子どもに医療保険は必須では無い4つの理由&検討すべき3つのケース

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筆者はファイナンシャルプランナーとして、様々な「お金の悩み」に日々目を通します。その中で、比較的多くの人から寄せられるのが「子どもは医療保険に入ったほうがいいのか」という悩みです。結論から言うと「必須ではないが、検討したほうがいいケースもある」が答えになります。今回の記事では、その理由を詳しく掘り下げましょう。

子どもに医療保険は必須ではない4つの理由

最初に、子どもに医療保険は必須ではない理由として

  • 子どもの入院率・平均入院日数が少ない
  • 教育機関でのケガに備える共済制度に加入している場合が多い
  • 医療費助成制度がある自治体がほとんどである
  • 重い病気でも使える助成制度もある

の4つを解説しましょう。

 子どもの入院率・平均入院日数が少ない

小さい子どもの場合、まだ免疫力が不十分であるため、しょっちゅう熱を出すこともあります。これだけ見ると「やっぱり子どもは病気になりやすい」と考えてしまうかもしれません。しかし、数日間安静にしていれば治るケースがほとんどであり、入院まで至ることはごくわずかでしょう。

厚生労働省が行った「平成29年度 患者調査」によれば、年齢階級別に見た入院患者の分布は以下のようになっていました。

年齢層(歳) 人数(千人) 割合
0 11.2 0.9%
1~4 6.7 0.5%
5~9 4.5 0.3%
10~14 5.1 0.4%
15~19 6.8 0.5%
20~24 9.8 0.7%
25~29 14.8 1.1%
30~34 20.7 1.6%
35~39 23.3 1.8%
40~44 29.4 2.2%
45~49 37.7 2.9%
50~54 45 3.4%
55~59 57.5 4.4%
60~64 77.8 5.9%
65~69 129.5 9.9%
70~74 132.7 10.1%
75~79 165 12.6%
80~84 192.3 14.6%
85~89 180.9 13.8%
90~ 160.6 12.2%
不詳 1.4 0.1%
合計 1312.7 100.0%

出典:平成29年(2017)患者調査の概況|厚生労働省

子どもを「未成年=0歳から19歳」までとして考えると、合計で2.6%になります。

つまり入院患者全体から見れば、子どもは3%もいない計算になるのです。

また、入院日数の平均は以下のようになりました。

年齢層(歳) 平均在院日数
0~14 7.4
15~34 11.1
35~64 21.9
65~75 37.6
75~ 43.6

 

出典:平成29年(2017)患者調査の概況|厚生労働省

0歳から14歳までであれば、平均入院日数は7.4日=約1週間にとどまります。

どんな病気やケガなのか、どんな治療計画を立てているのかによっても実際の入院日数は全く違ってきますが、少なくとも、全員が全員、長期入院を余儀なくされるわけではないようです。

 教育機関でのケガに備える共済制度に加入している場合が多い

授業中や休憩時間中、部活動中にケガをして治療を受けたら、保護者に対して給付金が支払われる共済制度を導入している教育機関は非常に多いです。

出典:保護者の方へ

このような背景があるため、仮に学校の授業、休憩、部活が原因でケガをしても、医療費の自己負担分はかなり低く抑えられます。

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幼稚園、小学校、中学校などの入学式や始業式でパンフレットをもらってくることもあるので、お子さんにも聞いてみましょう。どうしてもわかりそうにないなら、学校に電話してもいいかもしれませんね。

医療費助成制度がある自治体がほとんどである

0歳から中学校を卒業するまでの子どもに対しては、医療費を助成する制度を導入している自治体がほとんどです。例えば、埼玉県さいたま市の場合は、0歳から中学校卒業前までの子どもに対し、健康保険各法の規定による一部負担金(保険診療分)の全額を助成しています。簡単に言うと、窓口での自己負担分がゼロになるということです。

ただし、文書料、薬の容器代、予防接種代、健康診断料、差額ベッド料、保険診療外の歯科治療費、入院時の食事療養標準負担額、保険外併用療養費の初診料など、公的医療保険の対象外となる費用については、助成がありません。

また、一部の地方自治体では、高校生に対しても医療費助成を行っていることがあります。例えば、千葉県印西市の場合、以下の内容で助成制度が設けられているのです。

出典:高校生等医療費助成制度 | 印西市ホームページ

重い病気でも使える助成制度もある

子どもの場合、病気になっても短期間での入院や通院で済むケースがほとんどですが、中にはそうでない場合もありえます。特に、白血病や悪性リンパ腫などの小児がんや、ネフローゼなどの腎臓疾患、拡張型心筋症などの心臓病など、重い病気の場合は入院が長期化するのはもちろん、大人になるまでの経過観察が必要になります。当然、かかる医療費も膨大になるはずです。

小児慢性特定疾病医療費助成制度

このように、治療期間が長期にわたり、しかも入院を余儀なくされる病気の子どもを支援するための助成制度として「小児慢性特定疾病医療費助成制度」があります。

簡単にいうと、医療機関での自己負担限度額(月額)が生計中心者(大黒柱)の所得に応じて定められ、それを超えた分については免除される(支払わなくていい)という制度です。

都道府県知事または指定都市・中核市の市長が指定した「指定医療機関」で治療を受ける必要がありますが、この制度を使うことで、入院中の食事代についても助成が受けられるので、経済的な負担を大きく減らせるのがメリットでしょう。

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負担額は以下のようになっています。

 

出典:医療費の助成制度:[国立がん研究センター 小児がん情報サービス]

特別児童扶養手当

小児がんなどの重い病気が原因で障害が残った場合、特別児童扶養手当の受給対象になることもあります。

これは、20歳未満で精神又は身体に障害を有する児童を家庭で監護、養育している父母等に支給される手当のことで、障害の程度に応じて決まった金額が毎年4月、8月、12月に支給される仕組みです。

なお、支給月額ですが、2020年4月からは52,500円(1級)もしくは34,970円(2級)が支給されます。

身体障害児の自立支援医療(育成医療)

身体に障害を有する子どもに対して、健全な育成を支援する目的で、その障害を除去・軽減するための医療を受ける際の医療費(自己負担額)を軽減するための制度です。

18歳未満で、手術などの治療により確実に効果が期待できる場合に利用できます。

なお、この制度を利用した場合、自己負担額の軽減が受けられますが、目安として「治療費の1割が自己負担額になる」と覚えておけばいいでしょう。

また、対象となる障害や病気は次のとおりです。

  • 肢体不自由
  • 視覚障害
  • 聴覚・平衡機能障害
  • 音声・言語・そしゃく機能障害
  • 心臓機能障害
  • 腎臓(じんぞう)機能障害
  • 小腸機能障害
  • 肝臓機能障害
  • その他の先天性内臓障害
  • 免疫機能障害

子どもでも医療保険を検討すべき3つのケース

日本の場合、国民皆保険といって、国民全員が何らかの公的医療保険に入る決まりになっています。また、生活保護を受けていたとしても、医療扶助が受けられるため、医療機関での自己負担分はありません。

つまり、子どもも含めて治療が受けられないというのは考えにくい上に、子どもに対してはさらに手厚い助成が受けられます。

このため、基本的に医療保険は必須ではありませんが、それでも検討すべきケースとして

  • 近くに大きな医療機関がない
  • シングルマザー、ファーザーである
  • まだまとまった貯金が用意できていない

の3つを挙げましょう。

近くに大きな医療機関がない

小児がんなど、重い病気の場合、発見されたときの状況や治療計画によっても異なりますが、ある程度施設の整った大きな医療機関(小児がんの場合は、小児がん拠点病院や小児がん連携病院など)での治療をすすめられることがあります。

自宅からそう遠くない場所にあるならさほど問題はありませんが、自宅から遠い場合は

  • 病院から自宅までの往復の交通費
  • 病院の近隣に宿泊する場合の宿泊費

など、看病をする家族の移動、宿泊にかかる費用も考えなくてはいけません。

日本の場合、基準看護制度が導入されているため

  • 直接看護は看護師、准看護師が行う
  • 患者が自費で付添看護師または付添婦を雇う必要がない

の2点が原則です。このため、ほとんどの医療機関では「付き添いは不要」という説明がなされますが、これはあくまで「患者が大人である場合」です。

子どもの場合は、医師から保護者の付き添いを求められるのも珍しくないので、大きな医療機関が自宅の近くにない場合は、付き添う大人のための諸経費もかさむと考えましょう。

シングルマザー・ファーザーである

最近では、離婚・死別・未入籍などの理由により、一人で子育てをするいわゆるシングルマザー・ファーザーも珍しくありません。しかし、子どもが病気になった場合、シングルマザー・ファーザーの人こそ「まとまったお金があるか、確保できる見込みがあるか」で、生活にかかる負担が全く違ってくるのも事実です。

考えられる理由としては

  • 自分が付き添わなくてはいけない場合が多いため、家事に労力を割けない
  • 自分自身が付き添えない場合もある
  • 職場の理解が得られず、失業するリスクもある

の3点があります。

自分が付き添わなくてはいけない場合が多いため、家事に労力を割けない

既に触れた通り、大人が入院する場合は、医師から付き添いを指示されるケースはごくまれでしょう。しかし、子どもが入院する場合は

  • 24時間の保護者付き添いが必須
  • 保護者は、夜は帰宅しなければならない
  • 日中は付き添う義務はないが、可能な限り、保護者が泊まって付き添い

など、付き添いを前提とした対応を指示されるのは珍しくありません。2020年の初めから新型コロナウイルス感染症が広がったことに伴い、付き添いを禁止する医療機関も出てきていますが、実際はそれぞれの状況によって判断されるため、結局付き添わないといけない場合も少なくないでしょう。

そして、付き添うことで生じる問題の1つが「家のことができない」ということです。入院中の子どもに付き添うのは、かなり体力を使うため、家に戻ってきたら何もできないのは珍しくありません。当然

  • 食事は外食や出前が多くなる
  • 掃除や洗濯ができない

など、生活のいろいろなところに支障が生じます。

それでも、家族や友人・知人の力を借りて乗り切れるならまだいいですが、頼れる人がいない場合は、家事代行サービスを頼むなど、ある程度の「外注化」は必須になるでしょう。そうなると「その費用をどこから出すのか」がやはり問題になります。

自分自身が付き添えない場合もある

病院の方針や子どもの状況にもよりますが、防犯上の理由で「大部屋での夜間の付き添いができるのは、女性のみ」としている病院は少なくありません。そうなった場合、困るのはシングルファーザーです。大部屋に入院している子どもに付き添うことはできないため

  • 自分の兄弟姉妹を頼る
  • 個室に移してもらい、自分が付き添う
  • ヘルパーを雇い、ついていてもらう

などのイレギュラーな対応が必要になります。自分の兄弟姉妹を頼ることができれば問題はありませんが、そうでなければ、ある程度の費用はかかる残りの2つの方法を試すしかないでしょう。

職場の理解が得られず、失業するリスクもある

子どもが入院した場合、付き添いを求められる可能性が高い以上、仕事を中抜けしたり、急遽休んだりして対応しなくてはいけないことは、十分に考えられます。これは仕方がないことではありますが、人手不足に悩んでいる職場にとっては、かなりのダメージになるのも事実です。

もちろん、職場の担当者が気を利かせて配置転換を申し出てくれたり、在宅勤務を認めてくれたり、一時的にパートタイムでの勤務にしてくれたりなど、柔軟な働き方をさせてくれることもあります。

しかし、中には「急に休むからもう来なくていい」と解雇されてしまう可能性もゼロではありません。

万が一、解雇されてしまった場合でも、当面の生活費に困ることがないように、医療保険を使うのも1つの手段でしょう。

2023年からは法律が大幅改正

なお、2023年1月1日からは、育児・介護休業法が大幅に改正されます。従来は

  • 子の看護休暇・介護休暇は半日単位での取得が可能
  • 1日の所定労働時間が4時間以下の労働者は取得不可(つまり、短時間のアルバイト・パートの場合は取れない可能性が高い)

という扱いでしたが、これが

  • 時間単位での取得も可能になる
  • すべての労働者が取得できる(つまり、短時間のアルバイト・パートの場合でも取れる)

という扱いに変わるのです。

法律が変わる以上、事業主(会社)側にも、それにのっとった扱いが求められます。まずは話し合うことが前提ですが、あまりにも不当な扱いをされた場合は、労働局雇用環境・均等部や都道府県の労働相談センターに相談しましょう。

まだまとまった貯金が用意できていない

子どもの医療保険は、医療費を確保する手段というよりは「子どもの闘病中の家族の生活費、諸経費の足しにするもの」という位置づけで考えたほうがいいものです。極論すれば、今ある貯金で生活費や諸経費を何とか用立てられそうなら、わざわざ子どもの医療保険で補う必要もありません。

しかし、まとまった貯金が用意できていないなら、子ども名義で医療保険に加入し、いざというときの生活費、諸経費の足しにできるようにしたほうがいいでしょう。

共済組合も利用する価値あり

大人の場合と同じように、民間の保険会社が販売する医療保険よりも、共済組合が販売する医療共済のほうが、毎月の掛金が安いため、家計への負担を減らすことができます。

例えば、埼玉県民共済の「子ども共済」の場合、毎月1,000円もしくは2,000円の掛金で、以下の保障が受けられます。

出典:こども共済 | 共済商品を検討の方へ | 埼玉県民共済生活協同組合 公式ホームページ

子どもが病気になったときのお金の相談はソーシャルワーカーにしよう

医療保険とは直接の関係はありませんが「子どもが病気になったときのこと」を考え、知っておいたほうがいいことを最後に伝えておきます。

小児がんなどの重い病気を治療できる規模の医療機関であれば、ソーシャルワーカーが在籍しているはずです。

ソーシャルワーカーとは医療機関などにおける福祉の専門職で、病気になった患者や家族を社会福祉の立場からサポートする仕事を指します。

専門の資格があるわけではありませんが、実際は社会福祉士や精神保健福祉士などの国家資格を持っている人がほとんどです。

ソーシャルワーカーは、患者やその家族の生活全般にわたる相談に応じ、状況に応じて院内外の適切な職種や関係機関とも連携する役割を担っています。例えば

  • 突然の病気に伴う心配事の相談
  • 健康保険制度や公費医療費助成制度、福祉制度の案内
  • 育児支援サービスや在宅医療サービス、福祉サービスの活用
  • 退院後の療養生活や今後の病院受診に関する相談
  • 就園・就学や復園・復学、就労等の相談
  • 療養に伴う家族(兄弟姉妹等)の生活の相談

などの悩みがあれば、遠慮せずに相談してみましょう。もちろん、今回の記事で紹介した「入院中のお金の悩み」にも対応してくれます。

入院する場合は、手続きをする際に案内があるはずですし、わからなければ一度、看護師や医師に聞き、相談する流れを確認することをおすすめします。

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