目次
- アパート投資を始めると相続税が安くなると聞いた。どういう仕組みでどれぐらい税金が安くなるの?
- 小規模宅地等の特例とは?利用するための条件や手続き方法を簡単に分かりやすく教えてほしい
- これまで不動産投資の経験がない人が相続税対策のためにアパート投資を始めても問題ない?
この記事では、相続税対策を検討中の方向けに「小規模宅地等の特例」という仕組みについて解説します。
この特例は、ごく簡単にいえば「人が住むための建物を建てるために使っている土地が遺産に含まれる場合は、土地の相続税評価額を大幅に低くしてあげますよ」という仕組みです。
相続税の金額はこの相続税評価額の金額に応じて計算されますから、小規模宅地等の特例を使えば相続税の金額が安くなります。
住宅を建てるための土地のことを「宅地」といいますが、一定の広さまでの小規模な宅地は相続税を安くしてもらえるので「小規模宅地等の特例」というわけです。
以下、小規模宅地等の特例を使うことで相続税がどのぐらい安くなるのか?を具体例をあげながら説明しますので、ぜひ参考にしてみてください。
相続税は「小規模宅地等の特例」でどのぐらい安くなる?
例えば、相続人が子供3人(長男・次男・三男)の3名で、遺産が1億円あるという場合を考えてみましょう。
この1億円を、現預金の形で持っていた人が亡くなった場合と、宅地1億円(広さ400㎡)の形で持っていた人が亡くなった場合とで、相続税の負担額がどのぐらい違うのかをシミュレーションしてみます。
現預金1億円を持っていた人が亡くなった場合
相続税の計算は、ごく大まかに言うと以下のように行います。
- ①正味の遺産額を求めます
- ②課税遺産総額を求めます
- ③相続税の総額を計算します
以下、順番に説明していきます。
①正味の遺産額を求めます
「正味の遺産額」とは、簡単にいえば「遺産から借金などの差し引きした金額」のことで、以下の計算式で計算できます。
プラスの遺産とは現預金や不動産などのことで、マイナスの遺産とは借金などのことです。
このケースでは現預金1億円のみが遺産ですから、遺産すべてがプラスの遺産です。
そのため、正味の遺産額=1億円ということになります。
②課税遺産総額を求めます
次に、課税遺産総額というものを求めます(言葉が難しいですが、言葉そのものにはあまり意味はありませんから、計算上そういうものなのだと思ってください)
課税遺産総額とは、①で計算した「正味の遺産額」から「相続税の基礎控除額」を差し引きしたものをいいます。
計算式にすると以下の通りです。
そして、相続税の基礎控除額は以下のように計算します。
このケースでは法定相続人の数は長男・次男・三男の3人ですから、相続税の基礎控除額は3000万円+600万円×3人=4800万円ということになります。
この金額を①で計算した正味の遺産額から差し引きしますから、このケースでの課税遺産総額は以下のように5200万円と計算できます。
③相続税の総額を計算します
課税遺産総額が計算できたら、これを「法定相続分で分割したもの」として「相続人全員トータルで負担する相続税の金額」を計算します。
今回の相続人は長男・次男・三男の3名ですが、法律上兄弟の遺産相続割合は平等(みんな同じ)となっていますから、「法定相続分で分割したもの」とすると以下のように遺産を分け合うことになります。
- 長男:課税遺産総額の3分の1
- 次男:課税遺産総額の3分の1
- 三男:課税遺産総額の3分の1
今回のケースでは、②で計算したように課税遺産総額は5200万円でしたから、計算式に当てはめると以下のようになります(端数は計算を単純にするため省略します)
- 長男:5200万円×3分の1=1733万円
- 次男:5200万円×3分の1=1733万円
- 三男:5200万円×3分の1=1733万円
相続人それぞれの法定相続分を計算したら、以下のような国税庁が発表している「相続税の税額表」に当てはめて、相続税の総額を計算します。
課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | ー |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
課税価格はそれぞれ長男1733万円・長男1733万円・次男1733万円でしたから、税額は以下のように627万円と計算できます(こちらも単純化のため端数は省きます)
- 長男:1733万円×税率15%-控除額50万円=209万円
- 次男:1733万円×税率15%-控除額50万円=209万円
- 三男:1733万円×税率15%-控除額50万円=209万円
- 相続税の総額:209万円+209万円+209万円=627万円
宅地1億円(広さ330㎡)を持っていた人が亡くなった場合
遺産が宅地の形である場合も同じように相続税の計算をしてみましょう。
遺産が宅地の形である場合にも、上で説明した現預金の場合と相続税の計算順序は基本的に同じく以下の3ステップで行います。
- ①正味の遺産額を求めます
- ②課税遺産総額を求めます
- ③相続税の総額を計算します
以下、順番に計算してみます。
①正味の遺産額を求めます
遺産が宅地である場合には、本来の遺産の金額1億円(宅地1億円:400㎡)から、以下のように330㎡を上限値として評価減を受けることができます。
このケースでは遺産の本来の価値は1億円、宅地の広さが400㎡でしたから、計算式に当てはめると以下のように遺産の評価額を計算できます。
正味の遺産額は「プラスの遺産-マイナスの遺産」で計算しますが、この場合にはマイナスの遺産はありませんから、正味の遺産額=6600万円となります。
②課税遺産総額を求めます
課税遺産総額は「正味の遺産額-相続税の基礎控除額」で計算します。
相続税の基礎控除額は法定相続人3名で4800万円(3000万円+600万円×法定相続人3人=4800万円)ですから、課税遺産総額は以下のように1800万円と計算できます。
- 課税遺産総額=正味の遺産額-相続税の基礎控除額
- 課税遺産総額=6600万円-4800万円=1800万円
③相続税の総額を計算します
課税遺産総額1800万円、法定相続分で分割したとして相続税の総額を求めます。
この場合は長男・次男・三男が平等に遺産を3分の1ずつ分けますから、以下のようになります。
- 長男:1800万円×3分の1=600万円
- 次男:1800万円×3分の1=600万円
- 三男:1800万円×3分の1=600万円
課税遺産総額600万円を上で見た「相続税の速算表」に当てはめると、相続税の総額は以下のように計算できます。
- 長男:600万円×税率10%=60万円
- 次男:600万円×税率10%=60万円
- 三男:600万円×税率10%=60万円
- 相続税の総額:60万円+60万円+60万円=180万円
遺産が現預金1億円だった場合には相続税の総額は627万円でしたから、相続税は447万円も安くなりました(627万円-180万円=447万円)
これが小規模宅地等の特例の税軽減効果です。
小規模宅地等の特例の利用条件
小規模宅地等の特例を使うと、上でも見たように相続税の負担額を大幅に安くできる可能性があります。
以下のような条件に該当する場合には、小規模宅地等の特例を使うことができますから、ぜひ利用を検討してみましょう。
- 亡くなった人や亡くなった人と生計が同じだった人が、自分で住んだり、事業用に使っていたりしていた宅地が遺産に含まれていること
- 宅地が居住用の建物を建てるために利用されていたこと
なお、計算例では「330㎡の広さまで80%だけ相続税の評価減を受けられる」という説明をしましたが、評価減の割合は宅地の種類に応じて以下のように決まっていることに注意してください。
- 特定居住用宅地等(亡くなった人または生計が同じだった遺族が住んでいた宅地):330㎡まで80%の評価減を受けられます
- 特定事業用宅地等(事業用の事務所などとして使っていた宅地):400㎡まで80%の評価減を受けられます
- 貸付事業用宅地等(不動産投資に使っていた宅地):200㎡まで50%の評価減を受けられます
上のケースで、例えば宅地1億円(400㎡)がすべて不動産投資などのアパート投資に使われていた場合には、以下のように相続税評価額の減額幅を計算することになります。
小規模宅地等の特例は、財産を残した人が自分で使っていた宅地であるほど税軽減効果が高くなり、アパート投資などの形で他人に貸していた宅地については、少し税軽減効果が小さくなることを理解しておきましょう。
(なお、亡くなった人自身が住んでいた場合の他に、亡くなった人と生計を一緒にしている人が住んでいた場合にも、「特定居住用宅地等」として有利なカテゴリの小規模宅地等の特例を適用してもらうことができます)
不動産投資を行う場合、投資そのものが黒字であることが大切
小規模宅地等の特例を適用してもらえば、相続税の負担額が大幅に小さくなりますから、「相続税対策としてアパート投資などを始める」という方も少なくないでしょう。
確かに、アパート投資(不動産投資)のために土地を購入した場合には、上で説明した「貸付事業用宅地等」として小規模宅地等の特例を受けることができますから、相続税の負担額大幅に安くしてもらうことができます。
ただし、相続税の負担額が安くなったとしても、不動産投資そのものがうまくいかず、結局は出ていくお金の方が多くなってしまった…ということになってしまっては本末転倒です。
相続税対策はあくまでも「遺族に対して残せるお金を少しでも多くするため」に行うものですから、不動産投資そのものを成功に導けるようにしなくてはなりません。
不動産投資をこれから始めるという方は、専門のコンサルタントや不動産業者などに相談して慎重に購入物件の見極めを行うようにしましょう。
小規模宅地等の特例を受けるためには相続税申告が必要
小規模宅地等の特例を利用するためには、必ず税務署に対して相続税申告を行わなくてはなりません。
相続税の申告は相続発生から10か月以内(正確には、自分の関係する相続が発生したことを知った日の翌日から起算して10か月以内)に行う必要があります。
申告期限を過ぎると、小規模宅地等の特例を適用してもらうことができなくなってしまいますから注意しておきましょう。
ただし、後で見る「3年以内の分割見込み書」を相続税の申告期限までに提出しておけば、期限後申告であっても後からさかのぼって小規模宅地等の特例を適用してもらうことは可能です。
具体的には、相続税の申告期限が到来する10か月のタイミングでは「特例を適用しない金額」で相続税を計算して納付しておき、後で遺産分割が完了した時点で、「更正の請求」という手続きを税務署に対して行います。
更正の請求が認められれば、いったん納めた相続税額のうち、小規模宅地等の特例によって減額される金額だけ「税金を納めすぎた状態」になっていますから、このお金は相続人となる人に還付してもらうことができます。
相続税の申告期限までに遺産分割協議を完了していることが必要
また、小規模宅地等の特例を利用して相続税の申告を行うためには、相続税の申告書に遺産分割協議書を添付しなくてはなりません。
遺産分割協議書とは、「だれがどれだけの割合の遺産を相続するのか」を相続人全員の話し合いで決定し、その内容をまとめた書類のことを言います。
(遺言書がある場合には遺産分割協議書の代わりに遺言書の写しを添付しますので、遺産分割協議は行わなくてもかまいません)
そのため、少なくとも相続税の申告期限が到来する相続から10か月のタイミングまでに、遺産分割協議は完了しておく必要があります。
遺産分割協議そのものに法律上の期限はありませんが、このように遺産分割の完了は相続税の申告と密接な関係がありますから、通常は相続発生後すみやかに遺産分割協議を行うのがのぞましいといえます。
遺産分割協議の完了が難しい場合
遺族同士でもめてしまい、相続税の申告期限が到来するまでに遺産分割協議を完了することが難しいようなケースでは、「3年以内の分割見込み書」という書類を税務署に手出しておくという方法もあります。
これは簡単に言うと、「相続税の申告期限が到来するタイミングではまだ遺産分割が完了していないので、いったんは軽減措置を適用せずに相続税の申告を行いますが、後で遺産分割が完了してからさかのぼって軽減措置を適用できるようにしてください」と税務署に依頼しておくための書類です。
3年以内の分割見込み書を提出しておけば、相続税の申告期限までに遺産分割ができなかったとしても、後で遺産分割が完了したタイミングで相続税の申告をやり直すことによって、さかのぼって小規模宅地等の特例を適用してもらうことが可能となるわけです。
ただし、この場合には相続税の申告期限において「小規模宅地等の特例を適用しない税額」で相続税を納めなくてはなりませんから注意が必要です。
また、この納税は遺産分割が完了していないために、相続人となる人が自分のポケットマネーで行うことになることも理解しておきましょう。
遺産分割が完了しない限りは遺産に手を付けることはできないからです。
(遺産分割協議が完了していないと、小規模宅地等の特例以外にも相続税の配偶者控除などの特例措置が利用できません。なお、3年以内の分割見込み書を提出しておけばさかのぼって特例を適用してもらえるのは、小規模宅地等の特例と同様です)
まとめ
今回は、遺産に宅地が含まれる場合に利用できる「小規模宅地等の特例」について解説いたしました。
小規模宅地等の特例を使えば、多くのケースで相続税の負担を大幅に軽減してもらうことが可能となりますから、利用条件や利用の手続きを確認しておきましょう。
ただし、本文でも見たように、この特例でメリットを受けるためには不動産投資そのものが黒字であることが絶対条件となります。
「相続税対策のために不動産投資を始めたけれど、投資そのものが赤字…」では本末転倒ですので、不動産投資のリスクや利益を出すための具体的な方法についても理解しておくようにしましょう。
相続税の申告手続きや、アパート投資を活用した相続税対策の方法については、相続実務を専門としている税理士からアドバイスを受けられますから、相談を検討してみてください。