定年年齢が65歳への引き上げが間もなく完了します。これに伴い、定年退職後にもらうことが出来る年金がいくらくらいになるかも大きく変化するようになってきます。また、再雇用制度によって65歳から70歳までの間まで、雇用継続年齢を引き上げる企業も増えてきているため、年金を受給しながら給与を受けるという人も増えてきました
そのため、定年退職を控えている人や定年退職後に嘱託職員等として再雇用されている60歳~64歳の人などが、1円でも多くの給付金や年金を受け取るための押さえておいてほしいポイントを、制度の仕組みを解説しながら説明していきます。
1.定年を迎えた人がもらえる可能性があるお金とは?
現状では、定年年齢は65歳に引き上げられているところが多いかと思いますが、60歳定年となっている会社も多く、65歳までの期間を嘱託職員などとして再雇用するよいった形をとっている企業も多いです。
この時期に受給する権利を有している給付や年金が意外にありますが、その給付金の存在を知らずにいる人が意外にも多く、損をしている人が多いといえます。
【定年退職後にもらうことが出来る可能性がある給付金・年金】
①高年齢雇用継続基本給付金
(受給要件)
雇用保険の適用事業(雇用保険に加入している事業所であること)に雇用されている被保険者の賃金額(傷病等による不払い賃金を含めた金額)が以下のいずれかに該当することになった日を離職日として計算された賃金日額(「みなし賃金日額」といいます)の30日分の75%未満に下回った場合。
(ア)被保険者であった期間が5年以上あった被保険者が60歳に達した日
(イ)被保険者が60歳に達した日以降に被保険者であった期間が5年になった日
(支給額)
高年齢雇用継続基本給付金は支給要件を満たした日の属する月から65歳に達する日の属する月までの各月(この期間を「支給対象月」といいます。以下同じ。)について支給され、支給額は以下の通りとなります。ただし、上限額363,359円と下限額2,000円(令和元年8月~令和2年7月31日まで)があるので、注意が必要です。
(ア)「賃金額≦みなし賃金日額×30×60/100」の場合:賃金の額×15/100
(イ)「みなし賃金日額×30×61/100≦賃金額<みなし賃金日額×30×75/100」の場合:賃金の額×15/100から一定の割合で逓減するように厚生労働省令で定める
(不支給となる場合)
- 次のいずれかに該当する場合は支給されません。
- 支給対象月において支払われた賃金額が363,359円以上である場合
- 支給対象月に支給される給付金の額が2,000円を超えない場合
②高年齢再就職給付金
(受給要件)
算定基礎期間(雇用保険加入期間について、基本手当も支給日数を算定するための判断基準として用いる期間)が5年以上あり、基本手当を受けたことがある者が、60歳に達した日後、安定した職業について被保険者となった際の賃金の額が、「基本手当日額の算定の基礎となった賃金日額×30」の75/100を下回った場合
(支給額)
高年齢再就職給付金は支給要件を満たした日の属する月から就職日の翌日から起算して2年(支給残日数が100日以上200日未満の場合は1年)の期間内にある日の属する月に支給され、支給額は以下の通りとなります。ただし、上限額363,359円と下限額2,000円(令和元年8月~令和2年7月31日まで)があるので、注意が必要です。なお、高年齢雇用継続基本給付金と同様に、上限額363,359円と下限額2,000円(令和元年8月~令和2年7月31日まで)があるので、注意が必要です。
(ア)「賃金額≦みなし賃金日額×30×60/100」の場合:賃金の額×15/100
(イ)「みなし賃金日額×30×61/100≦賃金額<みなし賃金日額×30×75/100」の場合:賃金の額×15/100から一定の割合で逓減するように厚生労働省令で定める
(不支給となる場合)
次のいずれかに該当する場合は支給されません。
- 支給対象月に支払われた賃金の額が363,359円以上であるとき
- 支給対象月に支払われた賃金の額が2,000以下であるとき
- 就職日の前日までの支給残日数が100日未満であるとき
- 再就職手当を受けたとき
③高年齢求職者給付金
(受給要件)
高年齢被保険者が離職し労働の意思と能力を有するにもかかわらず、職業につくことが出来ない場合で、離職の日以前1年間のうち被保険者期間が6か月以上あること。
(支給額)
一時金として以下の金額が支給されます。
算定基礎期間が1年以上の場合 基本手当日額の50日分
算定基礎期間が1年未満の場合 基本手当日額の30日分
(その他の注意点)
高年齢求職者給付金は、基本手当と同様に、待期期間7日間を経過したうえで、給付制限がある場合は給付制限期間を経過したうえで支給されます。
④老齢年金(国民年金・厚生年金保険等)
(受給要件)
・国民年金の場合:保険料納付済み期間が10年以上あること、かつ、65歳に到達していること
・厚生年金保険:被保険者期間が10年以上、かつ、65歳に到達していること
(支給額)
・国民年金の場合
780,100円×{(保険料納付済み期間+保険料1/4免除期間×7/8+保険料半額免除期間×3/4+保険料3/4免除期間×5/8+保険料全額免除期間×1/2)/480}
(注)平成21年3月以前の期間については、以下の割合に読み替える必要があります。
- 保険料1/4免除期間 7/8 ➡ 5/6
- 保険料半額免除期間 3/4 ➡ 2/3
- 保険料3/4免除期間 5/8 ➡ 1/2
- 保険料全額免除期間 1/2 ➡ 1/3
・厚生年金保険の場合
以下の(ア)と(イ)の金額の合計額となります。
(ア)平成15年3月31日までの期間
平均標準報酬月額 × 7.125/1000 × 被保険者期間の月数
(イ)平成15年4月1日以降の期間
平均標準報酬月額 × 5.481/1000 × 被保険者期間の月数
2.高年齢雇用継続給付と老齢年金の調整
雇用保険の高年齢基本給付金と厚生年金保険の老齢厚生年金を両方受給することが出来る場合において、一定の調整が行われます。これを「在職老齢年金」といいます。(「3.在職老齢年金との調整」で解説します。)
なお、国民年金の老齢基礎年金や高年齢求職者給付金については、いずれもほかの給付と併給が出来る場合であっても、調整が行われません。その理由としては、以下のように考えられます。
- 老齢基礎年金 受給開始が(原則として)65歳からとなるため、基本的に雇用保険の各種給付と併給受給することが考えられないため
- 高年齢求職者給付金 高年齢被保険者が65歳以上の雇用保険の被保険者であるため。
なお、雇用保険の基本手当を受給できる者が高年齢雇用継続給付を受給することがn出来る場合については、老齢年金が減額調整されますので注意が必要です。
高年齢雇用継続給付は65歳に到達する月までの間について支給されるものであるため、通常であれば、65歳から支給が始まる老齢厚生年金との併給が行われることはないのですが、繰上げ支給を行ったりするなどで、65歳になる前の時点で老齢厚生年金を受給することが出来ることがあります。これによって、老齢厚生年金と厚年レ雇用継続給付との併給調整に伴う調整を行わなければならなくなったということです。
そもそも、雇用保険の高年齢雇用継続基本給付と厚生年金保険の老齢厚生年金は算定の基礎となっているものが「賃金の額」です。この賃金の額を基準としているにもかかわらず、それぞれの法的な性格が異なるため、どちらかが支給されたら、選択しなかった給付が支給されないということは難しいです。仮に、同じ法令に規定されている給付同士であれば、一方を支給して、もう一方の受給権が消滅することも可能ですが、制度が異なる以上は双方の給付を支給したうえで、調整を図る形で落ち着いたためとも言えます。
3.在職老齢年金との調整
雇用保険の高年齢雇用継続給付と厚生年金保険の老齢厚生年金を受給することが出来る場合については、老齢厚生年金の支給額の調整を行われます。これは「在職老齢年金」と呼ばれる制度で、法令上で規定されている調整方法となっています。では、この「在職老齢年金」がどのように行われているかについて解説していきます。
【在職老齢年金の調整の仕組み】
在職老齢年金の調整は2段階に分けて調整が行われます。第1段階で給与と老齢厚生年金の額による調整がおこなわれ、さらに、第2段階として、高年齢毛雇用継続給付を受給している場合は、その金額の間でさらに調整が行われ、それらの調整が終わった後に残った金額が老齢厚生年金として支給される金額となるという仕組みになっています。
とはいっても、在職老齢年金の調整の仕組みは非常に複雑ですので、基本的な部分をしっかりと押さえたうえで、対策を考える必要があるといえます。
・第1段階:「給与」との調整
まず、第1段階において「現在支給されている給与」と老齢厚生年金の額との間における調整を行います。この調整方法が非常に複雑になっているところが多いので、1つずつしっかりと解説します。
【60歳代前半の在職老齢年金】
60歳代前半の在職老齢年金は大きく5つのパターンに分かれます。
(用語の意義)
・基本月額
基本月額とは、老齢厚生年金の受給額を12で除して得た金額です。簡単に言うと「1月当たりの老齢厚生年金の額」ということです。
・総報酬月額相当額
総報酬月額相当額とは、「毎月の賃金」と「年間に支払われた賞与の合計額」を合算したものを12で除したものです。
①基本月額+総報酬月額相当額≧28万円の場合
在職老齢年金の調整は行われません。(全額支給されます)
基本月額と総報酬月額相当額の合計が28万円以下の場合は、原則として支給調整は行われません。
②基本月額+総報酬月額相当額>28万円であり(以下⑤まで同じ)、基本月額≦28万円、かつ、総報酬月額相当額≦47万円の場合
基本月額ー(基本月額+総報酬月額相当額ー28万円)
このケースに該当する人が多いと思われます。このケースに該当する人の特徴としては、「年金はそんなにもらっていないけど、給与や賞与などの収入が家計の中心」としている世帯が多いということです。
③基本月額>28万円、かつ、相補欧州月額相当額≦47万円の場合
基本月額ー総報酬相当額×1/2
このケースの場合は、年金額が占める割合が大きい人です。とはいえ、実際のところこのようなケースの人は、現在では少ないといえます。
④基本月額+総報酬月額相当額>47万円、かつ、基本月額≦28万円の場合
基本月額-{(47万円+基本月額-28万円)×1/2+(総報酬月額相当額-47万円)}
このケースの場合は、給与や賞与の額が47万円を超える場合です。このケースに該当する可能性がある人としては、比較的収入が多い世帯の人であると考えられています。管理職や会社役員などを経験された人がこのケースに該当することが多いです。
⑤基本月額+総報酬月額相当額>47万円、かつ、基本月額>28万円の場合
基本月額-{47万円×1/2+(総報酬月額相当額-47万円)}
このケースは消え編めてまれなケースだと考えられます。年金も給与や賞与もかなり多くもらっている人が該当することになるわけですので、大企業の役員を経験された人などのような方がこのケースに該当すると考えられます。
【60歳代後半の在職老齢年金】
①基本月額+総報酬月額相当額≦47万円の場合
全額支給されます
②基本月額+総報酬月額相当額>47万円の場合
基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-47万円)×1/2
・第2段階:高年齢雇用継続給付との調整
第1段階において、給与と年金額との調整によって在職老齢年金による年金の一部支給停止が行われたうえで、さらに、高年齢雇用継続給付(高年齢雇用継続基本給付金又は高年齢再就職給付金のいずれか)を受給した場合は、最大で「標準報酬月額の6%相当額」が支給停止調整されます。
4.どの組み合わせが最もお得になるのか?
定年退職をされた人が受給する可能性があるものは、高年齢雇用継続給付・高年齢求職者給付・老齢年金などがありますが、では、最もお得になる組み合わせとはどのような組み合わせになるのでしょうか?
これは、平均標準報酬月額がいくらくらいになるのかや給与額がいくらくらいになるかによって最良の組み合わせが変化します。そのため、どの組み合わせが最も良いかということは一概には言えないところがあります。
組み合わせとして注意しなければならないこととしては、給与をもらいすぎると各種給付が支給されなくなてしまうということです。
雇用保険の場合、賃金の低下を要件にして高年齢雇用継続基本給付が支給されるため、賃金の額の水準があまり変わっていない場合は、老齢年金のみ受給する形となりますが、老齢年金についても、賃金の水準が高すぎると支給額が0円となってしまうことも考えられます。
(個人年金を有効活用することが今後のカギ)
公的年金や雇用保険の給付では、賃金額の水準によっては、支給されなくなるというリスクがありますが、個人年金の場合は個人の責任において運用して、その結果で老後にもらうことが出来る年金の額が決まる仕組みになっています。
個人年金には、iDeCoや企業型DCなど様々な種類がありますが、いずれの制度を活用するかは、会社が行っている企業年金制度がどうなっているかなどをしっかりと確認したうえで、運用先を決めておくことが重要になってきます。
これから先の時代において、個人年金はどんどん種類が増えてきているため、定年後の資産運用をどのように進めていきたいかなどを明確にしたうえで、年金とは別で活用することが今後の老後に向けたカギになるとも言えます。
5.まとめ
定年を迎えてからもらうことが出来る給付は意外にも多くあります。しかし、そのほとんど給与水準の低下による所得補償的な要素が強いため、現役時代と比べて賃金水準があまり変わらないような人にとってはメリットが薄いかもしれませんが、大半の人であれば、ある程度は給与水準が引き下げられることが考えられるため、こうした給付金制度を活用することも十分に考えられます。
また、定年年齢についても現在では65歳までとするところが増えていていますが、将来的にはさらに年齢が引き上げられ、現行の公的年金制度では対応できなくなる部分が出てくることも十分に考えられます。
そのための備えとして、個人年金などの3階建て部分の年金についても、定年を迎えた後の生活を支えるために必要な資産として準備を進めておくことが必要になっています。
まだまだ先の話として話を先延ばしにするのではなく、早い段階において、定年から老後に向けたライフスタイルや資産活用などを真剣に考えていく必要があるものと考えられます。