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外貨預金やFXなどで為替取引を行う際には、今後、円安に進むのか円高に進むのかが大きく結果を左右します。できるだけ正確に先の動きを読むために、考慮しておきたいのが消費税の増税です。
これまでの過去3回の消費税増税時は、その値動きの幅に差はあれ、等しく円安が進行しています。今回も消費税が増税されることで、再び円安に向かうことが予想されているのですが、どうして増税によって円安が進むのでしょうか。
そこで、消費税増税と円安の関係を過去の現象を参考に検証していきます。今後の為替取引のタイミングを計る参考にしてみて下さい。
過去3回の消費税増税
今回の消費税増税は、消費税開始を1回目とした場合に、4回目の増税になります。まずは、過去3回の消費税増税の経済状況を軽く振り返ってみましょう。
1回目の消費税
最初に消費税が導入されたのは、1989年4月で税率は3%でした。
平成が始まった年
1989年は平成が始まった年でもありました。当時の経済の動きを簡単に復習しておきたいと思います。
当時の日本は、バブル経済の真っただ中にあり、その年の12月末には日経平均株価はこれまでで最高値の38,985.87円を記録しています。
バブル景気
では、ここでバブル景気について軽くご説明しておきます。
特に、東京都内の地価は異常なほどに上昇して、一時は23区の土地価格でアメリカ全土が買えるといわれるほどの高値をつけました。
1991年以降はバブルは崩壊し、一気にこれまで高騰していた資産の価格が暴落していきます。
2回目の消費税増税
2回目の消費税増税は1997年4月で税率5%です。
景気は減速局面に
1991年からバブルが崩壊してから国内の経済は減速を続け、1990年代はかなり深刻な不景気に直面していました。1997年はアジア通貨危機が起きた年でもあります。
日本の経済成長率は1997年は-0.7%、1998年度は-1.9%にまで落ち込みます。バブル崩壊から破綻した金融機関も多く、多くの銀行が不良債権を抱え込み資金繰りに苦しんでいた時代です。
1990年代~2000年代初頭までの期間は平成不況ともいい、日本経済の低迷期間となります。
3回目の消費税増税
そして、3回目の消費税増税は2014年4月で税率8%にまで引き上げられます。
リーマンショックからの回復
2003年後半から、徐々に経済は回復期に入り2007年までは堅調な成長期にありました。
ところが、2008年には世界的な経済恐慌リーマンショックにより、急速な景気後退に陥り、経済は世界的な規模で落ち込みました。
2014年はちょうど、そのリーマンショックから回復しようとしている時期にあたります。
増税後は円安が進む?
消費税が増税された時期の経済的な背景を簡単に確認したところで、実際にドル円の為替レートがどのように動いているのかを見ていきたいと思います。
消費税とドル円相場
1回目の消費税と為替レート
では、最初に消費税が初めて導入された1989年の為替チャートを見てみましょう。
※1989年(消費税導入 税率3%)
1989年1月のドル円相場は125円/1ドル、増税時まで132円/1ドルまで円安が進んでいます。
それから、5月~6月にかけて133円/1ドルから150円/1ドルまで円安が進み、約1カ月で17円もドルが値上がりしています。
その後12月末まで140円代をキープしています。
約13カ月後には・・・
約1年で見ていくと、1990年4月までの13カ月間で、円相場は159円まで上昇しており、約20%円安が進んだことになります。
2回目の消費税増税の為替レート
次に1997年、2回目の消費税増税時のドル円相場を見てみましょう。
※1997年(消費税5%に増税)
1997年度1月から増税時4月にかけては、117円/1ドルから125円/1ドルまで円安が進行しています。
増税後にドル円相場は約1カ月間は急激な円高に向かいます。一旦6月には、114円まで円高が進みますが、その後は一気に円安に向かっていきます。
約16カ月後には・・・
増税から16カ月後、1998年7月には145円まで円安が進み、約17%上昇しています。
3回目の消費税増税時の為替レート
それでは、次に3回目の消費税増税時のドル円相場を確認していきましょう。
※2014年(消費税8%に増税)
3回目の増税時のドル円相場は、これまで2回の増税時に比べると直後の動きは乏しくなります。
2014年1月に105円/1ドルだった為替レートは増税直後には若干円高の102円前後で3~4カ月推移していきます。3か月後の7月には101円代まで円高が進んだ場面も見られました。
しかし、8月に入ってからはドル円相場は円安に転じていきます。9月には107円/1ドル、10月110円と円安が進み、12月には119円まで上昇します。
約14カ月後には・・・
約14か月後の2015年5月には124円まで円安が進行し、約20%程度上昇したことになります。
※為替情報サイト、為替ラボでは、1970年から年代別のドル円相場がチェックできます。ぜひ、為替相場を研究する際に活用して下さい。
※また、円高円安について基礎的なことから学びたい人はこちら。
増税後に円安が進むのはなぜ?
というように、過去3回の増税後は、直後の動きに差はありますが、円安が15%~20%ぐらい進んでいます。
もし、これまでの通りの増税時の円安進行率をそのまま適用するとすれば、2019年度10月の消費税増税後にも円安が約15%~20%まで進む可能性があるということになります。
実際のところ、どうなのかを検証していくために、過去の増税局面における経済事情を掘り下げていきたいと思います。
増税時に見られる共通点
増税後に円ドル相場が円安に向かいやすい傾向として、まず、根本的な増税による経済効果を考えていきましょう。
物価が上昇すると円安になる
消費税が増税されると、
物価が上昇します→物価上昇することで通貨の価値が下がります。
国内の通貨の価値が下がることで→対ドルでの円の価値が下がります。
対ドルで円の価値が下がるということは→円安になるということです。
過去3回の増税時は共通して消費者物価指数が1~3%上昇しています。この、消費者物価指数を後から追いかけるように円安が進行しています。
政策金利が低下しやすい
消費税増時に見られる共通点のもう1つは、政策金利が低下する傾向にあるということです。
物価が上昇すれば、政策金利から物価上昇率を引いて求められる実質金利が低下します。実質金利が低下することが、通貨の価値が下がる原因の1つになります。3回の増税時には共通して実質金利低下とともに円安が進行しているのです。。
増税のタイミング
また、もう1つ増税が円安に向かう理由としては、消費税の増税のタイミングを考えてみることができます。
消費意欲低下の恐れが大きい時に増税すれば、不景気を悪化させてしまいます。増税はただでさえ、私達消費者の生活に不安を与えてしまうものです。それなりに、景気が前向きになると見込めるタイミングが計られているということです。
過去3回の増税のタイミング
1回目消費税導入時は、バブル期のピークにあり、政府の財政案や日銀の金融緩和によって、最も最長期だといわれる1990年に突入する前のことでした。
2回目の増税時は、深刻な不況、長引く円高の状況にありつつも、アメリカのドル政策によってちょうど円ドル相場が反転しようとしている時でした。
そして3回目の増税のタイミングは、リーマンショックからアベノミクス政策によって、景気反発を迎えようとしているところでした。
増税は好景気のサイン?
つまり、経済の見通しが良くなるという見込みがなければ増税は実施されない、ということです。円安はある意味、日本経済にとっては好景気のサインでもあります。
従って、増税が実施されるということは、好景気を見込んでいる=円安を見込んでいるからだともいえるのです。
※過去に増税が見送られる理由となったリーマンペーパーに関する記事が以下からご覧いただけます。
※資産運用・投資をするなら覚えておきたい消費者物価指数についてはこちらを参考にしてみて下さい。
今回の消費税増税
そして、今回4回目の消費税増税で、税率10%になります。今回は間違えなく実施に向かうのでしょうか。
実は、この税率10%の実施はすでに2回見送られていることを先に述べました。税率10%の増税が2回見送られた理由を解説していきます。
税率10%が見送られた理由
景気後退が懸念
税率10%が見送られた一番の理由は、消費税8%の増税後に消費が大きく落ち込んだことから、増税による景気後退が懸念されたからです。
通貨の価値が上がると、円高が進み輸出業で成り立つ日本経済は打撃を受けてしまいます。株式市場が低迷するなど、さらに景気を悪化させてしまいます。
世界経済への懸念
また、もう1つの理由としては当時の世界経済の動向が過去の経済恐慌となったリーマンショックを思わせていたからです。
これは、リーマンペーパーとも呼ばれるもので、当時の金融市場の動きがリーマンショックが起きる前の状況に似ていることが、政府によって指摘されていました。
そのような状況の中で、増税を行うのはリスクが高すぎるというわけです。
消費税増税は決定?
2019年5月現在においては、よほどのことが起きない限りは消費税10%は実施される予定です。
2019年4月頃には「5月の日銀短観の内容次第では、消費増税の延期もあり得るのでは」という声も聞かれていましたが、政府側は「安易財源の確保が今は必要である」と表明し、消費税増税に対する明確な意向を示しています。
おそらく、現時点では増税10%への引き上げはほぼ確実だといえるでしょう。
景気減速の予防策
景気減速への予防策として、
- 軽減税率制度の導入
- 住宅や自動車購入時の減税措置
- 年金生活者支援給付金
- 幼児教育・保育の無償化
- 増税にともなう政府のポイント還元
などと対策が整えられています。
今回の増税後に円安は進む?
今回、10%に消費税が増税された場合、これまでと同様に円安に進む確率は高いといえますが、過去の増税時の状況とはやや異なる要素がいくつかあります。
その異なる要素とは何なのかを解説していきましょう。
すでに円安傾向にある
2019年の1月初旬に一時的に円高ドル安に陥った局面がありましたが、基本的にドル円相場は現在すでに円安傾向にあります。
消費税導入時の1989年は、1985年のプラザ合意を受けて円高不況に陥った後のことでした。ですので、円高から円安に向かった時の値幅が大きくなりました。
また、2回目増税時の1997年でもちょうど円高から反発し始めた過程での増税でした。同様に2014年もリーマンショックによってドルは史上最安値の記録を更新した後だったのです。
現在は、日米の貿易摩擦によってドルの動きに見通しがつかない部分もありますが、中長期的に見た場合は円安に位置しています。ここから、果たしてどれくらいの円安が進むのか、その値幅に限界があるともいえるでしょう。
軽減税率による影響
また、今回は初めて国内で軽減税率制度が適用されることになります。対象となるのは、定期購読の新聞と店内飲食・ケータリング以外のすべての飲食料品です。
これらの、消費に関してはそのまま税率8%が適用されますので、全体的な物価上昇率や従来よりも低くなると見ることができます。
政府のポイント還元
ただ、物価上昇率はやや従来より低めであることが予想される代わりに、消費全体は増加することが期待できます。
それは政府が増税による消費意欲の低下を避けるために実施するポイント還元です。対象となるのはキャッシュレスで支払われるすべの消費です。増税と同時に実施される予定で、このポイント還元がつく期間はむしろ消費が活発になることが期待されています。
ということは、物価の上昇とそれに伴う円安が従来通りに期待できる可能性もあるということです。
東京オリンピック
そして、ドル円相場に大きな影響を与えると言われているのが2020年の東京オリンピックです。
増税のタイミングはまさに、この東京オリンピックを間近に控えた時期に実施されます。従って、増税による景気後退のリスクはオリンピックによる経済効果から緩和することが可能になります。
東京オリンピックがなければ、また増税は延期になっていたかもしれません。
東京オリンピックは世界的な巨大イベントで、国内の景気が良くなることが期待できます。好景気とともに円安に向かいますが、オリンピックの需要から円を購入する人が増えるため、円高圧力も同時に避けることはできないでしょう。
増税後の円ドル相場は・・・
以上3つの項目から考えてみると、10月の増税後には円安に進む可能性が高いけれど、15%を超えるほどには至らないといえるでしょう。
おそらく、10%前後の円安上昇が期待できるのではないでしょうか。現在110円/1ドルとして考えれば、121円前後で円安が進むだろうと予想します。
※FXで1万円を100万円にする方法が以下からご覧頂けます。
※ドル円相場から見る世界経済~今後の値動きに関する記事も参考にしてみて下さい。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、消費税が増税されると円安に進みやすいことを過去の事例を挙げて検証していきました。初回の消費税導入時を1回目と数え、2回目の消費税増税、3回目の消費税増税の経済的な背景や為替レートの動きを見ていきました。
2019年10月には4回目の消費税増税が実施されます。今回の増税においても、リーマンショックなみの経済恐慌がない限りは、一時的に消費動向が低下することはあっても、円安に向かう確率は高いでしょう。
万が一の場合を考えて、極力、円が高くなったタイミングでドルを購入しておくことが、安全策だといえます。幸か不幸か、今は貿易戦争の影響から、ドル安の局面が不意に訪れる可能性があります。
増税後の円安に備えて、不意に訪れるかもしれないドル安時を狙ってドルを購入しておけば、思った以上の利益が期待できるかもしれません。