という制度があります。年金分割とは、簡単に言うと「標準報酬額を分割すること」です。つまり、年金額の計算の基礎となる標準報酬額を一定割合で分割することで、年金額の分割を行うことを意味します。

では、この年金分割制度はどのような仕組みになっているのかについて、メリット・デメリットを交えながらお話していきます。

1.年金分割制度の概要

年金分割制度には、大きく「合意分割」と「3号分割」の2種類に分かれます。

合意分割は平成19年からスタートした制度で、その名のとおりで、夫婦で分割割合を合意した上で年金分割が行われる形式となっております。

それに対して、3号分割は平成20年からスタートした制度で、離婚をするまでの間の3号被保険者であった期間について年金分割が行われる仕組みになっています。なお、分割割合は50%と固定されています。

どちらの制度についても、制度ができてから10年位しか経過しておらず、かつ、制度自体が浸透していないところもあります。2つの制度は似てまったく似ていない特徴があるため、どちらの制度を適用するかで、将来の年金額にも大きな影響を与えることになる点では、非常に重要な制度の一つといえます。

合意分割は、夫婦間での合意の下に決められた分割割合を適用して年金分割を行う制度。
3号分割は、3号被保険者であった期間について、固定割合(50%)で年金分割を行う制度。

・用語の定義

年金分割制度を理解するうえで必要な用語について説明します。

① 第1号改定者

被保険者等であった期間とみなされた期間を有するもので、年金分割制度によって、標準報酬が減額される人(簡単に言うと、標準報酬の分割分をあげる側の人)

② 第2号改定者

第1号改定者の配偶者で、年金分割制度によって、標準報酬が増額改定され、又は、増額決定される人(簡単に言うと、表十報酬の分割分を受け取る側の人)

③ 対象期間

以下のいずれかの期間をさします。

(ア) 婚姻が成立した日から離婚が成立した日までの期間

(イ) 婚姻が成立した日から婚姻が取り消された日までの期間

(ウ) 事実婚と同様の事情にあった当事者の一方が当該他方の被不要配偶者である、第3号被保険者期間

④標準報酬改定請求

合意分割等を行った際に標準報酬額が変動するため、改めて、変動後の標準報酬額を算定しなおすための請求のこと。標準報酬改定請求が行われた場合は、原則として、請求があった日の属する月の翌月分の標準報酬額が改定後の金額で計算されることになリます。なお、3号分割の場合は、3号分割標準報酬改定請求という名称となります。

⑤実施機関

実施機関とは、厚生年金保険の事務を担当しているところのことです。具体的には、以下のとおりとなります。

  • 第1号厚生年金被保険者(一般の会社員等) 厚生労働大臣
  • 第2号厚生年金被保険者(国家公務員) 国家公務員共済組合及び国家公務員共済組合連合会
  • 第3号厚生年金被保険者(地方公務員) 地方公務員共済組合、全国市町村職員共済組合連合会及び地方公務員共済組合連合会
  • 第4号厚生年金被保険者(私立学校教職員) 日本私立学校振興・共済事業団

2.合意分割

合意分割は、夫婦間において離婚をした際に、年金の分割割合について話し合いをした上で合意された割合を持って年金分割を行う制度です。もしも、夫婦間で合意に至らなかった場合であっても、家庭裁判所から定められた分割割合をもって年金分割を行うことがありますが、これも合意分割といわれます。

①合意分割の仕組み

合意分割は平成19年4月1日に施行された規定です。合意分割は平成19年4月1日以降に離婚をした場合に適用される制度です。そのため、平成19年3月31日以前に離婚をした場合については、合意分割が行われないということになります。

また、合意分割は平成19年3月31日以前の期間についても分割の対象となる点が大きな特徴といえます。つまり、平成19年4月1日以降に離婚をした場合であれば、離婚するまでの婚姻期間における標準報酬額が分割の対象とされるということになります。

たとえば、平成10年4月に結婚をした夫婦が、平成20年4月に離婚をした場合、離婚をした時期が平成19年4月1日以降ですので、婚姻をした当時である平成10年4月から離婚をした平成20年4月までの標準報酬額が合意分割の対象となる期間となります。

②合意分割において請求できる按分割合

【原則】

当事者それぞれの対象期間標準報酬総額(婚姻期間中の標準報酬額の総額のこと)の合計額に対する第2号改定者の対象期間標準報酬総額の割合を超え2分の1以下の範囲(以下「按分割合の範囲」といいます。)内で定められた割合。

簡単に言うと、第1号改定者(分割される側)と第2号改定者(分割分をもらう側)の婚姻期間中に算定された標準報酬額の合計額の中で、第2号改定者の標準報酬総額が占める割合から、50%以下の間の範囲で分割割合が決定するということです。つまり、0%~最大50%の範囲内で分割が行われるということになります。

(具体例)夫(第1号改定者) 標準報酬総額:1,500万円 妻(第2号改定者) 標準報酬総額:500万円の場合

この場合の按分割合は、第1号改定者と第2号改定者の標準報酬総額の合計が「1,500万+500万=2,000万」となるので、按分割合は「500万/2,000万=25%」から50%の範囲内で決定することになります。

按分割合は、もともとの標準報酬総額の割合と按分割合の合計が50%以下に収まらないといけないので注意が必要です。

【例外】

当事者等への情報の提供の規定(当事者又はその一方が、標準報酬改定請求を行うために必要な情報提供を、実施期間に対して行うことができるという規定)により情報の提供を受けた日が、対象期間の末日前(離婚等をした日前)であって、対象期間の末日までの間が1年を超えない場合、情報提供を受けた按分割合の範囲を請求すべき按分割合の範囲とすることができる。

簡単に言うと、当事者又は当事者の一方が、標準報酬改定請求を行った時点で離婚等があった日までの期間が1年以内である場合については、標準報酬改定請求を行うために受けた情報提供の按分割合の範囲をもって、合意分割の按分割合とすることができるということです。なお、離婚前の時点で情報の提供の請求があった場合は、請求があった日を対象期間の末日とみなして標準報酬総額、按分割合が計算されます。

ただし、以下の場合については情報提供ができないため、原則の方法で按分割合を算定する必要があります。

  • 情報提供の請求が、標準報酬改定請求後に行われたとき
  • 離婚等をしたときから2年以上経過したとき
  • 情報の提供を受けた日の翌日から起算して3月経過していないとき

③標準報酬月額の改定と決定の方法

実施機関は、標準報酬改定請求があった場合は、第1号改定者の対象期間にかかる被保険者期間の各月ごとに、改定割合に応じて標準報酬額の改定が行われます。第2号改定者については、従来の標準報酬割合に按分割合を上乗せした割合の標準報酬額で年金額が計算されることになります。

ここで、一つ注意してほしい点は「分割前の標準報酬額が0の場合」です。この場合は、合意分割によって分割対象となっている特定期間については標準報酬額が発生しますが、実際に標準報酬額が発生しているわけではないので、被保険者期間であったと仮定する(つまり、被保険者であったとみなす)ことにしています。この期間を「離婚時みなし被保険者期間」といい、ほかの年金制度においても受給権が発生することがあります。

④合意分割のメリット・デメリット

【メリット】

  • 平成19年4月1日以降に離婚等をしていたのであれば、過去の婚姻期間についても対象期間として、按分割合の計算に含めることができる。
  • 双方の合意によって按分割合が決定するため、納得の上での決定が行われる。
  • 家庭裁判所へ申し立てを行うことで、按分割合を家庭裁判所が決定することができる。

【デメリット】

  • 当事者双方の合意がなかなか得られにくいこともあるため、時間がかかる。
  • 按分割合の計算が煩雑になる恐れがある

3.3号分割

3号分割は、平成20年4月1日に施行された制度です。3号分割の大きな特徴は、国民年金の3号被保険者であった期間について年金分割が行われるという点です。また、合意分割と違い、平成20年4月1日前の期間については、3号分割の計算の対象にはならない点にも注意が必要です。

①3号分割の仕組み

3号分割の場合、分割する側のことを「特定被保険者」といい、分割分をもらう側のことを「被扶養配偶者」といいます。

3号分割は、特定被保険者が被保険者であった期間中に被扶養配偶者を有する期間のうち、平成20年4月1日以降の期間から離婚等をするまでの期間(特定期間)について、特定期間に係る被保険者期間の標準報酬の改定および請求をすることです。

②3号分割標準報酬改定請求ができない場合

以下のいずれかに該当する場合は、対象となる特定期間中であっても、3号分割の対象期間とすることができません。

3号分割標準報酬改定請求のあった日において、特定被保険者が障害厚生年金の受給権者であって、特定期間の全部又は一部がその額の計算の基礎となっている場合

これは、3号分割標準報酬改定請求を行った時点で、特定被保険者が障害厚生年金の受給権者である場合、対象期間の中に障害厚生年金の年金額の計算期間が含まれていると3号分割をすることができないということです。

ただし、特定期間中に障害厚生年金の受給をした場合であっても、障害厚生年金の計算の対象期間とされていない期間がある場合については、その期間についてのみ3号分割標準報酬改定請求ができます。

つまり、原則としては対象期間の中に障害厚生年金の額の計算の基礎となった機関がある場合は、その期間は3号分割の対象からは除かれるが、それ以外の期間については要件を満たすことで、3号分割の対象となるということです。

離婚が成立した日又は婚姻が取り消された日等の翌日から起算して2年を経過した場合

合意分割の場合と同様に、離婚が成立した日又は婚姻が取り消された日等の翌日から起算して2年を経過してしまうと、3号分割の請求を行うことができなくなります。

まとめると、以下のとおりとなります。

  • 特定期間の中に障害厚生年金の計算の対象期間がある場合は、その期間は分割対象から除外される
  • 離婚等が成立した日の翌日から2年を経過した場合は3号分割標準報酬の改定請求はできない

③標準報酬月額の按分割合、改定と決定の方法

3号分割の場合、標準報酬額の按分割合は1/2と決まっています。そのため、合意分割の場合のように按分割合を計算する必要はありません。

改定と決定の方法についても、基本的には合意分割の場合と同じ方法で行われます。また、合意分割における「離婚時みなし被保険者期間」に該当する期間については「被扶養配偶者みなし被保険者期間」と名前が変わりますが、内容は合意分割の場合と同じです。

④3号分割のメリット・デメリット

【メリット】

  • 按分割合が50%と固定されている
  • 当事者の双方の合意がなくても行うことができる

【デメリット】

  • 平成20年4月1日以降の期間しか対象にはならない
  • 障害厚生年金の受給権者の場合、障害厚生年金の額の計算の基礎となる期間については、特定期間から除外される

4.制度を利用する際の注意点

合意分割、3号分割いずれの制度を利用する場合においても注意すべき点はあります。また、それぞれの制度のメリット・デメリットを勘案したうえで、万が一利用するケースに遭遇した場合はどういった点に注意すればよいかということも考えておく必要があります。

合意分割と3号分割の違い

合意分割は当事者双方の話し合いによって、按分すべき割合が決定するため、公平性という観点から見れば、双方ともに納得した上での標準報酬額の改定となります。これに対して、3号分割は按分割合が決まっているため、当事者同士の合意を必要としない点で簡便的ではありますが、障害厚生年金の受給権者である場合など、特定の要件に該当してしまうと、文和Kつの対象期間から除外されてしまうなどのデメリットがあります。

どちらを活用するほうが有用なのか?

合意分割と3号分割、どちらを利用するほうが有用であるか二ついては、婚姻期間や年金を受給しているかどうかなどのさまざまな条件によって変化してきます。

婚姻期間が長い場合は、合意分割をしたほうが、婚姻期間のすべての期間について按分計算が行われるのですが、合意までの時間がどれくらいかかるのか、ごういまでいたることGD得きるのかといった部分で難航する恐れがありますが、祖当事者双方が納得した按分をすることができます。

逆に婚姻期間が短い場合、合意分割を適用する場合であっても、3号分割を適用する場合であっても、分割における影響にはあまり差はないところだと思われます。

いずれにしても、当事者双方が納得した形で決定することが大切になってきますので、それぞれの制度におけるメリット・デメリットを考慮した形で有用なほうを選択することが大切になります。

5.まとめ

熟年離婚等をした場合における年金分割制度は、合意分割・3号分割ともに制度の特徴をしっかりと把握した上で利用する必要があります。

合意分割であれば、平成19年4月1日以降に離婚等をした場合であれば、その婚姻期間のすべての期間の標準報酬額ぼ改定請求をすることで年金分割することができます。その分、当事者間の合意が必要であったり、按分割合についても制約が課されるなどの注意点はあります。

3号分割であれば、平成20年4月1日以降に離婚等をした場合において、その日以降の期間のみが年金分割の計算の対象とされるというわけです。対象となる期間の犯意が合意分割に比べると短くなりますが、按分割合が常に50%であること、当事者間の合意は不要であることなどのように、簡便的に年金分割を行うことができます。その反面、障害厚生年金の受給権者であると、障害厚生年金の年金額の計算の対象とされた対象期間については除外されるなどの制約がありますので、どちらを適用すべきかについては、よく考えた上で利用する必要があります。

熟年離婚における年金分割の影響は、年金を受給するようになったときに明確になるところがあります。本来もらえるはずだった年金額が、離婚等による年金分割が発生したがために、年金額が減少してしまい、老後の生活がままならなくなる恐れもあります。

このように、老後の年金額がどれくらい変化するのかについては、ねんきん定期便等に記載されている年金受給予定額などを確認したうえで、仮に、この時点で年金分割が行われたらいくらくらい減少するのかといったことも、しっかりと話し合った上で、制度を利用するかを判断することが大切になります。

岡崎 隆宏
SRFP隆宏
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社会保険労務士・CFP認定者・1級FP技能士

外資系生保会社で6年くらい営業として実績を積み、その中でFP資格を取得し、その時の経験を活かし、お金に関する執筆を始める。

日本FP協会愛知支部の役員幹事として6年、FPとして一般消費者向けのセミナーの講師や個別相談会の相談員などを担当。得意分野は「公的年金・個人年金」「社会保険制度」「出産・育児関係」等。

現在は、社労士・FPとして、労働や年金等のお金についての記事の執筆や資格試験の講師、セミナー講師等を行っている。

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