目次
- 親が亡くなった時に自分がどれぐらいの割合の遺産を相続できる?
- 兄弟が相続人となるので、相続割合をめぐってトラブルになるかも…遺産分割に関する法律のルールを知っておきたい
- 遺言を使えば法律のルールとは違う遺産分割割合を設定できるって本当?
この記事では、「相続では誰がどれだけの割合の遺産を受け取ることができるのか」に関する法律のルールについて解説いたします。
遺産相続手続きにかかわるのが初めてという方や、近い将来に生じる遺産相続に備えて準備を始めたいという方向けにわかりやすく解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
相続割合はどのように決まる?計算方法を解説!
財産を所有していた人が亡くなった場合、その人の親族が財産を遺産として相続することになります。
相続人となる親族が1人だけの場合にはその人がすべての遺産を相続することになりますが、相続人が2人以上いる場合には遺産相続の割合が問題となります。
遺産相続の割合とは、簡単にいえば「誰がどれだけの遺産を相続するのか」という問題ですが、具体的には以下のように判断を行います。
- ①遺言書がある場合には、その内容を最優先に遺産分割を行う
- ②遺言書がない場合には、法律で定められた割合(法定相続分)に応じて遺産分割を行う(遺産分割協議を行います)
それぞれの内容について、順番に見ていきましょう。
①遺言書がある場合には、その内容を最優先に遺産分割を行う
亡くなった人が遺言書を作成している場合には、その内容を最優先に遺産分割の方法を決めることになります。
一般的なイメージと異なるかも知れませんが、遺言書がある場合には、次で見る法律のルールは基本的にはすべて無視して遺産分割方法を決めることになります
例えば、法律のルールでは「兄弟間の遺産分割割合は平等」という風に定められていますが、遺言書が「長男には2分の1の遺産を与える。次男と三男は4分の1ずつだけ遺産を与える」という内容になっている場合には、遺言書の内容通りに遺産分割を行うことになるのです。
このように、遺言書には極めて強い権限が与えられていますから、どのような内容の遺言書を作成しておくかは非常に重要な問題といえます。
これから遺言書を作成するという方は、弁護士などの法律の専門家にアドバイスを受けながら作成手続きを進めていくことをおすすめします。
不公平な遺言がある場合の解決法
上で「遺言がある場合には、その遺言の内容が法律のルールよりも優先される」という説明をいたしましたが、それではまったく不平等な内容の遺言が残されている場合にも、遺族は何ら対策をとることができないのでしょうか。
例えば、亡くなった人が「遺産は全額長男に相続させる。次男と三男には1円も相続させない」という遺言を作成していた場合、このような遺言は有効でしょうか。
結論から言うと、このようなケースでは「遺言そのものは有効であるが、次男と三男は『自分にも最低限の財産を分けてほしい』と主張できる」という扱いになります。
具体的には、亡くなった人とごく近しい関係にあった人(配偶者や子供、父母など)には「遺留分(いりゅうぶん)」という権利が認められていますから、その権利に基づく請求が認められるのです。
上のケースでは、遺言によって遺産を手に入れた長男に対して、遺留分の権利者である次男と三男が、遺産の一部を渡すように請求を行うことになります。
遺留分とは
遺留分とは、簡単に言うと「亡くなった人と近い関係にあった人が、最低限の遺産分割を受けることができる権利」のことをいいます。
遺留分が認められるのは以下のような人たちです。
- 亡くなった人の配偶者
- 亡くなった人の子供
- 亡くなった人の父母
一方で、亡くなった人の兄弟姉妹は遺留分を持たないので注意しておきましょう。
遺留分の割合
問題は、「遺留分が認められる場合に、いくらぐらいの財産を受け取ることができるのか?」ですが、これは誰が遺留分を請求するのかによって、以下のように計算します。
- 配偶者のみ :遺産全体の2分の1が遺留分
- 子のみ :遺産全体の2分の1が遺留分
- 父母のみ :遺産全体の3分の1が遺留分
- 配偶者+子 :遺産全体の2分の1が遺留分
- 配偶者+父母:遺産全体の2分の1が遺留分
- 配偶者+兄弟:遺産全体の2分の1が遺留分
父母が遺留分請求者となる場合のみ、遺産全体の3分の1に遺留分が認められる点に注意しておきましょう。
遺留分請求者が複数人いる場合の分割割合
また、遺留分請求者が複数人いる場合には、遺留分として取得した割合を法定相続分で分け合うことになります。
例えば、配偶者と子供2人(長男と次男)が遺留分を請求する場合には、遺産全体の2分の1を以下のように分け合います。
- 配偶者:遺留分2分の1×法定相続分2分の1=遺産全体の4分の1
- 長男 :遺留分2分の1×法定相続分2分の1÷2人=遺産全体の8分の1
- 次男 :遺留分2分の1×法定相続分2分の1÷2人=遺産全体の8分の1
また、配偶者と父の2人が遺留分を請求する場合には、遺産全体の2分の1を以下のように分けることとなります。
(この場合の配偶者の法定相続分は3分の2、父は3分の1となります)
- 配偶者:遺留分2分の1×法定相続分3分の2=遺産全体の6分の2
- 父 :遺留分2分の1×法定相続分3分の1=遺産全体の6分の1
②遺言書が存在しない場合は法定相続分で分割を行う
遺言書が存在しない場合には、法律で定められた遺産分割の割合(これを法定相続分と呼びます)によって遺産分割を行うことになります。
法定相続分を知るためには、まずは「誰が相続人となるのか」を確定する必要があります。
相続人が確定したら、その人たちの間でどのように遺産分割を行うのかを決めます。
※こうした一連の話し合いのことを、遺産分割協議と呼びます。
誰が相続人となるのかを確定する
相続人となる人は、亡くなった人との関係性の近さによって、以下のような順位で決まります。
- 第1順位:亡くなった人の子
- 第2順位:亡くなった人の父母
- 第3順位:亡くなった人の兄弟姉妹
※なお、亡くなった人の配偶者はその他の人たちと共同して常に相続人となりますから、順位という考え方はありません。
上の順位の人がいる場合には、下の順位の人は相続人とはなれません。
例えば、亡くなった人に子供と父親がいる場合には、第1順位である子供が相続人となり、第2順位である父親は相続人とはなりません。
また、亡くなった人に父親と弟がいる場合には、第2順位である父親が相続人となって、第3順位である弟は相続人になれません。
法定相続分で遺産分割を行う
上のような順位に従って相続人を確定したら、次に「誰がどれだけの遺産を相続するのか=遺産分割割合」を決めます。
法律上、遺産分割の割合は以下のように定められています。
- 配偶者と子供が相続人となる場合:配偶者2分の1・子供2分の1
- 配偶者と父母が相続人となる場合:配偶者3分の2・父母3分の1
- 配偶者と兄弟が相続人となる場合:配偶者4分の3・兄弟4分の1
なお、同順位の人が2人以上いる場合には、その人たちの遺産分割割合は平等となります。
例えば、遺産が3億円で、相続人として妻と父母の合計3人がいるという場合、以下のように遺産分割を行います。
- 妻の相続割合:3億円×3分の2=2億円
- 父の相続割合:3億円×3分の1÷2人=5000万円
- 母の相続割合:3億円×3分の1÷2人=5000万円
遺産分割協議がまとまらない場合の対策方法
法律上、遺産分割の割合は上のようにルールが決まっていますが、相続人どうしでの話し合いがどうしてもまとまらないことも考えられます。
このような場合には、家庭裁判所に間に入ってもらって遺産分割を行ってもらうことが可能です。
具体的には、家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てを行い、裁判官が提案してくれる遺産分割の方法に従うという形になります。
また、遺産分割調停で裁判官が提案した分割案に同意できない場合には、さらに「遺産分割審判」という手続きに進むことできます。
遺産分割調停では、最終的に裁判官が下す審判に強制力が生じますから、不満がある場合にもその内容に従う必要があります(審判に対しても即時抗告という不服申し立てを行うことができますが、さらに上級での裁判所で審理が行われ、最終的な判断が出されることになります)
法定相続分での分割が難しい場合の解決法
上でも見たように、法定相続分では「兄に2分の1・弟にも2分の1」というようにごく大まかな割合しか定められていません。
遺産がすべて現預金である場合にはこうした形での分割も問題ありませんが、遺産がさまざまな形で存在している場合には、だれがどの遺産の所有者となるのかを話し合いによって決める必要があります。
相続割合の確定は遺産分割協議によって行う
この話し合いのことを遺産分割協議と呼び、相続人となる人全員が参加し、最終的に遺産分割協議書という書類に合意内容をまとめることになります。
いったん成立した遺産分割協議書は、相続人全員の同意がない限りは撤回できないので注意が必要です。
また、作成した遺産分割協議書は、相続登記や銀行口座の解約などの場面で必要となりますから、相続人全員の分を作成して大切に保管しておかなくてはなりません。
土地や建物の分割方法について
また、土地や建物といった不動産では、分割が物理的に難しくなるのが一般的です。
不動産の遺産分割においては、以下のような方法によって遺産分割を行うことが可能です。
- ①現物分割
- ②換価分割
- ③代償分割
- ④共有分割
それぞれの分割方法の内容について、順番に見ていきましょう。
①現物分割
現物分割とは、「1つの所有物に、1人の所有者を定める」というもので、もっとも原則的な遺産分割方法です。
例えば「土地Aについては長男が、土地Bについては次男が相続する」といったように、複数の対象物にそれぞれ1人の所有者を決めます。
上のケースでいえば土地Aと土地Bとがほとんど同じ価値を持つ場合には平等な遺産分割を行うことができますが、そうでない場合には別の方法を検討する必要があります。
②換価分割
換価分割とは、遺産を売却して現金に換え、その現金を相続人で分け合う方法をいいます。
例えば、長男と次男で土地A1億円、土地B5000万円を相続するという状況で、現物分割を選択すると相続分に大きな不平等が生じてしまうとします。
土地Aと土地Bで合計1億5000万円を長男と次男の2人で分けますから、両者が7500万円ずつ相続できれば平等といえます。
そこで、例えば土地Aは売却して現金1億円に換え、長男が土地Bに加えて現金2500万円、次男は現金のみ7500万円を相続するとすれば、平等な形で遺産分割を行うことが可能となります。
このように、遺産の一部(または全部)を現金に換えて分割する方法のことを、換価分割と呼びます。
③代償分割
代償分割は、相続人の中の一人が土地等を現物で相続し、他の人に対してお金を払うという形で遺産分割を行う方法をいいます。
例えば、遺産として土地1億円だけが残されており、これを長男と次男の2名で相続する状況だったとします。
土地は先祖代々受け継いできている財産であるために、換価分割を選択することが難しかったとしましょう。
このような場合に、土地1億円は長男が現物で相続するとともに、長男が自分のポケットマネーから次男に対して現金5000万円を支払うとすれば、平等な遺産分割とすることが可能です。
こうした遺産分割の方法を代償分割と呼びます。
代償分割の問題点とトラブル事例
代償分割は、比較的柔軟なかたちで遺産分割を行うことができるために用いられることが多い方法です。
ただし、上のケースで長男自身に財産がない場合には代償分割を選択することはできません。
また、「遺産分割が完了した後に代償となる財産の受け渡しを行う」という取り決めをした場合に、結局受け渡しが行われないといったトラブルが生じる可能性があることに注意が必要です。
④共有分割
共有分割は、「1つの財産の上に、複数人の所有者が存在する」という形で遺産相続を行う方法です。
それぞれの相続人は「長男は土地Aに対して2分の1、次男も2分の1の持ち分を持つ」といったように共有持ち分が設定されます。
(持ち分に関する情報は登記簿謄本にも表示されます)
一見、現物分割が難しい財産でも平等な形での遺産分割が可能なように感じますが、共有分割による遺産分割には様々な問題点があります。
そのため、実務では「他の分割方法が選択できない場合の、最後の手段」という位置づけがされることが多いです。
共有分割の問題点
具体的には、共有分割を選択すると、財産に関する法律関係が複雑になってしまうことが考えられます。
共有とされた財産を売却するためには、共有持ち分を持つ人全員の同意が必要となりますから、1つの財産の上に3人・4人…と多くの所有者がいる場合には、取引の相手方としては「誰と取引のやり取りをしたらいいのかわからない」という不安を与える可能性があります。
(ある人は「売ってもいい」といっているが、もし他の人に秘密で言っていることだったとしたら、後から取引がなかったことになるかもしれません)
また、共有者の中で相続が発生した場合には、共有持ち分を持つ人がさらに増加してしまう可能性があります。
例えば、1つの土地に長男・次男・三男の共有持ち分を持つ人がおり、長男と次男が亡くなってそれぞれの子供3人が持ち分を相続した…という状況になった場合には、共有持ち分を持つ人が合計で7人にもなります。
これを放置すると、世代を経れば減るほど持ち分を持つ人が増え、財産の処分を行うことが非常に困難になってしまうことも考えられます。
まとめ
今回は、遺産相続の割合に関する法律のルールについて解説いたしました。
相続に関するトラブルの多くは、遺贈の間で遺産分割割合に不公平感が生じることが原因となっています。
本文でも見たように、法律のルールに従って遺産分割を行うと、一見すると公平なようでかえって大きな問題を生みかねません。
(おさらいすると、法律のルールは「兄に2分の1・弟に2分の1」というように、極めて抽象的であいまいな内容となっていますから、実際には割合で分けるのが難しい遺産がある場合に不公平な結果となりがちです)
将来的な相続問題に備えるのであれば、財産を残す人が遺言によって遺産分割の方法を具体的に指定しておくことが有効です。
遺言の作成については、弁護士や司法書士といった法律の専門家からアドバイスを受けることができますので、ぜひ相談を検討してみてください。