個人事業主必見! 個人版事業承継税制 とは?活用法を ご紹介!

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平成31年度税制改正で、個人版事業承継税制を創設すると発表がありました。

一般的な事業ですと、売上1.000万円が個人事業と法人成りの分かれ目と言われたりしますが、士業ですと数千万円、数億円の売上があっても個人事業主のままでいることもあります。

そういった個人事業ですが、後継者に引き継ぐということはよくあることです。

後継者に引き継ぐにあたって、この新しく創設された個人版事業承継税制をどのように活用していけばいいのでしょうか?

以下で、それを見ていきます。

事業承継とは

人間の人生は有限です。

昨今は男女ともに寿命が延びてきたとは言え、60代後半になると自分が死ぬ確率もだいぶ高まってきます。

事業承継とはその名の通り、事業主が後継者に事業を引き継ぐことをいいます。

事業を承継するということは事業主が持っている事業に係る資産や負債を後継者に引き継ぐことになります。

無制限に後継者に無税で事業に係る資産や負債を渡すことができればよいのですが、贈与を安易にしてしまうと、贈与税がかかってしまいます。

贈与税の税率は以下のようになっています。

法人税の税率は普通法人で23.4%ですので、それと比べるとずいぶん高いことがおわかりいただけるかと思います。

基礎控除後の金額 税率 控除額
0万円超200万円以下 10% 0万円
200万円超300万円以下 15% 10万円
300万円超400万円以下 20% 25万円
400万円超600万円以下 30% 65万円
600万円超1,000万円以下 40% 125万円
1,000万円超1,500万円以下 45% 175万円
1,500万円超3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

以下の所得税の税率表と比べても贈与税率は高いことがご理解いただけるかと思います。

課税総所得金額・課税退職所得金額又は課税山林所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円超330万円以下 10% 97,500円
330万円超695万円以下 20% 427,500円
695万円超900万円以下 23% 636,000円
900万円超1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円超4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円

会社の事業承継

この記事のテーマではないですが、まずは会社の話をさせて頂きます。

会社については、会社の売掛金、棚卸資産、固定資産などは法人のものなので、経営者が変わってもこれらの資産の所有者が変わるわけではありません。

買掛金、借入金などの負債についても同様です。

会社の支配権は法人が発行している会社をどれだけ持っているかによります。

非上場会社では「大株主 = 経営者」であることがほとんどで、経営者が会社の支配権を握っています。

ですので、経営者が変わる場合に株式を現経営者から後継者に移す必要があります。

後継者は現経営者に有償で株式を売ってもらうか、贈与してもらう必要があります。

いずれの方法もお金がかかります。

株式の価額、後継者の懐具合によっては、銀行からの借入で必要資金を担う必要も出てきます。

ほぼ売却できないに等しい非上場会社の株式を購入するのに、借入までしないといけないとなると、会社を継ぎたくないと考える後継者もいるはずです。

中小企業の多くが後継者がおらず廃業が相次いでいる現状を改善するために、平成30年から10年間限定で利用できる特例事業承継税制ができました。

非上場会社のオーナー兼経営者から後継者へ代表取締役の就任と自社株式の承継(贈与等)を実施し、事業承継させること等の要件を満たすことで、対象株式につき相続税・贈与税の全額の納税を猶予できる制度になります。

後継者としては株式を贈与してもらった時点で贈与税を払わなくてもいいので、それなら会社を継いでもいいなと考える後継者もいるはずです。

個人の事業承継

ここからはまた個人に戻りましょう。

個人事業主は会社ではないので、自社株式はありません。

後継者に事業に必要な現金、土地、機械装置などを引き継ぐことになります。

普通に渡すとやはり贈与税がかかってしまうことになってしまいます。

次章で説明する個人版事業承継税制では一定の条件のもとでこの贈与税の納付を猶予するものですが、ここでは従来からあった特例制度について説明します。

小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例

この特例制度は相続又は遺贈によって取得した財産のうち、以下のものが対象です。

  • 相続開始の直前において被相続人等の事業の用に供されていたもの
  • 相続開始の直前において被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で建物や構築物の敷地の用に供されていたもの

ここで、被相続人等とは、被相続人または被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族をいいます。

また、ここでの事業とは、相当の対価を得て継続的に行う不動産の貸付を含みます。

上記対象のものがある場合には、被相続人等が取得したこれらの宅地等のうち限度面積までの部分について相続税の課税価格が減額されます。

具体的には以下の表のようになります。

通常に計算した相続税の課税価格に以下の表にある割合をかけたものが、相続税の計算で使われます。

区分 相続開始直前の状況 要件 割合
事業用宅地等 被相続人の不動産貸付事業等以外の事業用 「特定事業用宅地等」に該当する宅地等 20%
事業用宅地等 被相続人と生計を一にする親族の不動産貸付業等以外の事業用 「特定事業用宅地等」に該当する宅地等 20%
事業用宅地等 不動産貸付業等の事業用 「特定同族会社事業用宅地等」に該当する宅地等 20%
事業用宅地等 不動産貸付業等の事業用 「貸付事業用宅地等」に該当する宅地等 50%
居住用宅地等 被相続人の居住の用に供されていた宅地等 「特定居住用宅地等」に該当する宅地等 20%
居住用宅地等 被相続人と生計を一にする親族の居住の用に供されていた宅地等 「特定居住用宅地等」に該当する宅地等 20%

 

 

平成31年度税制改正で創設された個人版事業承継税制とは

平成31年度税制改正で創設された個人版事業承継税制について説明します。

不動産貸付業等を除き、個人事業主が多い医師や税理士等の士業、農業等、幅広く対象となりました。

事業用の土地や建物、機械等の一定の減価償却資産に係る相続税・贈与税の納税を全額猶予できます。

適用条件

猶予税額等に見合う担保の提供が必要です。

また、青色申告をしていることも必要です。

対象資産

被相続人が生前行っていた事業に係る特定事業用資産(土地や建物、固定資産税等が課される減価償却資産)が対象となります。

なお、後継者の要件として、「被相続人が生前営んでいた事業に係る特定事業用資産の全てを取得していること」が要求されます。

具体的な特定事業用資産の例は以下のようなものです。

  • 面積400m^2までの土地
  • 床面積800m^2までの建物
  • 機械・器具備品(工作機械・パワーショベル・診療機器等)
  • 車両・運搬具
  • 生物(乳牛等、果樹等)等

適用対象期間

平成31年1月1日から平成40年(2028年)12月31日までの相続等・贈与が適用対象になります。

手続

平成31年4月1日から平成36年(2024年)3月31日までに承継計画を都道府県に提出する必要があります。

また、経営承継円滑化法の認定を受ける必要があります。

そして、申告期限後、3年ごとに継続届出書を税務署に提出が必要となります。

承継計画について

上記の手続き中にある承継計画について少し掘り下げて説明します。

従業員の雇用や教育、取引先(得意先・仕入先等)の開拓や信頼関係の構築、新商品や新製品の開発など、計画の水準や期間等には濃淡や範囲は異なっても、ほとんどすべての経営には計画が必要です。

まして事業承継となると、後継者の育成とその後継者への事業承継に係る計画が重要となります。

これが承継計画となります。

この承継計画について、2019年3月10日時点で個人版事業承継に係るものはありません。

平成30年の税制改正で導入された法人を対象とした事業承継税制の特例における「特例承継計画」を以下、見ていきます。

特例承継計画とは、「特例後継者が株式等を承継した後5年間の経営計画」のことです。

手続上は、「施行規則第17条第2項の規定による確認申請書」(様式第21)を作成することになります。

個人版事業承継税制についても同様の確認申請書の様式が公表されると考えられます。

なお、この特例承継計画作成上の留意点を以下に記載します。

特例後継者が実際に事業承継を行った後の5年間の具体的な取組内容を記載することが大切です。

設備投資・新事業展開、売上予算・利益予算については、空ずしも記載する必要はありません。

仮に、売上予算・利益予算等の数値に変更が生じますと、特例承継計画の変更手続が必要となります。

そのため、数値は記載しない方がよいです。

なお、すでに後継者が代表権を有している場合には、株式等の取得により経営権が安定したあとの取組について記載することになります。

次に、認定経営革新等支援機関による指導・助言について記載します。

会社が作成した特例承継計画について、認定支援機関(商工会、商工会議所、金融機関、税理士等)が確認します。

具体的には、事業承継を行う時期や準備状況、事業承継時までの経営上の課題とその対処方針、事業承継後の事業計画のための指導及び助言を行います。

そして、当該特例承継計画に所見を記載します。

なお、認定支援機関であれば、顧問税理士も所見を記載することができます。

次に特例承継計画の提出について触れます。

特例承継計画の提出先は「当該中小企業者の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事」です。

具体的には、主たる事務所の所在地を管轄する都道府県庁の申請窓口となります。

申請窓口は中小企業庁のホームページ等で紹介されています。

 

猶予税額

相続等・贈与で取得した対象資産の課税価格に対応する相続税・贈与税の金額が納税猶予されます。

猶予税額の免除等の要件

相続人が死亡時まで対象資産を保有し事業を継続した場合等には、猶予税額の全額を免除します。

相続人が対象資産に係る事業を廃止した場合等には、猶予税額の全額を納付します。

その他留意点

農業の場合、農地には納税猶予の適用を受け、その対象とならない事業用の土地や建物、減価償却資産については個人版事業承継税制の適用を受けるといった、納税猶予の両制度の併用が可能となります。

なお、この制度は前の章で説明しました事業用の小規模宅地特例との選択適用となる点に留意する必要があります。

また、猶予税額の全額の免除を受けるには原則、後継者が死亡するまで事業を継続することなどが必要などが必要となります。

検討が必要なケース

事業主以外の同一生計親族からの贈与等

個人版事業承継税制は、事業を営む被相続人が所有していた特定事業用資産が対象となるのが原則です。

被相続人の生計一親族(被相続人の配偶者など)が所有していた特定事業用資産で被相続人の事業の用に供されていたものも対象となります。

ただ、被相続人の青色申告書(65万円の青色申告特別控除)の貸借対照表に計上されているものに限ります。

その他、留意すべき点を以下に挙げます。

被相続人の同一生計親族である配偶者が所有していた建物を被相続人の事業用に賃貸していた場合、被相続人が配偶者に支払う賃料は必要経費に算入されません。

一方、配偶者が負担している固定資産税、減価償却費等は被相続人の必要経費として算入されます。

そのため、その建物は被相続人の貸借対照表に計上されます。

建物は配偶者の所有なので、これを配偶者から贈与してもらった場合にこの個人版事業承継税制が使えるかどうかが気になるところです。

この場合、被相続人から特定事業用資産を承継し、被相続人の相続開始の日から1年以内ならばその配偶者からその建物の贈与を受けた際は、この個人版事業承継税制を使える見通しです。

しかし、その事業用の建物を被相続人とは別生計の親族(例えば兄)が所有している場合、被相続人の相続後1年以内にその建物を後継者が兄から相続等で取得しても、その建物は被相続人の貸借対照表には計上されていないことから、認定の対象となりません。

先代経営者から子1人への承継

先代経営者がすべてを所有している場合

先代経営者である父が土地・建物、機械・器具備品等、すべてを所有していたとします。

この場合、後継者である子が相続もしくは贈与でその土地・建物、機械・器具備品等のすべてを取得したとすると、この個人版事業承継税制の適用ができます。

先代経営者が機械・器具備品等のみを所有している場合

先代経営者である父が機械・器具備品等を所有していたとします。

また、事業所がある土地・建物については外部業者から賃借していたとします。

この場合、後継者である子が相続・贈与でその機械・器具備品等のすべてを取得したとすると、この個人版事業承継税制の適用ができます。

先代経営者の持分の一部を承継

先代経営者である父が事業に供している土地・建物を所有しており、その持分が100%だったとします。

この場合に、後継者である子が相続・贈与でその土地・建物の80%を取得したとします。

すべての持分を取得していないので、個人版事業承継税制の適用ができません。

事業に係る特定事業用資産の一部を承継

先代経営者である父が土地・建物、機械・器具備品等を所有していたとします。

この場合に、後継者である子が相続・贈与でその土地・建物のみを取得し、機械・器具備品等は取得しなかったとします。

事業に係る特定事業用資産の全てを承継する必要がありますので、個人版事業承継税制の適用ができません。

先代経営者から子2人への承継

別々の土地でそれぞれ事業を営んでおり、事業ごとに子へ承継

先代経営者である父が別々の土地でそれぞれ製造業と小売業を営んでいたとします。

そして、製造業は長男に引き継ぎ、小売業は次男が引き継ぐとします。

この場合、個人版事業承継税制は適用できます。

同一の土地でそれぞれ事業を営んでおり、事業ごとに子へ承継

先代経営者である父が共通の土地でそれぞれ製造業と小売業を営んでいたとします。

建物・土地共に父所有のものだったとします。

そして、製造業は長男に引き継ぎ、小売業は次男が引き継ぐとします。

土地は長男と次男が共有します。

この場合には、土地を長男と次男が共有しているため、個人版事業承継税制の適用はできません。

 

 

まとめ

平成31年度税制改正で創設される予定の個人版事業承継税制について、ここまで書かせて頂きました。

まずはそもそも事業承継とは何かということを書き、事業承継によって資産等を後継者に渡した場合、相続税や贈与税が多額にかかります。

こういった税金負担を猶予する方法として個人版事業承継税制があるという話でした。

個人版事業承継税制の中身についても記載し、どういった場合に当該税制を適用できるかということも記載しました。

こちらの記事が皆様のお役に立つと幸いです。

 

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