波乱の東芝株、今後の展開を検証

東芝、本年度初の高値更新

まさか、あの東芝が・・・と言われながら、東芝が東証1部上場から2部へ降格されてから、もうすぐ1年になります。2018年6月13日に東芝株は大幅に上昇し、一時351円の高値をつけました。日本企業を代表する東芝のこの日の上昇は、東芝株を所有していようと所有していまいと、多くの人に安堵の感をもたらしたに違いありません。

創業110年を超える大手企業、東芝の降格は、日本経済の将来に不安を与える要素となっていたのです。そこで、株式投資を始めたばかりの人や、これから企業の勉強を始めようと思っている人の中には、いったいあの有名な大手企業、技術とエネルギーの東芝に何が起きたのかと首をかしげている人も多いことでしょう。そして、東芝株をこれから買うべきかどうか迷っている人もいることでしょう。

今回は、波乱に満ちた株式会社東芝に何があったのか、そして、今後はどのような展開が予想されるのかを考えてみたいと思います。

最近の東芝株の動き

出典:日経新聞

6月13日に急上昇した東芝株の背景には、7000億円という国内でも最大規模な自社株買いを発表したことがきっかけとなりました。自社株買いを行うと結果的に、1株あたりの株価が上昇するので、株主のモチベーションを高める効果があります。

また、同時に企業自らが自社の株を購入するということは、近い将来に高い業績をあげることを予測しているからだとの見解もあります。いずれにしても、自社株買いは株価を上昇させるきっかけになる場合が多いのです。

自社株買いとは
企業が市場に出回っている株を企業自身が自ら購入することです。

→10,000株が市場にあるとして、そのうちの3,000株を自社で保有すれば市場に出回る株数が7,000株に減ります。
市場にある株数が減ることで、1株の単価が上がるというメリットがあります。

株主への意志表示
今回の東芝の場合は、経営破綻に危ぶまれながらも、支えてくれた株主へ感謝の気持ちを表すという意味にもとられています。さまざまな見解がされていますが、もしかしたら、上場1部復帰への何か具体的な対策案があるのではないだろうか、とも言われています。

そのような期待が、13日の東芝の株価を一気に上昇させたのです。

危機が訪れた東芝

 

Woman
でも、どうして東芝は上場2部に降格になったの?
Expert
2017年の1月に、アメリカの原子力発電のプロジェクトが破綻してしまい、約1兆円の損失を作ってしまったのです。

東芝とウェスティングハウス

そもそも、東芝のこの悲劇は2006年にアメリカの企業、ウェスティングハウスを買収したことから始まります。ウェスティングハウスは原子力発電をメインとするインフラ設備会社で、当時イギリスが保有していた企業でした。

東芝はこのウェスティングハウスを約54憶ドルで買収し、長期に渡る、複数の原子力発電所の大規模なプロジェクトを計画していました。

最初のつまずき

最初に着手し始めたのジョージア州の原子力発電所でした。ところが、建設するための土壌を整えることに思った以上に年月がかかり、遅延に遅延を重ね時間がたつごとに多大な費用は増えていくばかりでした。

2009年に建設を開始できる準備は整ったかのように見えましたが、建設を開始するにあたっての当局の許可がおりるまでに半年以上待たねばなりませんでした。そして、さらに新しく設置する予定の原子力発電基に十分なテストが行われていないことがあり、時間を要しました。

つまずき続けるウェスティングハウスと東芝のジョージア州のプロジェクトは2012年にはとうとう、中断せざるを得ない結果となってしまったのです。その時ですでに、予算の超過分はすでに170憶ドルを超えると言われています。

その後、サウスカロライナ州でも思うようにプロジェクトは進展せず、莫大な額の超過費用だけが増え続けていったのです。

決定的な打撃

いつまでたっても、実現しない原子力発電所のプロジェクトによって、2016年には東芝とウェスティングハウスは逃げ場のない窮地に陥ります。結局、プロジェクトを放棄しても、このまま実行してもさらに数十億円の費用がかかってしまうという状態です。

さらに、ウェスティングハウスが2015年に買収した原子力系の建設会社がまったくの失策に終わりました。そのうえ、決定的な打撃となったのが、本来ウェスティングハウスが損失額として報告していた金額と、実質の損失額に大きな誤りがあることが判明したのです。

調査の結果、最終的な損失額は2016年末で約5,000憶円、2018年3月の決算時には7,000憶円の損失を計上するだろうと発表されたのです。そこから前代未聞とも言える莫大な損失額による、前代未聞とも言える危機が大手企業・東芝に訪れてしまったのでした。

その決定的なニュースが発表されたのは、ちょうど前年の決算報告の不正事件から、株価が大きなダメージを受けて立ち直ろうとしている時でした。ようやく株価が高値圏にもどった頃、そのニュースによりまた急落を始めたのです。ウェスティングハウスのニュースが発表されてから、ほんの3日間で株価は半額以下になってしまいました。

2017年を迎えた東芝

衝撃のニュースは世界中で報道されました。ウォールストリートジャーナル、BBC, CNNなどのほとんどのメジャーなメディアで東芝の悲劇が報道されました。どうしたのか東芝?どうするのか東芝?どうなるのか東芝?と株式上場廃止の噂もあちらこちらで飛び交いました。

日本政府も解決策に向けて身を乗り出したほどです。防衛をはじめとする、国内の機密事項に深くかかわる東芝の危機は、ただ単に1つの企業として扱うにはあまりにも深刻な問題だったのです。おそらく、一緒に高度成長期を駆け抜けてきた企業らも、他人事ではなかったでしょう。

東芝とウェスティングハウスの大惨事の詳細は調査され、東芝が抱える負債は約7,000憶円以上であることが明確になりました。巨額な負債を抱える東芝は上場1部の基準に満たないため、2017年の8月をもって上場2部に降格してしまったのです。

株式上場にとどまることはできましたが、7,000憶円を超える負債、その他の赤字額も含めて1兆円を超える損失を解決しなければ、上場廃止は免れないのです。東芝は何とかして、返済にあてる資金をつくらなければなりません。それから、東芝は再建に向けての険しい道を歩み始めることになります。

原子力発電事業から撤退

まず、最初に東芝がしたことは、アメリカのウェスティングハウスを破産宣告して、アメリカの原子力発電事業から撤退することでした。しかし、現実には撤退を決意する以前に、そのプロジェクトを死んだも同然の状態ではあったのです。

2017年の3月末に、海外の原発事業から完全に撤退することを、東芝再建の第一歩としたい、と代表取締役である綱川聡氏が報道に向けて宣言しました。続く、5月31日には東芝が単体で引き受けていた、テキサス州の原子力発電プロジェクトからも撤退することを表明しました。

メモリー事業売却の決意

次に、東芝は身を引き裂くような思いで、事業の売却が検討します。事業を売却することによって、現金を調達できるだけでなく、各金融機関からの融資も可能となるからです。

東芝は、ウェスティングハウスの件で原発事業が滞っていた時に、すでに優良会社である「東芝メディカルシステムズ」キャノンに売却してしまっていました。次に東芝ができることは、運営する事業の中でも売り上げの大部分を占める、メモリー事業の売却だったのです。

Man
メモリーって何なの?
Expert
普段私達が使っているスマホやPCでデータを保存しておけるシステムのことです。メモリーカードやUSBもメモリーです。通信機器のデーターを大量に保存することのできるシステム全般を意味します。

 

NAND型フラッシュメモリー
従来のメモリーシステムは平面状にしかデータを蓄積できませんでした。例えば、紙の上にデータを書いていくような感じです。東芝が発明したメモリーは立体型にデータを蓄積することを可能にしました。つまりは、紙の上に書いたデータを箱いっぱいに重ねることができるというイメージです。

この東芝のメモリー事業は、長年にかけて東芝が築き上げてきた血と汗と涙の結晶でもあります。いわば、手塩にかけて育ててきた、何よりも大切な可愛い子供でもあります。
それでも、巨大な損失を埋めるために、東芝はこのメモリー事業の売却を決意しなければなりませんでした。

日本の半導体市場の地位

東芝が売却したメモリー事業のメモリーと呼ばれるものは、電子機器(パソコンやスマホや家電など)に使われている半導体の1つです。

半導体とはセミコンダクタ―とも言われ、情報を処理したり、データを記憶したり、電気を循環させたりするための小型ステーションのようなもので、小さな部品でつくられてます。電子機器にとって一番大切な部分になります。

世界の半導体ランキング

1980年代後半

出典:ウィキペディア

参考リンク:半導体メーカー売上高ランキング

1980年代後半は日本の半導体は最盛期にあります。数年に渡って、上位3位を常に日本の企業が独占しました。10位以内でも半分以上を日本企業が占めていたのです。

1992年~

ところが、1992年には初めてアメリカのインテルがトップに躍り出るのです。そして、1993年にはこれまで10位以下だった韓国のサムソン電子が7位に登場します。それから、2000年あたりまではアメリカがトップを守りつつも東芝、NECは常に上位3位をキープし続けました。

2005年~

その後、2005年には、ついにサムソン電子は東芝を抜いて上位2位に登り詰めるのです。それ以降は日本勢は次第に10位以内から姿を消していき、2013年にはアメリカと韓国が上位を占めるようになるのです。それでも東芝は独自のメモリーフラッシュの開発により、日本勢では唯一、10位以内にかろうじて留まり続けたのです。

2017年には、サムソン電子がインテルを抜いてトップの座を獲得しました。

出典:ウィキペディア

日本が半導体の世界から次第に、その地位を失っていった原因として色んな見解があります。中でも、日本の融通がきかない給与体系では十分なモチベーションを得ることができず、多くの優れた技術者が他国の企業に、移ってしまったからだとも言われています。

地位を譲った日本

近年において、東芝メモリを除き、日本は半導体における地位をアメリカや韓国に譲ってしまったのです。

そんな中で、東芝のメモリー事業をどこに売却するかは、もう企業同士の話し合いで解決できる問題ではありません。今後も増々、需要が増加すると思われる東芝メモリー事業は、国政が関わりながらの論争となりました。

時間を延ばせるだけ延ばした末、東芝は2018年6月1日に、アメリカのベインキャピタルが率いる「日米韓連合」にメモリー事業を約2兆円での売却てしまったのです。当時の記者会見で見る東芝に、いくら自らが招いてしまった過ちだったとしても、思わず涙ぐんでしまう人は、少なくなかったでしょう。

東芝の今後の展開

困難に陥ってしまった2016年から東芝が売却した事業を調べてみたいと思います。

東芝が売却した事業

    • 医療システムテクノロジー「東芝メディカルシステムズ」
    • 産業用コンピューターの設計・販売子会社 「東芝プラットフォームソリューション」
    • テレビ事業 「東芝映像ソリューション」
    • パソコン事業 「東芝ダイナブック」
    • メモリー事業 「東芝メモリ」

現在の東芝

多くを失ってしまった東芝に残された事業には何があるのでしょうか?

東芝エネルギーシステムズ株式会社
  • 国内の原子力発電、火力発電、次世代の再生エネルギー、水素エネルギーなどのインフラ設計、建設、生産までを一括して行う。
  • 現代の生活で必要不可欠な多大な電気エネルギーの需要に対応。
  • 自然環境との調和を考えた次世代エネルギーを提供。
東芝インフラシステムズ株式会社
  • 上下水道設備、ビル・施設等の建物設備、鉄道、エレベーター、空調設備などの製造、施工。
  • 社会システム部では防災や緊急時に備えたシステムを提案。
  • 高速道路での交通情報などを把握・管理するためのシステムの提供。
東芝デバイス&ストレジ―株式会社
  • ストレージシステム、通信接続機器、車載用システム、アプリケーションソフトなど。
  • 膨大なデータの保存や高速データ通信に対応するハードディスクドライブ。
  • 電気回路に必要なスイッチ、コネクターなどのデバイスの製造。
東芝デジタルソリューションズ株式会社
  • Iot関連機器、情報処理ソリューション、クラウドソリューション、各種ビジネスツール
  • 電力小売り事業者向けのソリューション。
  • 情報セキュリティソリューション。

以上の4つの事業にて、東芝は再スタートを始めました。従来から培ってきた高度な技術と知識を活かし、人々の暮らしと社会を支えることのできる社会インフラやエネルギーを中心に事業を進めていくことになります。新しい価値を創造し、安心して暮らせるために、社会に貢献することのできる事業の運営体制を整えました。

新エネルギーが東芝の強みになる?

新エネルギー事業

東芝が継続する事業の中でも、新エネルギー事業は、まだまだ、今後大幅に需要が増加する分野だと見ることができます。現時点では、新エネルギーはコストがかかってしまう点で、普及拡大していく動きは緩慢ではありますが、それでも確実にその領域を伸ばしていると言えます。

 

出典:東芝エネルギーシステムズ株式会社 参考リンク:水素エネルギー

 

水素エネルギー

私達にとって一番身近な「水」から生まれた水素は、クリーンで安全なエネルギーです。二酸化炭素を排出せず、蓄電用の設備に貯めておくこともできます。近年における電池の開発によって、燃料電池自動車の燃料としても注目されているエネルギーです。また、太陽光発電のように天気に左右されることがないので、寒冷地でも使うことができます。

東芝はガスエネルギー大手である岩谷産業と提携して、北海道釧路市にて、水素設備の実験を2018年5月24日に開始しました。ここで生産された水素は釧路市の各施設で利用されるとともに、自動車業界のエースであるトヨタ自動車の燃料電池としても利用されることになります。

地熱発電

火山が豊富にある島国の日本では、以前から火山マグマの高熱を利用した地熱発電の研究が行われてきました。岩手県松川地熱発電所を皮切りに、すでに数カ所で東芝が建設した地熱発電が活躍を始めています。

インドネシアでは世界最大と言われる地熱発電所が建設されました。2017年5月、アフリカのケニアでも地熱発電所の契約を交わしました。

出典:東芝エネルギーシステムズ株式会社 プレスリリース 参考リンク

 

太陽光・風力・水力発電

太陽発電は世界的に開発・普及が進んでいる今後期待の高い新エネルギーです。国内では、一般住宅用太陽光発電は10万戸以上の納入実績があります。東芝の太陽光発電の変換率が高く世界でもトップクラスの21.2%となります。最近では、家庭用や産業用だけにとどまらず、商業施設、農業用地、工場などにも広く普及しています。

風力発電は風の力で風車を回転させることでエネルギーを作ります。東芝は韓国企業と提携して沿岸地や沖合に設置される風力発電の導入が進んでいます。立地・風況調査を行った上で工事設計を実施し、その他の新エネルギーと組み合わせることで高い効果を得ることができます。

水力発電は水が高いところから、低いところに落ちるエネルギーを利用するもので、ダムや川に設置されています。

まとめ

このように、東芝は経営破綻の危機にさらされながらも再スタートをきることが出来ました。メモリー事業の売却が完了したのは、まだ、つい最近のことです。メモリー事業が東芝の手を完全に離れてからが、本当に生き残れるかどうかの勝負となります。

確かに、今後の大きな需要に応えることのできるメモリー事業の売却は、東芝にとっては「断腸の思い」だったに違いありません。しかし、だからこそ東芝は今後大きく飛躍していくとも見ることができます。

数年前に起きてしまった、福島の原発事故以来は世界中で原発に対する危惧が高まり、自然エネルギーの活用を進展させました。でも、実際には自然エネルギーだけで私達の生活を賄うことは不可能であるのが現状です。だからといって、いつまでも危険度の高い核燃料を使い続けることはできないでしょう。

自然エネルギーによる完全なエネルギーの供給を実現することが、これからの時代を生きる私達の課題でもあります。そして、原子力発電が引き起こした「断腸の思い」を心に秘めた東芝なら、もしかしたら、そのような実現を可能にしてくれるかもしれません。あるいは、同じ間違えを繰り返すかもしれません。

今後、東芝が再建に向かって成功するかどうかは、エネルギー分野でどう動いていくかによるとも言えるのではないでしょうか?

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