中小事業主も入れる?意外と知らない労災保険の仕組み

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労災保険は、原則として労働者が加入することができる制度で、事業主は加入することができないものとされています。そのため、労働者と同じように現場で業務を行っている事業主が業務災害によって負傷等をした場合においても、労災保険からは保障が行われないということが起こってしまいます。

労災保険では、このような労働者と同じような環境で働いている中小事業主や一人親方等についても、特別に加入することを認める制度を設けています。これを「特別加入制度」と言います。

また、労災事故によって被災してしまった労働者やその遺族の生活などを援助することを行う事業として社会復帰促進事業という制度が、労災保険の保険給付とは別で規定されており、労災事故による傷病等の治療から社会復帰するまでを包括的に援護する制度が労災保険にはあります。

今回は、意外と知らない労災保険の仕組みである「特別加入」と「社会復帰促進事業」について、具体的にはどのような制度なのかを、くわしく解説していきます。

1.特別加入制度

特別加入制度は、中小事業主や一人親方等の原則として労災保険に加入することができない者について、特別に労災保険瀬に加入することを認める制度です。労働者と同じように現場で労働をしているにもかかわらず、労災事故に被災した場合において、労働者でないという理由から何ら保障がされないということは公平性に欠けるとの考えから、こうした者に対しても、労働者と同様の保障内容を受けることを特別に認める制度として、特別加入制度が創られました。

特別加入できる者は、「第1種特別加入(中小事業主等)」「第2種特別加入(一人親方等)」「第3種特別加入(海外派遣者)」の3種類に分かれており、それぞれの制度において労災保険の各種給付が行われます。

第1種特別加入

第1種特別加入者とは、中小事業主等が特別加入した場合をいいます。中小事業主等とあるように、特別加入することができる葉にとしては、一定の事業規模の中小事業主でなければならないとされています。

(中小事業主とは)

厚生労働省令で定める人数以下の労働者を使用する事業(以下「特定事業」という)の事業主で、労働保険事務組合に労働保険事務の処理を委託している者及びその事業主が行う事業に従事している者(家族従事者など)のことです。

(特定事業の事業主とは)

以下の表に挙げられている業種に応じて、特別加入が認められる事業の規模が異なりますが、労働保険事務組合に社会保険に関する手続きを委託している場合については、表のような従業員に人数の制限がなく特別加入をすることが認められています。

金融業・保険業・不動産業・小売業 常時50人以下の労働者を使用する事業主
卸売業・サービス業 常時100人以下の労働者を使用する事業主
その他の事業 常時300人以下の労働者を使用する事業主

特別加入の要件

中小事業主等の特別加入の要件は、労働者に関し成立している保険関係を前提として、この労災保険の保険関係に中小事業主等が組み込まれる形となるため、以下の全ての要件を満たしていることが必要となります。

(ア)中小事業主の行う事業について、労災保険の保険関係が成立していること

(イ)中小事業主及びその事業主が行う事業に従事する者を包括して特別加入すること

(ウ)中小事業主が、特別加入することについて申請をし、政府の承認を受けること

第2種特別加入

第2種特別加入者として特別加入することができるのは、以下のいずれかに該当する者です。基本的に、従業員を雇わずに仕事をするような業務を行っている人が、第2種特別加入に該当します。

(ア)一人親方その他自営業の者およびその事業に従事する者(一人親方等)

(イ)特定の作業に従事する者であって労働者以外の者(特定作業従事者)

 

(一人親方等その他自営業の者とは?)

(ア)自動車を使用して行う旅客又は貨物の運送の業務 ⇒ (例)個人タクシー運転手、個人貨物運送業者など

(イ)建設の事業 ⇒ (例)左官、大工、とび等

(ウ)漁船による水産動植物の採補の事業((キ)に該当する者を除く)

(エ)林業の事業

(オ)医薬品の配置販売の事業

(カ)再生利用の目的となる廃棄物等の収集・運搬・選別・解体等の事業

(キ)船員法第1条に規定する船員が行う事業

 

(特定作業従事者とは)

(ア)農業(畜産及び養蚕の事業を含む)における特定農作業、指定農業機械作業

(イ)職場適応県連又は事業主団体等委託訓練としておこなわれる事業

(ウ)家内労働者又はその補助者が行う作業のうち危険有害な作業

(エ)労働組合等の常勤の役員が行う労働組合等の活動にかかる作業

(オ)介護関係業務にかかる作業

 

特別加入の加入要件

一人親方等が特別加入するためには、以下の要件を満たす必要があります。

(ア)一人親方等の団体又は特定作業従事者の団体が、継続性、事務処理能力、労働災害防止活動等から見て、特別加入者の団体にふさわしいものと認められること

(イ)一人親方等の団体又は特定作業従事者の団体が、特別加入することに就き申請をし、政府の承認を受けること

第3種特別加入

特別加入の範囲

(ア)日本国外の地域のうち開発途上にある地域に対する技術協力の実施の事業(有期事業を除く)を行う団体(JICAなど)が、当該団体の業務の実施のため、当該開発途上にある地域において行われる事業に従事させるために派遣するもの

(イ)日本国内で事業(有期事業を除く)を行う事業主が、日本国外の地域において行われる事業に従事させるために派遣する者(当該事業が特定事業に該当しないときは、当該事業に使用される労働者として派遣する者に限る)

特別加入の要件

第3種特別加入の要件は、日本国内で行われている事業に関し成立している保険関係を前提としたうえで、次の要件を満たしていることが必要です。つまり、日本国内において労災保険が成立していることが要件となるということです。

(ア)派遣元の国内で行われている事業について労災保険の保険関係が成立していること

(イ)派遣元の国内で行われている事業が有期事業でない事

(ウ)派遣元の国内で行われている事業の団体又は事業主が、海外派遣者を特別加入させることにつき申請をし、政府の承認を受けること

特別加入者の保険給付等の内容

特別加入者に対する労災保険の保険給付については、厚生労働省労働基準局長が定める基準によって業務災害や通勤災害の認定が行われることになります。

ただし、第2種特別加入者のうち、以下に該当する者については通勤災害による保険給付が行われません

(ア)次の事業を労働者を使用しないで行うことを常態とする者及びこれらの者が行う事業に従事する者

  • 自動車を使用して行う旅客又は貨物の運送の事業
  • 漁船による水産物の採取の事業(船員法1条に規定する船員が行う事業を除く)

(イ)特定農作業従事者又は指定農業機械作業従事者

(ウ)危険有害な作業に従事する家内労働者及びその補助者

特別加入者の給付基礎日額

特別加入者の場合、労働者のように賃金という概念がないため、保険給付の基礎となる賃金については、その事業に使用される労働者等の賃金の額その他の事情を考慮して厚生労働大臣が定める額とされます。

具体的には、特別加入者が特別加入の申請をする際に、以下の金額の中から希望する額に基づいて都道府県労働局長が決定する形で給付基礎日額が決定します。

(給付基礎日額)

赤字部分は、家内労働者及びその補助者についてのみ認められています。

25,000円 8,000円
24,000円 7,000円
22,000円 6,000円
20,000円 5,000円
18,000円 4,000円
16,000円 3,500円
14,000円 3,000円
12,000円 2,500円
11,000円 2,000円
9,000円

2.特別支給金制度

労災保険には、通常の保険給付とは別に特別支給金という給付制度があります。これは、後ほど説明します社会復帰促進事業の被災労働者等支援事業の一つとしておこなわれるもので、労災保険の保険給付に付加される形で支給されるものです。

特別支給金の種類

特別支給金には、一般の特別支給金とボーナス等を算定基準として算定されるボーナス特別支給金があります。

一般の特別支給金

①休業特別支給金

(支給要件)

休業(補償)給付の受給権者が申請を行うこと

(休業特別支給金の金額)

休業1日につき、休業補償給付の給付基礎日額の20/100相当額

 

②傷病特別支給金

(支給要件)

傷病(補償)年金の受給権者が申請を行うこと

(傷病特別支給金の金額)

傷病等級 金額
第1級 114万円
第2級 107万円
第3級 100万円

③障害特別支給金

(支給要件)

障害(補償)給付の受給権者が申請を行うこと。

(障害特別支給金の金額)

障害等級 金額 障害等級 金額
第1級 342万円 第8級 65万円
第2級 320万円 第9級 50万円
第3級 300万円 第10級 39万円
第4級 264万円 第11級 29万円
第5級 225万円 第12級 20万円
第6級 192万円 第13級 14万円
第7級 159万円 第14級 8万円

 

④遺族特別支給金

(受給要件)

遺族(補償)給付の受給権者である遺族が申請を行うこと

(遺族特別支給金の金額)

300万円(受給権者が2人以上の場合は按分されます。)

ボーナス特別支給金

ボーナス特別支給金は賞与をベースとした算定基礎年額を基準として算定基礎日額を算出して給付金額を計算します。

 

(算定基礎年額の算定法方法)

【原則】

負傷又は発病の日以前1年間(その日が雇い入れ日から1年以内の場合は雇い入れ後の期間)に支払われた賞与(「特別給与」といいます。)の総額

【例外

(ア)原則の額

(イ)年金給付基礎日額(障害補償年金などの年金給付される保険給付の支給金額の基準となる金額)×365×20/100

(ウ)150万円

※(ア)と(イ)を比較していずれか小さい方と(ウ)を比較していずれか小さい方の金額を算定基礎年額とします。

つまり、算定基礎年額の上限は150万円ということになります。

なお、算定基礎日額は以下の計算式で算定します。(1円未満の端数切り上げ)

算定基礎日額 = 算定基礎年額 ÷ 365

 

①傷病特別年金

(支給要件)

傷病(補償)年金の受給権者が申請を行うこと

(傷病特別支給金の金額)

傷病等級 傷病特別年員の額
第1級 算定基礎日額の313日分
第2級 算定基礎日額の277日分
第3級 算定基礎日額の245日分

②障害特別年金、障害特別一時金

(支給要件)

障害(補償)給付の受給権者が申請を行うこと。

(障害特別支給金の金額)

障害等級 障害特別年金の金額
第1級 算定基礎日額の313日分
第2級 算定基礎日額の277日分
第3級 算定基礎日額の245日分
第4級 算定基礎日額の213日分
第5級 算定基礎日額の184日分
第6級 算定基礎日額の156日分
第7級 算定基礎日額の131日分

(障害特別一時金の金額)

障害等級 障害特別一時金の金額
第8級 算定基礎日額の503日分
第9級 算定基礎日額の391日分
第10級 算定基礎日額の302日分
第11級 算定基礎日額の223日分
第12級 算定基礎日額の156日分
第13級 算定基礎日額の101日分
第14級 算定基礎日額の56日分

 

③遺族特別年金

(受給要件)

遺族(補償)給付の受給権者である遺族が申請を行うこと

(遺族特別年金の金額)

遺族の数 遺族特別年金の金額
1人

給付基礎日額の153日分

55歳以上の妻、又は障害等級5級以上の妻については

給付基礎日額の175日分

2人

給付基礎日額の201日分

3人

給付基礎日額の223日分

4人以上

給付基礎日額の245日分

 

④遺族特別一時金

(受給要件)

遺族(補償)給付の受給権者である遺族が申請を行うこと

(遺族特別支給金の金額)

労働者の死亡当時、遺族(補償)年金の受給権者がいないときに支給される遺族(補償)一時金の受給権者

算定基礎日額の1,000日分

遺族(補償)年金の受給権者が全て失権し、かつ、受給権者が全て受給権利がなくなった場合において、すでに支給された遺族(補償)年金及び遺族(補償)前払一時金の額の合計額が1,000日分に満たない場合に支給される遺族(補償)一時金の受給権者

算定基礎日額の1,000日分ー

すでに支給された遺族特別年金の額の合計額

⑤障害特別差額一時金

(支給要件)

障害(補償)年金差額一時金の受給権者が申請を行うこと。

(障害特別年金差額一時金の金額)

障害等級 障害特別年金差額一時金の金額
第1級 算定基礎日額の1,340日分
第2級 算定基礎日額の1,190日分
第3級 算定基礎日額の1,050日分
第4級 算定基礎日額の920日分
第5級 算定基礎日額の790日分
第6級 算定基礎日額の670日分
第7級 算定基礎日額の560日分

3.社会復帰促進事業

社会復帰促進事業とは、被災労働者の社会復帰を促進、被災労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図るために行われる事業の事です。

労災保険に付帯する事業として、この社会復帰促進事業が行われており、被災労働者の社会復帰を容易に行うことができるようにするために、政府(一部は独立行政法人労働者健康安全機構)が行っています。

社会復帰促進事業には、大きく「社会復帰促進事業」「被災労働者等援護事業」「安全衛生・労働条件等確保事業」の3つの事業から構成されています。

(ア)社会復帰促進事業

社会復帰促進事業では、被災労働者の傷病の治療後の処置などを行う施設の設置・運営などを行うことで、社会復帰の促進を促す事を目的としています。

(主な事業内容)

  • 労災病院の設置・運営
  • 休養所の設置運営
  • 外科後処置
  • 義肢その他の補装具の支給等

(イ)被災労働者等援護事業

被災労働者及びその遺族の生活の援助等を行うことで、社会復帰の促進を促すことを目的とした事業となります。

(主な事業内容)

  • 特別支給金の支給
  • 被災労働者の受ける介護の援護(労災特別介護施設の設置・運営等)
  • 労災就学援護費の支給
  • 労災就労保育援護費の支給
  • 休業補償特別援護金の支給
  • 年金受給権を担保とする小口資金の貸付等

(ウ)安全衛生・労働条件等確保事業

事業場の安全衛生を確保することや未払い賃金の立て替えなどを行うことで、社会復帰の促進を図っていくことを目的とした事業です。

(主な事業内容)

  • 労働災害防止対策の実施
  • 災害防止団体に対する補助
  • 未払賃金の立替払事業等

4.まとめ

労災保険は労働者を労働災害から保護するために制定された補償制度ですが、近年では、事業主であるか否かに関わらず現場で労働者と同じように働く人も増えています。

そのため、中小事業の事業主等の労災保険に加入できない人が労働者と同じような環境で労働を行う人を保護するために特別加入制度があります。

特別加入を行うことで、万一の労災事故に備えることができるとともに、安全・衛生の分野においても大切なことになってきます。

また、労災保険制度にはm、被災した労働者が社会復帰をするためのサポートを行う事業も行っており、この制度の中には遺族の補償制度等も含まれているが、意外とその制度があることを知らない人も多いかと思われますが、健康保険等の医療保険以外にも遺族等に対する補償制度があることを抑えていただければ、より労災保険制度を有効に活用することができるようになると考えられます。

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