年金のプロが教える「厚生年金保険」の制度の賢い活用法

厚生年金保険は、サラリーマンなどのように会社等に勤めている人が加入する公的年金で、公的年金制度においては2階部分に該当するものとされています。

厚生年金保険は、1階部分の国民年金とは制度の仕組みが似ているようで似ていない部分が多く、さらに、制度一元化に伴い、地方公務員や国家公務員、私立学校教職員などが加入する共済組合制度についても、厚生年金保険制度に統合されたため、制度がより複雑になってきました。

さまざまな制度が複雑に絡み合っているため、本当に必要なことが何かがわかりにくくなっていますが、賢く制度を活用する上で必要なことについてお話します。

1.保険料の仕組み

厚生年金保険の保険料の仕組みは、国民年金と比べるとシンプルなものとなっています。厚生年金保険の保険料を決定する要素は給与等の報酬の月額が基準となっており、当然ですが、多くもらっている人ほど保険料が高くなる仕組みとなっています。

(1)保険料の決定方法

厚生年金保険の保険料は「標準報酬月額」と「標準賞与」を基準としており、この金額が高ければ高いほど、保険料が高くなるという仕組みになります。

(2)標準報酬月額と標準賞与とは?

①標準報酬月額とは?

毎月の給与等のことで、1年間に支払われた給与などの合計額を12で除して求めた金額です。そのため、月ごとに給与の金額にばらつきが出た場合であっても平均値が標準報酬月額とされますが、一定の額以上の増減が見込まれる場合は、その増減が見込まれた月の翌月から標準報酬月額の改定(見直しのこと)が行われることもあるので、注意が必要です。

②標準賞与とは?

基準日となる7月1日以前の1年間に支払われた賞与(3ヶ月以内に支払われるものを除く)の合計を12で除して求めた金額のことを言います。標準賞与には上限があり、毎月150万円が上限とされています、(ちなみに、健康保険の場合は年間で573万円が上限とされています。)

(3)保険料免除制度の種類

厚生年金保険における保険料免除制度は「育児休業等期間中(3歳に満たない子の育児休業期間に限る)の保険料免除」「産前産後期間中の保険料免除」の2種類しかありません、

2.老齢厚生年金の仕組み

(1)受給要件

老齢厚生年金は国民年金の老齢基礎年金と同様に、原則として65歳になったら受給することができますが、生年月日によっては60歳から受給することができる人がいます。

具体的な受給要件

・厚生年金保険の被保険者である期間が1月以上あること(60歳代前半の老齢厚生年金は1年以上

65歳以降の老齢厚生年金は1月以上被保険者期間があれば、受給する権利が発生するが、60歳代前半の特例の老齢厚生年金については1年以上被保険者期間が必要です。

・65歳になっていること(男性は昭和36年4月2日生まれ以降の人、女性は昭和41年4月2日生まれ以降の人が対象)

原則として、国民年金と同様に65歳になってから受給権が発生するのですが、例外的に60歳から受給することができる人がいます。生年月日が、男性は昭和36年4月1日以前(4月1日時点で58歳以上の人)女性は昭和41年4月1日以前(4月1日時点で53歳以上の人)の人は60歳から(段階的に支給開始年齢が65歳に引き上げられています)老齢厚生年金の受給をすることができます。

(2)60歳代前半の老齢厚生年金の仕組み

60歳代前半の老齢厚生年金は報酬比例部分定額部分から構成されています。また、この老齢厚生年金は60歳から65歳になるまでの期間限定の年金で、受給できる人については上記で述べた通りとなっています。

さらに、一定の要件に該当する人については、この年金額に加給年金が加算されます。

①報酬比例部分

報酬比例部分の年金額=平均標準報酬月額×5.481/1,000×被保険者期間の月数

報酬比例部分は、給与などを基準として算定した標準報酬月額を基準として計算された年金額の部分です。計算上は被保険者であった期間の標準報酬月額の平均額(平均標準報酬月額)が年金額の計算に使われます。

②定額部分

定額部分の金額=1,628円×改定率(昭和21年4月2日以降生まれの者は1.000)×被保険者期間の月数

定額部分は65歳以降に受給する国民年金の老齢基礎年金に該当する部分の年金です。単価が決まっていますが、昭和21年4月1日以前に生まれた人については、改定率が1.875~1.032と読み替えられます。

現在は、年金の支給年齢が段階的に引き上げられているため、定額部分の支給を受けている人はいません。

③加給年金額

配偶者に係る加給年金額=224,700円×改定率
子に係る加給年金額(2人目まで)=224,700円×改定率
子に係る加給年金額(3人目以降)=74,900円×改定率

加給年金額は、生活保障を目的とした給付ですので、加算対象となる人が18歳の年度末(18歳に達して最初の3月31日)までの子65歳未満の配偶者(65歳になると老齢基礎年金が受給できるようになるため)と限られています。

(3)65歳以降の老齢厚生年金の仕組み

65歳以降の老齢厚生年金は、本来もらうことができる老齢厚生年金の事をさします。受給要件を満たした人であれば、65歳になれば、誰でも受給することができます。

65歳になると、事前に「年金請求書」が郵送されます。この請求書に必要な書類を添付して年金事務所で手続きを行うことで、年金の支給を受けることができます。

(4)在職老齢年金とは?

近年、65歳になっても現役で働く人が増えてきました。厚生年金保険には、年金をもらいながら働く人に対して、年金額の一部の支給を止める制度があります。これが、在職老齢年金といわれる制度です。

在職老齢年金は、老齢厚生年金を受給している人が給与等の収入を得ている場合に、年金額を減額して支給する事で、年金だけで生活している人との所得のバランスをとることを趣旨として定められた制度です。具体的には、①年金額②年金額と給与等の標準報酬月額を合計した金額(「総報酬月額」と言います。)の2段階で減額する金額の調整が行われます。

(5)繰上げ支給と繰下げ支給とは?

老齢厚生年金と老齢基礎年金のいずれの場合においても、年金を早く受給したい人や後から受給したいといった事を考える人は少なからずいます。年金制度には繰上げ受給・繰下げ受給という制度があります。それぞれの制度についてはメリット・デメリットがありますので、しっかりと理解したうえで繰上げか繰下げのどちらかの制度を利用するようにしたい。

①繰上げ受給

繰上げ受給は、65歳になる前の段階から年金の受給をすることができる制度です。年金の受給開始時期を繰上げているため、本来の年金額に比べ、減額された金額での支給となります。

【メリット】

・本来の年金受給開始時期よりも早い時期から年金をもらうことができるようになる。

・受給年金総額で77歳(目安です)になるまでは、総年金額が65歳から年金を受給するよりも多くなる

【デメリット】

・65歳になるまでの期間について1月辺り0.5%減額(最大30%の減額)され、減額された年金額が一生涯支給される。

・障害に関する年金や寡婦年金等の一部年金が貰うことができなくなる。

・老齢厚生年金または老齢基礎年金のいずれかについて、繰上げ支給を行うと同時に行わなければならなくなる。つまり、どちらかだけ繰上げ支給を請求して、残りを通常の支給開始年齢から受け取るということはできないということです。

②繰下げ支給

【メリット】

・もらえる年金額が、支給開始時期を遅らせた期間に応じて「0.7%/月(最大42%)」増加する。

・老齢基礎年金と老齢厚生年金のいずれかの支給を遅らせることも可能(同時に繰下げ支給の請求を行わなくてもいい)です。

【デメリット】

・長生きしなければ、65歳から受給する場合に比べると年金総額が少なくなる恐れがあります。⇒70歳まで支給を繰下げた場合は80歳(目安です)まで生きなければ、年金の総額が逆転しません。

加給年金は増額されません。

・70歳以降に繰下げ支給をしても、増える年金額は70歳時点で申請した金額と同じ年金額となります。

3.障害厚生年金の仕組み

(1)受給要件

障害厚生年金の受給要件は以下の要件をすべて満たしている必要があります。

①初診日に被保険者であったこと

初診日とは、初めて医師の診察を受けた日を言います。当然ですが、その時点で被保険者出なければ受給権は発生しません。つまり、厚生年金保険の被保険者になる前に初診日があるものについては、被保険者になった後に障害認定日(障害状態であることが認められた日のこと)を迎えたとしても、受給権は発生しないということになります。

②障害認定日において、その傷病により障害等級が1級~3級に該当する程度の状態であること

障害認定日の時点で障害等級が1級~3級の状態に該当しなければ、障害厚生年金は受給することができません。なお、国民年金の障害基礎年金は障害等級1級または2級のみとされている点で異なります。

③初診日の前日において、保険料納付要件を満たしていること

保険料納付要件とは、「初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間がある場合、保険料納付済み期間と保険料免除期間の合計がその期間の3分の2以上あること」をいいます。

つまり、「20歳になった日から初診日の前日の属する月の前々月の期間の合計≦(保険料納付済み期間+保険料免除期間)×3分の2」であれば要件を満たしているということになります。

(具体例)昭和56年4月2日生まれの男性が以下の条件で障害認定を受けた場合

・初診日:平成28年6月5日

・障害認定日:平成29年12月5日(このときに、障害等級2級と認定された)

・加入実績:20歳から厚生年金保険の被保険者(第2号被保険者)である。

この場合の保険料納付要件は、初診日の前日の属するつきの前々月(平成28年4月)までの期間(180月:15年×12月)において、保険料納付済期間と保険料免除期間の合計の期間が全体の3分の2(180月×3分の2=120月)以上あるため、保険料納付要件を満たしていることになります。

(2)年金額と配偶者の加算額

障害等級1級の場合:(平均標準報酬月額×5.481/1,000×被保険者期間の月数)×1.25+配偶者加給年金額
障害等級2級の場合:平均標準報酬月額×5.481/1,000×被保険者期間の月数+配偶者加給年金額
障害等級3級の場合:平均標準報酬月額×5.481/1,000×被保険者期間の月数
配偶者加給年金額:老齢厚生年金の配偶者加給年金額と同じ

障害厚生年金の年金額は、老齢厚生年金の報酬比例部分の金額と同じ金額になりますが、障害等級2級以上になると配偶者加給年金額が加算され、障害等級1級になると障害厚生年金の額が1.25倍になります。

被保険者期間の月数については、300月(25年)に満たない場合は300月とみなして計算されます。(遺族厚生年金についても同じ)

(3)2種類以上の障害が発生した場合

障害厚生年金の受給権者(障害等級1級または2級に限る)が、さらに障害厚生年金(障害等級1級または2級に限る)を支給すべき事由が生じた場合は、前後の障害を併合(総合的に見て障害等級を判断すること)した年金額が支給されます。

2以上の障害厚生年金(いずれも2級以上であること)の受給権が発生した場合は、障害の状態を総合的に判断した上で新たな障害等級による障害厚生年金が支給されるため、従来の障害厚生年金は支給されなくなります。

(4)障害手当金とは?

障害手当金の額=障害等級3級の障害厚生年金の年金額×200/100

障害手当金は、障害等級3級よりも軽い程度の障害状態になったときに、一時金として支給されるものです。年金ではなく一時金として支給されるため、一度支払われたら終わりというものです。

受給要件としては、「初診日から起算して5年を経過する日までに傷病が治癒(治った状態になること)しており、その日において政令で定める程度の障害の状態であること」とされています。

4.遺族厚生年金の仕組み

(1)支給要件

遺族厚生年金の支給要件は、被保険者または被保険者であった者が死亡した当時、以下のいずれかの要件を満たしていることが必要とされています。

【具体的な支給要件】

①被保険者が死亡したとき

②被保険者であった者が、穂保険者の資格を喪失した後に、被保険者であった間に初診日がある傷病により、当該初診日から起算して5年を経過する日前に死亡した時

⇒つまり、被保険者である間に、傷病について初診日があり、かつ、その初診日から5年を経過するまでの間に死亡した人のことです。

障害等級1級・2級に該当する障害の状態にある障害厚生年金の受給権者が死亡したとき

老齢厚生年金の受給権者又は老齢厚生年金の受給資格の要件を満たしている人が死亡したとき

①と②の要件に該当する人については、保険料納付要件を満たしていることが必要となります。
①~③の要件に該当する場合を「短期要件」、④の要件に該当する場合を「長期要件」といい、年金額の計算が若干異なる部分があります。

(2)遺族の範囲

遺族厚生年金の受給権者である遺族の範囲は配偶者・子・父母・孫・祖父母となっており、兄弟姉妹については遺族の範囲には含まれていません。

遺族厚生年金の遺族の範囲は、(国民年金の)遺族基礎年金の遺族の範囲(子のある配偶者・子)に比べると広いことが特徴です。

兄弟姉妹は、遺族厚生年金の受給権者である遺族の対象にはなりません。

(3)遺族厚生年金の年金額

遺族厚生年金の年金額(原則):(平均標準報酬月額×5.481/1,000×被保険者期間の月数(300月の読み替えあり))×3/4
遺族厚生年金の年金額(長期要件の場合):(平均標準報酬月額×5.481/1,000×被保険者期間の月数(300月の読み替えなし))×3/4

遺族厚生年金の年金額の注意点は、死亡した被保険者等が短期要件に該当するのか、長期要件に該当するのかによって、被保険者期間の月数の計算が異なるところです。

長期要件に該当する被保険者等が死亡した場合は「5.481/1000」の生年月日による読み替えがある点と「被保険者期間の月数が実際に加入していた月数(300月の最低保障はない)」で計算される点が短期要件の場合とは異なります。

5.離婚等をした場合における特例

(1)合意分割

合意分割とは、離婚等をした場合において、離婚等をした時点まで厚生年金保険の被保険者期間に係る年金額について、夫婦間で合意をした割合で年金額を分割する制度を合意分割といいます。

合意分割は平成19年4月1日以降に離婚等をした場合において、請求を行うことができる制度ですが、分割の対象期間は婚姻をした時点にさかのぼって行われます
合意分割で分割できる割合は最大で50%までとなっていますが、分割の対象となる期間は婚姻等をした時期までさかのぼることができます

(2)3号分割

3号分割とは、国民年金の第3号被保険者である期間に係る厚生年金保険の年金額を強制的に分割する制度です。

3号分割制度は、合意分割とは異なり、平成20年4月1日以降の期間が対象となり、その期間以降の第3号被保険者期間についてのみ分割の対象となります。つまり、平成20年3月31日以前の期間については分割の対象とはならないということです。

3号分割は分割割合は50%と決まっていますが、対象となる期間については平成20年4月1日以降の期間と限定されている点で、合意分割とは大きく異なります。

6.まとめ

厚生年金保険は、公的年金制度の2階部分に該当するもので、制度の仕組みは国民年金の制度が似ている部分が多いです。国民年金とは異なり、会社が手続きをすることが多く独自の年金額の計算の仕方や制度も多いため、なかなか理解しにくいところがあると思います。

将来の年金額がいくらになるかが記載されている年金定期便の中にも、これらに関する情報が記載されているので、これらの内容をしっかり押さえることで、将来的にもらうことができる年金額がいくらになるかをしっかりと把握することが大切です。

岡崎 隆宏
SRFP隆宏
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社会保険労務士・CFP認定者・1級FP技能士

外資系生保会社で6年くらい営業として実績を積み、その中でFP資格を取得し、その時の経験を活かし、お金に関する執筆を始める。

日本FP協会愛知支部の役員幹事として6年、FPとして一般消費者向けのセミナーの講師や個別相談会の相談員などを担当。得意分野は「公的年金・個人年金」「社会保険制度」「出産・育児関係」等。

現在は、社労士・FPとして、労働や年金等のお金についての記事の執筆や資格試験の講師、セミナー講師等を行っている。

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