プライベートバンクとは?仕組みとサービスについて知ろう

プライベートバンクは もともとスイス発祥し、欧米で発展しました。資産額が一定以上(一億円)の富裕層の顧客を対象にしたサービスです。銀行と証券会社(投資銀行)の機能を合わせ持った金融機関で、世界の株式や債券、ヘッジファンドを含む様々な投資先を一つの口座で管理することができます。顧客にはリレーションシップマネージャー(RM)という担当者がつき、あらかじめ決めておいた運用方針に従って口座をメンテナンスしてくれるので、富裕層にとって便利なサービスです。

富裕層の定義

それでは、富裕層の定義はどのようになっているのでしょうか。野村総合研究所の調査では以下のようになっています(2015年)。

国内の区分は以下のようになっています。

1.超富裕層(純金融資産5億円以上)

世帯数:7.3万世帯

資産規模:75兆円

2.富裕層(純金融資産1億円以上5億円未満)

世帯数:114.4万世帯

資産規模:197兆円

3.準富裕層(純金融資産5000万円以上1億円未満)

世帯数:314.9万世帯

資産規模:245兆円

4.アッパーマス層

世帯数:680.8万世帯

資産規模:282兆円

5.マス層

世帯数:4,173万世帯

資産規模:603兆円

プライベートバンクでは、純金融資産1億円以上がターゲットになります。純金融資産とは、預貯金、株式、債券、投資信託、一時払い生命保険や年金保険などで構成されます。

日本の富裕層は122万世帯、純金融資産は272兆円となっています。

プライベートバンクは富裕層にとって便利なサービスですが、手数料の他各口座開設の最低預金額は一般に100万ドルです。ただし300万ドル以下ではあまりメリットがないと言われています。

プライベートバンク側も小口の顧客が増えてもコストがかかるだけなので、最低預金金額を引き上げるところが増えています。スイスのプライベートバンク協会に所属するピクテやミラボーなど名門銀行に口座開設する場合の最低預金額は10億円です。

このようにプライベートバンクは基本的に IPO など新規公開などで財を成した超富裕層以外には縁のない金融機関です。しかし、どのような資産サービスを行っているかを知っておくことは、一般の投資家にとっても今後の資産形成の参考になります。

通常の金融機関は、市場で取引される株式や債券、投資信託などの取引に適している一方、プライベートバンクは、顧客一人一人に最適な金融商品をオーダーメイドします。

具体的には発行が限られた私募仕組債、優先出資証券、そして取引一任勘定を利用した資産運用などです。コンサルタントの機能も含め様々な視点からオーダーメイド商品を提案するために、顧客と直接窓口となるプライベートバンカーが豊富な金融知識があることはもちろん、さらに税理士や弁護士など専門知識を持つスペシャリストを抱える必要があります。

プライベートバンクはグローバルにビジネスを展開しているところが多いので、国内だけでなく欧州やアジア、米国などのリサーチレポート、そして資産運用のノウハウも豊富にあります。

プライベートバンカーは一人の顧客に十分な時間をかけてカウンセリングを行うため、1人が担当する顧客数は少ないのが通常です。金融市場が乱高下した場合にはすぐにコンタクトを取り対応を相談します。 UBS 銀行は金融資産2億円以上、クレディ・スイスは金融資産10億円以上など金融資産によって顧客を選りすぐり、プレミアムな商品やサービスを提供しています。

プライベートバンカーは資産運用だけでなく人生設計も手伝う

プライベートバンカーは、資産運用だけでなく老後資金や保険、子供や孫への相続対策など、何世代にもわたる長期的な視点でじっくり相談できるパートナーになります。

通常の銀行や証券会社の営業員は数年ごとに転勤を繰り返すのが一般的です。全国各地の支店を移動し営業活動を行っています。これは顧客との癒着を防ぐことが目的で、コンプライアンスのためには必要なことですが、人生設計するファイナンシャルプランニングという観点からすると、デメリットになります。優秀な営業マンに当たっても数年のうちに担当者が変わって、顧客の資産よりも自分の短期的な利益に目が行きがちな営業マンも多いからです。

プライベートバンカーも高い報酬をもらうために所属する金融機関を変えることはあります。しかし、プライベートバンクの営業員が転職する際は、その営業員を信用している顧客は新たな金融機関に口座開設して、引き続き同じ営業員にマネープランの設計を委託する事例が多いのです。プライベートバンカーと顧客の関係は金融機関と顧客ではなく、個人のつながりとなっているので、長期的に関係が続く傾向にあります。

欧州のプライベートバンク

スイスはプライベートバンクの聖地です。誕生の地であると同時にもう一つ理由があります。それは、スイスの銀行法で定められた顧客情報の秘匿義務です。

例えば口座の持ち主を知っているのは顧客担当者とごく一部の上層部のみ。口座番号が漏れても身元を割り出すことはできません。口座番号を知っていれば入金は誰でもできますが、入金先を間違えても守秘義務があるため返還は受け付けない、顧客同士が顔を合わせるのを防ぐために、プライベートバンクを訪問する際は、決められた時間に行かないといけないなど徹底した秘密主義が保たれています。

プライベートバンカーの3つのCの役割とは

RM(リレーションシップマネジメント)には「3つのC」があります。リレーションシップ・マネジメントとは、顧客(クライアント)との関係(リレーション)をマネジメントする業務、または担当者のことで、金融機関では大口顧客を担当する営業のことをいいます。機関投資家など法人営業のことを指すケースが多いのですが、プライベートバンキングを担当するプライベートバンカーのことをRMと呼ぶこともあります。

そして、プライベートバンカーがRMを行い、顧客の人生の夢を実現する上で果たすべき3つのCの役割があります。

1.Counselor(カウンセラー)としての役割

顧客のライフデザインを顧客自身で描けるようにすることで、顧客の価値観を明確にすることです。顧客の思いを具体的にイメージできるように支援します。

2.Consultant(コンサルタント)としての役割

顧客のライフスタイルに基づく財務シミュレーションを行い、次の3つのことを考慮しながら老後資金が枯渇しないようなプランを検討します。

  1. 退職時期の延長
  2. ライフスタイル・コストの見直し
  3. アセット・アロケーション(資産配分)の見直し、具体的な商品提案の実行

3.Coach(コーチ)としての役割

ファイナンシャルコーチとして、顧客の長期資産形成のために、市場のリスクに翻弄されないように支援し、正しい長期運用が継続できるようにします。

プライベートバンカーが生涯現役キャリアとして有望な理由

プライベートバンカーは、50歳を過ぎてからの方が、知恵や人脈により顧客の評価が高まることが多く、60歳を過ぎても定年というのはなく、顧客の預かり資産に対する安定的なフィーが期待できます。

「生涯現役」を目指すには理想的な職種ですが、その理由は主に次の2つがあります。

一流の顧客との時間を過ごす価値

富裕層はビジネスや人生の成功者で、生き方や考え方、趣味や人脈など学ぶべき点が多くあります。このため、プライベートバンカーは、働きながら一流の思考や行動を学ぶことができます。

究極のノウハウが求められる

プライベートバンカーの分野は、投資対象が国内の株式や不動産だけでなく、海外の資産や実物資産と広範囲にわたります。また、税を意識しなければいけません。法律や税制は頻繁に変わるので学ぶことも多く、生涯現役で挑戦するに値するキャリアといえます。

リレーションシップ・マネジメントに求められる顧客姿勢

金融商品の導入時には、「有名な銀行だから」「大手の生命保険だから安心」ということで選ぶことが多いと思いますが、金融機関は営利企業です。金融機関の担当者の多くは販売者でなので、営業 の成績が自分の評価になります。

そして、一度契約してしまえば金融商品のリスクは自己責任となります。自分の身を守るためには金融に対する知識を高めるか、信頼できるプロのコンサルタントに相談するしかないのです。金融機関では商品を購入する時は様々な説明をしますが、顧客にとって有益な情報を顧客目線で提供しているかというのは疑問があります。商品を売るための説明かもしれません。

それでは信頼されるアドバイザーとはどのようなものでしょうか。まず、専門領域や金融知識の深みに加えて、幅も重要となります。複数の領域にまたがる専門分野を持つことが重要です。

また、商品を売るための知識を説明するのではなく、顧客が抱える問題に耳を傾けることも必要です。

顧客が表面的にしか見ていない問題の背後にある真の課題を見つけ、顧客がそれに気づくように質問する必要があります。家族の状況まで視野に入れて、一緒に問題解決にあたります。専門知識を前提に自らの経験を踏まえた情報の提供が必要です。そして、分析された結果を統合して顧客の課題に応える総合的アプローチを行ないます。

つまり、顧客のニーズを聞き、ニーズに合った商品を親身になって説明するようにします。もし、最適な商品が自社にない場合は、他社の商品でもすすめるようにします。富裕層が求める担当者は、単なる「販売者」ではなく、顧客に寄り添うものとして顧客に尽くす姿勢なのです。

そして、収益率が低くても金額が大きければ、大きな収益になる場合もあります。数億円単位のビジネスは一朝一夕にはできません。顧客との強い信頼関係が必要になるのです。

日本のプライベートバンク

日本では、三菱UFJモルガン・スタンレーPB証券、UBS銀行、クレディ・スイス銀行などが有名で、2015年にはシティバンク銀行のリテール部門が、SMBC信託銀行に譲渡されるなど、日本のプライベートバンク業界の競争も激しくなっています。

プライベートバンクに口座を開くには

1.プライベートバンクとコンタクトをとる

伝統的なプライベートバンクとコンタクトを取るには、紹介が一般的です。既にプライベートバンクの顧客となっている人からの紹介もあれば、プライベートバンク関係者からの紹介もあります。紹介者が信頼できる相手かどうかというのを必ず確認するようにしましょう。

2.事前審査

プライベートバンクでは口座開設をする際、顧客の資産状況や家族構成、将来の計画などを確認します。家族構成では、相続が発生した場合に誰が口座を引き継ぐのかを確認する必要があるからです。

3プライベートバンカーとの面談

通常の金融機関では商品の売り込みから入りますが、プライベートバンクでは個別の商品の話もなく、ポートフォリオなどの資産配分の話もありません。

基本的な運用方針の確認やお互いのことをよく知るための面談です。個々のニーズにあったサービスを行うために必要なことなのです。

4.口座番号をもらう

以前は、口座の名義がない「ナンバー・アカウント」が有名でしたが、今ではないようです。口座番号をもらったら、担当者の指示に従って資金を入金します。

プライベートバンカーによる「運用方針の決め方」

プライベートバンカーは顧客とのコミュニケーションを重視します。顧客とのコミュニケーションは、顧客の求める手段に合わせることが基本で、あらかじめ顧客とのコミュニケーション手段について確認しておく必要があります。

運用方針の決定や提案などでは、対面でのコミュニケーションが不可欠となりますが、相場環境などの単なる情報伝達が目的の場合は、面談以外の手段(メールや電話)を選ぶことが適切な場合もあります。

顧客に提案するコンテンツは、金融系と非金融系を分けてリストアップし、情報を顧客に選択してもらうようにします。金融系はマーケット情報とその他の一般情報に分け、一般情報は顧客の関心の高い制度変更を中心に提供します。非金融系では、健康や娯楽・教育といったテーマについて情報提供を行います。

顧客とのコミュニケーションについては、要請があればできる限り面談に応じるのが原則です。預かり資産の規模が5億円前後であれば、ポートフォリオの見直し(リバランス)が必要になるため、少なくとも年2回程度は面談の機会を設ける必要があります。

個人版ALMとは

ALM(Asset Liability Management)は、資産と負債を総合的に管理することで、損失を最小限に留めながら収益の最大化を目指す管理手法です。ALMの管理手法をとることにより、為替や株式相場の変動による市場リスクや流動性リスクが生じた場合でも、損失を最小化し、収益の最大化を目指すことができます。主に金融機関で用いられるリスク管理の手法ですが、個人の資産運用においても利用することができます。

資産形成時(現役世代)のALM

生活費を大きく上回る給与収入があるため、リスク許容度も大きくなるので、株式などよりリスクの高い資産に配分することが可能です。流動性の観点では、流動性の低い不動産などの資産クラスに多く配分することも可能です。

資産保全時(退職後)のALM

退職後は年金収入と保有資産を運用しながら、必要に応じて保有資産を取り崩すことも想定されるため、財務上の許容度は低くなります。流動性の観点では安全性や流動性の高い資産クラスで運用することが望ましくなります。株式や不動産の比率を落とし、債券や預貯金の比率を高めるようにします。

投資政策書の作成

投資政策書とは、顧客が投資に関する意思決定を行うための裏付けとなる書類です。そのため、意思決定が出される過程が体系的かつ明確に記述されています。投資に関する意思決定が顧客とのコミュニケーションや顧客との投資教育にも役立つことができ、次のような四つの役割があります。

目標の設定

どのぐらいのリスクを取りながらリターンを目指すのか、明確な期待収益率の設定を行います。そして投資のガイドラインを決めます。

資産配分方針の決定

分散投資を行い、顧客のファイナンシャルゴールやリスク許容度に応じた資産配分を実現するための方針を決定します。顧客の属性など、適合性から投資対象とする資産クラスと投資対象から除外する資産クラスを確定します。

運用管理手続きの確立

運用する資産クラスや金融商品の選択、インデックスに対する運用成果などの運用管理手続きを確立します 。

コミュニケーション手続きの確立

運用のプロセスやファイナンシャルゴールに関するコミュニケーションを行うための手続きを確立します 。

まとめ

今回はプライベートバンクについて解説しました。一般に金融資産5億円以上の超富裕層が利用するイメージですが、近年では5千万円超のマス富裕層に対するサービスもできてきています。ヘッジファンドなど特殊な金融商品を使うというイメージもあるかもしれませんが、実際はきちんと顧客ごとの属性や投資の目的を定め、国際分散投資を基本とした投資理論を行うのがプライベートバンカーの役割です。

実際にプライベートバンカーを利用するわけでなくても、そうした運用理論を学ぶことは、我々個人投資家にとっても有効です。今後の資産運用の参考にしていただければ幸いです。

 

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