1日20%の大暴落!トルコリラの暗すぎる未来を検証

夏に入って一段と下落したトルコリラ。8月10日には、約4円も下がる大暴落が発生しました。一体どこまで下がり続けるのでしょうか。新たに浮上したネガティブ材料を交えて、今後の動向を予想します。

【もはや地獄?】ついに15円台マーク……大暴落で過去最安値を更新 “塩漬けロング派”を一掃か

2018年1月時点で30円台だったトルコリラ・円は26円、25円、23円、22円、21円……と過去最安値をいともカンタンに更新し続けました。今夏に入ってからは一段と下落幅を大きくし、8月10日にはついに、16円を一時突破して15円台に突入しましたわずか一日で、約20%の歴史的な大暴落です

トルコリラ・円の日足チャート。外為どっとコムでは、8月10日に最安値15.834円を記録しました。始値が19.940円なので、およそ4円の大暴落です。チャートは外為どっとコム社より抜粋。

30円だった年初から考えると、50%以上の値下がりです(トルコリラ・円換算)。凄まじい数字です。新興国であるトルコの通貨流動性リスクを考えれば、乱高下は十分に考えられましたが、「まさかここまで来るとは……」とタメ息をついた方(特にトルコでスワップ投資をしている方)も多いのではないでしょうか。一部の専門家やメディアは、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領(以下、エルドアン氏)が娘婿のベラト・アルバイラク前エネルギー天然資源相(以下、アルバイラク氏)を財務相に就任させた頃から「トルコリラはもはや投資するに値しない。早く撤退せよ」と注意喚起しています。それほど投資リスクがある通貨になっています。

ここ1週間のトルコリラ・円のすさまじい点は、反発狙いのロング(買い建て取引)をするスキがほとんどない下り調子であること。時折上昇に転じても10〜30銭程度で、下落幅を考えるとほとんど反発していません。トルコ経済への市場の期待感が全く感じられません。まるで、スワップ投資狙いのロング勢(特に塩漬けしていた方々)を抹殺しにかかっています。チャートの急激な下降の様子を見るかぎり、強制ロスカットを食らっているミセス・ワタナベ(日本の個人投資家の総称)勢も多いようです。

ロングのポジションとショート(売り建て取引)のポジション両方を同時保有する両建ても危険です。ショートで生まれた利益を確定後、またすぐにショートで取引しないと、下落してロングのマイナス分がどんどん上積みされます。

理想はショートで利益を確定しながら、底値でロングして反発を狙う……という戦略でしょうが、それもなかなかできません。なぜなら底値を常に更新するから。特に「いつか上昇してくるだろう」と思って30〜40円台のロングポジションを塩漬けしている方にとって、地獄のような展開です。早めの損切りが必要でした。

結果論から言えば、ショートオンリーが勝ちの相場になっています。完全に暴落時の相場ですね。トルコリラ・円のショートは、トルコリラが高金利である分、高額のマイナス金利が発生するので、こまめに利益確定すると良いです。ただここ1週間はあまりにも大きな下げ幅だったので、マイナスのスワップが発生しても全く問題ないほど利益が出る結果となりました。

筆者が「トルコリラ・円は現在、22〜24円台を行き来しています」と語ったのは、わずか3週間前の出来事です。本記事の掲載にあたっても、トルコリラが最安値を毎日のように更新するのでタイミングを悩みました……。いやはや、本当に底が見えません。トルコ政権が利上げや介入を行なってトルコ高に操作する素振りが一切なく、仕掛け売りを行なう機関投資家たちのオモチャと化しつつあります。

アメリカとの経済戦争勃発!? 原因は米牧師の拘束問題

トルコリラが最安値を大幅更新した原因の一つは、アメリカとの明確な関係悪化です。

タイミングが悪いことに、8月に入ってからアメリカ人牧師アンドルー・ブランソン氏の拘束が国際問題に発展しました。このブランソン氏は、2016年にトルコ国内で起きたクーデター未遂事件や反政府武装組織クルド労働者党を支援したと見なされて逮捕・起訴され(裁判は継続中)、トルコで自宅軟禁状態にあります。

これに対してアメリカ側が、ブランソン氏を解放するように要求しました(アメリカのドナルド・トランプ大統領が無理やり火をつけた印象もありますが……)。しかしトルコ側は見返りに、アメリカに亡命したクーデターの首謀者の一人(トルコがそう見なす)、イスラム説教師フェトフッラー・ギュレン氏を引き渡すように要求しました。

互いに要求をはねつけた結果、8月1日にアメリカ財務省が、トルコのギュル法相とソイル内相の資産凍結を発表。対してトルコが8月4日、アメリカの法相と内相の資産がトルコ国内にある場合、資産を凍結すると発表しました。

トルコの政界の人間が、資産を世界No.1の通貨であるアメリカドルやその他資産をアメリカ国内に保持することは考えられますが、逆にアメリカ人がトルコに資産を置く可能性は、素人目から見てもちょっと想像しにくいです。制裁としてあまり効果が期待できないように思われます。

ただ一つ明確な事実は、アメリカが発した制裁に対し、トルコが報復制裁を行なうと“発表した”ことです。アメリカとトルコは、これまでも懸念されていましたが、今回の発表を通じて、市場に対して両国の関係悪化を強くイメージさせました。

こうした関係悪化を憂慮して8月9日、トルコの政府代表団が渡米。ブランソン氏の問題を中心にアメリカ側と交渉を重ねています(なお一部報道や事情通のSNSによると、交渉はわずか50分。結果不調で終了した模様……)。アメリカ側は指定のアメリカ人のリストを渡して解放を求めていますが、トルコ側は渋っているようです。

以前にも話したとおり、エルドアン大統領は、国内のクーデター未遂事件にて冗談抜きで死にかけました。九死に一生を得たことは何よりですが、それによって反乱分子への締め付けが非常に強いです(暗殺未遂の件が、よほど大きなトラウマなのでしょうね……)。

ですから、いくら経済大国アメリカの申し出とはいえ、クーデターに関与した(とトルコが疑惑を投げかけている)ブランソン牧師をエルドアン氏が安々と手放すことはないでしょう。それはつまり、アメリカとの関係改善が相当タフな交渉になることを意味します。

エルドアン氏は「トルコリラ買おう」と叫ぶだけ……新政権の道筋は未だに不透明

トルコリラ下落の要因の一つに、新政権の道筋の不透明さもあります。

8月10日夜には、リラ安に苦しむ国民に向けてエルドアン氏が「外国通貨や金ではなくトルコリラを買おう!」という旨の演説を行ないました。激変する自国通貨に対して、市場が期待する緊急利上げなどは一切無し。これはつまり「無策である」と宣言したようなものです。

8月10日の演説で「アメリカに屈しない!」「トルコリラを買おう!」と声高に叫んだレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領。緊急利上げや大胆な経済政策をほとんど打ち出せず、市場にさらなるネガティブイメージを植え付けました。

こうしたエルドアン氏の演説およびトランプ氏の関税策の発表を受けて(トランプ氏はわざわざ演説中に自身のツイッターで発表するという手に出ました)、トルコリラ・円はオープンしたアメリカ市場(8月10日の日本時間22時以降)で15円台まで降下しました。

現財務相たるアルバイラク氏からも、インフレ率を1桁に戻すべく新たな経済政策に関する話が行われました。「強固な財務政策」「経常収支の赤字の減少(コストカット)」を打ち出しましたが、具体的、またはエルドアン氏から距離をとったクリーンな政策を発表することはありませんでした。

今後のカギを握る政策金利の上昇

急激なリラ安で外貨との差額が大きくなったことで、企業の外貨建てローンの返済や国外との取引が一層厳しくなっています。8月2日には、大手自動車リース会社のフリートコープは約3億ユーロの負債を抱え、経営破綻に陥りました。

例えば2006年にユーロ・トルコリラで1ユーロ=2トルコリラの時に、トルコの会社Aがユーロ圏の銀行から外貨建てローンで1億ユーロ借り、毎月10万ユーロを返済するとします。

しかしユーロ・トルコリラは現在、リラ安によって1ユーロが約6トルコリラを突破する事態になりました。するとA社は、2006年当時は10万ユーロを返済するために20万トルコリラ(ここでは換金手数料など細かい話は抜粋)を支払えば良かったものの、2018年の今は、60万トルコリラを支払わなければなりません。実に3倍のお金です。これはどう考えても厳しいです。フリートコープは、こうした外貨建てローンの為替変動地獄に巻き込まれた模様です。

現状のリラ安が続けば、同じように倒産する企業がボコボコ出てくるでしょう。観光業などが良好ですが、リラ安が完全に足をひっぱっている状況です。

こうした企業の経営破綻やローン返済の滞りが相次ぐのは、トルコにとって良くないシナリオです。今度は企業にお金を貸す銀行、ひいてはトルコ国内の金融システムがパニックに陥ります。破綻する銀行が出てくればさらなるリラ安を招き、経済破綻という最悪のシナリオが待っています。

また、トルコ企業が倒産すれば貸し出したお金が焦げ付きますから、お金を貸し出すユーロ圏の銀行にとっても問題です。現に、リラ安に引っ張られるようにユーロやイギリスポンドも下落傾向です。

打つ手が少ない状況下で、トルコ経済を救う手立ての一つと期待されている(あるいはプレッシャーがかかっている)のがトルコ中央銀行の利上げです。政策金利を現状の17.75%からさらにアップすることで、投資家がトルコリラを買う動きを強め、リラ高を狙おうと言うのです。

しかし厄介なことに、エルドアン氏は常々この金利の上昇をあまり良く思っていません。7月に行われた政策決定会合では、市場が「この経済危機を緩和するために金利をアップさせるだろう」と予想していたものの、金利を上げませんでした。金利を上げなかったことはもちろん、「エルドアン氏の独裁政治はトルコ中銀にも及んでいる」というイメージを強めたため、トルコリラの失望売りを招きました。

トルコ中銀が次に政策決定会合を開くのは9月13日。はたしてどうなるのか……。

材料出尽くしによるトルコリラ上昇の可能性も……10円突破が先?

エルドアン氏の独裁をベースにトルコリラの下落が続けば、トルコリラ・円はさらに下落する可能性もあります。すでに8月10日時点で15円台まで到達し、1、2年前ならウソのように感じられますが、20円の壁があっさり破られました。リラ高になる手はないのでしょうか。

そこで考えられる手っ取り早い上昇のカギは、

  1. アメリカとの関係改善
  2. 中銀主導の緊急利上げ
  3. ネガティブ材料出尽くし
  4. 新政権のポジティブな政策打ち出し

などが挙げられるでしょう。

1は、トルコがアメリカ人牧師などアメリカが要求する人物を解放すれば、アメリカ側が経済制裁を解除、あるいは緩和するでしょう。唯一の光は、トランプ氏の顧問弁護士ジェイ・セキュロー氏が「トルコについて解決に近づいている」と発言したことです。もし本当に解決に向かっているなら、大幅なトルコ高が予想されます(何せ今が低すぎるので)。

2の緊急利上げは、前述のとおりリラ高を誘うカンフル剤です。超のつくリラ安ですから、緊急利上げをしても、本来なら不思議ではありません(7月24日の政策会合決定や8月10日の演説に利上げに言及すると目されましたが、何も言及はありませんでした)。

アメリカ問題、金利・インフレの問題、外貨ローン問題、治安問題……などあらゆる方面からトラブルが発生して、トルコはまるで四面楚歌に陥っています。逆に言えばネガティブ材料が出尽くしてきた、とも言えます。ネガティブ材料の出尽くしによる上昇の可能性も考えらます。つまり、ついにトルコリラが“真の大底に到達した”という考えです。8月10日の急落を通じて、やや大きなヒゲ足が形成されたので可能性としてはあります。

加えて、トルコ政府が重い腰を上げて効果的な経済対策を発表すれば、トルコリラの価値が上昇してジリ貧の状況を脱出するかもしれません。

しかし上記1~4の内容は、全て希望的観測です。今後の各国の動きを見て冷静に考えれば、さらなる下落の動きのほうが優勢です。

日を追うごとにアメリカとの交渉不全が明らかになり、リラ安による悪影響によって次から次へと新しいネガティブ材料が出てきています。また経済破綻を警戒して、トルコへの投資自体をやめる人(あるいは強制ロスカットを受けて退場した人)も増え始めています。

月足チャートなどでチャートを確認すると分かりますが、トルコは2001年に、トルコリラを変動相場制に移行させた際にも大混乱を引き起こし、トルコリラ・ドルを中心に今回のような大幅な下落を記録しました。長い目で見れば、トルコリラはまだまだ負のスパイラルの最中にあり、20円台に回復するよりも、10円台に突入するほうが現実味があります。

原因は、総じてトルコ政権の端々から見えるエルドアン氏の独裁の悪影響。やはりこれが一番大きいです。市場ではエルドアン氏の独裁のイメージが日に日に色濃くなっています。こうして見ると、トルコリラの不調はもはや人災と言えるかもしれません。ここまで来ると、実経済へのさらなる影響が懸念されます。クーデターを何よりも憎むエルドアン氏ですが、新しいクーデターが起こらなければ良いですが……。

今まで見てきたとおり、ここ数週間のトルコリラはあまりにも下落幅が大きく、一部専門家の間で囁かれるように、トルコの経済破綻の可能性が見え隠れしてきました。もしも破綻すれば、トルコリラが紙クズになる可能性すらあります。皆さんも、トルコリラ投資にはくれぐれもご注意を。

※本記事は、2018年8月11日時点の内容をもとに解説したものです。取引は自身で責任を持って、冷静に判断して行ないましょう。

コメントを残す