世界規模2500兆円!ESG投資の日本での課題とは?

ESG投資とは

 

ESG投資とは環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に力を入れている企業に投資することです。

環境(Environment)では地球温暖化など気候変動への対策や生物多様性の保護活動。社会(Social)では人権制度や地域社会への貢献活動。企業統治(Governance)では法令遵守、女性の取締役への登用、株主に対する責任を重視します。

これまでの投資が売上や利益など過去の実績を表す損益計算書や貸借対照表などの財務指標を重視したのに対し、ESG投資は環境、社会、企業統治を重視することが結局は企業の成長や利益につながり、財務指標ではわからなかったリスクを排除できるという発想に基づいています。

きっかけは、国際連合が2006年に機関投資家に責任のある投資PRI(Principles for Responsible Investment)を呼びかけ、欧米の機関投資家を中心に企業の投資価値を測る新しい評価として関心を集めるようになりました。PRIは法的拘束力を持たないものの、ESG投資について意識の高い欧米を中心とした世界中の機関投資家が署名し、PRIに沿った運用をしています。また、2015年9月には世界最大の年金基金である「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」がPRIに署名し、日本でも大きな注目を集めるようになりました。

 

出典 三菱UFJ信託

 

SRIとの違い

 

SRI(Socially Responsible Investment)とは財務諸表の分析に加えて、企業が社会に対する責任や貢献、いわゆる社会的責任CSR(Corporate Social Responsibility)を積極的に果たしているかを投資判断にする手法です。社会的責任を果たしている企業は持続可能性を高め、株主価値の向上に貢献するという考えに基づいています。

 

基本的にESG投資とSRIは同じですが、SRIが倫理的な 価値観から始まったのに対し、ESG 投資は「環境(environment)、社会(social)、企業統治(governance)を考えることが企業価値を最大化する」といった長期的な収益を追求するため の手法といえます。

SRIの分析手法にはポジティブ・スクリーニングネガティブ・スクリーニングがあります。ポジティブ・スクリーニングとは、社会問題および環境問題などで評価が高い企業に投資をすることを指します。一方、ネガティブ・スクリーニングとは、社会にとって好ましくない活動をしている企業を投資対象から除外することです。ESG投資はSRIの一部です。SRIはネガティブ・スクリーニングによって排除された企業は調査・投資の対象となっていませんでした。しかし、ESG投資ではすべての企業が投資対象となり、SRIより範囲が広くなっているのです。その他のESG投資手法としてはビジネスモデルや財務諸表の分析にESG分析も投資意思決定プロセルに組み込む「インテグレーション」や持続可能性に関するテーマ(エネルギーや気候変動、食料など)に投資する「テーマ投資」など7つのアプローチがあります。

 

出典 三菱UFJ信託銀行

世界のESG投資

 

ESG投資は、2006年に国連が提唱したPRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)で注目を集めることになりました。機関投資家が短期的でなく、中長期的な投資成果をだすために、行うべき投資行動に関する考え方を表した原則で、以下の6つが宣言されています。

  • 投資分析と意志決定のプロセスにESGの課題を組み込むこと
  • 活動的な所有者となって、株式の所有方針と株式の所有慣習にESGの問題を組み込むこと
  • 投資対象の主体(企業)に対してESGの課題に対する適切な開示を求めること
  • 資産運用業界にPRIが受け入れられ、実行に移されるように働きかけること
  • PRIを実行するときの効果を高めるために協働すること
  • PRIの実行に関する活動状況や進捗状況について報告すること

 

 

PRIは世界共通の指針となり、署名した機関投資家は12年間で1,942になっています(2018年3月11日現在)。世界の運用会社の過半数、有力な運用会社(トップ50)の8割超が含まれ、世界的に広まっているといえるでしょう。

 

世界のESG投資額

地域 2014年 2016年 成長率 年平均成長率
ヨーロッパ 107,750億米ドル 120,400億米ドル 11.70% 5.70%
アメリカ 65,720億米ドル 87,230億米ドル 32.70% 15.20%
カナダ 7,290億米ドル 10,860億米ドル 49.00% 22.00%
オセアニア 1,480億米ドル 5,160億米ドル 247.50% 86.40%
アジア 450億米ドル 520億米ドル 15.70% 7.60%
日本 70億米ドル 4,740億米ドル 6689.60% 724.00%
合計 182,760億米ドル 228,900億米ドル 25.20% 11.90%

世界のESG投資額の統計を集計している国際団体のGSIA(Global Sustainable Investment Alliance)は2年に一度、ESG投資の統計報告書「Global Sustainable Investment Review(GSIR)」を発表しています。この報告書によると世界のESG投資額の総計を2014年から2016年までの2年間で、世界全体のESG投資額は25.2%増加し、22兆8,900億米ドル(2,541兆円)となりました。これは世界の投資の4分の1を占めるまでになっています。年平均(CAGR)にすると11.9%成長になります。そして、2014年の投資額が低かったとはいえ、日本は6689.6%、約70倍弱と非常に大きな伸びを見せています。投資額でもオセアニア(オーストラリア・ニュージーランド)に迫る勢いです。やはりGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRIに署名し知名度が上がったというのが大きいと考えられます。

 

 

 

出典 GSIA 2016 Global Sustainable Investment Review

 

地域別の割合で見ると、ヨーロッパと北米で95%超となっており、アジア・オセアニア地域の伸び率は高いものの、まだまだ投資金額では小さいといえます。

日本のESG投資

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は2017年にESG投資を始めました。GPIFは直接株式を保有せず、外部の運用会社を通じて投資しています。運用を受託する金融機関にESGを考慮して投資するように求めているのです。当初約1兆円でESG運用を開始し、3〜5年かけて国内株投資の約9%に当たる3兆円程度にまで増やす予定です。

 

GPIFの取組みとしては、国内株式を対象にした「ESG指数」の採用があります。

 

2017年7月に「FTSE Blossom Japan Index」「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」 そして女性活躍に取り組む企業を評価する「MSCI日本株女性活躍指数」の3指数を採用すると発表しました。GPIFが採用したESG指数は指数会社がESGの観点から設けた基準に沿って評価が高かった銘柄を組み入れる「ポジティブ・スクリーニング」を用いています。

 

出典 GPIF

 

GPIFはESG投資が拡大することは、様々なメリットがあるといいます。ESG投資の運用資金の拡大は、企業のESG評価向上のインセンティブになり、ESG対応が強化されれば、長期的な企業価値向上につながるとしています。

 

まだ運用期間が短いのでESG投資のリターンははっきりしていないものの、ESGのリスク管理をしている企業は資本コストが低く、ボラティリティ(変動率)も低いという研究結果が多くでています。

GPIFは、2017年度のESG投資に関する取り組みをまとめた「ESG活動報告」を発表しました。ESG指数として採用した収益率を見てみると「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」が13.74%、「MSCI日本株女性活躍指数」が15.29%、「FTSEブロッサムジャパン指数」が14.83%でいずれもベンチマークのTOPIX15.87%を下回りました。ただ、GPIFはESG投資の効果がでるのは長期間要するので、短期的な投資収益は追求していないといいます。ESG投資の取組みを確認するためには定期的な検証が必要との考えで、ESG活動報告は毎年発行する方針です。

 

出典 GPIF

 

民間企業にはSDGs(=Sustainable Development Goals、国連の持続可能な開発目標)を意識した経営が期待されます。2015年9月に国連に加盟する193ヶ国すべてが合意して採択したもので、2030年までに「飢餓をゼロに」「気候変動に具体的な対策を」「人や国の不平等をなくそう」など17の目標が2030年までに達成されることを目指しています。

 

GPIFがESG投資を採用したことから、国内でも広がりを見せ、日本サステナブル投資フォーラムの調査によると、国内のESG投資額は2017年、約136兆となり、前年から2.4倍に増えました。

今後の課題

 

企業の課題

 

上場企業は、資本市場からの資金調達で事業を運営しています。ESG投資が重要視されている現在では、事業の成長性を説明して株価が上昇する可能性があることを示唆するだけでなく、ESGを重視した経営を行っているという点を積極的に説明する必要があります。

 

例えばCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)に対する取り組みを発表することでESG重視の姿勢を打ち出せます。

 

ESGやCSRに経営陣が積極的に取り組んでいる姿を見せれば、機関投資家にアピールできるだけでなく、従業員にとってもプラスになります。企業イメージがアップすれば、優秀な人材の確保にもつながります。

 

企業は財務情報の他に環境・CSR報告書、WEBサイトなどで、ESG情報を充実させています。これらの情報を活用する機関投資家が特に重視しているのがリスク情報です。リスク情報開示がないと、投資家は判断できずに投資しなくなってしまいます。そればかりか、リスクに対する認識が甘いとされ企業価値を下げる恐れもあります。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が採用するESGインデックス(株価指数)を作成する評価機関は、公開情報だけで企業を評価するため、要求されている情報を開示していない企業は評価を落としている可能性があるのです。

出典 サステナブル・ブランド ジャパン

 

 

 

GPIFが採用しているESG評価は3つありますが、そのうちの1つ、MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)の「MSCIジャパンESG セレクト・リーダーズ指数」は、日本企業時価総額上位500社の親指数のうち、ESG評価が高い銘柄251社を選定してAAAからCCCまで7段階で評価しています。

 

2017年、最高位格付けのAAAを獲得したのは、住友化学、NTTドコモ、KDDI、大阪ガス、ダイキン工業、デンソー、オムロン、積水化学、イビデン、国際石油開発帝石の10社でした。構成銘柄上位10銘柄のうち最高格付けのAAAを付与されたのはKDDIだけでした。トヨタ自動車でもBBとなっています。その一方で、最低位のCCCに格付けされたのは、東京電力、東芝、SMC、三菱自動車、スズキなど。下から2番目のB評価には、ヤフージャパン、ディー・エヌ・エー、コーセー、ソニーフィナンシャル、スルガ銀行など名のしれた企業が並んでいます。

 

出典 MSCI格付けレポート

MSCIのESG格付けでは格付け上位(AAとAAA)の割合が世界に比べて少なく、中小型株の過半数以上(62%)はBBBとBB格付けで、まだ規制対応レベルにとどまっていることがわかります。ただ、ESG投資が広がれば、取組みに前向きな企業も増えてくるでしょう。業績だけでない企業価値の向上は、投資家の長期的なリターンにもつながります。

ESGに投資するには

個人投資家がESG投資するにはどうすればいいでしょうか。まずはESGの取組みに熱心な個別企業の株式を購入する方法があります。取組み内容は企業のホームページで確認することができます。また、非財務情報をまとめた「統合報告書」を入手するのもいいでしょう。例えば「MSCIジャパンESG セレクト・リーダーズ指数」で最上位格付けのAAAを獲得しているデンソー(証券コード6902)は統合報告書を以下のように位置づけています。

 

出典 デンソー統合報告書

 

GPIFが採用している3指数も投資対象の参考になるでしょう。

 

MSCI ジャパン ESG セレクト・リーダーズ指数

 

FTSE Blossom Japan Index

 

MSCI 日本株女性活躍指数(愛称は WIN)

 

 

 

また東洋経済ではESGを重視する上位200社を「ESG企業ランキング」として発表しています。

出典 東洋経済

投資信託

また複数の企業に投資して運用している投資信託もあります。1社に投資するよりも分散投資によってリスクを軽減させることができます。日興アセットマネジメントが運用する投信「日興エコファンド」は、環境問題への対応力に優れた日本企業に投資しています。トヨタ自動車や三井住友フィナンシャルグループなど大型株中心に83社を組み入れています。ただ、企業の社会的責任(CSR)で代表的な投資信託でも運用成績に差があります。

 

出典 日経マネー研究所

 

 

日興エコファンドは大企業中心に対し、朝日ライフSRI社会貢献ファンドは良品計画、セリア、ニトリホールディングスが組み入れ上位3銘柄となっています。

 

ETF

 

大和証券投資信託委託は2017年9月にGPIFが採用している日本株ESG指数に連動する上場投資信託(ETF)を上場しました。まだ流動性に課題があるものの、株式のように取引時間中ならいつでも売買できます。

 

1652 ダイワ上場投信ーMSCI日本株女性活躍指数(WIN)

 

1653 ダイワ上場投信ーMSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数

 

1654 ダイワ上場投信ーFTSE Blossom Japan Index

 

ただし、注意点もあります。ESGによる企業選定に世界共通の基準というものはなく、同じテーマの投資信託でも組み入れる銘柄はそれぞれ異なります。企業がイメージ向上でPR活動した場合、ESGで高い評価を得てしまう可能性もあります。投資信託に投資する際は目論見書などをしっかり読み、運用会社がどのような方針で企業に投資しているかチェックする必要があります。

 

 

まとめ

世界の投資の4分の1、約2500兆円まで拡大しているESG投資。急成長を遂げた背景にはグローバル企業が直面する新しいリスクでした。90年代後半からアップルやナイキといったグローバル企業が労働者の人権問題や環境問題で責任を問われたり、不買運動が起こりました。そこにESG投資という形で新たな圧力が加わりました。ただ、結果としてESGに取り組んでいる企業は見直され、欧米の株高の一因を担っていると考えられます。日本ではまだ始まったばかりのESG投資。認知度は高いとは言えませんが、世界ではますます拡大傾向にあります。機関投資家だけでなく、個人投資家にとってもESG投資は選択肢の一つとなるでしょう。

 

 

 

 

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