FPが教える「生命保険」を選ぶときの本当のチェックポイントとは?

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生命保険、自分で考えて選んでいますか?

現在日本に流通しているいわゆる生命保険という商品は、数だけでも数百種類あり、テレビコマーシャル、インターネットでの広告、雑誌や新聞の折り込みチラシに至るまで、生命保険選びに関する情報も溢れかえっています。こうした情報が溢れかえっている状況の中で自分に合った保険を選び、加入するまでの注意点を紹介したいと思います。

前回の記事で、保険の基礎の部分について記事を書かせていただいたのでこちらも読んでもらえばさらに詳しく理解できると思います。

日本の生命保険の問題点と保険料の構造

生命保険選びを始めるときに、多くの人が共通して失敗するパターンがいくつかあります。このパターンをたどっていき、結果、必要のない生命保険に加入してしまったり、勧められるまま自分でも理解できない生命保険に加入してしまったりということが見受けられますので、最初にこれらのパターンを見て、同じ道を辿らないように気をつけましょう。

パターン1:生命保険選びを人任せにする

生命保険という商品が加入者にとってあまり親切でない理由があります。それは、加入する側の立場にたった情報発信量が極端に少ないと言った理由があります。他の商品だったら、他の人が購入したレビューなどで自分が購入したときの姿まで想像できると思います。例えば、カメラの購入を検討しているとしましょう。最近ではインターネット上に各メーカーの製品に関する様々な口コミ情報や評価が掲載されており、ちょっと高価なカメラを購入する際には、多くの人がまずはこうした情報を把握してからショップに出向くと思います。ですから、ショップの店員が在庫がだぶついているものや人気のないものを隠して無理におすすめしても、お客はその嘘を見抜いてしまうなど、ショップの定員の話を鵜呑みにすることはほとんどありません。

一方生命保険の場合は一度加入してしまうと、その商品について感想を書いたり、実際に使ってみたら何とかだったといった感想を発信する人はほとんどいません。そもそも購入する機会も少ないですし、商品の内容には自分のプライバシーも関わってくるので、加入者が自分から進んで情報発信したくなるということがないのでしょう。この結果、生命保険の募集人や保険代理人など保険のプロと話をする時に、お客様はほとんど知識のない無防備な状態で話をすることになり、相手の提案が正しいのか、他の保険と比較したらどうなのか、といったことを確認することなく加入してしまうことになってしまいがちです。

パターン2:内容ではなく保険料を目安にして保険を決めてしまう

もう一つのありがちなパターンは、自分と同じ年齢の人がどれくらいの保険に入っているかというものです。この典型的な例によくあるのは、「社会人になったのだから、とりあえずこのくらいの保険に入ったほうがいいよ。みんな入っているから。」と親やセールスマンに言われ、よく考えず入ってしまうパターンです。

この保険料の目安を中心に考えるパターンが加入する側に不利に働いてしまう原因は、どこの生命保険に加入しているかという情報が、各家庭の事情や家計の状態に密接に関係する内容であり、親しい友人の間であってもなかなか話題にしにくいところにあります。周りの人がどれだけの保険に入っているか、気軽に情報共有もできないために、ついつい生命保険のセールスマンなど専門的な人から言われたことを鵜呑みにしてしまいがちになってしまうのです。

保険料の分布というのは、同じような年齢層、同じような収入、同じような家族構成であってもかなりばらつきがあります。それぞれの人が、ちゃんとしたライフプランを想定した上で加入していない可能性があるため、本当の意味での適正な保険料というものは、なかなか把握しづらいのです。

自分で考え、納得して決めるコツ

これらの例のように生命保険選びにはついつい陥りがちな罠がいくつかありますが、これらを回避して、自分自身で考え納得のいく生命保険に加入するためには、いくつかコツがあります。

何が起きた時に必要な生命保険なのかを整理し、どのような場面で役に立つ生命保険なのか基本的な考え方を自分自身で理解する。その上で、自分で検討をするのか、専門家に相談しながら考えるのか決めます。

この流れに沿って検討すれば、自分の頭の中で本当に必要な生命保険と、生命保険という商品の大まかな知識が備わった後に専門家と相談することになるので、相手のいうことを鵜呑みにせず、このアドバイスは正しいのかといった判断をしながら話を聞くことができるようになります。まず、自分にどのような保険が必要なのかという観点から考えてみるのがいいでしょう。

生命保険が果たす機能は大きく以下の3つに分けることができます。これらの観点から考えていけば自分に必要な保険までスムーズにたどり着くはずです。

死亡保障

家族の生計を支えている人が亡くなり、残された家族の生活を保障するためのお金を保険で賄うなど、誰かの死亡という万が一の事態に備えるための機能。これを死亡保険と言います。

医療保障

病気や事故などで入院した場合、その間の手術費用や入院費用などを賄うための機能で、これを医療保険と言います。

貯蓄保障

銀行への預金と同じで、利子がもらえて、お金が必要な時に備えてお金を積み立てておく機能です。これを生存保険と言います。

世の中にはさまざまな生命保険商品が販売されていますが、機能別に分けてみれば、これらの3つに分解してみることができます。パッと見複雑難解な生命保険であっても、死亡保障何万、医療保障何万といった各機能が組み合わさっていて難しく感じるだけなのです。

次のポイントは、生命保険を選ぶ際には、みなさんの価値観が大きく関わってくるということです。特に、万が一の時に生命保険にどの程度依存するか、というところが大きく影響します。

例えば、30代の夫婦が2人で暮らしていて、夫はサラリーマン、妻は専業主婦だとしましょう。ここで夫が事故で帰らぬ人となったと仮定します。生命保険に全面的に依存する考え方の場合は、夫が亡くなって1億円の生命保険がおり、妻はそのお金でアパートを借り、そのお金で老後までの生活を賄う。または、生命保険にあまり依存しない考えの場合は、夫が亡くなって2000万円の生命保険がおり、妻はそのお金をしばらくの生活費に充てながら就職活動をする。このように夫婦の考え方によって、必要になる保険金の額は大きく変化します。

次のポイントは、自分が現在どのようなライフステージに立っており、両親のことや子供のこと、妻のことなど気にしなければならないことは何かという点です。例えば、新卒で就職したばかりの若い男性であれば、その人が事故にあって収入がなくなっても、直接生活に困る人はいませんのであまり高額な死亡保険は必要ないと考えられます。もっとも生命保険の特徴の一つとして、生命保険は若いうちに入るほど保険料が安くなるというのがあります。この新卒の若い男性がいずれは世帯を持つと考えれば、生命保険が安いうちに加入しておくという考えも一理あると思われます。ですが、その場合は保障額は必要最小限、例えば年収の1年分か2年分もあれば十分だと思います。世帯を持つことになった段階で追加加入等を検討すればいいのです。

一方、結婚して初めて子供を授かったばかりの夫婦の場合であれば、夫に万が一のことがあった場合、残された子供が就職するまでに十分な水準の教育を受けられるだけの資金を確保しておくための生命保険が欠かせないはずです。次はこれまで紹介してきた考え方をベースにして、もう少し踏み込んだところまで見ていきましょう。就職、結婚、出産というおおよそほとんどの人が通るであろう3つの典型的なパターンについて具体的に考えてみます。これらの状況に当てはまらない方も、この場面を参考にして、ご自分の状況を整理していただければと思います。

ライフステージ別に必要な生保の考え方

就職した時

多くの人が生命保険を意識するきっかけは、自分自身で収入を得るようになる、就職をする場面ではないでしょうか。社会人になったんだから、とりあえず生命保険入っときな、と親の声が聞こえるようですが、このケースについて、生命保険の機能別に確認してみましょう。

死亡保険について

死亡保険というのは、もしも自分に何か起こったら残された人に保険金が払われるものですが、社会人になったばっかりの人に万が一のことが起こった場合、だれか金銭的に困る人がいるでしょうか。

おそらくたいていの場合は、金銭的に困る人はいないのではないかと思います。そうなると、死亡保険については就職した時点ではあまり必要がないと考えられます。

医療保険について

次は、怪我や病気で入院してしまった場合はどうでしょうか。この場合自分が正社員で、入院している間に給料に関しても何割かは保証され、入院の際に個室等を希望しないのであれば、特に医療保険は必要ないかもしれません。というのも入院費や治療費と言ったものの大半は健康保険から賄われるためです。健康保険の機能に高額療養費制度があり、健康保険の自己負担額は収入にもよりますが、月10万円を超えることはほとんどありません。10万円程度の貯金があれば、半月くらいの入院に必要な最低限の費用は概ね賄うことができるでしょう。

ここで、高額療養費制度について簡単に説明します。公的医療保険における制度の1つで、医療機関や薬局でかかった医療費の自己負担額が、1ヶ月で一定額を超えた場合に、その超えた金額が支給される制度です。高額療養費制度では、年齢や所得に応じて、ご本人が支払う医療費の上限が定められており、またいくつかの条件を満たすことにより、さらに負担を軽減する仕組みも設けられています。例えば、70歳未満で標準報酬月額28万~50万円の方で、1ヶ月間にに100万円の医療費がかかった場合はどうでしょうか。窓口で支払う金額の限度額は3割負担で30万円ですね。その後必要な手続きをとれば、高額療養費として21万円が支給されます。これで実質の自己負担額は9万円です。しかも、事前に健康保険の保険者認定を受けておけば、立替払いの必要もなく、窓口での支払いは自己負担の限度額までになります。

一方、会社員ではない自営業の方で、働かないとそのまま収入がストップしてしまう人の場合などは、医療保険に加入しておくことを考えてもいいかもしれません。この場合も過剰な保険金は必要ありません。入院給付金の目安は1日あたり1万円もあれば十分です。

手術給付金の場合はどうでしょうか。入院して手術を受ける場合と受けない場合で医療費に違いが出ます。ですが、高額療養費制度があるので、どんなに重い病気にかかって、かなり高額な手術を受けたとしてもそれほど違いはないと考えれば、入院給付金のみの医療保険で十分でしょう。ですが、手術をすれば、何かと費用がかさむのではないか、と考えるのであれば手術給付金をつけたほうがいいでしょう。これに関しても考え方や価値観の違いでしょう。

生存保険について

就職したタイミングでは、貯蓄性のある生命保険はあまり必要が無いと考えられます。理由としてはこの時期にはまだお金がほとんど貯まっていない可能性が高く、たとえば、車の購入や引っ越し、結婚といった近い将来起こり得るイベントの時のために流動性の高い状態でお金をキープしておきたいからです。貯蓄をするにしても、期間の決まった債券や投資信託を購入するほうが銀行に預けるより何倍もの利子収入が見込めます。生存保険による貯蓄の場合、途中で解約すると解約によるペナルティーが発生し、それまで支払った金額よりも少ない金額しか戻ってこない場合が多く、いざ現金が必要になったときにデメリットがあります。

ですが、これにはメリットもあり、安易な引き出しができないために、長期的には確実にお金が貯まります。生存保険には強制的な財産管理機能があるのです。これに対して貯金は、安易に引き出しが可能なために、浪費グセのある方や意思の弱い方は貯蓄がなかなか増えないという一面があります。

結婚した時

就職に続いて、人生の大きなイベントといえば、結婚ではないでしょうか。今まで別々だった家計が一つになり、場合によっては片方が仕事を辞め、相手の収入に依存するようになるなど、生命保険加入を考える上で大きな転機になるのがこのタイミングです。

死亡保険について

一番最初に考えなければならないのが、一家の稼ぎ手が亡くなった場合のことです。この時パートナーもまだ正社員として働いていて、自分1人で暮らしていけるだけの収入があれば、多くの死亡保険は必要ありません。次にパートナーがアルバイトもしくは、専業主婦(専業主夫)である場合については、気持ちを整理して、生活を立て直すまでの準備資金がある程度必要になると思います。この場合も加入者がどの程度生命保険に依存するかによって保険は変わってきます。一般の家庭の目安としては、年収の3年分や子ども1人につき最低1000万円が多いようです。

医療保険や貯蓄保険については、就職した時とほとんど同じです。

出産した時

子供を出産したら、今までよりもさらに生命保険の重要性が増します。子供がいなく、パートナーだけであれば、稼ぎ頭に万が一のことが起こったとしても、再び働き始めたり、実家に戻るなど選択肢は広くあります。ですが、子供を授かった後では、育児をするためにフルタイムでは働きにくかったり、子供が大きくなれば学校の入学金やクラブ活動の費用など必要な資金はかなり多くなります。

死亡保険について

まず、子供が成人するまでの教育費用は、まとまったお金として準備が必要。それから、残されたパートナーは育児をしなければならないので、フルタイムでの勤務はなかなか厳しい、という前提条件があります。そのため、死亡保険については子供1人あたりに必要な教育費の準備資金と残された家族の生活費の2つに切り分けて考える必要があります。

まず、子供の教育費についてですが、幼稚園から大学までの19年間にかかる教育費をまとめてみると、最もコストが低いのが、すべて公立学校に進学するケースです。ただし、それでも約1,000万円かかります。
最もコストが高いのは、すべて私立に進学するケース。理系の大学なら、約2,500万円かかります。教育費はどんな進路であってもまとまった額が必要です。一方、残された家族の生活費についてですが、これは

住居費用+月々の生活費−公的保障−残された家族の収入

という計算式で求めることができます。住居費用については、すでに住宅ローンで住宅を購入されている場合は、団体信用保険によって死亡時にローンが保険金で一括返済されますのでおりこむ必要がなくなります。月々の生活費については、現在の生活費の7〜8割程度が目安になります。また、公的保障についてですが、子供がいる場合は、国から遺族年金が支給されます。子供が1人いるサラリーマン世帯の場合はおおよそ月10万〜14万円くらいが目安になります。

専門家に相談するのも一つの有効な手

ここまで、必要な生命保険の検討をご自分で行えた方はもはや専門家への相談はあまり必要ないように思えますが、それでも「やはり自分で考えるのは難しい。誰かに相談したほうが良い。」と感じた方は専門家に相談することを検討してみるといいでしょう。先に述べたように生命保険の3つのポイントを理解していれば、専門家に話を聞いても、その内容が信頼できるかどうか、ご自分で判断ができると思います。

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