毎月勤労統計の不適切取り扱いが雇用保険と労災保険に与える影響とは?

今年の初めに衝撃的な発表が行われました。大きな経済指標にも影響を与えることのある「毎月勤労統計」で不正があったというものです。

毎月勤労統計調査とは「賃金」「労働時間」「雇用状況」の変動を明らかにすることを目的として、厚生労働層が実施している統計調査のことで、この毎月勤労統計調査は「常時5人以上」の労働者を雇用する事業所が対象となり、全国を対象とした全国調査と都道府県別に実施している地方調査(今回の問題となったのはこの調査)とに分かれます。

今回はこの毎月勤労統計調査の不適切取り扱いがどのようにして行われたか、そして、(主に)社会保険に対してどのような影響を及ぼしてくるのかについて解説していきます。

1.毎月勤労統計調査の不適切取り扱いとは?

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今回の問題の発端となった毎月勤労統計調査の不適切取り扱いとは、具体的にどのようなものだったのかというと、大きく分けて3つの問題があるといわれています。

【今回の問題の主な原因】

①抽出対象のルールの不正があったこと

②調査数値の処理の誤りがあったこと

③不適切な数値処理とそれに伴う説明がなかったこと

①中小対象ルールの不正があったこと

毎月勤労統計の調査ルールとして「500人以上の規模の事業所はすべて調査対象となる。」とされていましたが、東京都について、2004年以降の調査内容について、このルールを守っていなかったことが判明しました。

簡単に言うと、調査を行わなければならない対象となるすべての会社を調査せず、その中の約3分の1のほどの会社の調査内容をもって調査結果とするという不正があったということになります。

②調査数値の処理に誤りがあったこと

調査方法自体に不適切なところがあったのにもかかわらず、その不適切な処理をそのままにしたがために、本来の適切な処理によって算出されるはずであるであった数値と結果が大きくゆがめられる結果になってしまったということです。

③不適切な数値処理とそれに伴う説明がなかったこと

調査数値の処理の誤りについて、2018年1月調査分から必要となる処理を再度行うようになったが、それまでの間に算出されている数値との間にあった連続性がなくなってしまった。つまり、2017年12月までの調査結果の数値と2018年1月以降の調査結果の数値とでは、つながらない状態になってしまった。にもかかわらず、そのことを何ら説明が行われていなかったことが問題視されていることになります。

2.雇用保険の給付に与える影響

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毎月勤労統計調査の不正による影響が雇用保険の給付においても大きな影響を与えるところがあります。具体的には、基本手当の金額を計算するうえで、毎月勤労統計調査の調査結果を考慮しています。雇用保険の基本給付は、多くの人が受給したことがあるものなので、最も影響が大きいところではないかと思われます。

基本手当などが毎月勤労統計の不正調査によって受ける影響とは?

基本手当とは、離職日以前6か月間に支払いを受けた賃金の合計を180で除して得た金額(これを「賃金日額」といいます。)に一定の調整率を乗じた金額に給付日数を乗じて算定されます。

簡単に言うと「(離職日以前6か月間に支払われた賃金総額÷180)×支給調整率(50%~80%)×基本手当の給付日数(90日~330日)」が基本手当として雇用保険から支払われるお金ということになります。

今回の毎月勤労統計調査の不正がどのような影響を与えるかというと、「支給調整率」の部分が影響を受ける対象となります。支給調整率は、簡単に言うと、基本手当の金額を決定する際に、離職日時点でもらっていた賃金によって、もらうことが出来る基本手当に差が出ないようにするための調整を行うことを目的とした調整率ということです。つまり、賃金日額が大きい人ほど調整率を低くし、賃金日額が小さい人ほど調整率は高くすることで、基本手当の受給金額の調整を図ることで公平性を保つようにする仕組みとなっている。

しかし、この「支給調整率」の決定に「毎月勤労統計調査の結果」を考慮して決められているため、調査結果が不正である状態で調整率の決定が行われ続けた結果として、本来の調整率の水準に比べると「少し低い金額での調整が行われていた」ということになり、結果的には、本来もらうことが出来る基本手当日額よりも「少ない金額」しかもらえていなかったということになるわけです。

追加受給の対象となる給付の種類

厚生労働省は、今回の統計調査不正によって本来もらうべきであった給付より少ない給付を受給していた人すべてに対して「追加受給」を行うことを決定しました。これによって、対象となっている期間に対象となる給付の受給を受けていた人、または、現在受けている人について、追加支給を順次行っていくことになります。

(対象となる給付)

平成16年8月以降に以下のいずれかの給付を受給したことがある人が対象となります。

  • 基本手当
  • 再就職手当
  • 高年齢雇用継続給付
  • 育児休業給付金
  • 介護休業給付
  • 傷病手当
  • 就業手当
  • 教育訓練給付金
  • 訓練延長給付 など

今後の追加支給に向けた流れ

雇用保険の追加支給については、厚生労働省から発表がありました。

(現在、基本手当等の受給を受けている者)

すでに、公共職業安定所において追加支給の対象者に対して案内を伝えており、追加給付に対しては以下の通りとなります。なお、追加支給を受給するために必要な手続き等は必要ありません。

・平成31年3月18日以降の給付額

正しい額でお支払いいたします

・過去分

4月~6月に、順次、現在ご利用中の口座に振り込まれます。(一部の給付の過去分については、10月頃からのお知らせ、11月頃からのお支払いとなります。)

(過去に基本手当等を受給したことがある人)

育児休業給付金の受給者については、令和元年8月8日以降に順次支払いに関する通知を発送しており、それ以外の基本手当などの受給を受けたことがある者については令和元年10月以降に順次通知を発送されます。なお、追加支給分についての支給開始時期は令和元年11月以降に順次スタートしていく形になります。

3.労災保険の保険給付に与える影響

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労災保険の保険給付に与える影響としてはどのよう影響があるのだろうか?雇用保険と比べると、労災保険は保険給付を受けたことがある人は少ないと思いますが、労災保険の保険給付においても、毎月勤労統計調査の不正の影響は出ています。

労災保険の保険給付に対する影響とは?

労災保険の保険給付の金額を算定するうえで、いくつかの基準となる金額があります。その中でも「休業(補償)給付」の算定基礎となる「給付基礎日額」が今回の不正調査の影響を受けています。

具体的には、給付基礎日額は被災時の状況によって極端に給付基礎日額が低くなってしまった場合においても、エ王再保険の保険給付の補償効果を補完する目的として「最低保障額」が決められています。この最低保証額を算定するうえで、毎月勤労統計調査の結果を踏まえて行われることになっているためです。

そのため、不正調査によって実際の金額よりも低い水準で計算されていることが判明したため、必要以上に休業(保障)給付がひくくしきゅうされているということになるということにあります。

これについても、追加支給を行うことになっており、その対象となるのが「平成16年7月以降に労災保険の保険給付の支給を受けたもの」であれば、追加支給を受けることが出来る可能性があるということです。

今後の追加支給に向けた流れ

労災保険の保険給付についても、雇用保険と同様に追加支給に向けての流れを厚生労働省が発表しています。

(現在受給している人)

・労災年金(傷病(保障)年金、障害(保障)年金、遺族(保障)年金など)

将来にわたって支給される分については、平成31年4月24日以降、過去に受給していた分で対象となる年金額については令和元年5月23日(一部については9月から)順次、通知が発送され、追加支給分については、将来分は6月(4・5月分)~、過去分については、令和元年6月14日~(一部の方は10月~)から支給が順次スタートするようになっています。

・休業補償

休業舗装については、令和元年6月26日から(一部の方は7月26日~)から順次対象者に通知され、追加支給分については、将来分は5月(4月分)~、過去分については令和元年7月5日~(一部の方は8月~)順次支給が開始されます。

(過去に受給したことがある人)

・労災年金(傷病(保障)年金、障害(保障)年金、遺族(保障)年金など)

将来にわたって支給される分については、令和元年9月以降に順次、通知が発送され、追加支給分については、令和元年10月から支給が順次スタートするようになっています。

・休業補償

休業舗装については、令和元年8月から(一部の方は11月~)から順次対象者に通知され、追加支給分については、令和元年9月~(一部の方は12月~)順次支給が開始されます。

4.助成金に与える影響

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助成金についても、毎月勤労統計調査の不正調査による影響が出ています。具体的には雇用関係調整助成金などの雇用に関する助成金などにおいて、調査結果により適切な金額よりも少ない金額が支給されていたことによる追加支給をすることを決定したという流れになっていますが、助成金の支給決定が行われた時期や助成金の種類によっては、対象となる範囲が異なります。

助成金に与える具体的な影響とは(参照:厚生労働省HP「雇用調整助成金(中小企業緊急雇用安定助成金を含む)等の追加給付について」)

・雇用調整助成金

雇用調整助成金の支給額の算定については、1人1日当たりの助成額単価が雇用保険の基本手当日額の最高額を超えている場合、基本手当日額の最高額に休業等の日数を乗じて支給額を算定します。そのため、基本手当日額の計算の中で調査不正による影響により実際よりも少なく支払われている可能性があるため、支給額の算定においても同様に不正調査の影響によって、助成金の金額が本来の金額に比べると少なくなっていることが考えられます。

そのため、基本手当日額の最高額を基に支給額を算定していた場合について、当該最高額が毎月勤労統計調査の「再集計値」及び「給付のための推計値」の公表するという対策がとられたことに伴い、調査内容についても見直しが行われ、その差額部分についての追加のお支払いを行うこととなります。

・育児・介護雇用安定等助成金(育児休業取得促進等助成金(育児休業取得促進措置及び短時間勤務促進措置))

(育児休業取得促進措置)

育児休業取得促進等助成金(育児休業取得促進措置)の支給額の算定方法は、「休業開始時賃金日額の30%」及び「支給対象期に支払われた賃金の日額」の額が、「雇用保険の賃金日額(30歳以上45歳未満)の上限額の30%」の額を超えている場合、雇用保険の賃金日額(30歳以上45歳未満)の上限額の30%を基に算定しています。

調査結果の不正に関する措置として、雇用保険の賃金日額(30歳以上45歳未満)の上限額の30%を基に支給額を算定していた場合であって、当該上限額が毎月勤労統計調査の「再集計値」及び「給付のための推計値」の公表に伴い見直された場合に、その差額部分についての追加の支給を行うことになります。つまり、基本手当の賃金日額が算定に用いる際に毎月勤労統計調査の内容が用いられるため、今回の追加支給の対象となりました。

(短時間勤務促進措置)

育児休業取得促進等助成金(短時間勤務促進措置)の支給額の算定は、基準期間に事業主から労働者へ支払われた給付額を基に算出した基準額が、雇用保険の基本手当日額(30歳以上45歳未満)の最高額に30を乗じて得た額を超えている場合には、当該最高額を基に算定しています。

調査結果の不正に関する措置として、雇用保険の基本手当日額(30歳以上45歳未満)の最高額を基に支給額を算定していた場合であって、当該最高額が毎月勤労統計調査の「再集計値」及び「給付のための推計値」の公表に伴い見直された場合に、その差額部分についての追加の支給を行うこととなります。

・中小企業人材確保支援助成金(中小企業雇用管理改善助成金) 「職業相談者配置事業」

中小企業人材確保支援助成金(中小企業雇用管理改善助成)[職業相談者配置事業]の支給額の算定にあたっては、1人1日当たりの助成額単価が雇用保険の基本手当日額の最高額を超えている場合には、基本手当日額の最高額に支給対象期間の日数を乗じて支給額を算定しています。
調査不正に関する措置として、基本手当日額の最高額を基に支給額を算定していた場合であって、当該最高額が毎月勤労統計調査の「再集計値」及び「給付のための推計値」の公表に伴い見直された場合に、その差額部分についての追加の支給を行うこととなります。

・建設雇用改善助成金

建設雇用改善助成金の支給額の算定にあたっては、1人1日当たりの助成額単価が雇用保険の基本手当日額の最高額を超えている場合には、基本手当日額の最高額に訓練日数を乗じて支給額を算定しています。

不正調査に関する措置として、基本手当日額の最高額を基に支給額を算定していた場合であって、当該最高額が毎月勤労統計調査の「再集計値」及び「給付のための推計値」の公表に伴い見直された場合に、その差額部分についての追加の支給を行うこととなります。

5.他の経済指標に与える影響

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今回の不適切調査が他の経済指標に与える影響はかなり大きなものになっています。厚生労働省によると今回調査不正の結果による影響が出る経済指標が11種類あり、そのうち6件が素電公表がされたもので、残りの5件が公表前の指標であることが分かりました。

(影響を受ける経済指標)

  1. 景気動向指数
  2. 雇用者報酬
  3. 総雇用者所得
  4. GDPギャップ・潜在成長率
  5. 第3次産業活動指数
  6. 建設工事費デフレーター
  7. 雇用動向調査
  8. 雇用の構造に関する実態調査
  9. 労使コミュニケーション調査
  10. 水害統計
  11. 旅行・観光サテライト勘定

6.まとめ

毎月勤労統計調査は様々な指標において影響を与える重要な指標となっていますが、今回の調査方法の不正が明るみになったことで、様々な分野において影響が出ています。一見すると、私たちに直接的な影響が出ていないようにも見えるのですが、雇用保険や労災保険などの社会保険の給付において、本来もらうことが出来る金額よりも少ない金額を正しい金額と思って受給していたわけですので、その影響は計り知れない部分に出てくるものと考えられます。

今後、厚生労働省から発表があったように、対象期間内に雇用保険や労災保険の保険給付を受給していた人については、必要な手続きを行うことで、追加支給が順次行われるようになりますので、通知が来た際には必ず受給の手続きをするようにしてください。

今回の不正調査をきっかけに、今受給しているきゅふや手当の内容がどのような仕組みで計算されて支給されているかに興味を持つことで、国の政策に対しても受け身になるのではなく、本当に正しい内容なのか?ということにも意識を向けられるようになることが、経済政策がよりしっかりと機能するだけでなく、自身の所得の増加にもつながところがあるものと考えられる。

岡崎 隆宏
SRFP隆宏
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社会保険労務士・CFP認定者・1級FP技能士

外資系生保会社で6年くらい営業として実績を積み、その中でFP資格を取得し、その時の経験を活かし、お金に関する執筆を始める。

日本FP協会愛知支部の役員幹事として6年、FPとして一般消費者向けのセミナーの講師や個別相談会の相談員などを担当。得意分野は「公的年金・個人年金」「社会保険制度」「出産・育児関係」等。

現在は、社労士・FPとして、労働や年金等のお金についての記事の執筆や資格試験の講師、セミナー講師等を行っている。

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