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住宅ローンで住宅を買ったが、共働きの妻が働けなくなった、夫の収入が下がった…などの理由から借金等をせざるを得なくなる場合はあります。
そしてその借金が返済できなくなってしまった場合には、債務整理を考えなければなりません。
このページでは住宅ローンがある時に考えたい債務整理の方法についてお伝えします。
住宅ローンがあるときにどのような選択肢があるのか
住宅ローンがあって、借金の返済にも困っている、そのような場合にはどのような選択肢が残されているのかを知りましょう。
住宅をそのまま持つという選択
まずは、住宅ローンを支払っている住宅をそのまま持つという選択が考えられます。
債務整理によって一般的な借金をなんとかする事によって、住宅ローンの支払いを維持する事で、住宅をそのまま持つ事自体は不可能ではありません。
その判断ができるかどうかについては、以下の2点を考慮しましょう。
住宅ローンの金額と収入のバランスがとれているかの判断
まずは、住宅ローンの支払いが、家計全体を見た時に過度の支払いになっていないかを見ます。
もし、住宅ローンの支払いが、家計全体から見て過度な負担になっているような場合には、住宅を持ち続ける事自体が不適切な場合だと判断できます。
住宅ローンの支払いが家計全体から見て過度な負担になっているかどうかは、FPの間では次のように考えて判断しています。
つまり、
世帯収入が400万円ならば、月間8万3千円程度
世帯収入が800万円ならば、月間16万6千円程度
世帯年収が1000万円ならば、月間20万8千円程度
以内に住宅ローンがおさまっているかどうかを検討しましょう。
あくまでも上記は目安で、子供の人数が増える・教育にしっかりお金をかけるといった事情がある場合には、使える金額はぐっと減ります。
もし、住居費の割合が25%を超えているような場合には、住宅を維持するという選択肢を取る場合には、収入の総額を上げるか、他の支出額を減らす努力が必要となります。
それが不可能なのであれば、今の家計の状況から考えて分相応以上の住宅を持っているという事になります。
ですので、家賃のもっと安い賃貸物件に引っ越しをして、今の住宅自体は手放さないとならないという事だと思いましょう。
ライフステージから考える
次に、今どのようなライフステージにあるか、という事も視野に入れましょう。
たとえば、もし子供がもうすぐ大学を卒業する、という場合には、実家で暮らすならば生活費を入れてもらうことが検討できます。
しかし、子供が大学卒業後は上京してしまうような場合には、今の家は広すぎる…という場合も出てくるかもしれません。
そのまま無理をして住宅に住み続ける事をすると、老後の生活資金の貯蓄に影響する事も出てきます。
住宅ローンの支払いをしている最中だといっても、その人の家族構成・やりたい事・年齢等によって、住宅を維持を最優先すべきかは異なりますので、今後何にどのくらい必要か、という事と、住宅を維持するために住宅ローンの支払いを続ける事が適切かどうかを検討する事は必要になります。
住宅は最悪手放してもよい場合
住宅を手放しても良い、という場合には、有利な売却活動をすすめる必要があります。
住宅ローンがのこっている住宅を売却する事を「任意売却」と呼んでいます。
どうせもう住宅が取られてしまうのだから、とそのまま住宅ローン返済を放置するとどうなるのでしょうか。
住宅ローンを組むにあたっては、住宅金融支援機構や銀行が債権者になっており、債権者が住宅に対して抵当権という権利を設定しています。
この抵当権を持っている債権者は、債権に対する支払いがない場合には、対象となっている物件を売却できます。
売却は競売で行うことになっており、競売で取引する不動産は、一般に売買するよりも5割程度も価格が落ちる場合もあるとされています。
この時に、貸付総額が5000万円、住宅の価格が4000万と評価できるとすると、競売により2000万円で競落されると、3000万円が一般債権となってしまいます。
しかし、4000万円で売ってくれるならば、一般債権になってしまう金額は1000万円になります。
そのため、場合によっては引っ越し代くらいを確保してくれる可能性が「任意売却」にはあります。
そのため、家を手放すことを覚悟した場合でも、積極的に売却するようにしましょう。
住宅ローンがあるのとないのとで債務整理にどのように影響するか
では、住宅ローンがある場合とない場合で債務整理手続きにどのような影響があるかを見てみましょう。
住宅ローン債権者への介入をすると抵当権が実行される
先ほども述べたのですが、住宅ローンは抵当権という権利によって保護されていますので、住宅ローン債権者との間の債務に弁護士が介入をすると住宅は維持できない、という事になります。
この事が住宅ローンがある場合に債務整理で気を付けるべき事項となります。
住宅ローン債権者への介入をすると連帯保証人に請求される
住宅ローンに関しては、借入をした時に夫婦の一方を連帯保証人にするような場合が考えられます。
この場合に、住宅ローン債権者との間の債務に弁護士が介入をすると、連帯保証人に請求がいく事になってしまいます。
住宅ローンがある場合の債務整理の手続き選択
以上の債権の特徴を踏まえて、どのような手続きをとるのが妥当なのかを見てみましょう。
債務整理手続きの概要
債務整理にはおおまかに分けて、任意整理・自己破産・個人再生という手続きがあります。
任意整理
任意整理とは、債権者と個別に契約している条件を見直す事で支払いを軽くするように和解契約を結ぶ手続きです。
借金を長期間しているような場合には、利息制限法を超えて出資法の制限に満たない範囲の金利(いわゆるグレーゾーン金利)で借り入れをしている事があります。
このような場合には、残った元本との差し引き計算をして債務を圧縮する事が任意整理で行うことができます。
また、払いすぎていた金利がなかったとしても、貸金業者と将来支払うべき契約となっていた利息の支払いをしない事を合意します。
これによって元本のみの返済を行えば良いようになり、返済が楽になるので、借金が返しやすくなります。
自己破産
自己破産とは、裁判所に申し立てを行って、債務の免除をしてもらう手続きをいいます。
破産法に基づいて、借金などの債務の支払いができなくなっていると判断できる場合に、原則として債務を免除することで、経済的な再生を目指すための手続きです。
個人再生
個人再生とは、裁判所に申し立てを行って、債務を減額してもらった上で、残った金額を分轄して払っていくようにしてもらう手続きです。
債務を圧縮することを認めつつ、返済もしてもらう事で、借金返済を楽にするのと、経済的な再生を促す中間的な手続きと考えてよいでしょう。
住宅ローンを維持したい場合の債務整理は任意整理か個人再生
上記のように、住宅ローン債権者があるときには、住宅が清算されないように、また連帯保証人に請求がいかないように、住宅ローン債権者を避けて債務整理をする必要があります。
債務がなくなる自己破産は、すべての債権者を平等に取り扱う必要がありますので、住宅ローン債権者も債務整理の対象に入ります。
こっそり隠すような事は無理です。
そのため、家計を検討すると住宅ローンの支払いは難しい、住宅はもう放棄してもしかたがない、という決断をするまでは自己破産は利用しません。
任意整理は業者との個別の交渉になるので、本件のように抵当権がついている債権者がいる場合や連帯保証人がついている場合には対象から外すことができます。
また、個人再生では住宅ローン特約を利用する事がで、住宅を維持できる仕組みです。
ですので、住宅を維持したい場合には、任意整理か個人再生を使う事になります。
任意整理が使える時使えない時
任意整理は
- 任意整理をしない住宅ローン債権者の債務はそのまま支払いつづける
- 任意整理をする業者とは和解後の金額を36回~60回の分割で支払うことができる
という状態でないと、利用できません。
なぜなら、任意整理の実務上、36回~60回以上の分割は貸金業者が同意してくれない事になっています。
例えば次のような例を見てみましょう
【Aさんに関する現状と任意整理の見通し】
住宅ローンに月7万円の支払い
その他債務に月5万円の支払い
→その他債務の支払いは、任意整理をすれば3万円まで下がりそう
このときには、月7万円の支払いを継続しながら、月3万円の支払いが発生します。
つまり、月10万円を36回~60回(3年~5年)は支払い続けられる必要があります。
この支払いができるのであれば任意整理をしても大丈夫です。
できない場合には、任意整理で債務整理する事ができないのです。
個人再生が使える時使えない時
もし任意整理による支払いが難しい場合には、住宅を維持しながら債務整理をするのは無理なのでしょうか?
実は個人再生手続きによって住宅を維持できる場合があります。
個人再生手続きをする際には住宅ローン条項を利用する事により、住宅ローンはそのまま支払い続けながら、残った他の債務についてだけ借金を圧縮して支払う事が可能です。
この住宅ローン条項を使うためには、住宅ローンの支払いについて6ヶ月以上の遅延が発生していない事が条件になります。
これ以上の支払い遅延が生じている場合には、個人再生手続きで住宅ローンを維持しながらの債務整理はできないので注意が必要です。
また、圧縮した債務を支払う事ができる事も当然の前提です。
任意売却の上での自己破産について
家計の状況を勘案すると、住宅を維持する事が妥当ではない場合には、任意売却を行います。
しかし、先の例でもあったとおり、住宅5000万円に対して任意売却によって4000万を充当できたとしても、残り1000万円は弁済しなければならないのです。
残り1000万円が支払えるような状況だったならば、そもそも自己破産・任意整理をする必要がないといえるでしょう。
そのため、任意整理であたらしい安い住居に引っ越しをした上で自己破産をする事になります。
この場合、直近まで不動産を持っていたので、資産調査をするために、自己破産手続きとしては少額管財になると見て差し支えありません。
ですので、東京地裁管轄で自己破産手続きの申請をする場合には、20万円程度の費用が必要になります。
債務整理で気を付ける事にはどのような事があるでしょうか
債務整理をするならば気を付ける事にはどのような事があるでしょうか。
債務整理手続き全般にあるブラックリストというデメリットを知っておく
債務整理手続き全般にあるデメリットとしては、信用情報に登録がされるため(いわゆるブラックリスト)、新たな借入をする事はできないです。
借入には、銀行・消費者金融からの借入だけではなく、クレジットカードを作る事も含まれます。
すでにクレジットカードがある場合には更新の際に使えなくなる可能性が高いです。
インターネットショッピングで安いものを購入して節約をしているような場合には、クレジットカードが使えなくなりますので、VISAデビットの利用に切り替えるなどの作業が必要です。
自動車に頻繁に乗られる方で、ETCの利用を頻繁にされている方は、デポジット入金に対応しているETCカードへの切り替えをしておく必要があります。
ヤミ金融からの誘いには細心の注意を払う
信用情報機関に登録をされる事から、借り入れができなくなると、どうしても増えてくるのが違法な金利を取る業者、いわゆるヤミ金融からの誘いです。
信用情報に関する情報はセンシティブな情報であるので、本来は漏れないはずなのですが、残念ながらそのような情報だからこそ高額で違法にやりとりされているものです。
自宅の住所や、携帯電話番号などがわかってしまうと、郵送や携帯へのショートメールなどで、貸し付けができるような内容の連絡をしてきます。
一件違法な金利をとっていないような見た目をしているのですが、実は後から途方もない請求をしてきます。
上記のように、信用情報機関に登録されている間は借り入れはできません。
もし、一度でも借り入れをしてしまうと、そもそも完済をさせてくれませんし、利息も10日で1割(いわゆるトイチ)といわれるような非常に高額なものなので、住宅の維持どころか生活全般的にめちゃくちゃになってしまう事になります。
ですので、こういった業者には絶対にひっかからないように気を付けましょう。
どうしても必要に迫られたら
仮にどうしても必要に迫られた場合には、生活福祉資金貸付という制度を使う事を検討しましょう。
生活福祉貸付はお住まいの市区町村の社会福祉協議会に相談をする事で借り入れをする事ができます。
例えば給料を盗まれたしまった、葬儀でどうしても入用になった、というような場合には相談をするようにしましょう。
将来また住宅ローンを組むことはできるのか
一旦自宅を手放さなければならないとして、将来適切な時期に住宅ローンを組む事は可能なのでしょうか。
住宅ローンの借入ができるかどうかは、信用情報だけではなく、収支の状況、頭金の有無など総合的な判断をします。
ですので、ブラックリストに載っていなければ借りられるという公式を立てることはできないのです。
40歳になってからフラット35を借りられるか?となると、75歳まで返済がある事になりますので、返済が不可能であると判断される可能性が高いです。
一概に言えるものではないので、住宅ローンを再度組みたいと思った時に、金融機関に相談するなどしましょう。
まとめ
このページでは、住宅ローンがある時の債務整理について、どのような事に気を付けるべきか、手続きはどのようなものが選択できるかについてお伝えしてまいりました。
住宅ローンがある場合には
- 住宅を維持しつつづけるかどうか
- 住宅を維持するとして、任意整理・個人再生ができる状態なのか
というような観点から、手続きの方針を決め、債務整理を行うと良いでしょう。
債務整理は完済をするまでに注意すべきこともたくさんあるので、注意をするようにしてください。
住宅ローンがある時、住宅を維持したいなら、使える債務整理メニューは限られています。
きちんと実情を知って、判断をするようにしましょう。