平成31年度の年金制度を解説!主な変更点はこれだ!

平成から令和へと新しい時代に進もうとしている中で、年金制度についても大きな変化を迎えようとしています。

年金制度は制度が始まった時から常に変化し続けており、時代の変化とともにその制度について認識されることが増えてきました。しかし、実際のところは制度の変化のスピードに私たちが全くついていけていないといった感じが実情ではないでしょうか?

今回は、平成31年(令和元年)度における年金制度の変更点について、直近の年度に施工された内容も踏まえて解説していきます。

1平成31年度の年金額

平成31年度の年金額は前年と比べて0.1%増額となりました。これは総務省から発表された「平成30年平均の全国消費者物価指数」(生鮮食品を含む総合指数)の内容を踏まえたうえで決定したもので、具体的な年金額は以下の表の通りになります。

平成31年度の年金額(参照:厚生労働省HP)

平成30年度(月額) 平成31年度(月額)
国民年金(老齢基礎年金:満額) 64,941円 65,008円(+67円)
厚生年金保険(老齢厚生年金)(※) 221,277円 221,504円(+227円)

(※)夫が平均的収入(平均標準報酬月額42.8万円)で40年間就業し、妻が専業主婦であった場合の給付水準です。

年金額の改定ルール

年金額を毎年見直しをするためのルールがあります。これは物価の変動率や賃金の変動率等を参考にして、年金額の増減の調整を行うシステムの事で、この仕組みを基準に毎年4月以降に支給が開始される年金額の計算が行われます。

(用語の意義)

(ア)物価変動率

商品やサービスの価値が昨年に比べてどれくらい上昇したかを表した率のことで、年金額の改定の際に用いられるのは「全国消費者物価指数(全国的に消費者が支払った商品やサービスの対価が前年に比べてどれくらい上昇したのかを表した指数)」です。

(イ)名目手取り賃金変動率

前年度の物価変動率に2年度前から4年度前までの3年度分の平均の実質賃金変動率(賃金として支払われる貨幣額を生活物資の物価水準で除して、実際上の購買力に換算した金額の変動率のこと)と可処分所得割合変化率(家計の収入総額から税金や社会保険料などを控除した金額の変動率)を乗じたもの

(ウ)マクロ経済スライドによるスライド調整率

公的年金被保険者の減少と平均余命の伸びに基づいて、スライド調整率が設定され、その分を賃金と物価の変動がプラスになる場合に改定率から控除するものとされており、年金改定率の上昇率を抑えることで、将来の年金の給付水準を確保することにつながるとも言われています。

(エ)前年度までのマクロ経済スライドの未調整分

マクロ経済スライドによって前年度よりも年金の名目額を下げない措置は維持しつつ、調整しきれずに翌年以降に繰り越されたもの

平成31年度の年金改定率は?

平成31年度の年金改定率は、+0.1%の増額となりました。

平成31年度の年金改定率の改定のルール

 

<平成31年度の参考指標>

(ア)物価変動率:1.0%

(イ)名目手取り賃金変動率:0.6%

(ウ)マクロ経済スライドによる調整率:▲0.2%

(エ)前年度までのマクロ経済スライドの未調整分:▲0.3%

手順1 物価変動率と名目手取り賃金変動率を比較して、いずれか小さいほうを改定率の基準に用います。平成31年度は「物価変動率(1.0%)>名目手取り賃金変動率(0.6%)」となるため、名目手取り賃金変動率の0.6%を改定率の基準に用います。

手順2 改定率の基準となった0.6%にマクロ経済スライドによるスライド調整率(▲0.2%)と前年度までのマクロ経済スライド未調整分(▲0.3%)を加味して調整を行うため、結果的に平成31年度の年金改定率は「0.6%+(▲0.2%)+(▲0.3%)=0.1%」となります。

2平成31年度の社会保険料

国民年金保険料について

平成31年度の社会保険料については、4月から「産前産後期間の保険料免除制度」が施行される関係で、月額で70円の値上がりとなりました。なお、令和元年度分につきましても、同様の理由から前年保険料よりも月額で130円値上がりとなります。これは、平成16年度価格水準で、平成31年度以降毎年100円値上がりすることになっているためです。

なお、平成30年度が月額16,340円であり、平成31年度については、すでに保険料の改定が行われ「月額で16,410円」と決まっていたため、令和元年度からの保険料で増額差額分(30円分)の調節を行う形となっています。

平成31年度 令和元年度
法律に規定されている保険料額

(平成16年度価格水準)

 

17,000円

 

17,000円

実際の保険料額

(前年度の保険料額との比較)

16,410円

(+70円)

16,540円

(+130円)

在職老齢年金について

在職老齢年金については、60歳代前半の支給停止調整開始額(60歳代前半の在職老齢年金の第1段階の調整基準額)は前年度と変わらず28万円となりますが、60歳代前半の支給停止調整変更額(60歳代前半の在職老齢年金の第2段階調整基準額)と60歳代後半・70歳以降の支給停止調整額については前年度の46万円から47万円へと変更されました。

平成30年度 平成31年(令和元年)度
60歳代前半の支給停止調整開始額 28万円 28万円
60歳代前半の支給停止調整変更額 46万円 47万円
60歳代後半・70歳以降の支給停止調整額 46万円 47万円


3平成31年度の主な改正ポイント

年金制度の改正は段階的に行われており、前年以前から改正の経過が続いている制度もたくさんあります。そのため、ここでは平成31年度から施行された改正内容を中心に、前年以前に改正が行われているが現在までに段階的に改正が行われている制度についても併せて解説していきます。

(ア)国民年金第1号被保険者の産前産後期間の保険料の免除(平成31年4月施行)

次世代育成支援のため、国民年金第1号被保険者の産前産後期間(出産予定日の前月から4ヶ月間)の保険料を免除し、免除期間については満額の基礎年金の補償がされます。

これにより、国民年金の第1号被保険者の保険料が月額100円程度引き上げられることになります。⇒この引き上げられた分を財源として、産前産後休業期間中の保険料負担部分の年金額にするためです。

(イ)短時間労働者への被用者保険の適用拡大の促進(平成28年4月から順次施行)

短時間労働者への被用者保険の適用範囲の拡大については、平成28年4月から501人以上の企業等に適用され、平成29年4月からは500人以下の中小企業に対しても適用されることになりました。

<適用範囲>

次のいずれの要件もみたしている必要があります。

①労働時間が週20時間以上であること

②月額賃金8.8万円(年収106万円以上)であること

③勤務期間が1年以上見込まれること

④学生等でないこと

⑤被保険者である従業員が201人以上であること【平成28年10月~】

⑥労使合意がなされていること(従業員が500人以下の企業等の場合)【平成29年4月~】

【短時間労働者の被保険者加入のメリット・デメリット】

(メリット)

・病気や老齢になって給料がもらえなくなったときに、給付金・年金等が支給される。

・社会保険料が所得から控除されるため、納付するべき所得税や住民税が減る。

・労働時間や年収の上限を意識しないで働くことができる。

(デメリット)

・毎月の給料から社会保険料が徴収されて、手取り額が減る。

・配偶者の家族手当が支給停止になることがある。

 

短時間労働者の被用者保険の加入適用範囲の拡大は、平成28年10月から501人以上の企業等から適用がスタートして、平成29年4月からは、500人以下の規模の企業等についても適用することになりました。この規定において、一番注意してほしいこととしては「500人以下の企業については労使間での合意に基づき、適用範囲の拡大が行われる」ということです。

つまり、500人以下の企業については「労使合意に基づき」とすることで、適用範囲の拡大についてはある程度、事業主に対して裁量を持たせているところがあります。また、事業によっては急に適用範囲の拡大を行うことが業務に支障が出る恐れがあることも考慮しているところがあります。

(ウ)年金額の改定ルールの見直し

年金額の改定のルールについては、基本的に「物価と賃金の変動率」を基準にして行われます。平成28年度の制度改正により、この「物価と賃金の変動率」を基準にした改定から、さらに、「マクロ経済スライド」と呼ばれる調整を行うことによって最終的な年金額の改定率を決定することになりました。

 

【マクロ経済スライドの仕組み】

マクロ経済スライドは、現在年金を受給している世代と将来年金を受給する世代との間の年金の給付水準の適正化を図ることが狙いとされている制度です。

つまり、現状のマクロ経済スライドは賃金や物価による調整率による伸び率から、平均余命現役世代の減少率等を勘案した調整率を引き下げることで、年金額を長期間にわたり徐々に調整する仕組みによって年金額の調整を行っています。

※マクロ経済スライドによる調整率

公的年金全体の被保険者の減少率(直近3か年度の実績値の平均値)+平均余命の伸びを勘案した一定率(0.3%)

調整率は2015年から2040年までの見込み(年平均)は1.2~1.3%とされています。

 

 

【名目下限措置】

マクロ経済スライドによる調整が行われることで、現在年金を受給している世代の年金額と将来年金を受給する世代の年金額との実質的な年金額の差額部分を徐々に解消することができますが、物価や賃金の調整率によっては、マクロ経済スライドによる調整率が上回ってしまい、年金額が減額調整される可能性があります。

こうした事態を防ぐために、賃金や物価の調整率がマクロ経済スライドによる調整率を下回った場合については、下回る部分については調整を行わない(翌期以降に繰り越す)ようにすることを名目下限措置と言います。

つまり、以下のような場合に名目下限措置が発動するということになります。

・賃金や物価の伸び率(A)<マクロ経済スライド調整率(B)

賃金や物価の変動率分の調整を行い、それを上回る調整率については、翌期以降に調整を繰り越す(キャリーオーバー)ことで、高齢者の年金の年金額の改定を行わないようにする。翌期以降に(A)>(B)となった時に、キャリーオーバー分をまとめて調整を行うことになります。(キャリーオーバー分が調整しきれない場合は、翌期以降に繰り越されます。)

なお、このキャリーオーバー分の調整は平成30年4月から行われるようになり、平成31年4月以降に支給される年金額の改定率の調整において、はじめてこの制度が適用されました。

・賃金や物価の変動率(A)<0の場合

賃金や物価の変動率がマイナスとなった場合については、賃金や物価の下落率を超える部分の調整は行われません。つまり、(A)の下落率までは改定が行われるが、マクロ経済スライドによる調整率が(A)の下落率を上回る場合は、(A)の下落率までの調整にとどめて、それを超える部分についてはキャリーオーバーが発生することになります。

【キャリーオーバーの調整方法】

年金額の調整を行う際に、賃金・物価の調整率がマクロ経済スライドによる調整率よりも小さい場合は、賃金・物価の調整率分については年金額の調整が行われるが、それを超過する部分のマクロ経済スライドの調整率は翌期以降に持ち越されることになることをキャリーオーバーといいます。(上記【名目下限措置】を参照)

このキャリーオーバーは、景気後退期において発生することが多いため、景気回復期においてキャリーオーバー分の調整率の調整を行うことで、年金の名目下限措置は維持させることになります。

 

 

【賃金・物価スライドの見直し】(令和3年4月施行予定)

年金額の調整についての改正のポイントとして、賃金・物価スライドの見直しが行われることになりました。具体的には、物価が賃金よりも高い水準で推移した場合に、賃金(新規裁定者の改定基準)を基準とした調整が行われるようになります。

(ア)物価<賃金の場合(実質賃金がプラスとなる場合)

物価の上昇率よりも賃金の上昇率が高い場合(実質賃金がプラスとなる場合)の年金額の調整は以下の通りに調節が行われます。

①物価・賃金ともにプラスの伸びである場合:既裁定者・新規裁定者ともに年金額が増額改定されます。

②物価<0、賃金>0の場合:既裁定者の年金額は減額調整され、新規裁定者の年金額は増額改定されます。

③物価・賃金いずれもマイナスの伸び率の場合:それぞれの下げ幅の調整率の減額調整が行われます。

(イ)物価>賃金(実質賃金マイナス)の場合

①物価・賃金ともにプラスの伸びである場合:既裁定者の改定率は、新規裁定者の伸び率に合わせる形で調整が行われます

②物価<0、賃金>0の場合【令和3年4月より】:新規裁定者の改定率(減額調整)に合わせて行われることになります。つまり、記載停車の改定基準である物価がプラスの伸び率となっていたとしても、新規裁定者の調整率の基準となる賃金の成長率(減額率)に合わせて改定が行われることになります、。

③物価・賃金いずれもマイナスの伸び率の場合【令和3年4月より】:物価・賃金いずれの成長率がマイナスとなった場合については、新規裁定者の調整率の基準である賃金の調整率を基準として調整が行われ、既裁定者の年金額の調整についても同様に賃金の調整率を基準に調整を行うことになります。

(イ)②・③については、令和3年4月以降にスタートする改正点ですが、この改正の趣旨は「将来世帯の給付水準の確保」を目的としているところにあります。

 

今回の改正によって、新しくなった年金額の改定調整のルールによって調整された年金額を基準に、マクロ経済スライドによる調整を行い、最終的な年金額が決定される仕組みとなります。

4まとめ

年金に関する法制度は、絶えず変化し続けています。そして、より一層複雑な制度へと改正が行われ続けているところがあることは否めません。

年金の金額や、もらうことが出来る年金の種類や内容など、これから年金をもらう人と既に年金を受給している人とでは、明らかにもらうことが出来る年金額に差があります。今回の年金制度の法改正は、こうした世帯間の年金の受給額の差をなくすための制度改正が始まったものとも考えられますが、財源の確保などの問題が大きな影を潜めていることもあり、受給開始年齢をまた、段階的に引き上げたり、年金額を増やすための新たな年金制度の創設をする可能性など、年金制度がさらに複雑になって来ることも否定できません。

いざとなったときに、いくらもらうことが出来るかについて、あらかじめ専門家に相談することで、将来に備えることを考えることも視野に、こんごの年金制度の改正の流れを見ていきましょう。

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