【為替情報】Brexitはどうなる?合意なき離脱「No-Deal Brexit」について解説します。

イギリスがEUから離脱する日が近づいていおり、2019年3月29日まであと1か月となりました。イギリスもEUも他国に大きな影響を与える主要国であるため、世界中が今注目しています。

現在イギリス議会では、離脱方法を明確に決定すべく議論が飛び交っています。3月12日に、すでに提出されている離脱条件をEUと結ぶのか、それともその条件では納得がいかないのかを決定する議決が予定されています。

結果次第では、最終手段であるNo-Deal Brexitが実行される可能性が浮き上がってきており、Brexitの期日を延期すべきではないかとの意見も聞かれています。

そこで、いったいBrexitでは何が論争されているのか、No-Deal Brexitとは何なのかと疑問に思う人も多いかもしれません。

今回は、Brexitとは何なのか、どうなるのか、そして今最も論争のポイントとなっているNo-Deal Brexitとは何なのかをわかりやすく解説していきます。

Brexitとは

それでは最初にBrexitが何なのか、どうしてイギリスは離脱を決意したのかをわかりやすくするために、まずはEUとはどのような組織、連合体であるのかをまとめていきましょう。

EU

EUは、

Europian Union(ヨーロピアンユニオン)を略したもので、ヨーロッパ大陸の諸国が連合した組織のことです。極端な例をいえば、アメリカ合衆国のようにいくつもの州が統合されて1つの国になっているようなものです。

EUの加盟国はEU条約に従うことが義務づけられており、有利な点もある反面、他国の介入や干渉は避けられないシステムになっています。

EUは諸国が連合することで、政治的、経済的に1つの集合体になることで、互いに協力し合い確固たる地位を世界で保っていくことを目的にしています。EUに加盟する国々は、いわば運命共同体として存在しています。

EU発足の経緯

1900年代の前半に、世界は2回に渡って大きな戦争を起こしました。戦争なんて現代の私達には非現実的すぎて想像もつきませんが、今の平和が訪れる前には第一次世界大戦、第2次世界大戦と続き、人々は戦火におびえる日々を送っていたのです。

世界を巻き込む大きな戦争があったため、戦後も多くの国が荒廃と貧困に苦しむ結果となりました。そこで、最初はヨーロッパの6か国がECSCとして団結することになりました。

その後、このECSCに加盟する国は増えていき、12カ国によるEECに名称が変わります。1970年あたりにイギリスもこの共同体に加盟すべきかと検討し始めます。

  • 関税や貿易制限の撤廃
  • 人やモノの移動の自由化
  • 共同出資銀行の設立

などを目的に掲げ、1967年に欧州共同体ECが誕生します。そして、1973年にイギリスがこの共同体へ加盟します。イギリスが加盟するきっかけは1970年から始まったオイルショックが原因だったと言われています。

EU誕生

1986年、この欧州連合体のシンボルの旗が各国で使われるようになり、各国は条約によって結束を固めていきます。その後1993年に今のEUが発足したのです。

さらにEUは拡大・発展していき通貨をユーロで統一するなどして、資源、経済、政治、環境、文化、教育、安全保障などあらゆる面で統一されていくことになります。

EUの現在

こうしてEUは様々な問題を抱えながらも現在28カ国が加盟する連合体へと拡大しました。

しかし近年になって、EUに加盟する国の中には、失業率が高く経済的に困難な状況にある国もあり、スペインやギリシャなどが破綻寸前になるなど深刻な状況が懸念されるようになりました。

各国の経済格差が大きすぎるために、国によっては恩恵よりも損失の方が大きく、EUに加盟する意義が問われはじめたのです。そんな国の1つがイギリスです。

イギリスの決意

そして、経済面だけでなく様々な理由から、独立・自由を求めてイギリスはEU脱退を決意表明することになります。2016年の国民投票にて離脱の賛成票は過半数を超え、離脱を推進する保守党のテレサ・メイが首相の座に就きます。

そして2017年、法的にEUに対して離脱要請となる、EU条約50条を発動したのです。

Brexitは、イギリスの別名でもあるBritainがExit (出ていく)ことを略した言葉になります。Brexitに関する記事はこちらでもご覧いただけます。

島国で独自の文化を持つイギリス

おそらく日本人であれば、イギリスの離脱に対して共感できる人も多いのではないかと思います。

イギリスはヨーロッパに位置しながらも周りは海に囲まれた島国であり、ヨーロッパの一部でありながらも、独自の文化、思想、、宗教、政治形態を築き上げてきています。

日本が中国や韓国のすぐそばに位置しながらも、全く異なる国であるのと同じことです。例えば、日本が中国の1部になることは不可能ですし、韓国と運命を共にせよと言われても無理があります。

とくに島国の場合は、人の出入りが制限されてしまうことからも、より強固で独自のスタイルが生まれやすくなります。それをただ単に閉鎖的だ、非国際的だという言葉で片付けてしまうには、あまりにもイギリス自身は強靭で、築いてきた歴史が長すぎます。

Brexitの実行

というわけで、反対の声が聞かれながらも、イギリスは強気の姿勢でEUからの離脱を進めてきました。EU条約50条を発動して依頼、約20カ月後2019年2月後半に、ようやくEU側との交渉が具体化してきました。

Brexitが実行される期日は3月29日です。

しかしここにきて、イギリス国会ではメイ首相が交渉した離脱条件について激しい対立がおきています。もともと離脱反対派が多かった労働党はメイ首相の「交渉条件が気に入らない」と反対しているからです。かといって、「No-Dealは問題外だ」との態度で一貫しています。

「じゃあ、双方の納得いく交渉が進められるようBrexitを延長する方法もある」とメイ首相が提案すれば・・・

「それは無責任だ!一旦3月29日と決めたではないか!この状態が長引くのは不経済だ!」と反論されます。

ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う、何とも収拾のつかない状態に、メイ首相は3つの離脱方法を提案しています。

3つの離脱方法

現在イギリス議会のEU離脱における選択肢は3つあります。

  1. Deal-Brexit (EUとの合意条件に沿った離脱)
  2. No-Deal Brexit(EUの合意なきBrexit)
  3. Brexit-Extention(Brexitを延長する)

それぞれどのような内容になるのかを見ていきましょう。

Deal-Brexit

Deal-BrexitとはEUの合意を得て、特定の条件のもとで離脱する方法をいいます。

EU加盟国でなくなった場合は、これまで有利になっていたEU圏内での自由貿易や人やモノの移動が制限されてしまうことになります。

Deal-Brexitは部分的にイギリスにとって有利な条件を残しつつ離脱していくことをいいます。そのかわりイギリスはEUが納得のいく巨額な手切れ金を支払う必要があります。

現在、メイ首相によるこのDeal-Brexitの交渉がEUから承認され、イギリス議会の合意を得る段階にきています。

No-Deal Brexit

No-Deal BrexitとはEUの合意を得ずに無条件で強引に離脱する方法をいいます。

この場合、イギリスはEU圏からは除外され、関税や入国審査が適用されることになります。もう自由に行き来することはできませんし、貿易上も制限を受けます。

そのかわり、イギリスは本来そうであったように、完全に独立して自国を管理していくことができます。No-Dealの場合は手切れ金を払う必要はないのですが、市民権や関税問題などでかなりの混乱が予想されています。

Brexit-Extention

Brexit-Extentionとは、結局、EUが合意した離脱条件に沿ったBrexitも合意なきBrexitも両方とも議会によって却下された場合にとられる対応策です。

そうなった場合は、反対派が納得のいく離脱条件を再考案して、EUに提示しなければなりません。となれば、3月29日には確実に間に合わないことになります。

そこで、一旦Brexitの期日を延期する必要が出てくるのです。

堂々めぐりの論争

現在の論争をまとめると以下のようになります。

  • EUがメイ首相の離脱条件に合意した→国会にてその離脱条件の可決を取る必要がある
  • その条件に反対であればNo-Deal Brexitを実施する→労働党はNo-Deal Brexitに強く反対
  • No-Deal Brexitを断固拒否したいのであれば離脱条件に同意してほしい→その条件では同意できない
  • それなら離脱条件を再検討する必要があり延長となる→延長は非常に不合理で不経済である
  • では、どうしろというのか?内閣の不信任案を提出するというのか?再国民投票を行うというのか?

という段階にきています。

No-Deal Brexit

もともと最終手段としてNo-Deal Brexitを選ぶことでイギリスはEU脱退を実現していく計画でした。このNo-Dealプランがあったからこそメイ首相もEUに対して強気になれる部分もあったのです。

極端な言い方をすれば、EUに対する最後の切り札としてNo-Deal Brexitをちらつかせていたわけです。

こちらとしては、巨額な手切れ金を払うくらいなら、その分を離脱後の混乱時の対応に使うことができる!ことがイギリスの武器となっていました。戦略としても、この離脱方法を提示していました。そうすることで、極力イギリスにとって有利な条件での交渉が進むかと思われていた矢先の話です。

言葉は悪いのでご勘弁頂きたいのですが、この段階にきて身内から離脱計画を邪魔されてしまっては、メイ首相ももうやけくそです。

紳士・淑女の皆さま、どうかご理解頂きたいのですが、
この議会で議論する点は3つしかありません。

  1. 離脱交渉するのか
  2. 合意なき離脱をするのか
  3. それとも、Brexitを中止するのか

と、とてもシンプルです。

Brexitを中止するということは、メイ首相の解任にもつながります。おそらく結果次第ではメイ首相も辞任を覚悟しているのではないかと思われます。

とにかく労働党は、メイ首相が仮にそれが戦略上のことであっても、No-Dealを選択肢を上げることに対して非常に強い抵抗を見せています。

そこでNo-Deal Brexitの場合にどんな影響があるのかを見ていきましょう。

どんな影響がある?

BBC newsやthe Gurdianでは数時間おきにBrexitの情報が報道されています。それらの記事ではNo-Deal Brexitの可能性が高くなっているとしてBrexitによるビジネスや取引における影響などが論じられています。

それらの情報を参考に解説していきましょう。

飲食料品の価格

まず日常生活において必要不可欠となる飲食料品の価格が上昇すると見られています。

イギリスで消費される飲食料品のうち30%がEUから供給されています。関税にかかるコストが年間で13億ポンド(日本円で約2千億円くらい)との見積りです。

また、通関の処理があるので今後は輸送に時間がかかることになります。

食品関連業

そして、2019年2月の段階では食品関連業でNo-Deal Brexitのシナリオに準備している企業は少ないそうです。そのことからも、おそらくイギリス経済は15年後には6.3%~9%ほど縮小するとの見解です。

そこで、イギリス政府はNo-Deal Brexitの場合に備えるための特別なプロジェクトが稼働させています。

ビジネス

そして次に危惧されているのが、各企業がイギリスから移転していくことです。

すでに日本企業ではHONDAがイギリス工場を閉鎖しており、徐々に他企業でも移転する動きが見られています。とくに北アイルランドにおいてはアイルランドへ移行する企業が増えることことが予想されています。

このような現象によって損失を被る企業に対して、イギリス政府は修正案・補償案を提示する方針ですが、具体的な内容について論議されています。

反対派の中には、イギリス政府からどの程度を補償してもらえるのかが論議のポイントとなっています。

ITシステム

イギリスがEUから離脱すれば、明確な国境が敷かれることになります。国境が敷かれるということは、通信設備も制限を受けることになります。

通信電波や通信設備などはセキュリティの問題からも、それぞれ企業と国によって管理されています。

国境ができてしまえば、自動認証サービスなどが使えなくなり、特に投資関連のトレーダーに大きな影響を与えてしいまします。

そこで、イギリス政府はITシステムの国境問題にすでに2018年の12月から取り組んでいます。

移民・市民権

イギリス内に住むEU市民、EU圏に住むイギリス市民は現状でどうすればいいのか不安に思う人も多いようです。

おおよそ80万人のイギリス市民がEU圏で暮らしています。

その件に関しては、仮にEU側の合意なき離脱となった場合でもイギリス政府とEUは双方とも、それぞれの人権や社会保障が損害を受けることはないと約束しています。つまり各自の自由意志が尊重されるべきとしています。

北アイルランドの国境

そして、Brexitでも最大の難関となっているのが北アイルランドの国境がどうなるのか、ということです。

No-Deal Brexitがイギリスの切り札だとすれば、この北アイルランドの国境がEUの切り札となっています。もし、イギリスが強引に合意なき離脱に向かった場合、EUはアイルランドと北アイルランド間に税関や入国管理局を設置し国境をつくるといっています。

こうなると、もともと1つの国、1つの島だったアイルランドと北アイルランドは非常に厳しい状況に陥ります。そのことがイギリスをEUへ引き戻す理由になるとEUは見ています。

→ここで離脱推進派も答えを出せずに難航している状態です。いわば離脱派の「弁慶のなきどころ」となっているのです。

以上はあくまでも大まかな影響であり、それぞれの状況や職業、国籍などによって数えきれない程の疑問が持ち上がっています。イギリス政府がいくら「補償する、補償する」といっても「具体的な答えや数字」を求める声が多いことが論争の原因となっています。

今後のBrexitの動向

出典:BBC

以上述べてきたように、3月29日のBrexitを控えているにもかかわらず、先行きが見えない状況となっています。

メイ首相は、過熱していく論争を少しでも和らげる対策として、あくまでも採決によって今後の岐路を示す方針です。今後のイギリス議会の流れを最後にご説明しておきましょう。

3月12日
イギリス議会おいてBrexitの合意条件について再議決を行う。
可決された場合は、3月29日のBrexitに向けて具体的にEUと交渉を進めていく。

3月13日
12日の採決にて否決された場合は、13日にNo-Deal Brexitの議決が行われる。
可決された場合は、3月29日のBrexitに向けて準備を進める

3月14日
13日の採決にて否決された場合には、14日にBrexit延長の議決が行われる。
可決された場合には、Brexit延長手続きをEUと交渉する

まとめ

離脱を推進する保守党と、スキあれば離脱を回避したい労働党で一致している点は、双方ともイギリス国民・イギリス経済、そしてイギリス国家の向上・発展を願っているということです。

では、このままEUに加盟依存し続けることが果たしてイギリスの発展につながるのかが疑問です。EU離脱が非国際化となることを意味するわけではありませんし、必ずしもNo-Deal Brexitが最悪の離脱方法となるわけでもありません。

メディアによってはBrexitの反対意見ばかりを強調するものもあり、そのような情報に惑わされてしまう人も中にはいるでしょう。

目先の利益だけを考えれば、Brexitは一件マイナス面が強調されがちです。しかし本当にイギリスの将来を考えた時に、Brexitによって得る独立や自由の価値は大きいといえるのではないでしょうか。Brexitによってイギリスがこれまで以上に大きく躍進していくことを是非期待していきたいものです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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