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投資や運用といえば、株式や債券の名が最初に上がると思います。株や債券の特徴をしっかりと理解していれば、たとえ他の金融商品を知らなくても十分運用していけるほどです。ここで株や債券の基本を今一度おさらいしましょう。
株と債券の根本的な違い
債券とは、自由に売買できる借用証書のこと。株式とは、会社のオーナーとしての権利を示す証券のことです。
- 企業の債券を買う=企業にお金を貸してあげること
- 企業の株式を買う=企業のオーナーになること
これが株式と債券の根本的な違いで、重要なポイントになります。
債券というのは、結局のところ借金ですから、企業の業績に関係なく、約束していた返済日がきたら、企業はきちんとお金を返さなければなりません。例えば、償還日が3年後、年利率が3%の社債を100万円ぶん購入したとすると、毎年3万円ずつのクーポン(利息のこと)が毎年支払われ、3年後に100万円が返還されて、合計で109万円になるはずです。万が一、会社が倒産したりしたら、お金が返ってこないこともあり得ますが、それでも株式と比べると、債券はお金を回収できる確率が高くなります。
では、株式はどうでしょうか。株式を買って株主になるということは、会社のオーナーの一員になるということであり、会社にお金を貸すわけではありませんので、当然期限がきたら返してもらえるというものではありません。一方、会社が経費や、人を雇って給料を払い、借りたお金の金利を払った後の儲けは、オーナーである株主のものです。
お金を返してもらえる保証はありませんが、会社がなくなった際に、負債を精算した残りの資産から持分をもらえる権利と稼いだ儲けの一部を配当金としてもらい続ける権利がある、というのが債券とは違う株式の特徴です。会社が成長して、利益が増えれば増えるほど、配当金も株式を手放すときの株価もいくらでも増える可能性があります。このような特徴から、株式は債券と比べて、ハイリスク・ハイリターンとなるのです。
債券の特徴
- 債券は借金
- 債券の利益の基本はクーポン(事業が予想よりうまく行っても約束の利率以上支払う必要はない)
- リターンには上限がある
- 元本は基本的に元本のまま返還される
- 会社が倒産した場合、株式より優先的にお金が返ってくる
株式の特徴
- オーナーとしての立場を示す証券
- 会社の利益を受け取る権利を保証するもの
- リターンに上限がない(償還もないので、持ち続けただけ配当金がもらえる、株価も会社が成長した分だけ上がる)
- 借金ではないので、期限などはなく、必ず出資した分が返ってくるというものではない
- 万が一の時は、借金を返して残った分だけが株主のものとなって、最悪何も残らないこともある
- 以上のことから、株式は債券よりもずっと値動きが激しくなる
株式と債券のリターンとリスク
株への投資と債券への投資で、実際にはどのくらいの差があるのでしょうか。一般的には、株式はボラティリティーが高く、ハイリスクハイリターンとなり、債券はボラティリティーが低く、ローリスクローリターンという位置づけになりますが、長期的には株式の方が、債券よりも、トータルリターンが高いという結果が出ています。
これは、過去100年に渡って、米国やオーストラリア、スウェーデンなどの16カ国の金融市場の利回りを比べたところ、全ての国で株式の方が、債券よりも利回りが上回ったからです。このように、結果としては、株式は債券を上回るリターンを得られるわけですが、だからといって株式投資のほうが債券よりも優れた投資手段というわけではありません。
株式の怖さは、やはりそのボラティリティーの高さです。世界恐慌の際には、株価は8割近く下がりましたし、リーマンショックの時も5割近く下がっているわけです。しかも、この際には1カ月や2カ月の短期間ではなく、1年から3年近くに渡って、株価は低迷し、じわじわ資産が減っていく恐怖と戦わなければなりません。結果としては、株式は過去100年間に渡って、成長してきているわけですが、その間には、戦争、インフレーション、景気低迷など様々な出来事があり、その度に投資家をどん底に追い込んできました。
それを乗り切った人たちだけが、株式投資で資産を形成することができるのです。
一方、債券は株式ほどボラティリティーが高くありません。リーマンショックの時、株式は50%近く下げましたが、債券市場の場合は、一時的に5%程度下がっただけです。もちろん、長期債券のようにボラティリティーの高いものもありますが、基本的には株式を上回ることはありません。ローリスクな反面、リターンは、2%〜3%程度とそれほど高くはないのですが、投資メンタルを削ることなく、安定して資産形成を行えるのがメリットの一つです。
キャピタルゲインとインカムゲイン
投資のリターンというのは、キャピタルゲインとインカムゲインに分けることができます。
インカムゲインは、投資期間中に得られる現金収入のことで、株や投資信託の配当収入、債券のクーポンからの収入、不動産の賃貸収入などが含まれます。
一方、キャピタルゲインは、株式や債券などの売却時に得られる差金収入のことで、投資資産を買った時より高い価格で売却できた場合に得られる収入です。
キャピタルゲイン=資産を売買することによって生じる利益
- 株式の売買
- 投資信託
- 不動産の売却益
- 外国為替証拠金取引による利益
インカムゲイン=資産を保有することによって生じる利益
- 株式投資の配当金
- 投資信託の分配金
- 不動産の家賃収入
- 外国為替のスワップポイント
という特徴があります。それと、キャピタルゲインは利益が大きくなりやすい分、利益が出るかは不透明です。一方、インカムゲインは利益はそんなに大きくないですが、安定して確実に収入を得ることができます。
株式や債券の価格はどうやって決まるのか
価格は需給バランスで決まります。株も債券も、絶対的は価格というのはなく、その価格は取引される市場の需給バランスなどで決まります。買いたい人、つまり需要が増えれば価格は上がりますし、売りたい人、すなわち供給が増えれば価格は下がります。これが需給バランスです。
また株式と債券には密接な関係があり、よく「対」で考えられることが多く、景気低迷時や、悪いニュースが出た時なんかは、人々はリスクを少しでも減らそうとして、株式市場から債券市場へお金が流れることがあります。
さらに、債券の場合は、金利が上昇すると、債券価格は下落し、逆に金利が下落すると、債券価格が上昇する傾向があります。では、なぜ金利と債券価格が連動するのでしょうか。
例えば、ある企業Aから、3年後に100円で償還される、利回り年2%の債券が発行されるとします。この債券を10万円分買ったとすると、購入した債券に対して、企業Aから利回り2%の2000円が毎年支払われることになります。この時の日本の金利が1%だったとしたら、銀行に10万円預金しても、毎年もらえる金利は1000円にしかなりません。このような状況下では金利2%の債権というのはなかなか魅力的です。企業Aが3年後もしっかり存続していれば、債券を購入して企業Aに渡した10万円もちゃんと返ってきます。しかし、債券を購入した翌年に日本の金利が2%に上がったとしたらどうなるのでしょう。そうなると、企業Aの債券を購入するリスクを取らなくても、銀行にお金を預けておくだけで、毎年2%の金利がもらえます。当然、企業Aの債券10万円ぶんを誰かに売って、安全な銀行に預金しようとします。しかし、誰かといっても、わざわざ企業Aの債券を買うリスクを負わなくても、銀行に預ければいいのですから買ってくれる人はいません。よって、誰かに購入してもらうには、銀行金利よりも高い利回りで売るしかありません。もし、この毎年2000円という金利を3%にするとしたら、
2000円÷3%=6万6667円
という計算になるので、10万円で買った企業Aの債券を6万6667円で売ることになってしまいます。これが、金利が上昇すると、債券価格が下がる理由です。
一方、株式には償還というものがないので、債券のように価格が決まるわけではありません。この株式をいくらで買うべきか、ということは様々な角度からの見方があり、考え方も人それぞれです。誰も正解を知りませんし、適正価格はありません。
株と債券はインフレーションに強いか?
株と債券の特徴をまとめる下の表のようになります。
株 | 債券 | |
ボラティリティー | 高い | 低い |
金利上昇 | 価格上昇傾向 | 価格下落傾向 |
金利低下 | 価格下落傾向 | 価格上昇傾向 |
インフレ抵抗力 | 強い | 弱い |
返還義務 | 返還義務なし | 満期で償還あり |
満期 | なし | あり |
インカムゲイン | 配当金 | クーポン |
リターンのメイン | キャピタルゲイン | インカムゲイン |
好景気時 | 価格上昇傾向 | 価格下落傾向 |
不景気時 | 価格下落傾向 | 価格上昇傾向 |
ボラティリティーの高さは、価格変動の大きさ=リスクの大きさ=リターンの期待の高さです。金利上昇時、金利低下時には一概にこうとは言えません。一般的には、金利が上昇すると債券価格が下がる傾向があります。これと同じように、金利上昇時には、株価は上がる傾向があるのです。その理由としては、金利が上がるということは好景気であり、企業の売り上げも増えるので、金利が上がると株価も上がるということです。
ですが、これとは逆の動きをする場合もあります。ほとんどの企業は、大なり小なり借金をしています。そうなると、金利上昇は企業にとって借金の利息支払いの増加になり、利益を減少させる要因になるのです。ですから、借金の多い企業の株価が金利上昇時に下がるということはよくあります。
一方、債券も金利上昇時にはいつも債券価格が下がるわけではなく、金利上昇による企業の業績の悪化を懸念して、株式市場から債券市場にお金が流れてきたり、金利が上昇することで、債券を新しく買おうという人が増え債券市場にお金が流入したりして、全体を見ると債券価格がプラスになることもあります。
インフレ抵抗力は株式は強い、債券は弱い、とありますが、なぜ株式はインフレに強いのでしょうか。
例えば、ここに1個100円のモノを、年間1億個売る会社があるとします。この会社の株価は現在1万円で取引されているとしましょう。ここでいきなり、極端なインフレになり、全てのモノの価格が100倍になったとしたらどうなるか。結果は、この会社の利益率も、一株あたりの利益=PERも変わっていませんが、全てのモノの価格が100倍になるのに合わせて、株価も100倍の、100万円になります。株価には利益額が反映される傾向があるので、長期的には、利益率は変わらず年間1億個売るとして、コストも100倍、売り上げも100倍となると、利益額も100倍。となれば、同じPERで計算される株価も100倍になるのです。
一方、債券の方は、同じように価格が上がるわけではありません。100円で購入した債券は、満期になったら100円で償還されます。たとえ物価が上がって、100円だったモノが、1万円になったとしてもそれは変わりません。なぜなら、債券は借金だからです。契約時の額面価格で償還し、利息を払えばそれで終わりです。しかも、債券を保有中にインフレが進んで金利が上がれば、債券価格自体も下落してしまいます。これは債権だけに限らず、銀行の預金でも同じことが言えます。債権が国や企業の借金であるように、銀行に預けたお金も銀行の借金だからです。借金は借りたお金と利子を払えばそれで終わりです。債権がインフレに弱いのは、債券や銀行預金の本質が借金だからです。
結局、債券と株どっちに投資したらいいのか
運用の目的がインフレ率以上のリターンで、長期間の投資を行う人にオススメしたいポートフォリオ(金融商品の組み合わせ比率)は、株式90%です。そしてそこに自分が許容できるリスクに応じて、債券やその他の金融商品を組み入れていって、自分が納得のいくポートフォリオにしていくというものです。
なぜ、株式90%になるのか。その理由は以下の3点で
- 期待リターンが債券よりも高い
- 株式はインフレーションに強い
- ボラティリティーが高い、というリスクは短期的には大きくても、投資期間を長期的にすることによって幾分か緩和できるため
株式は債券よりも、高いリターンが期待できますが、知っての通りハイリスク・ハイリターンという特徴があり、リスクも高いです。しかし、この特徴は投資期間を長期にすることによって緩和ができるのです。期間は長ければ長いほど効果が期待できます。
この株式90%のポートフォリオが基本形ですが、さらに付け加えると、同じ株式でも一つの国の株だけを持つのではなく、世界中の企業の株に分散して持つのが理想形です。分散投資というのは、投資の基本です。例えば、アメリカのある企業の株式に資金を全て投資した場合、その企業にもしものことがあって倒産した場合、全ての資産を失ってしまうことになりかねません。また、日本の複数の企業に分散投資をしていても、日本全体の景気が悪くなれば、株を持っている企業全ての業績が悪化するかもしれません。その点、世界中の株を持っていれば、たとえ日本の経済が悪くなっても、受けるダメージは日本株の比率分だけです、逆に他の国の経済が良くなって、その損失をカバーしてくれるかもしれません。
分散投資をしたのに、債券と株が同時に下がった!?
せっかく、株と債券に分散投資をしたはずなのに両方同時に下がってしまった、という経験をした人もいるかもしれません。
株と債券が同時に下がった、というのはほとんどの場合、短期間で発生しているはずです。どうして短期間だと発生しやすいのでしょう。その理由は、為替です。世界中の株に分散投資するということは、世界中の通貨を買うのと同じなので、当然ですが、投資した債券や株の値動きに加えて、投資先の国の通貨と円の為替の値動きも関わってきます。
株のリターンというのは、短期間でも比較的大きく、為替でマイナスが生じてもトータルではプラスになる場合がほとんどです。ですが、債券のリターンは株と比べると少なく、特に短期間だと為替の変動幅よりも小さくなってしまうことがあります。本来の動きとしては、株の価格が下落したときは、債券が株と逆の動きをして株の損失を補う役目をしなければなりません。しかし、債券のリターンがあまり大きくないために、為替変動で利益が打ち消されてしまう、ということが短期間だと起こりやすいのです。
実際の世界の株と国際、さらにドルと円の為替レートを見ても、短期間だと債券のリターンよりも、為替の変動幅の方が大きくなっていることが少なくありません。ただし、期間が長くなって行くと債券のリターンが為替の変動幅を上回っていく傾向が見られます。短期の場合と長期の場合のボラティリティーをまとめるとこのようになります。
- 短期 債券<為替<株
- 長期 為替<債券<株
短期だと、思うようなリターンが望めない局面があるかもしれません。しかし、投資期間を長期にすれば為替の変動幅は小さくなり、代わりに株や債券のリターンが大きくなって、ポートフォリオ本来のリターンを期待できるようになります。