人に請求できる権利が消えてなくなる?債権の消滅時効についての基礎知識

よく「あれは過去の話だから時効だよー」という会話をすることがありますが、この時効というのは法律用語で、民法に規定されている言葉です。

もしあなたがお金を貸しているなどで「債権」を持っていると法律上評価される場合には、その権利は「時効」により消滅してしまう可能性があることをご存知でしょうか。

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時効に関する規定は非常に細かいものなので、特に商売をされる方は知っておくべきであるといえます。

このページでは、債権の消滅時効についてお伝えします。

債権とは

まずそもそも「債権」とはどのようなものなのでしょうか。

法律の難しい話をすると、財産権の種類の一つで、人になにかをしてもらう権利のことを債権と呼んでいます。

たとえばお金を貸したときには、貸した相手に返済をしてもらう権利が発生しますが、これは相手の財産について何か権利をもっている状態ではなく、「貸した相手に返済をしてもらう」ということをしてもらう権利があるとされています。

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この説明だけではピンとこない人も多いと思うのですが、対になる「物権」という権利と対比すればわかりやすいです。物権は対象は「物」で、直接支配する権利という表現がされますが、ようは譲渡しても、担保に入れても、壊してしまってもよいのであって、そのことに他人の承諾を必要としません。後述しますが時効で消滅するのは債権だけで物権は消滅しません。債権は人に請求することができる権利であるということを把握しましょう。

言葉としては「債務」という言葉も耳にされると思いますが、ある債権について、権利を請求する側から見たのが債権で、その権利を請求される側から見るのが債務というものです。

消滅時効の制度

次に消滅時効というものについて知りましょう。

消滅時効というのは、時効という法律の制度の一つの種類で、一定の時間の経過により権利が消滅するという制度です。

一定の時間の経過がした場合に、今ある権利の見た目に対してそのままの法律の効果を与えようとするのが時効の制度で、もう一つの時効の制度が、一定期間あるものを持っていた事に対して所有権者であるという権利を与える取得時効があります。

債権に関しては長期間行使されていない場合には、「この債権はもはや請求されないものである」という外観が生じますので、そのような状態に効果を与える=つまりは法律的にも権利行使ができなくなるという事になるのが消滅時効です。

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刑事事件についての「時効」というほうがイメージがしやすいかもしれませんが、民事・刑事ともに時効という制度はあります。

なぜ時効の制度があるのか

そもそも、なぜこのような時効という制度があるのでしょうか。

大きく分けると3つの理由があるといわれております。

事実状態が長く続いたような場合にはその状態を尊重する

一つは、ある状態が長期間継続している場合には、まわりはその状態が普通なのだと思って行動します。

日々の行動は積み重ねですので、正当な法律上の行為とはいえ急に権利を行使するとすると、いままで積み重ねられてきた状態を覆してしまうことになり、混乱が生じることになります。

そのため、長期間経過していてその状態が正常な状態であるという関係者の認識を保護する必要があるという趣旨が一つにあります。

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法学部の講義などでは「永続した事実状態の尊重」という言い方をします。「長期間」というとイメージしづらいかもしれませんが、債権の消滅時効は10年というものになりますので、このような期間にわたって行使をしないのであればそれは行使をしないのです。

権利を持っている人はきちんと使わなければならない

ある真実ではない状態にあった人は、法律上の行動を起こすことで、真実ではない状態が解消されるようになります。

にも拘わらず、長期間放置していたような場合には、保護する必要なんかないのではないか?という法律上の古い時代からの考え方があります。

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法学部の講義などでは、「権利の上に眠るものはこれを保護しない」という言い方をします。

裁判をしても証拠なんか出てこないから

権利の行使をするには、最終的には裁判という方法を用います。

民事裁判にあたっては当事者間が主張をして、その主張に対応する証拠を提出しなければなりません。

長期間権利が行使されないような場合には、相手としてもこのままで良いのか…と証拠書類を捨ててしまうような事も当然に想定されますし、そもそも取っていたとしても、どこにあるかわからなくなっている事が通常です。

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法学部の講義では「立証困難の救済」という言い方をします。

時効の「援用」という制度を知っておく

次の民法の規定を見てください

(時効の援用)
第百四十五条 時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。

時効については「援用」という行為が必要であるということがわかります。

債権の請求は支払いがない場合には最終的には裁判所ですることになります。
裁判所は被告から「援用」がなければ、時効が完成しているという判断をすることができないということを定めるのが上記の民法145条です。
これは債務者側としては「確かに長期間払えていないが、きちんと返そうとは思っている」というような場合に「利益なことであっても強要はしてはいけない」ということから必要とされるものです。
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実務上は債権の請求をしてきた人に対して、内容証明で消滅時効にかかっているので時効を主張して援用する旨の通知を送るのが一般的です。

後述するように消滅時効に関する条文は、期間の経過で消滅するとだけ書かれているのですが、援用という行為が必要であるとされています。

似たような「除斥期間」を知る

時効と類似する制度で「除斥期間」という制度があります。
法律の条文の規定については同じように◯◯年といった時の経過により権利が消滅するような規定になっています。
しかしこの除斥期間については、後述する「中断」という制度がなく、何があっても期間が進行する性質をもっています。

消滅時効についての規定を見よう

では実際に民法が債権の消滅時効についてどのような規定をしているのでしょうか。

なおこの規定は平成29年に国会で改正がされ施行がされる平成32年(令和3年)には廃止されるものもありますので注意が必要です。

一般債権の消滅時効は10年

まずは、民法167条の規定を見てください

第百六十七条 債権は、十年間行使しないときは、消滅する。

債権については基本的には10年間行使をしなかった場合には、援用を利用して消滅する、ということになります。

ただこの債権の時効については、いろいろな観点から10年よりも短くなる「短期消滅時効」というものが民法やその他の法律で規定されているので注意が必要です。

平成29年改正では、「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき」と改正されます。

短期消滅時効にかかる債権

では短期消滅時効にかかる債権について見てみましょう。

短期消滅時効については、現在は下記のように6ヶ月~5年という風に個別の債権によって期間がバラバラになっています。これが、改正後はすべて原則5年という時効期間になりますので注意が必要です。

まずは下記のように列挙いたしますが、比較的知っておくべきものについては赤色にしておき、後に詳説します。

5年の短期消滅時効にかかる債権

  • 商売上で発生した債権(商法522条)
  • 追認できる時からの取消権(民法125条)
  • 定期給付債権(民法169条)(不動産の賃料・地代,扶養料,養育費,利息,年金,恩給,NHK受信料、といったものが挙げられます)
  • 財産管理に関する親子間の債権(民法832条)
  • 相続回復請求権(民法884条)
  • 金銭給付目的の普通地方公共団体の権利(地方自治法236条)
  • 労働者の退職手当(労働基準法115条後段)

3年の短期消滅時効にかかる債権

  • 医師・助産師・薬剤師の医療・助産・調剤に関する債権(民法170条1号)
  • 技師・棟梁・請負人の工事に関する債権(民法170条2号)
  • 弁護士・弁護士法人・公証人の職務に関して受け取った書類についての義務に対する権利(民法171条)
  • 不法行為に基づく損害賠償請求権(民法724条後段。製造物責任法5条)
  • 為替手形の所持人から引受人に対する請求権(手形法70条1項)
  • 約束手形の所持人から振出人に対する請求権(手形法77条1項8号,78条1項参照)

2年の短期消滅時効にかかる債権

  • 弁護士,弁護士法人,公証人の職務に関する債権(民法172条)
  • 生産者,卸売または小売商人の売掛代金債権(民法173条1号)
  • 居職人,製造人の仕事に関する債権(民法173条2号)
  • 学芸,技能の教育者の教育,衣食,寄宿に関する債権(民法173条3号)
  • 詐害行為取消権(民法426条)
  • 労働者の賃金(退職手当を除く),災害補償その他の請求権(労働基準法115条前段)

1年の短期消滅時効にかかる債権

  • 月またはこれより短い期間で定めた使用人の給料(民法174条1号)
  • 労力者(大工,左官等),演芸人の賃金ならびにその供給した物の代価(民法174条2号)
  • 運送費(民法174条3号)
  • ホテルや旅館の宿泊料,キャバクラや料理店などの飲食料(民法174条4号)
  • 貸衣装など動産の損料(民法174条5号)
  • 売主の担保責任(民法566条)
  • 遺留分減殺請求権(民法1042条)
  • 運送取扱人の責任(商法566条1項)
  • 陸上運送人の責任(商法589条,566条1項準用)
  • 海上運送人の責任(商法766条,566条1項準用,国際海上物品運送法14条1)
  • 船舶所有者の傭船者,荷送人,荷受人に対する債権(商法765条)
  • 為替手形の所持人から裏書人や振出人に対する請求権(手形法70条)
  • 約束手形の所持人から裏書人に対する請求権(手形法77条1項8号)
  • 支払保証をした支払人に対する小切手上の請求権(小切手法58条)
  • 鉄道の運賃償還請求権(鉄道営業法14条)

6ヶ月の短期消滅時効にかかる債権

  • 約束手形・為替手形の裏書人から他の裏書人や振出人に対する遡求権または請求権(手形法70条3項)
  • 小切手所持人・裏書人から他の裏書人・振出人その他の債務者に対する遡求権(小切手法51条)

商売上で発生した債権については5年の消滅時効

債権の中には個人どうしの請求権もありますが、当事者の一方が商法上の商人であると認定される場合や、取引が商法上の商行為と認定される場合には、その債権は「商事債権」といわれる分類になります。

商事債権については商法533条において5年の短期消滅時効になると規定されています。

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文字のくだりから、会社などがそれにあたるようにも見えるかもしれませんが個人間同士でも商行為という認定がされれば商法の規定の適用がされますので、注意が必要です。

不法行為に基づく損害賠償請求権

代表的な例は交通事故なのですが、他人の権利や利益に損害を加えた場合には、民法によって不法行為損害賠償責任を負うことになっています。

その期間については、損害および加害者を知ったときから3年、という短期消滅時効が規定されています。

たとえばひき逃げをされた場合には、交通事故時から3年というわけではなく、犯人がだれかわかってから3年という扱いになります。

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なお不法行為損害賠償請求権については、不法行為時から20年という除斥期間も設定されています。交通事故の場合には交通事故時から20年で損害賠償ができなくなります。

労働者の賃金は2年の消滅時効となる

労働者が賃金を請求する権利については、2年の消滅時効にかかるとされています。

ここにいう賃金については、タイムカードの打刻といった会社と労働者の間で支払いが毎回されている賃金に限らず、サービス残業などにより本来は発生している未払い賃金についても適用されます。

ですので、会社を辞めてから2年たってしまうと、違法な残業に対する残業代請求もできなくなってしまいます。

時効の中断を知る

では、債権者としては、時効が完成しないように何か打つ手はないのでしょうか。

上記の時効制度の趣旨から考えれば、債権者として正当な行動をおこなっていればよい、という評価をすることができます。

そのため、債権者として法律が想定する行動を行っている場合には逆に債権者に利益を当たるために、時効の中断という制度を設けています。

第百四十七条 時効は、次に掲げる事由によって中断する。
一 請求
二 差押え、仮差押え又は仮処分
三 承認

1号の請求は、裁判上の請求のことをいい、具体的には民事裁判の提起や、裁判所を使った公的な請求手続きの利用をいいます。

2号の「差押え」は裁判した後の強制執行手続きを行うことをいい、「仮差押え」「仮処分」は裁判に先立っておこなう民事保全という行為になります。

3号の「承認」は、債務者が債務の存在を承認することをいい、通常は書面で取得するなどします。

なお、裁判などの提起が間に合わないような場合もあります。

この場合には、次の条文上の催告を行います

(催告)
第百五十三条 催告は、六箇月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法若しくは家事事件手続法による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。

書いていることは難しいのですが、単純な請求をした上で6ヶ月以内に裁判請求などの時効の中断をしてくれる行為を行ってください、ということになります。

この催告は実務上、配達証明付き内容証明郵便で行います。なぜなら、単に郵送で請求書を送っただけだと、相手は「そのような書面は届いていない」という主張ができてしまいますので、そのような文面で請求したかと、いつその書面が到着したのかを郵便局が郵便法に従ってしてくれるからです。

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一度時効の中断に成功すると、そこからは10年の消滅時効期間が再度始まることになります。元の短期消滅時効が5年であるものを中断しても10年になるので注意をしましょう。
時効の中断も改正による影響を受けており、「更新」という名称に名前が変わる予定です。

まとめ

このページでは、債権の消滅時効について、債権・時効というものを知っていただきながら知識を整理させていただきました。

一般の方にあまりなじみのない制度である時効という制度があるのは、特殊なケースとはいえ民事上の必要からであり、商売をしている方などは、短い期間での時効にかかるものについて注意をしておく上で、支払いができなくて困っていた人は場合によっては時効の主張をすることで、請求を受けなくなるようなことも可能です。

何か困っているようなことがあるのであれば、早めに法律専門家に相談するなどして、対処をするようにしましょう。

つの
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法律・マーケティング・マネー系の記事の執筆をしているライターです
【経歴】
・司法試験受験生
・法律事務所・司法書士事務所パラリーガル
・行政書士・FP資格取得
・WEBマーケティング(リスティング広告・SEO)
などを経験

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