より高い節税効果を得るために重要な所得控除の仕組みを解説

節税対策を考えていくうえで、何をするとより高い節税効果を見込むことが出来るのだろうか?と日々考えているところが多いかと思いますが、実際のところ、収入は増やしたいけど、支出は少なくしたいというのは、誰もが持っている共通認識です。

節税を考えるうえで、皆さんがよく勘違いされていることに「所得控除が増えれば税金が戻ってくる」といったことがあります。実は、これは間違いで、正しくは「所得控除が増えると、税金が0になる可能性はあるが、払いすぎた税金が戻ってくることはありません」ということで、税金が戻ってくる可能性があるのは「税額控除」が増えた場合ということになります。

節税を考えていくうえで、たしかに所得控除を増やすことは重要なのですが、何でもかんでも所得控除として計上することが出来るわけではありません。そのため、1円でも多くの所得控除を計上することで、払うべき税金を少なくする方法を身に付けていくことが大切になります。

では、実際に所得控除について、より具体的に見ていくことで1円でも多く節税することにつなげるために必要なことを見ていきます。

1.所得控除とは?

所得控除とは、所得税額の計算を行う際に、各納税義務者の個人的事情を加味するために行われるものです。

具体的な計算の流れとしては、合計所得金額から、7種類の物的控除と7種類の人的控除の計14種類の区分に分けられた所得控除額の合計額を控除することで、課税所得金額を算出する流れとなります。

2.物的控除

(ア)雑損控除

雑損控除とは、納税者や配偶者、その扶養親族の人が保有している資産が、災害等によって損害が生じた場合に、その損害金額の一部の金額について所得控除ができる制度です。雑損控除は、年末調整ができない所得控除のため、確定申告において、所得控除の申請を行わなければなりません。

【雑損控除の対象となる資産】

雑損控除の対象となる資産とは、以下のいずれにも該当しない資産であることとされています。

・棚卸資産

・事業用固定資産等

・生活に通常必要でない資産(※)

(※)生活に通常必要でない資産とは?(参照):国税庁 タックスアンサーより

趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で保有する不動産(平成26年4月1日以後は同じ目的で保有する不動産以外の資産(ゴルフ会員権など)も含まれます。)や貴金属(製品)や書画、骨董など1個又は1組の価額が30万円超のものなど生活に通常必要でない動産をいいます。つまり、趣味や娯楽等の目的で保有する建物等や生活に必要としない高価なものについては雑損控除の趣旨にそぐわないため、除外されています。

棚卸資産や事業用固定資産等に対する損失については、基本的に事業所得の必要経費として算入することができるものであるため、雑損控除として計上することが望ましくないと考えられるためです。

【雑損控除の金額】

雑損控除の金額は以下のいずれかのうち、いずれか大きい金額となります。

①差引損失額(注1)ー総所得金額×10%

②災害関連支出額(注2)ー5万円

(注1)差引損失額=損害金額+災害関連支出額-保険金などにより補てんされる金額

(注2)災害により損害を受けた住宅や家財の取壊し・撤去費用や、盗難や横領により損害を受けた資産の原状回復費の金額

【申告の際に必要な書類】

雑損控除の適用を受けようとする場合には、「災害等に関連したやむを得ない支出の金額の領収書等」の添付が必要になります。また、給与所得のある方は、このほかに給与所得の源泉徴収票(原本)を申告書に添付してください。(年末調整では、雑損控除の申告はできないため)

(イ)医療費控除

医療費控除は、その年度に支払った医療費の金額に応じて所得控除の金額が決定します。なお、医療費控除については年末控除が行われないため、確定申告を行うことで医療費控除の申請を行うことになります。なお、平成29年分から令和3年分については、医療費控除とは別にセルフメディテーション税制という制度による所得控除制度が期間限定で設けられています。

【医療費控除の金額】

医療費控除の金額=医療費の金額ー保険金等による補てん金額ー合計所得金額×5%(最大で10万円)

【セルフメディテーション税制とは】

平成29年度分から令和3年度分の所得税の計算において、医療費控除の特例として、健康診断や予防接種など、健康の維持増進や疾病への予防など一定の取り組みを行っている方が、制度の対象となる医薬品等を1年間に1万2千円を超えて購入した場合には、8万8千円を限度として購入した金額の一部を所得から差し引くことがでる制度となります。

市販されている医薬品などのパッケージ等に「セルフメディテーション税控除対象(こんなマークです。セルフメディケーション税制 共通識別マーク)」といった表示がされている物やドラッグストア等で買い物をした際にレシートにセルフメディテーション税制対象商品に記号が付けられていたりしているものがあります。

なお、セルフメディテーション税制は医療費控除の特例という位置づけであるため、どちらかを選択して所得控除の適用を受けることになります。つまり、セルフメディテーション税制対象の医療費については、医療費控除の対象にもなるため、どちらか有利な方を選択して確定申告を行う必要があるということになります。

【医療費控除の申告の際に必要な書類】

従来までは医療費の領収書を添付する必要があったため、人によっては非常に膨大な量の領収書を添付することになることもありましたが、平成29年度分からは領収書の添付が不要となり、その代わりに、医療費の領収書から「医療費控除の明細書」を作成し、確定申告書に添付しなければならなくなりました。

セルフメディテーション税制対象の場合は、以下の書類を添付する必要があります。

セルフメディケーション税制の明細書

②セルフメディケーション税制の適用を受ける人がその適用を受けようとする年分に、一定の取組を行ったことを明らかにする書類

(ウ)社会保険料控除

社会保険料控除とは、その年度において支払った社会保険料(健康保険や国民年金などの保険料)の金額を全額所得控除として控除することが出来るものです。

社会保険料控除に含まれるものとしては、以下の通りです。(参照)国税庁 タックスアンサー NO1130「社会保険料控除」

  1. 健康保険、国民年金、厚生年金保険及び船員保険の保険料で被保険者として負担するもの
  2. 国民健康保険の保険料又は国民健康保険税
  3. 高齢者の医療の確保に関する法律の規定による保険料
  4. 介護保険法の規定による介護保険料
  5. 雇用保険の被保険者として負担する労働保険料
  6. 存続国民年金基金の加入員として負担する掛金
  7. 独立行政法人農業者年金基金法の規定により被保険者として負担する農業者年金の保険料
  8. 厚生年金基金の加入員として負担する掛金
  9. 国家公務員共済組合法、地方公務員等共済組合法、私立学校教職員共済法、恩給法等の規定による掛金、納付金又は納金
  10. 労働者災害補償保険の特別加入者の規定により負担する保険料
  11. 地方公共団体の職員が条例の規定によって組織する互助会の行う職員の相互扶助に関する制度で、一定の要件を備えているものとして所轄税務署長の承認を受けた制度に基づきその職員が負担する掛金
  12. 国家公務員共済組合法等の一部を改正する法律の公庫等の復帰希望職員に関する経過措置の規定による掛金
  13. 健康保険法附則又は船員保険法附則の規定により被保険者が承認法人等に支払う負担金
  14. 租税条約の規定により、当該租税条約の相手国の社会保障制度に対して支払われるもの(我が国の社会保障制度に対して支払われる当該租税条約に規定する強制保険料と同様の方法並びに類似の条件及び制限に従って取り扱うこととされているものに限ります。)のうち一定額

【社会保険料控除の適用を受けるときに必要な書類】

国民年金の保険料及び国民年金基金の掛金に係る社会保険料控除の適用については、その保険料又は掛金の金額を証する書類を添付する必要があります。

(エ)小規模事業共済等掛金控除

小規模事業共済掛金控除等とは、小規模企業共済法に規定された共済契約に基づく掛金等を支払った場合に、その掛金の全額を所得控除として所得金額から控除することが出来るものです。

【小規模事業共済等掛金控除に含まれるもの】

  1.  小規模企業共済法の規定によって独立行政法人中小企業基盤整備機構と結んだ共済契約の掛金
  2.  確定拠出年金法に規定する企業型年金加入者掛金又は個人型年金加入者掛金
  3.  地方公共団体が実施する、いわゆる心身障害者扶養共済制度の掛金

小規模事業共済等掛金控除の適用を受ける際に必要な書類】

支払った掛金の証明書を確定申告書に添付する必要があります。

(オ)生命保険料控除

生命保険料控除とは、その年度において支払った生命保険の保険料を所得控除として控除することが出来るものです。

【生命保険料控除の金額】

生命保険の種類によって生命保険の保険料・個人年金の保険料・医療保険等の保険料の3つの区分に分けられており、それぞれの区分ごとに以下の表の計算式に従い、最大で4万円とされています。なお、平成23年12月31日以前に契約した生命保険の保険料については、生命保険の保険料と個人年金の保険料の2つの区分に分かれており、それぞれ以下の表に応じた金額が所得控除として計算されます。

(平成24年1月1日以降に契約した生命保険の場合)

保険料の支払総額 生命保険料控除の金額
20,000円以下 支払った保険料全額
20,000円超40,000円以下 支払保険料×1/2+11,000円
40,000円超80,000円以下 支払保険料×1/4+20,000円
80,000円超 一律40,000円

(平成23年12月31日以前に契約した生命保険の場合)

保険料の支払総額 生命保険料控除の金額
25,000円以下 支払った保険料全額
25,000円超55,000円以下 支払保険料×1/2+12,500円
55,000円超100,000円以下 支払保険料×1/4+25,000円
100,000円超 一律55,000円

(カ)地震保険料控除

地震保険料控除は、地震保険料を支払った場合にその支払った金額が全額所得控除として計上されます。(最大で5万円まで)

(キ)寄付金控除

寄付金控除とは、国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対し、「特定寄附金」を支出した場合に、その支出した金額が所得控除として計上することが出来ます。

【寄付金控除の対象となる寄付金とは?】

  1. 国、地方公共団体に対する寄附金(寄附をした人に特別の利益が及ぶと認められるものを除きます。)
  2. 公益社団法人、公益財団法人その他公益を目的とする事業を行う法人又は団体に対する寄附金のうち、一定のもの など

【寄付金控除の金額】

寄付金控除の金額は、以下のいずれか低い金額となります。

  1. その年に支出した特定寄附金の額の合計額-2,000円
  2. その年の総所得金額等の40%相当額ー2,000円

【寄付金控除の適用を受ける際に必要な書類】

寄附した団体などから交付を受けた寄附金の受領証(領収書)又は電磁的記録印刷書面(電子証明書に記録された情報の内容と、その内容が記録された二次元コードが付された出力書面をいいます。)など

3.人的控除

(ク)配偶者控除

配偶者控除は、税法上の控除対象配偶者がいる場合に所得控除を控除することが出来ます。

【控除対象配偶者の要件】

  1. 納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下であること
  2. 納税者と生計を同じくしていること
  3. 配偶者の合計所得金額が38万円以下であること
  4. 事業専従者でないこと

【配偶者控除の金額】:平成30年4月1日時点

控除を受ける納税者本人の
合計所得金額
控除額
一般の控除対象配偶者 老人控除対象配偶者
900万円以下 38万円 48万円
900万円超950万円以下 26万円 32万円
950万円超1,000万円以下 13万円 16万円

(ケ)配偶者特別控除

配偶者特別控除は、配偶者の合計所得金額が38万円超となるため、配偶者控除の適用を受けることが出来なかった場合に、配偶者控除の代わりに控除することが出来る所得控除です。

【配偶者特別控除の金額】

控除を受ける者の合計所得金額
900万円以下 900万円超
950万円以下
950万円超
1,000万円以下









38万円超 85万円以下 38万円 26万円 13万円
85万円超 90万円以下 36万円 24万円 12万円
90万円超 95万円以下 31万円 21万円 11万円
95万円超 100万円以下 26万円 18万円 9万円
100万円超 105万円以下 21万円 14万円 7万円
105万円超 110万円以下 16万円 11万円 6万円
110万円超 115万円以下 11万円 8万円 4万円
115万円超 120万円以下 6万円 4万円 2万円
120万円超 123万円以下 3万円 2万円 1万円

(コ)扶養控除

扶養控除は、納税者の控除対象扶養親族の人数に応じて所得控除の金額が決まります。

【控除対象扶養親族の範囲】

控除対象扶養親族とは、その年の12月31日時点において、以下のいずれにも該当しない者を言います。

(1) 配偶者以外の親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族をいいます。)などであること

(2) 納税者と生計を一にしていること。

(3) 年間の合計所得金額が38万円以下であること。(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)

(4) 事業専従者でないこと

【扶養控除の金額】

区分 控除額
一般の控除対象扶養親族(16歳以上の者) 38万円
特定扶養親族(19歳以上23歳未満の者) 63万円
老人扶養親族(70歳以上の者) 同居老親等以外の者 48万円
同居老親等(※4) 58万円

(サ)障害者控除

障害者控除は、納税者本人または同一生計配偶者又は扶養親族が所得税法上の障害者に当てはまる場合に、27万円(特定障害者である場合は40万円、同居特別障害者の場合は75万円)が支給されます。

(シ)勤労学生控除

【勤労学生の範囲】

その年度の12月31日時点において、以下のいずれにも該当する場合です。

  1. 給与所得などの勤労による所得があること
  2. 合計所得金額が65万円以下で、かつ、勤労に基づく所得以外の所得が10万円以下であること
  3. 特定の学校の学生、生徒であること

【勤労学生控除の金額】

27万円

(ス)寡婦(夫)控除

【寡婦(夫)の要件】

  1. 配偶者と死別し、若しくは配偶者と離婚した後婚姻をしていない人、又は配偶者の生死が明らかでない一定の人で、扶養親族がいる人又は生計を一にする子がいる人です。この場合の子は、合計所得金額が38万円以下で、他の人の同一生計配偶者や扶養親族となっていない人に限られます。
  2. 配偶者と死別した後婚姻をしていない人又は配偶者の生死が明らかでない一定の人で、合計所得金額が500万円以下の人です。この場合は、扶養親族などの要件はありません。

【寡婦(夫)控除の金額】

27万円(特定の寡婦(夫)に該当する場合は35万円)

(セ)基礎控除

一律38万円が所得金額から控除されます。


4.まとめ

所得控除は、その年度に支払った金額によって所得控除の金額が変化する物的控除と年度末(12月31日)時点の状況によって所得控除の金額が決まる人的控除から構成されています。節税対策を考えていくうえで重要なのは物的控除による所得控除です。物的控除は支払った金額が多くなればなるほど所得控除の金額も大きくなるため、いかに少ない所得で、物的控除の金額を多くすることが出来るかということが、節税対策を考えるうえで重要な要素になるものと考えられます。

また、近年大きく改正が行われた配偶者控除・配偶者特別控除については、適用される所得金額の範囲が拡大されたことで、働き方にも大きく影響が出てくるものと考えられますが、他の人的控除などにおける控除対象配偶者・扶養親族については基準は変わらない点にも注意が必要となります。

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