年金制度は難しくない!年金制度の仕組みを理解して、賢く老後に備えよう。

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老後を快適に過ごすために、どのような備えをすればよいのかということが、よく言われるようになってきました。実際に、老後に自己破産をするといった「老後破産」が社会問題にもなってきている現代において、どのように老後に向けた備えをするべきなのかが重要になってきました。

金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査 平成29年度調査結果」によると、老後の生活について心配していると考えている人が約8割になっています。このことから分かるように、老後にむけて何らかの不安を持っている人が非常に多いことが分かります。さらに、老後の主な収入源についてみてみると、約7割の人が「年金」と答えており、「就労による収入」や「貯蓄の取り崩し」などに比べると、まだまだ、年金による収入が頼りになっている部分が強いことがうかがえます。(出典:金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査 平成29年度調査結果」)

しかし、老後の収入の中心とも言える「年金」について、仕組みが複雑で、かつ、手続きが煩雑なものも多く、制度自体が昔からあるにもかかわらず、その制度をしっかりと活用できていない状態が現状とも言えます。

たしかに、年金制度は種類や制度間における規定が複雑に絡み合っているため、難しく感じるところがありますが、年金をもらうために必要な仕組みは、そこまで複雑ではなく、意外とシンプルな仕組みです。そのため、必要な知識を理解することで、いくら年金がもらえるのかといったことや、どうすれば年金額を増やすことが出来るのか?といった疑問点を解消することが出来ます。

今回は、複雑だと思われている年金制度について、年金制度の歴史がどのように進んできたかを知ってもらうとともに、公的年金の仕組みを分かりやすく説明していきます。

1.年金制度のあらまし

年金制度の始まりは、明治8年の海軍軍人に対して行われた「海軍退隠令」だといわれています。その後、昭和17年の「労働者年金保険法(現在の厚生年金保険法)」が始まりとされており、昭和36年に「国民年金法」が制定されて、「国民皆年金」(国民全員が何らかの年金に加入している状態)を実現させました。その後、昭和61年の改正により「基礎年金制度の導入」が行われ、これにより年金制度が一元化することになりました。

平成に入ってからは、平成15年の改正により「総報酬制(年金の計算の基礎となる標準報酬月額について、賞与の金額も反映させて計算する方法)」が導入され、その後、国民年金の保険料の各種免除制度が制定されました。平成20年になると、社会保険庁の解体が行われ、年金の事務手続きについては「日本年金機構」が新たに設立されました。

近年では、平成28年10月に「被用者年金一元化(厚生年金保険・国家公務員共済組合・地方公務員共済組合・私立学校教職員共済組合の各制度が「厚生年金保険」の制度に統一されたこと)」が行われ、現在に至ります。

2.国民年金

(1)国民年金の特徴

国民年金は国が管掌している公的年金制度で、日本に住所を有している20歳以上の人であれば、全員が強制的に加入することが義務付けられているものです。そのため、公的年金制度の「1階部分」の年金制度とも言われています。

また、加入者の状況によって、第1号被保険者(学生、フリーター、自営業者など)・第2号被保険者(サラリーマンなど)・第3号被保険者(サラリーマンなどの配偶者)に分かれ、第1号被保険者が毎月保険料を納めなければなりません。

保険料を納めることで、年金を受給する権利を取得することが出来ます。受給できる年金の種類は、老齢・障害・死亡による基礎年金が中心となります。

(2)国民年金の加入要件とは

国民年金は、基本的に「日本国内に住所がある20歳以上の人」は強制的に加入するものとなります。そのため、学生であっても、外国人であっても、20歳になったときに日本に住所がある人(外国人の場合は20歳以上の人で、日本に住所を有することになった時点)は、必ず国民年金に加入する手続きの通知が郵送されます。

20歳になると「国民年金被保険者関係届出」という書類が日本年金機構から郵送されますので、この書類に必要事項を記載したうえで、住んでいる市区町村役場にて手続きをしてください。書類を提出すると、年金手帳が自宅に郵送され、その後、国民年金保険料納付書(毎月の保険料は、基本的にこの納付書で納付します。)が郵送されます。なお、20歳になる前からサラリーマンとして厚生年金保険や共済組合に加入している人などについては、これらの手続きは不要となります。

国民年金は20歳になった時点で強制加入手続きが義務付けられています。(すでに、会社に勤めている人などについては手続き不要)

(3)保険料

国民年金の保険料は、第1号被保険者の人が納付する義務を負います。今年度の保険料は16,340円(平成30年4月~平成31年3月まで)となり、毎年、保険料の額については見直しが行われています。毎年、保険料が更新される4月以降に、新年度の保険料の案内とともに納付書が同封された封筒が郵送され、その納付書を使って保険料を納付する形をとっています。

国民年金の保険料には、免除申請という制度があります。保険料の免除制度は以下の通りに分かれます。

①法定免除

法定免除は、法令によって保険料が免除されるものです。法定免除については、申請をする必要はなく、要件に該当した時点で、法定免除とされます。主な要件としては、「障害基礎年金を受給している人」や「生活保護の生活扶助を受けている人」等です。

法定免除に該当した人については「国民年金保険料免除事由(該当・消滅)届」を住所がある市区町村に提出することで、保険料の納付義務が免除されます。また、法定免除の要件に該当しなくなった場合についても「国民年金保険料免除事由(該当・消滅)届」を市区町村に提出しなければなりません。

なお、年金額については保険料を全額納付した期間と同じ扱いとされますので、追納(後から免除された期間の保険料について納付することで、年金額に反映させることが出来る制度。以下同じ。)をする必要はありません。

法定免除は、所定の手続きを行うことで、保険料を納付したものとみなされます。後から保険料を納めなおす必要はない

 

②申請免除

これは、一定の要件を満たす人が申請をすることで、保険料の納付を免除される期間です。申請免除には「保険料全額免除期間」「保険料4分の3免除期間」「保険料半額免除期間」「保険料4分の1免除期間」があり、いずれの免除についても、審査を経たうえで承認されるかが判断されます。

保険料免除制度は、経済的な理由により保険料の納付が困難になった人のために、申請することで、保険料の免除を受けることができるようになります。要件に該当することで、保険料免除申請をすることで保険料免除を受けることができますが、必ずしも保険料免除されるわけではなく、審査(申請を受理するかどうかを市区町村が判断する)が行われるので注意が必要です。

なお、年金額については、実際に納付した金額に応じて反映されるので、免除部分については、追納することで満額支給されるようになります。

申請免除は審査があるため、申請したからと言って必ず保険料が免除されるわけではありません
(ア)保険料全額免除

保険料全額免除とは、法定免除と同じく、全額保険料が免除されます。要件は前年の所得が「(扶養親族等の数-1)×35万円+22万円」以下であることとされていますが、世帯主、配偶者、本人とそれぞれの所得について、この要件に該当するかどうかについての審査が行われます。(以下、保険料4分の3免除・保険料半額免除・保険料4分の1免除についても同様になります。)

(具体例):配偶者と子供2人の4人家族の場合は、前年の所得が「(3-1)×35万円+22万円=92万円」以下であれば、保険料の全額免除を受けることがでる可能性が高くなります。

(イ)保険料4分の3免除

保険料4分の3免除は、保険料の4分の3相当額については免除されるものとなります。要件は、前年の所得が「(扶養親族等の数×38万円*78万円」以下であることとされています。前年度の所得については、世帯主・配偶者・本人について審査がおこなわれます。

(具体例):配偶者と2人の子供の4人家族の場合は、前年の所得が「3×38万円+78万円=192万円」以下であれば、保険料4分の3免除を受けることが出来る可能性が高くなります。

(ウ)保険料半額免除

保険労半額免除は、保険料がの半額について免除されます。要件は、前年の所得が「扶養親族等の数×38万円+118万円」以下であることとされています。前年の所得については世帯主・配偶者・本人について審査が行われます。

(具体例):配偶者と2人の子供の4人家族の場合は、前年の所得が「3×38万円+118万円=232万円」以下であれば、保険料半額免除を受けることが出来る可能性が高くなります。

(エ)保険料4分の1免除

保険料4分の1免除は、保険料の4分の1相当部分が免除されます。要件は、前年の所得が「扶養親族等の数×38万円+158万円」以下であることとされています。前年の所得については世帯主・配偶者・本人について審査が行われます。

(具体例):配偶者と2人の子供の4人家族の場合は、前年の所得が「3×38万円+158万円=272万円」以下であれば、保険料半額免除を受けることが出来る可能性が高くなります。

③特例免除

特例免除とは、法定免除や申請免除とは異なり、特定の期間だけ実施されるものや、特定の人が対象となる保険料免除制度を言います。具体的には、「学生納付特例免除」と「30歳未満の保険料納付特例」の2種類がありますが、いずれも「合算対象期間(カラ期間)」となるため、保険料納付期間としてカウントしてくれますが年金額には反映されないため、追納を行わなければ、年金額は増えないので注意してください。

いずれの制度の期間においても、保険料を納めていないわけですから、受給要件の判定では納付済み期間とされるが、年金額には反映されません。
(ア)学生納付特例免除

学生納付特例免除は、学生が保険料の納付を免除することを免除してもらうため行う申請制度です。要件としては、前年の所得が、保険料半額免除と同じ所得要件ですが、本人の所得のみで判断される点で申請免除とは異なります。

(イ)30歳未満の保険料免除特例

平成17年4月から平成37年6月までの期間において、30歳に達する日の属する月の前月までの第1号被保険者期間について、申請があった場合に保険料が免除されます。要件としては、前年の所得が保険料全額免除期間の所得基準と同じですが、本人と配偶者の所得要件で判断される点が異なります。

(4)年金の種類と年金額

①年金の種類

国民年金には、老齢によって支給される「老齢基礎年金」・障害になったときに支給される「障害基礎年金」・死亡したときに支給される「遺族基礎年金」が主な年金となりますが、これらに付随して支給される年金もあります。

②年金額

老齢基礎年金は満額で779,300円(年額)と昨年と同様の金額となります。なお、障害基礎年金や遺族基礎年金の金額についても、779,300円となります。平成30年度の年金額は、今年から年金を受給する予定の人(単身世帯の人)の年金額の目安は、月額で64,941円(満額支給の場合)となります。(参考資料:厚生労働省 プレスリリース 平成30年1月26日版)

(5)年金額を上乗せするためのテクニック

年金額を上乗せするためのテクニックとしては「付加年金の加入」があります。付加年金は国民年金の保険料に毎月400円を上乗せて納付することで、「納付月数×200円」を老齢基礎年金の年金額に上乗せすることが出来ます。ただし、障害基礎年金や遺族基礎年金には付加年金が上乗せされません

主な年金額の加算方法としては、この「付加年金」があげられます。

3.厚生年金保険

(1)厚生年金保険の特徴

厚生年金保険は、公的年金制度における「2階部分」の年金制度となります。主な加入者としては、サラリーマンや公務員、私学教職員などが加入しています。

厚生年金保険の加入者は、国民年金の第2号被保険者となり、国民年金の保険料は納付する必要はありません。保険料や年金額については、標準報酬月額という、給与や賞与などの総額を基準として計算する仕組みを取っており、保険料は事業者との折半負担となっているのが特徴です。

厚生年金保険は、国民年金とは異なり、1か月でも加入実績があるならば、老齢の年金が支給される点で大きく異なります。

(2)保険料はいくら?

厚生年金保険の保険料は「標準報酬月額」と「標準賞与」を基準に計算されます。「標準報酬月額」とは、給料や賞与などの収入のことです。「標準賞与」とは、直近1年間に支給された賞与の総額のことを言います。この標準報酬月額の金額に保険料率を乗じることで、保険料を算定されます。保険料率は、平成29年9月以降は「18.3%」で固定されています。

保険料は、事業主と被保険者とが折半負担する形を採用しているので、実際のところは、標準報酬月額×9.15%が毎月の保険料となります。

(3)年金の種類と年金額

①年金の種類

厚生年金保険は、国民年金保険と同じように、老齢により支給される「老齢厚生年金」、障害になったときに支給される「障害厚生年金」・「障害手当金」、死亡したときに支給される「遺族厚生年金」があります。

「老齢厚生年金」は60歳~65歳までに支給されるものと65歳以降に支給されるもので、内容が大きく異なります。「障害手当金」は厚生年金保険でのみ支給される保険給付(一時金として支給されます)となります。

②年金額

年金額は、標準報酬月額に厚生年金保険の加入期間を乗じて算定した金額となるため、標準報酬月額が高く、厚生年金保険に加入していた期間が長いほど、もらえる年金額は多くなります。なお、今年から年金を受給する予定の夫婦2人世帯の厚生年金保険の年金額の目安は月額で221,277円となります。(参考資料:厚生労働省 プレスリリース 平成30年1月26日版)

4.将来への備えを考える上で注意すべき点

(1)年金制度は絶えず変化している

年金制度は、常に制度の改正が行われており、その中には昔の制度が現在まで続いているものもあります。また、厚生年金保険については、地方公務員共済制度や国家公務員共済制度などの他の制度との一元化が行われたこともあり、その制度との調整に関する制度などが多くあります。

また、近年では年金の支給開始年齢の引き上げや受給権取得までの年数の短縮(国民年金)といった制度の法改正が毎年のように実施されているため、年金制度の変化には注意が必要といえます。他の関連した法令が改正されたことに影響して、制度が変化することも充分考えられますので、注意が必要です。

昔の制度の中には、現役の人たちにも直接影響を及ぼす制度も残っており、制度を現代社会に適応させるために、どんどん期限付きで新しい制度を制定したりしていることが複雑化させている最大の原因です。

(2)年金額は概算である点に注意が必要

年金額は改定率や端数処理によっては、金額が大きく異なることがあります。そのため、実際に計算した金額と支給された金額とである程度の誤差が生じる恐れは当然出てきます。オンラインでもできる年金試算額の計算結果についても、概算の数値であり、必ずその金額になるわけではありません。

あくまでも、概算値ですので、将来的な経済状況の変化や制度改正などによって大きく変化する可能性はあります。

5.まとめ

公的年金制度は時代の流れとともに変化し続けている制度だといえます。しかし、基本となる部分については何ら変わっているところはありません。ここで書いた内容は、基本的なことばかりではありますが、知らないと年金をもらうときになって大きな損失を被る恐れのあることばかりです。

国民年金は20歳以上の人であれば全員強制加入であるのに対して、厚生年金保険はサラリーマンや公務員などといった一定の人が加入する制度という点で、仕組みが大きく異なります。最初にも言ったように「国民年金が1階部分、厚生年金保険は2階部分」とそれぞれの公的年金制度における役割がありますので、公的年金でどこまで老後の生活資金をカバーできるかについてもしっかりと考えたうえで、今後の老後への備えをしていくことが必要といえます。

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