契約者が激増している遺言信託の知られざる実態

最近、銀行の看板などでもよく見る「遺言信託」とは一体どんなものなのでしょうか。遺言信託とは、相続の手続きを銀行が代わりに行ってくれるサービスです。しかし、相続手続きと言っても一般人は関係ない!会社のオーナーや地主など一部のお金持ちだけが揉めると思っていませんか。

しかし実際は家庭裁判所の発表によると、相続で揉める割合の70%以上が金額5,000万円以下の案件なのです。5,000万円と聞くと大金ですが都心部に自宅があり金融資産が1,000~2,000万円あればそれで5,000万円以上になるはずです。

もはや中流家庭のおうちにも関係のある相続手続き!その中でも最近注目されている遺言信託についてまとめていきます。

遺言とは

まず遺言信託の前に、「遺言」について簡単にまとめます。遺言とは、自分が亡くなった時に財産を誰に遺すか、配分をどうするかを明確に決めておく書面のことです。財産配分だけでなく、感謝の気持ちや自分の生き様なども書くことが出来ます。 遺言者の意思を表すものであり、民法により厳密な方式が定められているものになります。遺言がないために、遺産を巡って子や兄弟間で骨肉の争いに発展してしまう事例は全国津々浦々で起きています。遺言を書くほど財産なんてないと思われる方も多いと思います。しかし先ほど述べた通り「争続」になっている案件は5,000万円以下のものが多いのです。遺言を書いておけば、遺言による相続は、遺留分(最低限受け取る権利分)を侵害しない限り、法定相続分の相続より優先されます。

「誰に、どんな遺産を、どのように相続させるのか」を明確に示すことで、遺産分割がスムーズに行われ、トラブルの防止にも役立つのです。円満かつ確実に次世代に承継するための仕組みとして「遺言」が大きな役割を果たします。

遺言の種類

遺言には、民法で定められた代表的な方法として、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類があります。それぞれ長所と短所があります。遺言の主目的である遺産分割を確実に行うということを重視するのであれば、「公正証書遺言」をおすすめします。これは、全国にある公証役場の公証人が作成するので、無効になる危険性がほぼないためです。

公正証書遺言

公証役場にて、2人以上の証人の立会いのもとに、遺言の内容を公証人に口述し、公証人が作成する遺言のこと。

<長所>
  • 公証人が作成するので、内容が明確で、無効になるおそれが少ない。
  • 公証人以外の証人が2名必要でそのうえで、公証人立ち合いの元に作成するので偽造、変造等の危険性がない。
<短所>
  • 公証人以外に2名以上の証人の立会いが必要。
  • 公正証書作成費用がかかる。(財産額によって金額は異なります。)

自筆遺言

遺言内容の全文及び日付を自署し、署名·捺印して作成する遺言のこと。

<長所>
  • 自宅で書くことが出来、気楽な気持ちで書くことが出来る。
  • 誰にも知られずに作成でき、費用もほとんどかからない。書換えも何度でも簡単に出来る。
<短所>
  • 形式不備のため遺言が無効になったり、内容が不明確なためトラブルとなる可能性がある。
  • 偽造、変造、隠匿のおそれがある。

遺言のメリット

  • 遺言者の希望が明確になる。
  • 遺言者の生前の気持ちを遺すことが出来る。
  • 遺言者が生前に遺産配分を決めることが出来る。
  • 相続人全員による遺産分割協議が不要になる。
  • 相続人の心理的負担を軽くすることが出来る。
  • 協議が不要なので相続手続きを早く始められる。
  • 遣言畵に全財産の記載があるので遺産の把握が容易になる。
  • 遺言書に基づいて相続手続きをするので、迅速に手続きが進む。

遺言がない場合

通常、遺言がなければ、遺産分割協議が必要になります。相続人全員での協議が必要なので縁の薄い相続人の兄弟などが出てくる可能性があるので揉めやすい傾向にあります。

遺産分割の難しさとしては、相続人達の仲が悪い、相続人の配偶者など第三者が出てくるヒトの問題と、分割のしづらい不動産や自社株、管理の難しい遠隔地の不動産や相続したくないものがあるなどのモノの問題があります。遺産分割協議において、相続人の意見が食い違い、遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。調停は調停委員が申立人と相続人をそれぞれ別に呼んで各々の主張を聞いて調整します。

この結果、内容がまとまれば調停が成立したものとして調停調書が作成されます。また調停が不調に終われば、審判に移行することになります。審判は一般の裁判の判決と同様の効力があり、審判に不満であれば、高等裁判所で争うことになります。肉親等との争いに伴う心労や調停や審判等に要する出費もさることながら、今後の関係悪化は相続人にとって大きな代償です。

遺言のデメリット

公正証書遺言の場合

・手続に費用が掛かる
・手続に時間がかかる
・証人が2名必要

自筆遺言の場合

  • 形式に不備がある可能性がある
  • 改竄される恐れがある。

以上のようなデメリットはありますが遺言を作成するメリットほうが大きいと思います。

遺言信託とは

遺言と遺言信託の違い

遺言は、前述の通り財産の遺し方等を文書にするものですが、遺言信託は、遺言に関する相談から遺言書(公正証書遺言)の作成、遺言書の保管、亡くなった後の遺言の執行まで、相続に関する諸手続をトータルでサポートするサービスです。

遺言信託の仕組み・流れ

遺言信託は、大きく分けて「遺言書の作成」「遺言書の保管」「遺言の執行」があります。

①遺言に関する事前相談(遺言書の作成)

遺言を検討する際は、のちに問題を残さないよう、財産とその分割の内容を明確にしておくことが重要です。財産の評価や利用価値などを十分に考慮·検討したコンサルティングを銀行から受けることが出来ます。相続税が低くなるよう税理士などと協力して遺産をどう分ければ良いのかのアドバイスを受けることが出来ます。

②遺言書の作成

遺言の内容が固まると、公証役場で公正証書遺言を作成します。証人で多いのがその支店の支店長と担当者の2名が証人として立ち会って証人になってくれます。遺言の証人というかなりデリケートな部分を銀行が引き受けてくるのはメリットです。

③遺言書の保管

遺言晝作成後、遺言書の正本を銀行が預かってくれます。本店の金庫で保管することが多いので紛失する可能性は限りなく少ないです。

④遺言作成後、遺言書の内容に変更がないかの確認

遺言書を作成した後も定期的に銀行の担当者が内容の変更が必要かどうか確認をしてくれます。そもそも遺言を作成する人は銀行と強力なリレーションがあるので都度相談出来る関係にはあると思います。

⑤遺言書の開示

銀行は遺言契約者の死去を家族から聞くと速やかに、相続人や受遺者に対し、遺言書を開示します。遺言書開示後、遺言の執行者に銀行が就任し財産の確認をします。

⑥財産目録の作成·交付

遺言書の内容に基づき財産の調査し相続財産の目録を作成します。財産目録を相続人に対して説明し財産目録を相続人に交付します。

⑦遺言の執行・相続人に財産の分配をする

遺言の内容にしたがって、遺産の名義変更や不動産の換価処分などを行い、相続人に対して遺産の分配を行います。

⑧遺言執行の報告

執行手続が終わると執行の内容について報告書を銀行が作成します。相続人に対して遺言執行の執行の内容を報告して遺言信託は終了します。

遺言信託のメリット

遺言信託のメリットは、5つあります。1つずつメリットについてまとめていきます。

(1)遺言作成時に、専門的なコンサルティングを受けられる。

銀行で遺言信託を契約する場合、銀行に遺言専門のチームがあるので遺言書を作成するときに専門的なアドバイスを受けることが出来ます。配偶者控除や不動産の評価方法、遺留分を侵害しないことや分割方法による相続税の軽減などかなり高度なアドバイスを受けることが出来ます。

(2)銀行員が証人者になってくれる。

公正証書遺言を作成する際に証人が2名以上必要になります。遺言書というかなりセンシティブな内容になるので証人を誰にするか迷うことが多いかと思いますが遺言信託を作成すれば一般的には支店長と担当者が証人になってくれます。

(3)銀行の金庫に保管される

遺言書は3通作成されます。1通は公証役場、2通は遺言作成者が受け取ります。遺言作成者が受け取ったうち1通を銀行が保管してくれるので紛失のリスクがなくなります.一般的に銀行の支店ではなく本店の金庫で預かるので、紛失することはまずありません。

(4)遺言書の変更も銀行に相談すれば、簡単に出来る。

1回遺言を作ったらそれでおしまいではありません。家庭環境や財産の状況が変わってくることは十分に考えられます。その時に遺言書の変更が必要になりますが遺言書の変更は銀行に相談すれば簡単に出来ますし定例的に遺言書の内容の確認もしてくれます。

(5)遺言の執行を銀行がすべて代わりにしてくれる

遺言信託がないと、すべての手続を相続人の方がやらないといけません。具体的には法定相続人への遺言の内容の説明、各金融機関の相続手続、公共料金や公的年金の停止手続、不動産の名義変更、相続税の納付などが挙げられます。これらの手続を遺言信託を利用すれば、銀行が司法書士や税理士などの専門家と連絡を取り手続をしてくれます。

以上が主なメリットになります。遺言信託を申込みする人たちにとってはすごくいい商品であると思ってくれるかもしれません。しかし次章でデメリットや執行現場の実情、銀行からみた遺言信託について述べていきます。読んでいただくと遺言信託の本質について分かっていただけるかと思います。

遺言信託のデメリット

遺言信託のデメリットは5つあります。1つずつデメリットについてまとめていきます。

(1)きれいな内容の遺言でないと引き受けてくれない。

どういうことかと言うと銀行で扱う遺言信託は、遺留分を大幅に損なう遺言や過大な寄付のある遺言や愛人に多額の金額を遺す遺言は基本的に引き受けてもらえないです。何か理由があるから遺言を書く人が多いかと思いますがイレギュラーな案件の引き受けは基本的に受け付けていない銀行が多いです。

(2)海外資産の執行が出来ない

富裕層の方で海外に不動産を持っている方は多いです。節税目的や別荘で保有している人が多いですが遺言信託では海外不動産が対象外の可能性があります。グローバル経済のこの世の中で海外不動産の執行が出来ないのは遺言信託の目的がなくなってしまう可能性もなくはありません。

(3)遺言信託における銀行の権利は財産権のみ

遺言信託においての執行者である銀行の権利は、財産権のみに限られているため子の認知や相続人の廃除など身分に関することは関与出来ないです。

(4)費用が高い

最低報酬は大体100万円から150万円程度のところが多く、財産評価額によって執行報酬の金額が決まっていくため1,000万円を超える執行報酬になる可能性もあります。実際に銀行で遺言信託の営業の仕事をしていましたが1,000万円の手数料は結構ありました。

(5)遺言信託の報酬とは別に相続税の申告を税理士に依頼する場合遺言信託の報酬とは別に費用が発生する。

通常財産評価額の1~3%,不動産の名義変更を司法畵士に依頼する場合も同様。印紙代などの実費も別途費用がかかります。

遺言信託の執行について

上記で遺言信託のメリット、デメリットについてまとめていきました。この章では、もっとも費用が掛かり、トラブルになっている執行について詳しくまとめていきます。

(1)銀行にとっての遺言信託の位置づけ

執行について具体的にまとめる前に、銀行にとっての遺言信託の位置づけについてまとめていきます。まず今の銀行の置かれている状況ですが2 0 1 7年2月に日本銀行によるマイナス金利政策が取られてから預金や貸金で収益を取るのが難しくなってきました。法人顧客にはM&Aや債券販売をして手数料収益を稼いで、個人顧客には投資信託や保険、債券などの金融商品以外に遺言信託が収益の柱になってきました。遺言信託を契約することによって契約時の手数料が数十万円入り、また遺言書を保管している間は保管手数料(年間数千円)が入ります。そして何より大きいのが執行報酬です。先ほども述べましたが執行報酬は財産評価に応じて手数料が大きくなっていくため大型の契約になると1,000万円以上の執行報酬が入ります。

銀行は手数料のため遺言信託の契約が欲しいですし何が何でも執行をしたいのです。

しかし最近は執行手数料の高さを残された相続人が嫌気して、銀行の執行を拒否するケースが相次いでいます。 銀行としては執行出来ないと手数料が入らないため大問題となっています。そこで銀行は最近(2015年過ぎ)、契約時の手数料を高くもらうプランを出してきました。執行時の手数料を安くする代わりに契約した時に手数料を多めにもらう方法です。大抵遺言信託を契約するのは高齢者のことが多いので手数料を払ってしまうことが多いようです。しかしこれもいざ執行の時に契約時の手数料が高すぎるとクレームになりつあります。

(2)執行の現実

いざ手数料を払って執行手続きを銀行に任せても多くの問題があります。

まず第1に遺言の執行を行うのは弁護士や税理士などの専門家ではなく一般の銀行員です。執行の実務にものすごく詳しいかというとそんなこともありません。ミスも起こる可能性も多いですし時には財産目録の作成ミスなどあり得ないこともおきます。第2に、遺言信託の手数料の中に相続税申告の手数料が入っていないことです。遺言信託の手数料に最大1,000万円支払ってさらに相続税の申告を税理士や弁護士に頼むと財産評価額の1%~3%かかってしまいます。また不動産が多い場合だと、司法書士に不動産の名義変更を依頼すると思いますが名義変更だけなら数万円で出来ます。それを遺言信託に組み込むと膨大な金額がかかってしまうことになります。

遺言信託に関するまとめ

長文にわたって遺言や遺言信託の特徴についてまとめてきました。手続きをすべて銀行に代わりにやってもらえるというメリットはあります。また銀行の専門的なコンサルティングを受けられることも大きなメリットであると思います。しかし膨大な手数料や執行現場の現実を考えるとデメリットのほうが大きいと個人的には思います。

もし遺言を作成するにあたって専門的なコンサルティングを受けたいのであれば税理士法人などが今力を入れている分野なので銀行でコンサルティングを受けるより安く出来ます。銀行で専門的なアドバイスと言っても税理士法人を紹介されるだけなので大きく変わらないです。執行手数料を考えると、相続人自らが遺産に関しては手続をして相続税の申告を行ったほうがベターだと思います。確かに遺言信託は便利なサービスです。しかし数百万から数千万円払うサービスではないと思います。

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