自己破産を自営業者が選択したらどうなる?免責後も営業を続ける方法は?

自営業として仕事をしている方の中には、次のような悩みをお持ちの方は少なくないでしょう。

  • 重要な得意先が倒産して自分の会社も売り上げが上がらなくなってしまった。このままじゃ数か月で資金がショートする…。
  • 借金の返済だけで資金繰りがぎりぎり…。いっそ自己破産してやり直したほうが良いのかも。
  • 従業員に支払う毎月のお給料さえ支払いが厳しい。迷惑をかけてしまう前に方向転換が必要かも…。

脱サラした当時は自分のお店を持つ!と意欲に燃えていた人でも、自分で事業を運営していくことのつらさを実感し、これなら勤め人をやっていた方が良かったかも…と後悔してしまうケースは決して珍しくありません。

現在の自営業からの方向転換を考えている人が、現在負っている借金を整理して方向転換する方法としては、自己破産が挙げられます。

自己破産によって裁判所から免責許可を出してもらえば、あなたの借金はすべてリセット(つまり0円になる)してもらうことが可能となるからです。

一方で、自営業者の方が自己破産の選択する際には、「自己破産後の生活や仕事」についても慎重に検討しておかなくてはなりません。

この記事では、自営業の方が自己破産を選択するメリットやデメリットについて解説するとともに、実際に手続きを進めていく際の注意点について説明します。

長年返し続けている借金をいい加減どうにかしたい…!とお悩みの社長さんはぜひ参考にしてみてください。

自己破産をした後も自営業として働き続けることは可能?

自己破産によって裁判所から免責を受けることができれば、あなたが現在負っている借金はすべて支払い義務を免除してもらうことができます。

一方で、自己破産を選択した場合には金融機関の情報ネットワーク上で「ブラックリスト」として扱われてしまいますから、自己破産後にも事業を継続しようと考えている場合には、大きな影響が出る点も考慮しなくてはなりません。

自営業者の方が自己破産を選択する具体的なデメリットとしては、次のようなことが挙げられるでしょう。

  • ①免責を受けてから10年間は金融機関との取引ができなくなります
  • ②支払いを免除してもらった取引先との関係悪化
  • ③あなたの名義で所有している財産は債権者に引き渡さなくてはなりません

それぞれの項目について順番に解説していきます。

①免責を受けてから10年間は金融機関との取引ができなくなります

自己破産によって借金の支払い義務を免除してもらった場合、裁判所の免責決定が出てから10年間は「ブラックリスト」に登録されてしまいます。

ブラックリストというのは正式な名称ではないのですが、ごく簡単にいえば金融機関の情報ネットワーク(信用情報機関といいます)で「この人は過去に借金を約束通りに返済しなかったことがある」という情報が登録されてしまうことです。

信用情報機関はすべての金融機関で共通して参照している情報ですから、例えばA銀行の借金を自己破産によって免責してもらった場合、その情報はB銀行の担当者も知ることができます。

金融機関の融資担当者は、融資審査を行う際にはこの信用情報機関の情報を必ずチェックしますから、自己破産の免責を受けた後に新たに借り入れを起こそうとしても、ほぼ確実に審査落ちとなってしまうのです。

もし、自己破産後にも自営業者として仕事をしていこうと考えている場合、金融機関との取引ができなくなること(融資を受けられなくなること)は業種によっては致命的なデメリットとなる可能性があります。

免責を受けた後10年間はこの状態が続くことになりますから、その間は別の業種(大きな資本が必要ない仕事)に切り替えることが必要になるでしょう。

(この点に関する具体的な対策方法は後でくわしく説明します)

②支払いを免除してもらった取引先との関係悪化

自己破産によって免責を受けることは、あなたに対して債権を持っていた人(金融機関だけでなく、仕入れ先などの取引先も含みます)にとっては「お金が回収できなくなること」を意味します。

当然ながら、その取引先との信頼関係は決定的に破綻してしまいますから、今後の取引を継続することは非常に困難となるでしょう。

さらに、こうした過去の情報は業界内でのうわさとして残ってしまう可能性も検討しなくてはなりません。

アメリカなどでは「1度や2度は事業をつぶしたとしても、そこから復活した人は評価される」という風潮があります(例えば、ドナルド=トランプさんは何度も破産していますが、大統領になりました)が、日本では信用回復がなかなか難しいのが実際のところです。

自己破産後には別の業種や業界にシフトするということも検討する必要があるでしょう。

③あなたの名義で所有している財産は債権者に引き渡さなくてはなりません

自己破産を選択した場合、あなたが自分の名義で所有している財産(棚卸資産や営業用の自動車、機械設備など)はすべて換金して債権者に引き渡さないと行けません。

また、自営業者の方の場合、借入金の担保として社長個人の持ち家などに抵当権を設定していることも少なくないでしょう。

自己破産をすると、借金の支払い義務から逃れることができる一方で、こうした財産はすべて手放すことになってしまいます。

もっとも、自己破産は借金を返せなくなってしまった人が、生活を立て直すことを応援するための制度ですから、生活をしていくうえで必要な家財道具や、最低限の現預金(100万円以内)は自己破産手続き後も持ち続けることが可能です。

「自己破産を選択したら身ぐるみはがされてしまって何も残らないんじゃ…」という心配をお持ちの方は少なくないと思いますが、実際にはそのような事態にはなりません。

自己破産後に事業を継続する具体的な方法

上でも見たように、自営業者が自己破産を選択することにはデメリットが少なくありません。

特に、自己破産後にも何らかの形で自営業者として活動していくことを考えている場合には、ブラックリストに登録されることによる金融機関との取引停止は非常に大きな問題といえます。

以下ではこうしたことを踏まえたうえで、自営業者が自己破産後にも事業を継続する方法をいくつか紹介いたします。

具体的には次の3つの方法が考えられるでしょう。

  • ①新規に法人を設立し、別の人に代表者になってもらう
  • ②借入の必要ない労働集約的な仕事にシフトする
  • ③経営者としての経験がサラリーマンとしての転職に有利になる場合も

それぞれの方法について順番に説明いたします。

①新規に法人を設立し、別の人に代表者になってもらう

自己破産をすると、信用情報機関にブラックリスト登録されてしまいますが、登録されるのはあくまでもあなた自信の名義(社長御自身の名義という意味)です。

これは、もし事業を法人化して運営する場合には、その設立した法人の名義はブラックリストに登録されていない状態になっていることを意味します。

例えば、これまで自営業(個人事業主)として運営してきた八百屋さんがあったとして、個人事業主としては自己破産をしてその事業を手放したとしましょう。

この人が、自己破産手続きによって免責を受けた後に、あらたに法人を設立した場合(社長自身は会社に役員として雇用される形になります)には、その法人名義で融資を受けることは可能なのです。

法人の保証人になるためにも審査が必要

ただし、中小企業の場合には会社の代表者となっている人が、その会社の債務を保証することを求められるのが普通です。

そして、この「会社の保証人」として認められるかどうか?についても金融機関の審査があり、ブラックリスト登録されている人は認められない可能性が高いです。

そのため、自己破産によって免責を受けた後に、法人名義での借り入れを実現するためには、あなた以外の人に会社の代表者になってもらう必要があります。

具体的には、これまで事業の重要な役割を担ってくれていた従業員を経営者に抜擢したり、社長の奥さんに形式上社長になってもらったりといった方法が考えられるでしょう。

②借入の必要ない労働集約的な仕事にシフトする

ブラックリスト登録によって借入を受けられないことがネックになっているのなら、いっそのこと借入をしなくても(自己資金だけで)運営できる事業に挑戦することも選択肢の一つです。

商品を仕入れてきてそれにマージンを乗せて売る、といった業種では資金繰りが極めて重要な問題となりますから、完全に自己資金だけで事業を運営していくのは非常に難易度が高いといえます。

一方で、デザイン業やライター業、コンサルティング業や各種の士業(税理士や行政書士など)は完全に自己資金だけで事業を運営している人はたくさんいます。

「とりあえずは社長の生活費だけ稼げればまわる業種」にシフトする

これらの事業で必要となる経費の大半は「人件費のみ」であるのが大きな魅力です(粗利率が極めて高い仕事です)

ひとまず社長が一人で事業を始めるのであれば、数か月分の生活費さえ準備できるのであれば、自己破産後すぐに事業を開始することが可能となるでしょう。

ブラックリスト登録によって借入ができなくなってしまったことをポジティブにとらえ、こうした高付加価値の事業にシフトすることも一つの選択肢です。

③経営者としての経験がサラリーマンとしての転職に有利になる場合も

これまで自営業者(経営者)として働いてきたけれど、自己破産したことをきっかけに、サラリーマンとしての働き方に戻るという選択をする人も少なくありません。

一般的には「起業して失敗した」という経験はネガティブにとらえられがちですが、近年ではこうした経験を持つ人をむしろ評価する傾向も強まっています。

経営者として事業を切り盛りし、従業員のマネジメントを行った経験を持つ人を社内の人材としてほしいと考えている企業は少なくありません。

サラリーマンに戻れば、資金繰りに悩むことはなくなる

また、サラリーマンに戻れば、少なくとも、経営者として働いていたときのように「資金繰りを常に考えていけない」という悩みからは解放されます。

「せっかく経営者として起業したのに、サラリーマンに戻るなんて…」と考えてしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、これはご自身の可能性をせばめてしまう考え方といえるでしょう。

自己破産後の生活手段の一つの選択肢として、サラリーマンに戻ることは検討してみる価値があります。

自営業者が自己破産を選択する場合の注意点

ここからは、自営業者の方が自己破産を選択する際、注意しておかないといけない点について具体的に解説いたします。

自営業者の方の自己破産手続きで、実際に問題となることが多いのは、次のような事柄です。

  • ①税金の滞納がある場合の扱い
  • ②従業員への未払い賃金がある場合
  • ③棚卸資産や営業用資産の扱い

それぞれの項目について、順番に説明していきます。

①税金の滞納がある場合の扱い

所得税や消費税といった税金の未納分は、自己破産による免責の対象となりません(つまり支払い義務は残ります)

国民健康保険料や国民年金保険料の未払い分についても同じ扱いとなりますので、注意しておきましょう。

これらは指定された期限までに納めないと延滞税などの形で負担が大きくなる可能性があります。

どうしても支払いが難しい場合には、税務署や自治体の窓口で延納や分割払いの相談ができますので、検討してみてください。

②従業員への未払い賃金がある場合

自営業として従業員を雇用しており、未払いとなっている賃金があるという場合にはどうなるでしょうか。

結論から言うと、裁判所によって免責決定が出た場合、こうした未払い賃金についても支払い義務を免除されることになります。

もっとも、経営者としては「可能であれば未払いとなっている賃金はなんとか払ってあげたい」と考えるのが普通でしょう。

もし自己破産時にあなたに財産がある程度ある場合には、その財産から他の債権者よりも優先して未払賃金を支払うことが可能です。

また、「従業員未払い賃金立て替え制度」という政府の制度を利用すれば、未払いとなっている賃金の8割を上限として支払いを代行してもらえます。

こうした制度の利用を通して、少しでも支払いができるよう検討してみて下さい。

③棚卸資産や営業用資産の扱い

自己破産を選択した場合、換金価値のある棚卸資産や、営業用資産については、現金化した上で債権者に対して引き渡すことが求められます。

実際に申し立てを行う裁判所によって微妙に扱いが異なることがありますが、下取り価値でおおむね20万円を超える価値がある資産については、債権者への引き渡しが必要になると考えておきましょう。

自営業者が選択できる自己破産以外の選択肢

ここまで見てきたように、自営業者が自己破産を選択することには、次のような問題がネックとなる可能性が高いです。

  • 自己破産後にも事業をしようと考えている場合、ブラックリスト登録期間が10年間と長い
  • 営業用の資産についても債権者に引き渡さないといけない

これらの問題を解決する方法として、「自己破産以外の債務整理の方法」も検討してみる価値があるでしょう。

具体的には、①任意整理や②個人再生といった方法で借金を整理することが考えられます。

これらの方法でもブラックリストに登録されてしまうことに違いはありませんが、その期間は5年間(自己破産の場合は10年間)と少し短くなります。

以下、自営業者がそれぞれの方法を選択した場合について解説しましょう。

①自営業者が行う任意整理

任意整理は、債権者と個別に話し合いを行うことによって解決を図る方法です(裁判所を使わずに行う借金解決の方法です)

金融機関が債権者の場合には多くのケースで利息のカットや支払期日のリスケが認められるのみになります(元本のカットは認められない)が、取引先が債権者の場合にはより柔軟に債務整理に応じてくれる可能性があるでしょう。

②自営業者が行う個人再生

個人再生は、手続き開始時の借金の残高に応じて借金の減額が認められる方法です(おおむね5分の1程度まで減額されます)

さらに、事業を継続したい場合にネックとなる「事業用資産の譲渡」についても、債権者と「別除権協定」という約束をすることによって、あなたが持ち続けられる可能性があります。

債権者としてはあなたが事業を継続して、借金の一部でも返してくれることに損はありませんから、こうした契約に応じてもらえる余地があるのです。

あなたの現在の状況から見てどの債務整理の方法(自己破産・任意整理・個人再生)が適しているかは弁護士等の専門家に相談するとくわしく教えてくれますので、検討してみてください(相談はほとんどの法律事務所で無料です)

まとめ

今回は、自営業者として活動している人向けに、自己破産を行うメリットやデメリットについて解説いたしました。

本文でも見たように、自営業者の方が仕事の方向性を大きく変えるために、自己破産によって過去の借金をすべてリセットしてもらうことは大きなメリットがあるといえます。

一方で、自己破産をするとあなたの名義で新たに借入を起こすことが非常に難しくなりますから、自己破産後にまた事業を始めようと考えた場合には大きな障害となってしまう可能性があります。

自己破産後にも事業を継続したいと考えていらっしゃる方は、本文でも見た借入が必要ない業種への方向転換や、新規に法人を設立する方法なども検討してみてください。

弁護士や顧問の税理士に相談すると、こうした具体的なテクニックについてのアドバイスも受けることができますので、活用しましょう。

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