厚生年金について正しく知って、損をしないようにしよう!

会社にお勤めの方、給与明細の内容を理解されていますでしょうか?

会社から毎月50万円が支給されると言っても所得税、住民税、健康保険、そして、この記事で紹介する厚生年金保険料と様々なものが引かれた結果、40万円を少し切るくらいの手取になります。

皆様がお勤めの会社が大企業であれば皆さんが損をしないように、例えば、人事部の方が育児休業後に保険料の算定基礎となる報酬等級を下げることを勧めたりしてくれそうです。

しかし、中小企業にお勤めだと、ぼーっとしていると、実は損をしていたということもあり得ます。

この記事で学んで損をしないようにしてくださいね。

厚生年金とは

厚生年金は、労働者が老齢になったり、障害を持ったりした時に、生活していくのに必要な本給付を行うものです。

国民年金は全国民に共通の基礎年金を支給する制度で、厚生年金は、原則として、国民年金の基礎年金に上乗せする形で報酬比例の年金を支給する制度です。

自営業者が国民年金だけなのに比べて、厚生年金に入れる方は、上乗せ部分もあっていいですよね。

以下では厚生年金に入れる事業所について説明します。

適用事業所

まず、厚生年金法の適用を強制的に受ける強制適用事業所と厚生労働大臣の認可を受けて適用を受ける任意適用事業所の2種類があります。

強制適用事業所

次の1から3のいずれかに該当する事業所又は船舶は、法律上当然に(強制的に)厚生年金保険法の適用を受けます。

  1. 常時5人以上の従業員を使用して適用業種を個人の事業所
  2. 常時1人以上の従業員を使用する国、地方公共団体又は法人の事業所
  3. 組員法第1条に規定する船員として船舶所有者に使用される者が取り組む船舶

1でいう適用業種の例として、製造業、土木建築業、鉱業、物品販売業等が挙げられます。

また、非適用業種の例として、農林水産業、サービス業、法務、宗教等が挙げられます。

任意適用事業所

強制適用事業所以外の事業所(次の1又は2の事業所)の事業主は、厚生労働大臣の認可を受けて、当該事業所を適用事業所とすることができます。

次のような事業所が任意適用の対象となる事業所となります。

  1. 常時5人未満の従業員を使用する個人の事業所(適用業種・非適用業種を問いません。)
  2. 常時5人以上の従業員を使用して非適用業種を行う個人の事業所

この任意適用事業所で、厚生年金法の適用を認可してもらうには、事業所に使用される者(厚生年金に係る保険料を払っていない人を除きます。)の2分の1以上の同意を得ることが必要です。

また、事業主の申請があることも必要で、厚生労働大臣に認可してもらいます。

 

厚生年金の被保険者

前の章では厚生年金に入れる事業所を見てきましたが、ここでは厚生年金に入る人に注目した説明をします。

厚生年金の被保険者は、以下の3種類の被保険者に分類されます。

  1. 強制加入である当然被保険者
  2. 任意加入である任意単独被保険者
  3. 任意加入である高齢任意加入被保険者

当然被保険者

前の章で説明した適用事業所に使用される70歳未満の方は、適用除外となる方を除いて、被保険者となります。

適用除外となる方は以下のような方です。

  1. 日々雇い入れられる方
  2. 2月以内の期間を定めて使用される方
  3. 所在地が一定しない事業所に使用される方
  4. 季節的業務に4月以内の期間を限って使用される方
  5. 臨時的事業の事業所に6月以内の期間を限って使用される方

任意単独被保険者

適用事業所以外の事業所に使用される70歳未満の方は、一定の要件を満たせば、任意に厚生年金保険の被保険者(任意単独被保険者)となることができます。

一定の要件とは以下のようなものです。

  1. 適用事業所以外の事業所に使用される70歳未満の者であること
  2. 事業主の同意を得ること
  3. 厚生労働大臣の認可を受けること

高齢任意加入被保険者

厚生年金保険の当然被保険者及び任意単独被保険者は、70歳に達したときは、被保険者の資格を喪失します。

しかし、70歳以上の方で、老齢厚生年金等の受給権を有しない方は、その受給権を取得するまでの間に限り、任意に被保険者となることができます。

老齢厚生年金等の受給権を取得するには以下のいずれかの条件を満たすことが必要です。

  • 保険料納付済期間と保険料免除期間の合計が10年以上であること
  • 保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間を合算した期間が10年以上であること

ここで、合算対象期間とは年金額には反映されませんが受給資格期間としてみなすことができる期間になります。

 

厚生年金の保険料

この章では厚生年金の保険料について説明していきます。

厚生年金保険においては、被保険者が受けている報酬を基礎として保険給付の額及び保険料の額を計算します。

この報酬について、これから説明していきます。

標準報酬

上記の報酬については、平成15年4月から「総報酬制」という制度が導入されています。

総報酬制とは、通常の月額に加えて、賞与も保険料の賦課対象とし、給付にも反映させる仕組みのことです。

余談ですが、著者はちょうど平成15年4月に新社会人になったのですが、先輩社員から賞与の手取りが減ったという話を当時よく聞いた記憶があります。

さて、この総報酬制においては、被保険者の報酬の額に基づいて標準報酬月額を決定します。

また、同様に被保険者の賞与の額に基づいて標準賞与額を決定します。

これら標準報酬月額と標準賞与額により保険給付の額及び保険料の額を計算します。

報酬とは

前の節では「報酬」という言葉が何回も出てきました。

ここではこの「報酬」とは何ぞやということを見ていきます。

「報酬」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受け取るすべてのものをいいます。

ただし、臨時に受けるもの及び3月を超える期間ごとに受けるものは除かれます。

ここで、税金がかかる給与についてみていきます。

給与とは厚生年金法でいうところの「報酬」から以下の部分を除いたものになります。

  1. 通勤手当のうち、一定金額以下のもの
  2. 転勤や出張などのための旅費のうち、通常必要と認められるもの
  3. 宿直や日直の手当のうち、一定金額以下のもの

出典:国税庁 No.2508給与所得となるもの

厚生年金保険の算定基礎には通勤手当を含むが、税務の給与所得には通勤手当は含まないと覚えておきましょう。

賞与とは

「賞与」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのもののうち、3月を超える期間ごとに受けるものをいいます。

標準報酬月額

厚生年金の標準報酬月額は、現在、第1級88,000円から第31級620,000円の31等級に区分されています。

標準報酬月額の決定・改定

標準報酬月額の決定・改定は、個々の被保険者の報酬月額に基づいて実施機関が行います。

定時決定

被保険者の標準報酬月額は、その方が被保険者の資格を取得した際に、資格取得時決定により決定されます。

その後この標準報酬月額は毎年1回定時に決定されます。

また、報酬に著しい変動があった場合や育児休業等終了後又は産前産後休業終了後に報酬が低下した場合を除き、原則として1年間は固定します。

つまり原則として1年間は固定し、翌年の定時の決定までは変更しないことになっています。

この毎年1回の決定を定時決定といいます。

対象となる被保険者

毎年7月1日現在使用される被保険者が対象となります。

ただし、次に掲げる方はその年に限り定時決定の対象者から除かれます。

  1. 6月1日から7月1日までの間に被保険者の資格を取得した方
  2. 7月から9月までのいずれからの月から随時改定、育児休業等終了時改定、産前産後休業終了時改定が行われる方、又はこれらの改定が行われる予定の方
標準報酬月額の算定

7月1日現在使用される事業所において、同日前3月間(4月、5月、6月)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を決定します。

ただし、4月、5月、6月のうち、報酬支払基礎日数が17日未満の月があるときはその月を除きます。

資格取得時決定

月、週、その他一定期間によって報酬が定められる場合

被保険者の資格を取得した日現在定められた報酬の額を、その期間の総日数で除して得た額の30倍に相当する額を報酬月額とします。

日、時間、出来高又は請負によって報酬が定められる場合

一例として、被保険者の資格を取得した月前1月間に現に使用される事業所において、同様の業務に従事し、かつ、同様の報酬を受ける者が受けた報酬の額を平均した額を報酬月額とします。

随時改定

被保険者の標準報酬月額は、毎年7月に定時決定されるほかは原則として変更しません。

しかし、この原則を強く貫くことは被保険者の実態にそぐわないことになります。

そこで報酬に著しい高低を生じ、実施期間が必要と認めたときは、標準報酬月額を随時に改定することができます。

この改定が随時改定です。

要件

次の要件のすべてに該当し、実施期間が必要であると認めたときは、随時改定をします。

  1. 固定的賃金の変動があったこと。
  2. 変動月以降継続した3月間のいずれの月も報酬支払基礎日数が17日以上であること。
  3. 3月間の報酬の平均額(算定月額という。)が、すでに決定されている従前の標準報酬月額の基礎となった報酬月額と比べて著しく高低(原則として2等級以上の差)を生じたこと。
報酬月額の算定

現に使用される事業所において、継続した3月間に受けた報酬の総額を3で除して得た額を報酬月額とします。

改定の時期

随時改定の要件に該当したときは、変動があった月の翌々月を「著しく高低を生じた月」とみなします。

そして、その翌月から標準報酬月額を改定します。

育児休業等終了時改定

こちらはお子様が小さい方が対象になる改定です。

3歳未満の子を養育する被保険者が育児休業等を終了し、職場復帰したときに、休業前に比べて報酬が低下する場合があります。

さきほどご説明した随時改定では報酬月額が原則として2等級以上変動しなければ行われません。

しかし、ここでご説明している育児休業等終了時改定は、2等級以上の変動とならない場合でも、以下の要件を満たせば改定がなされます。

ただし、申出が必要です。

要件

育児休業等を終了した被保険者が、育児休業等終了日において3歳に満たない子を養育していることがまず必要です。

そして、その被保険者が使用される事業所の事業主を経由して実施機関に申出をすることが必要です。

ここで、実施機関とは共済組合等の年金支給の決定をする機関のことをいいます。

報酬月額の算定

育児休業等終了日の翌日が属する月以後3月間に受けた報酬の総額をその期間の月数で除してえた額を報酬月額とします。

改定の時期

育児休業等終了時改定の要件に該当したときは、育児休業等終了日の翌日から起算して2月を経過した日の属する月の翌月から標準報酬月額を改定します。

産前産後休業終了時改定

こちらはお子様が生まれた前後の改定になります。

産前産後休業を終了した被保険者が、職場復帰したときに報酬が低下することもあるかと思います。

このような場合には育児休業終了時改定と同様に報酬月額が2等級以上の変動にならない場合でも、標準報酬月額の改定を行うことができます。

そのためには以下の要件を満たすことが必要です。

要件

産前産後休業を終了した被保険者が、当該産前産後休業を終了した日において当該産前産後休業に係る子を養育していることが必要です。

そして、その被保険者が使用される事業所の事業主を経由して実施機関に申出をすることが必要です。

報酬月額の算定

産前産後休業終了日の翌日が属する月以後3月間に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額にします。

改定の時期

産前産後休業終了時改定の要件に該当したときは、産前産後休業終了日の翌日から起算して2月を経過した日の属する月の翌月から標準報酬月額を改定します。

標準賞与額の決定

ここでは賞与に関して説明します。

実施機関は、被保険者が賞与を受けた月において、その月に当該被保険者が受けた賞与額に基づき、これに1,000円未満の端数を生じたときはこれを切り捨てて、その月における標準賞与額を決定します。

なお、標準賞与額が150万円を超えるときは、これを150万円にします。

ここで言っている意味は150万円の賞与をもらっている人も300万円の賞与をもらっている人も払う保険料は一緒ということです。

保険料

保険料の徴収

政府及び実施機関は、厚生年金保険事業に要する費用に充てるため、保険料を徴収します。

保険料の算定

保険料は、被保険者期間の計算の基礎となる各月につき、徴収します。

具体的には以下の点に留意しましょう。

  • 月の末日に資格を取得した場合であっても、その月は被保険者期間に参入されるため、保険料が徴収されます。
  • 月の末日に資格を喪失した場合であっても、原則としてその月は被保険者期間に算入されないため、保険料は徴収されません。
  • 月の末日に退職した場合には、翌月初日に被保険者の資格を喪失することとなり、退職月までが被保険者期間に参入されるため、退職月についても保険料が徴収されます。

会社を辞める時には、末日に辞めるのか、月の途中で辞めるのか迷いますよね。

厚生年金保険だけのことを言うと、月の途中で辞めた方が得なわけです。

でも例えば、賞与をもらうためにはちょうど辞める月の末日まで在籍が必要といった条件が会社の人事規定にあったりするので、その辺りも考慮して辞める日を決める必要があります。

保険料額

保険料額は、標準報酬月額及び標準賞与額にそれぞれ保険料率を乗じて得た額になります。

標準報酬月額に係る保険料額 = 標準報酬月額×保険料率

標準賞与額に係る保険料額 = 標準賞与額額×保険料率

保険料率

いわゆる民間企業にお勤めの方で厚生年金保険に入っている方は第1号厚生年金被保険者と呼ばれます。

この第1号厚生年金被保険者の保険料率は平成29年9月から1000分の183.00となっています。

保険料の負担

被保険者及び被保険者を使用する事業主は、原則として、それぞれの保険料の半額を負担します。

保険料の納付義務

第1号厚生年金被保険者に係る事業主は、原則として、その使用する第1号厚生年金被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負います。

保険料の納付期限

毎月の第1号厚生年金被保険者に係る保険料は、翌月末日までに納付する必要があります。

保険料の源泉控除

報酬からの控除

第1号厚生年金被保険者に係る事業主は、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料を報酬から控除することができます。

さきほどの納付期限とこの控除の話の具体例を以下に見てみます。

20日締めで25日に給与を支払う会社があったとします。

この会社で8月20日締めの給与を8月25日に支払う場合、この給与から控除される厚生年金の保険料は7月の標準報酬月額に係るものです。

そして、8月末日までに支払う厚生年金の保険料は7月分になります。

賞与からの控除

第1号厚生年金被保険者に係る事業主は、被保険者の負担すべき標準賞与額に相当する額を当該賞与から控除することができます。

まとめ

厚生年金に入るためにはどのような事業所に勤めればいいのか、被保険者となるのに条件が必要か、保険料はどのように計算されるのかといったことをこの記事では説明させて頂きました。

皆様の何かの参考になりましたら幸いです。

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