目次
法人保険とは
最初に、そもそも法人保険とは何かについて解説しましょう。
法人が契約する保険のこと
厳密に言うと、法人保険という商品は存在しません。しかし、契約者=保険料を支払うのが法人=会社になっている保険のことを総称して法人保険と一般的に呼んでいます。
法人保険の活用法
法人が保険を契約する背景には、様々な目的に活用できることが挙げられます。そこで、法人保険の活用法をいくつか説明しましょう。
1.節税
法人が保険料を払うと、その金額は「資産」か「損金」のいずれかに計上されます。損金に計上される=費用として処理できるなら、利益から差し引かれる部分が大きくなり、結果として支払うべき税金が安くなる、という効果が見込めるのです。
かつては、節税を目的として法人保険を契約するのは一般的な手法として用いられていました。しかし、2019年6月に法人保険の税務上の扱いに関するルールの変更があったため、以前ほどの節税効果は見込めなくなっています。
2.経営者の死亡時、退任時に備える
中小企業にとって、最も恐れるべきリスクの1つが「経営者がいきなり万が一のことになってしまう」ことでしょう。心筋梗塞や脳卒中などの急病や交通事故、果ては犯罪に巻き込まれた末に突然亡くなってしまうことも考えられます。中小企業は経営者の経営能力や人脈に頼っているところも大きいため、万が一のことがあった時点で、経営が立ち行かなくなる可能性は高いです。せめて、保険金としてまとまったお金を受け取れれば、事業を存続させることができるかもしれません。
また、父親である経営者が死亡し、その子どもが後を継ぐことになった場合、企業そのものが相続財産になります。つまり、子どもが相続税を払わなくてはいけません。相続税は原則として現金で納めなくてはいけない上に「手元のお金がないから払えない」ということも許されないのです。そうなると後を継ぐ=事業承継もうまくいきません。このような背景を考えると、やはり、保険を活用して、まとまったお金を受け取れるようにしておいたほうがいいでしょう。
もちろん、事業承継を先代の経営者(ここでは父親)が生きているうちに済ませるパターンもあります。その場合、退任する経営者に対しては退職金を支払わなくてはいけません。ある程度はまとまった金額を払わなくてはいけないので、その原資として、保険を活用し、まとまった資金を確保するという使い方も可能です。
3.従業員への保障
万が一のときや退職する際の備えが必要なのは、従業員も同じです。仮に、従業員に万が一のことがあったら、遺された家族の生活を保障するために、ある程度のまとまった金額を渡せるようにしておくと、従業員は「この会社は自分のことを大切にしてくれている」と好感を持ち、自分の仕事にまい進してくれるはずです。
また、長年勤務してくれた従業員が定年退職することになった場合は、大企業のようにはいかなくても、退職金や慰労金としてまとまったお金を出してあげるのも、お礼の気持ちを表現する上で大事です。
法人保険の種類
既に触れた通り、法人が契約する保険のことを法人保険といっているだけで、具体的な何かがあるわけではありません。基本的には個人が契約する保険を、法人が契約するだけです。そこで、ここでは法人が契約する保険としてよく用いられているものを紹介しましょう。
定期保険 | 保険期間内に被保険者が死亡した場合に保険金が給付される。法人が契約する場合は、保険期間を長く設定し、解約返戻率を高めた「長期平準定期保険」や「逓増定期保険」が広く用いられる |
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養老保険 | 満期を迎える前に被保険者が死亡した場合は死亡保険金が、無事に満期を迎えた場合は満期保険金が給付される |
傷病保険 | 被保険者が病気・ケガをした場合の経済負担に備える。がん保険など、特定の病気にかかった場合を想定したものもある |
火災保険 | 火災などの偶発的な事故により、事業財産が損失を被った場合に備える |
賠償責任保険 | 業務上の事故やトラブルで顧客などの第三者に損害を負わせた場合に備える |
法人保険のメリット
次に、法人保険のメリットとして
- 創業間もない時からもリスクに備えられる
- 保険料を経費に計上できる
の2つを解説します。
1.創業間もない時からもリスクに備えられる
保険の強みは「何かあった時にまとまったお金が受け取れる」ということです。もちろん、これは会社が創業間もない時期であったとしても変わらないため、経営者の死亡や火事など、様々なトラブルに備えることができます。
わかりやすくするために、具体的な例を考えてみましょう。パン屋を開業しようと準備していたものの、隣の店が火事になったことで、オープン前にも関わらず店が全焼してしまったとします。
この場合、火災保険に加入していなければ、自力で何とかするしかありません。クラウドファンディングや金融機関の融資に頼るという方法もありますが、必ずしもうまくいくとは限らないので、最終的には断念せざるを得ないことも考えられます。しかし、火災保険に加入していれば、再開にこぎつけるための資金を確保することができます。
2.保険料を経費に計上できる
法人税を安くしたいという理由で、使ってもいない費用を経費として架空計上するのは、絶対にやってはいけません。あまりに悪質と判断された場合は、脱税事件として刑事告発されることも考えられます。しかし、法人が被保険者になる保険を契約し、保険料を払い続ければ、一定の条件下で費用として計上していくことが可能です。
法人保険のデメリット
次に、法人保険のデメリットとして
- 保険料は決して安くないので資金繰りに影響しがち
- 返戻金を当てにしすぎると痛い目を見る
- 以前ほどの節税効果はない
の3つを考えてみましょう。
1.保険料は決して安くないので資金繰りに影響しがち
保険は決して安くない保険料を長年にわたって払い続けるため、非常に高い買い物ということができます。保険料があまりに高すぎると
- 払い続けることができず、満期を迎える前に解約してしまう
- 保険料を払ったことが原因で資金繰りが悪化し、不渡りを出す可能性もある
など、会社の経営自体に大きな影響を及ぼすのも事実です。これは個人であっても同じですが、保険を検討する際は
- 何のために使うのか考える
- いくつか見積もりを取って比較する
- わからない点は保険会社の担当者に聞き、確実に解決しておく
- 顧問税理士やコンサルタントがいれば、一緒に確認してもらう
などを心がけましょう。
2.返戻金を当てにしすぎると痛い目を見る
養老保険などの解約返戻金が受け取れる保険の解約のタイミングを想定し、その時点で受け取れる解約返戻金を当てにして資金計画を立てるのは、決して珍しいことではありません。しかし、この方法を用いるなら、資金計画は現金の時以上に綿密に立てなくてはいけない点に注意が必要です。
そもそも解約返戻金の額は「いつ解約したか」によって全く違ってきます。特に、昨今は超低金利時代といわれているため、解約返戻金がこれまで支払ってきた保険料の合計額を割り込むことはいくらでもあり得るでしょう。そのため、事業を進めるために必要な金額を確保できなかったら、どうしようもありません。
万が一、保険会社がつぶれたらどうなるの?
法人保険をはじめとした保険会社がつぶれた=経営破綻した場合、契約していた保険はどうなるのかについても知っておきましょう。結論から言うと、一定の制約はありますが、基本的にそのまま続けられます。
例えば、生命保険会社の場合は、国内で事業を営むすべての会社が生命保険契約者保護機構に加入しなくてはいけません。そして、保険会社がつぶれる=経営破綻した場合は、救済保険会社(事業を引き継いでくれる保険会社)が現れた場合は、その会社が合併・株式取得などの方法で経営破綻した会社の保険契約を引き継ぐ仕組みです。また、現れなかった場合でも、生命保険契約者保護機構が承継保険会社を設立するなどの施策を行い、保険契約を引き継いでいきます。
しかし、まったく影響がないわけでもありません。被保険者、契約者に関係がある部分では
- 予定利率の引き下げなど、契約条件変更が行われる
- 最終的に受け取れる解約返戻金が減る
- 経営破綻後、一定期間内に解約する場合は、解約返戻金がさらに削られる(早期解約控除)こともある
などの影響があることに注意してください。
3.以前ほどの節税効果はない
かつて「保険を契約すると、節税になる」といわれていた背景について、少し触れておきましょう。法人保険の場合、保険料の損金算入のルールは、商品ごとに決まっていました。例えば、定期保険の場合は、毎月支払う保険料をすべて損金に算入できたのです。しかし、この仕組を逆手に取り
- 簡単な告知のみで加入できる
- 死亡保障がないかわりに解約返戻率が高い
という、実態は節税商品に近い定期保険を売り出す保険会社が現れたのです。国税庁はこの点を問題視し、定期保険については、税務上の扱いを大幅に変更しました。従来のように、商品で税務上の扱いを変更するのではなく、最高解約返戻金の割合で保険料のうち、損金に算入できる割合を決定する仕組みになったのです。
変更前 | 変更後 |
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定期保険の種類によって保険料の損金算入の有無、範囲が決定する 【長期平準定期保険】1/2損金算入(1/2資産計上) 【逓増定期保険】1/2損金算入(1/2資産計上) 【生活傷害保障型定期保険】全額損金 |
最高解約返戻金に基づいて計算した解約返戻率に基づき、損金として参入できる割合が決まる。 【50%以下】全額損金 【50%超~70%以下】6割損金(保険期間の1/4) 【70%超~85%以下】4割損金(保険期間の1/4) 【85%超】10年間→100-(最高解約返戻金×0.9)=損金 11年目以降→100-(最高解約返戻金×0.7)=損金 |
また、終身保険や養老保険(複利厚生プランは除く)は、全額資産計上する決まりです。なお、新しい規則が適用されるのは、2019年7月8日以降に契約した場合のみですが、このような背景を考えると、今後は決して「節税のために保険がおすすめ」とは言い切れないのが事実でしょう。
法人保険を選ぶポイント
次に、法人保険を選ぶポイントとして
- 何に使いたいのかまず考える
- いくつかの保険商品を比較する
- 加入後、臨機応変な対応ができるかをチェックする
- 優秀な担当者がいるかどうかも確認する
- 税務上の処理の観点から税理士と相談する
の5つを解説しましょう。
ポイント1.何に使いたいのかまず考える
法人保険に限ったことではないですが、保険に入る際にやってはいけないのは「ただ何となく不安だから入る」ということです。保険料だって決して安くはないし、「何がどうなったら保険金が下りるのか」を理解しないと、いざ、トラブルがあったとしても保険金の請求すらできません。まずは何のために保険を使いたいのか、というところから考えましょう。もちろん、保険以外にも利用できる手段があるなら、それを併用するのも1つの手段です。
ポイント2.いくつかの保険商品を比較する
ほとんどの人は、高い買い物をするときは、いくつか見比べてから、自分や家族の希望に最も沿うものを選ぶはずです。保険だって高い買い物である以上、いくつかの商品を見比べてみましょう。法人保険は、通常の保険と違い、オーダーメイドでその会社に必要な補償を組み合わせて商品を提供することも多いです。できれば、いくつかパターンを試し、それぞれのメリット、デメリットを比較検討してみてください。
ポイント3.加入後、臨機応変な対応ができるかをチェックする
「一寸先は闇」という言葉があります。先のことはどうなるかわからないという意味ですが、会社経営もまさにそうでしょう。保険を契約した当初は、毎月保険料を払えると思っていたものの、取引先が倒産したり、東日本大震災クラスの災害が発生したり、新型コロナウイルス感染症のような感染症が流行したりなど、思いがけない理由で会社の資金繰りが悪化することだって、当然あり得ます。
- 払済保険への変更
- 保険金額の減額
- 自動振替貸付制度
などの制度を利用して、保険契約自体を続ける方法を探るとともに、まとまったお金が一気に出ていかないように、保険料を年払いではなく、月払いにするなどの工夫もしましょう。
ポイント4.優秀な担当者がいるかどうかも確認する
初めて法人として保険を契約する場合は、何をどうしたらいいのかもまったくわからないはずです。そんなとき、頼りになるのはやはり保険会社の担当者でしょう。保険や法律、税金の知識を有していることはもちろんですが
- 難しい言葉を使わず、丁寧に解説してくれる
- 連絡をこまめにしてくれる
- 「自分たちが売りたい」保険ではなく「相手の状況にあった」保険を提案してくれる
担当者かどうかは、非常に大事です。スムーズにコミュニケーションがとれ、しかも要望を形にしてくれる担当者がいるかどうかも、しっかり見極めましょう。
ポイント5.税務上の処理の観点から税理士と相談する
既に触れた通り、2019年7月8日以降からは、法人が保険を契約した場合の保険料の取扱いについて、新しい規制に基づく処理が求められるようになりました。今後も、保険会社の動向に合わせて、新しい規制が設けられることは十分に考えられるでしょう。従来だったら大丈夫だったはずの税務上の処理が、規制が変わるとダメになってしまうこともあり得ます。
このように、目まぐるしく規制が変わる現状で、申告漏れや追徴課税などのトラブルに巻き込まれることなく、法人保険を活用するには、やはり税理士の協力が不可欠です。新規で保険を契約する場合はもちろん、保険の解約や切り替えの必要が生じた場合は、連携をとってスムーズに進められるようにしてください。
法人保険を選ぶ上での注意点
最後に、法人保険を選ぶ上での注意点について解説しましょう。ポイントのところで触れたことと重複しますが、大事なのは
- 「何のために保険に入りたいのか」を見失わないようにする
- 複数の商品を見比べる
- 保険会社の担当者、顧問税理士などとも連携する
の3つです。一見、当たり前に思えますが、意外にできていない人が多いことでもあるので、注意するに越したことはありません。