目次
皆様は、医療保険、がん保険、個人年金保険など、なんらかの保険に入っているのではないでしょうか?
どんな保険に入るか検討する際にファイナンシャルプランナーや保険代理店の方に相談されている方もいるかと思いますが、そのアドバイスは将来の資産形成や保障に係るものではないかと思います。
実は保険は資産形成や保障にだけ役に立つものではなく、税金対策としても活用できます。
著者は税理士で、保険代理店の方は私に「この保険は節税に役立つなので、顧問先に勧めてください」といった売込み方をしてきたりします。
今回の記事では税金対策としての保険を見ていきます。
相続・贈与と保険との関係
基礎控除の範囲内で贈与して保険に入る
贈与税の基礎控除額は110万円です。
この基礎控除の範囲内での贈与をフル活用すると、妻や子それぞれに十年間で1,100万円の贈与を行うことができるうえに、税金は一切かかりません。
このように無税の範囲内で贈与を繰り返すのはよいことです。
しかし、贈与税の納税をしていないので、将来相続税の税務調査があった時に本当に贈与したのか、実質的に被相続人の預金のままだったのではないのかと疑われる可能性があります。
安全確実なのは、年々111万円ずつ贈与することです。
111万円の贈与を行うと基礎控除額110万円を差し引き、残り1万円が課税対象となります。
1万円に対する税額は1,000円です。
手間ですが翌年2月1日から3月15日の間にこの事実を申告用紙に記載し申告しておけば、その納税受領証がなによりの証拠となり、合法的に財産分与ができます。
このように毎年贈与していけば、家族それぞれは自分のお金110万円をもつことになります。
ここで、いま仮にこの110万円を掛金として次のような契約形態の生命保険に加入したとしましょう。
- 被保険者 被相続人(夫)
- 契約書 妻ならびに子供全員
- 受取人 満期・死亡保険金ともそれぞれ契約者
このように生命保険に入ると、契約期間中は保障を受けることができます。
そして、満期時には(満期保険金)+(満期時配当金)がでます。
そして、死亡・満期いずれの保険金を受け取った場合も、この契約では、契約者(保険料負担者)=受取人の関係にあります。
そのため、受取保険金は「一時所得」の扱いとなります。
相続人が子だけしかいない場合は節税面で有利な扱いを受けることができます。
贈与になってしまう生命保険金について
以下では、生命保険金を受け取ったことにより、贈与となってしまう事例を紹介します。
贈与になってしまうということは、贈与税の基礎控除額である110万円を超える保険金を受け取った場合は贈与税の申告が必要で、贈与税の納付が必要ということになります。
満期保険金をもらった場合
保険金受取人以外の方が保険料の全部または一部を負担している生命保険契約があったとします。
その生命保険契約の期間が満了して保険金を受け取った場合には、次の計算式で計算した金額は、保険料を負担してくれた人から贈与によって取得したものとみなされます。
(受け取った保険金)× (A/B)
A = 保険金受取人以外の者が負担した保険料の額
B=保険事故発生の時までに払い込まれた保険料の額
人の死亡により保険金を取得した場合
次に、保険料の負担者である被保険者の死亡により保険金を取得した場合を考えてみます。
その保険金の受取人がその者の相続人であれば相続により取得したものとみなされます。
そして、その保険金のうち被相続人(被保険者)が負担していた保険料に対応する金額に対して、相続税が課税されます。
また、相続人でなければ遺贈により取得したものとみなされ、やはり相続税が課されます。
ここで、被相続人及び保険金受取人以外の者が保険料を負担していた場合を考えてみましょう。
この場合、保険金の受取人は、実際に保険料を負担した者から、次に掲げる保険金をそれぞれ贈与によって取得したものとみなされます。
- 被相続人および受取人以外の者が保険料の全額を負担している場合は受け取った保険金の全額
- 被相続人および受取人以外の者が保険料の一部を負担している場合は受け取った保険金のうち次により計算した金額
(受け取った保険金)× (C/D)
C: 被相続人および受取人以外の者が負担した保険料の額
D:保険事故発生の時までに払込まれた保険料の全額
所得税と保険との関係
各年において支払った生命保険契約等の生命保険料について、一定の金額を所得から控除することができます。
この生命保険契約は自分自身が支払い、何か起こった時に自分自身が受け取るようなものではなく、生命保険金等の受取人のすべてを自分自身又は自分自身の親族とする生命保険契約であればよいです。
そして、この生命保険料は、①一般の生命保険料、②個人年金保険料、③介護医療保険料の3つに区分されます。
これら3つの区分に応じ後述の計算式により計算した金額を所得金額から控除するものになります。
生命保険料の範囲
一般の生命保険料とは以下を指します。
- 生命保険会社または外国生命保険会社等と締結した生命保険契約のうち生存又は死亡に基因して一定額の保険金が支払われるもの
- 生命保険会社や損害保険会社が締結する生保系第三分野の保険契約
- 廃止前の簡易生命保険契約法に規定する簡易生命保険契約
- 農業協同組合又は農業協同組合連合会と締結した生命共済契約
- 漁業協同組合、水産加工業協同組合又は共済水産業共同組合連合会などと締結した生命共済契約
- 小規模企業共済法第2条の4に規定する第二種共済契約
- 確定給付企業年金に係る契約又はこれに類する退職年金に関する契約
そして、個人年金保険料とは、上記の1から7までに掲げる生命保険料等(年金の給付を内容とするものに限る。)のうち、次の要件を定める契約(個人年金保険契約等)に基づいて支払った保険料又は掛金をいいます。
- 年金の受取人は、保険料もしくは掛金の払い込みをする者又はその配偶者であり、被保険者と同一人である。
- 保険料又は掛金の払い込みは、年金支払開始日前10年以上の期間にわたって定期に行う。
- 年金の支払いは、その年金の受取人の年齢が60歳に達した日以後の日で10年以上の期間又はその受取人が生存している期間にわたって定期に行う。
最後に、介護医療保険料控除の対象となる介護医療保険料は、介護医療保険契約等に係る保険料等のうち、医療費等支払事由に基因して保険金、共済金その他の給付金を支払うことを約する部分に係る保険料等をいいます。
ここで言う医療費等支払事由とは以下の3つのことを指します。
- 疾病にかかったこと又は身体の障害を受けたことを原因とする人の状態に基因して生ずる医療費その他の費用を支払ったこと
- 疾病もしくは身体の傷害又はこれらを原因とする人の状態
- 疾病又は身体の傷害により就業することができなくなったこと
控除額について
平成24年1月1日以前に締結した一般生命保険と個人年金保険の控除額は以下のようになります。
年間の支払保険料等 | 控除額 |
25,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
25,000円超55,000円以下 | 支払保険料等×1/2+12,500円 |
55,000円超100,000円以下 | 支払保険料等×1/4+25,000円 |
100,000円超 | 一律55,000円 |
平成24年1月1日以後に締結した一般生命保険と個人年金保険の控除額は以下のようになります。
年間の支払保険料等 | 控除額 |
20,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
20,000円超40,000円以下 | 支払保険料等×1/2+11,000円 |
40,000円超80,000円以下 | 支払保険料等×1/4+20,000円 |
80,000円超 | 一律40,000円 |
介護医療保険料の控除額は以下のようになります。
年間の支払保険料等 | 控除額 |
20,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
20,000円超40,000円以下 | 支払保険料等×1/2+11,000円 |
40,000円超80,000円以下 | 支払保険料等×1/4+20,000円 |
80,000円超 | 一律40,000円 |
税金と個人年金保険の関係
受け取り年金額とその雑所得の金額
相続開始時や年金支払い開始時には、その年金保険契約の保険料負担者と年金受取人との組み合わせにより、相続税や贈与税が課税されることがあります。
そして、そのあと、毎年支払われる年金の受け取り時には、だれが保険料を負担しているかに関係なく、所得税法上、雑所得としての取扱いを受けます。
ここで、雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得等、所得税法上区分される所得のいずれにも該当しないものをいいます。
雑所得の扱いを受ける年金の課税所得金額は次のように計算されます。
雑所得の金額 = A + B -C
A:その年に支払いを受ける年金額
B:年金の支払い開始日以後において分配されるその年分の剰余金
C:必要経費
上記の情報は年金を支払う機関から1年に1回来る通知書にありますので、それを利用して申告するようにしましょう。
年金の支払い開始時にかかる贈与税
夫が保険料を負担し、妻が年金受取人である場合を考えてみましょう。
この場合、年金受取人と保険料負担者が異なることになります。
そして、妻が年金支払い年齢に達したとき、妻は以下で計算された金額を贈与によって取得したものとみなされます。
贈与となる年金受給権の価額 = A×B/C
A:年金受給権の価額
B:年金受取人以外の人が負担した保険料の合計額
C:払込保険料の総額
年金開始前に被保険者死亡の場合の税金は?
被保険者が年金支払い開始前に死亡、死亡給付金(一時金)が受取人に支払われると、受取人に次のような課税関係が生じます。
被保険者が保険料負担者である場合
被保険者が保険料を負担していて死亡すると、死亡給付金が受取人に支払われます。
この場合、受取人はその死亡給付金を相続または遺贈により取得したとみなされて相続税が課せられます。
死亡給付金の受取人が相続人(相続を放棄した者ならびに相続権を失った人は除きます。)である場合は、法定相続人1人につき500万円の生命保険金の非課税財産控除が適用されます。
死亡給付金の受取人が保険料を負担していた場合
保険料負担者が死亡給付金を受け取ると一時所得として所得税と住民税が課せられます。
一時所得の金額は次のように計算します。
一時所得の金額 = A -B -(一時所得の特別控除額50万円)
A:死亡給付金
B:払い込み保険料の合計額
被保険者および死亡給付金受取人以外の人が保険料を負担していた場合
死亡給付金受取人が、保険料負担者から死亡給付金の贈与をうけていたとみなされて贈与税を課せられることとなってしまいます。
贈与税の課税価格 = 死亡給付金 - 110万円
法人を契約者とする保険について
この記事をお読みくださっている方の中には、オーナー経営者の方もいらっしゃると思います。
オーナー経営者は、経営していく法人から出ていく法人税とオーナー個人から出ていく所得税の合計が最小になるように考えます。
ここでは法人の決算対策として保険を使った場合に税務上どうなるのかを解説していきます。
養老保険に係る保険料
表題にある養老保険とは、生命保険のうち一定の保障期間を定めたもので、満期時に死亡保険金と同額の満期保険金が支払われるものをいいます。
法人が契約者、被保険者が従業員となるわけですが、保険金の受取人が誰になるかにより、以下のように法人での税務処理が変わってきます。
契約者 | 被保険者 | 死亡保険金
受取人 |
生存保険金
受取人 |
保険料の税務処理 |
法人 | 従業員 | 法人 | 法人 | 資産計上 |
法人 | 従業員 | 被保険者の遺族 | 被保険者 | 給与 |
法人 | 従業員 | 被保険者の遺族 | 法人 | 1/2を資産計上
1/2を損金算入。 ただし、役員等のみを被保険者とする場合には給与 |
保険を決算対策として利用するのは、利益が出すぎて困っている時だと思います。
上記の「保険料の税務処理」のところで、損金算入・給与となっているところは、法人税の計算上、費用にできることを示しています。
なお、給与となっているところは、被保険者の給与になってしまいますので、法人税は下がりますが、被保険者の所得税は上がってしまいます。
定期保険に係る保険料
定期保険とは、生命保険のうち保障期間を契約時に定め、契約終了時の返戻金のないものを言います。
定期保険の税務処理について、養老保険と同様の表でまとめると、以下のようになります。
契約者 | 被保険者 | 死亡保険金
受取人 |
特約給付金
受取人 |
保険料の税務処理 |
法人 | 従業員 | 法人 | 法人 | 損金算入 |
法人 | 従業員 | 被保険者の遺族 | 被保険者 | 損金算入。
ただし、役員等のみを被保険者とする場合は給与 |
定期付養老保険に係る保険料
上記で解説した養老保険と定期保険が組み合わさった保険を定期付養老保険と言います。
ここでのポイントは養老保険に係る保険料の額と定期保険に係る保険料の額が区分されているかどうかです。
保険料が区分されている場合は以下の表のようになります。
契約者 | 被保険者 | 死亡保険金
受取人 |
生存保険金
受取人 |
特約給付金
受取人 |
養老保険
部分 税務処理 |
定期保険
部分 税務処理 |
法人 | 従業員 | 法人 | 法人 | 法人 | 資産計上 | 損金算入 |
法人 | 従業員 | 被保険者
の遺族 |
被保険者 | 被保険者 | 給与 | 損金算入
※1 |
法人 | 従業員 | 被保険者の遺族 | 法人 | 被保険者 | 1/2を資産
計上。 1/2を損金算入。 ※1 |
損金算入
※1 |
保険料が区分されていない場合は以下のようになります。
契約者 | 被保険者 | 死亡保険金
受取人 |
生存保険金
受取人 |
特約給付金
受取人 |
保険料
税務処理 |
法人 | 従業員 | 法人 | 法人 | 法人 | 資産計上 |
法人 | 従業員 | 被保険者
の遺族 |
被保険者 | 被保険者 | 給与 |
法人 | 従業員 | 被保険者
の遺族 |
法人 | 被保険者 | 1/2を資産計上。
1/2を損金算入。 ※1 |
※1について、役員等のみを被保険者とする場合には給与となります。
長期平準定期保険の保険料の取扱い
長期平準定期保険とは、保険期間満了持の被保険者の年齢が70歳を超え、かつ、加入時の被保険者の年齢に保険期間の2倍に相当する数を加えた数が105を超えるものをいいます。
それ以外は、一般の定期保険の取扱いとなります。
保険期間満了時の年齢が70歳を超えても、契約時の年齢により長期平準定期保険となる場合とならない場合があります。
75歳、80歳、85歳の各満期の場合についてみると、その契約年齢による区分は以下のようになります。
満期年齢 | 長期平準定期保険 | 定期保険 |
75歳 | 44歳以下 | 45歳以上 |
80歳 | 54歳以下 | 55歳以上 |
85歳 | 64歳以下 | 65歳以上 |
長期平準定期保険の保険料の損金算入時期は以下のようになります。
前払期間(保険期間の60%に相当する期間を指します。)については、保険料の2分の1を資産計上します。
また、残りの2分の1を損金算入します。
前払期間経過後は、保険料全額を損金に算入します。
また、前払期間に計上した資産を期間の経過に応じて取り崩し、損金算入します。
まとめ
保険を活用した相続税・贈与税・所得税の節税方法について見てきました。
お読みになった皆様の節税方法の1つに保険の活用を加えて頂けますと幸いです。