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介護保険という名前は、知らない人がいないほど誰もが一度は聞いたことがある言葉でしょう。しかし、その内容まで詳しく知っている人はほとんどいないのではないのでしょうか?
20代や30代の人にとってはまだ保険料も払っていませんし、あまり身近な問題ではないのかもしれません。しかし、現在やこれからの高齢化社会にむけて、介護保険の利用者はどんどん増えていくのは間違いありません。
ここでは、この誰もが名前を知っているのに内容があまり知られていない介護保険について、やさしく解説していきます。
介護保険とはどんな保険?
介護保険の理念
- すべての高齢者が、人間であることの尊厳を保つことができること。
- すべての高齢者が、自立した生活を送ることができること。
上記のように介護保険の理念は、介護が必要な障害や病気などのマイナス面を見るのではなく、介護をされる人が何ができるのかという面に着目して、自分らしい生活を送れるようにすることです。またそのために、介護サービスの充実を地域が一体となって目指すのが介護保険の基本理念でもあります。
公的制度としての介護保険の位置付け
日本における社会保障には4つの大きな柱があります。
社会福祉
高齢者や障がい者などに対して、生活を保障する制度のことをいいます。
公的扶助
生活困窮者に対して、生活を保障する制度のことをいいます。
公衆衛生
国民の健康を保持することや、向上させることを目的としています。
社会保険
疾病や高齢や失業や労災や介護に備えて、保険料の給付やサービスが受けられる制度です。介護保険は、この中に含まれます。
社会保険の種類は、以下になります。
年金
老齢や障害や遺族に対して行われる給付です。(国民年金、厚生年金など)
医療保険
病気や怪我に対して行われます。(健康保険、後期高齢者医療制度など)
労働保険
仕事を失った時や、仕事上での病気や怪我をした時などに行われる給付です。(雇用保険、労災保険など)
介護保険
介護が必要になった時に行われる給付です
介護保険の歴史
介護保険が制定される流れ
1980年代の介護の状況
1980年代の介護については老人福祉法という法律を基準に、介護サービスが行われていました。しかし、老人福祉法で規定されていた介護サービスでは、利用者が自分にあった介護を自由に選択することができず、画一的なサービスしか選択できなかったため不十分なものでした。
一方、介護のための病院への長期的な入院が増えていったため、医療費がどんどんと増加していきました。また、病院自体も介護のために長期入院をしている人にとって、療養生活を送るのに不十分だったのです。
1990年代の介護の状況
1990年代に入りさらに高齢化社会が急激に進み、介護が必要な高齢者がどんどんと増えていきました。また、少子高齢化や核家族化により、家族が介護をすることが難しくなっていきました。
さらに、介護の長期化により、家族だけが介護の負担を負うことが社会問題化していったのです。そのため、介護の負担を家族だけに負わせるのではなく、介護の社会化を求める声がどんどんと高まってきたのです。
介護保険の制定、施行
このような世間の流れに伴い、介護が必要な人の自立に対して支援をしたり、家族などの介護者の負担を減らすため、介護保険は制定、施行されたのです。
介護保険の保険料について
介護保険の被保険者
介護保険のサービスを受けられる被保険者は、年齢によって2種類に分かれます。
第1号被保険者
65歳以上の人が対象で、どのような原因でも要介護、または要支援状態と認定されれば、介護サービスを受けることができます。
第2号被保険者
40歳から64歳までの医療保険の加入者が対象で、加齢に伴う病気が原因で要介護状態になった場合のみ、介護サービスを受けることができます。
介護保険の保険料の支払い方法
第1号被保険者
基本的には、年金から直接徴収される特別徴収にて保険料を納付します。また、市町村などの自治体に直接支払う普通徴収という方法でも納付可能です。
第2号被保険者
加入している医療保険の保険料と合わせて徴収されます。そのため、国民健康保険の被保険者は、世帯ごとに徴収されます。
また、医療保険の被保険者が介護保険の第2号被保険者にまだ該当していなくても、被扶養者が第2号被保険者であった場合、介護保険料の支払いが発生するのです。
介護の保険料
介護保険の保険料は、第1号被保険者と第2号被保険者との間で違ってきます。また、第1号被保険者の中でも地域などによって違ってきますし、第2号保険者は加入している医療保険によって違ってきます。
第1号被保険者の保険料
市区町村や特別区などの自治体によって、基準額や保険料率がそれぞれ違います。保険料の標準は9段階に分かれていますが、自治体が独自に決めることができます。
第2号被保険者の保険料
国民健康保険以外の医療保険に加入している場合
介護保険料は、事業所と被保険者と折半の負担です。保険料の算出方法は、給与や賞与に対して保険料率を掛けることにより算出されます。
給料の介護保険料
標準報酬月額 × 介護保険料率
賞与の介護保険料
標準賞与額 × 介護保険料率
国民健康保険に加入している場合
所得割と均等割と平等割と資産割を、自治体によって独自に組み合わせることにより計算されます。
介護保険の財源
ここまで、第1号被保険者と第2号被保険者の保険料について解説してきましたが、保険料だけですべての介護サービスが行われているわけではありません。介護保険の財源は、50%が保険料で賄われ、残りの50%が税金です。税金部分の負担の内訳は、国25%、都道府県12.5%、市町村12.5%です。
介護保険を受けられる人
要介護認定の目的
要介護認定は介護保険を利用して介護サービスを受ける時に、利用者ごとの介護の度合いにあわせたサービスを受けられるように各市区町村などの自治体が判定するものです。
要介護認定の流れ
- 申し込み
↓
- 訪問調査全国共通の認定調査書を基準に、訪問調査が行われます。
↓
- 一次判定
訪問調査に基づき、コンピューターによる一次判定が行われます。
↓
- 二次判定
保険や医療や福祉の専門家で構成された介護認定審査会による二次審査が行われ、判定結果が各市区町村などの自治体に連絡されます。
↓
- ケアプランの作成
各自治体の指定を受けた事業者のケアマネジャーが、判定を基にケアプランを作成します。
↓
- 介護サービスを受ける
ケアプランに基づいた介護サービスが受けられます。
要介護認定の区分
要介護認定の区分は、以下3種類に分けられます。
自立
介護なしでも日常生活を送ることができる状態
要支援
介護サービスの利用により改善する見込みがあり、要介護状態にならないように予防が必要な状態
要介護
自立することが難しく、何らかの介護が必要な状態
この3種類の区分の中で要介護と要支援に認定されると、介護保険による介護サービスが受けられます。
要支援
要介護認定での要支援は、状態によって要支援1と要支援2の2段階に分かれます。
要支援1
食事や排泄や入浴などの日常生活については、ほぼ自力で行うことができる状態です。介護状態の悪化進行を防ぐのを目的に、買い物や家事や服薬や金銭の管理などで支援が一部必要とされる状態です。
要支援2
立ち上がることや歩くことなどの動作に支えが必要な状態です。要支援1と比べても、一人で日常生活を行う能力が低下していて、身の回りのことを行うにも何らかの介助が必要になります。
要介護
要介護認定での要介護は、状態によって要介護1から要介護5の5段階に分かれます。
要介護1
日常生活を送ることが、要支援状態からさらに難しくなっていっている状態で、立ち上がることや歩くことなどの動作にも不安定です。部分的な介護が必要な状態です。
要介護2
要介護1の状態よりもさらに日常生活における部分的な介護が必要な状態で、物忘れや理解力の低下が激しくなっています。
要介護3
食事や入浴などを自力で行うことが難しくなり、日常生活における介護が全面的に必要な状態です。
要介護4
要介護3と比較して、さらに日常生活に低下が見られます。食事や入浴などに加えて排泄に関しても1人で行うことができません。介護なしで日常生活を送ることができない状態です。
要介護5
要介護認定の中で1番重い状態です。意思を伝えることが困難だったり、日常生活動作、手段的日常生活動作の両方の能力が著しく低下し、「意思の伝達が困難」「寝たきり」など、生活全般にわたって全面的な介助を必要とする状態をいいます。
介護保険のサービス
介護保険で受けられるサービスには、どのようなものがあるのでしょうか?
介護保険のサービスには、居宅サービス、施設サービス、地域密着型サービスの3種類のサービスがあります。
居宅サービス
自宅で受けられる介護サービスのことで、以下の種類があります。
訪問介護
介護福祉士や訪問看護員などが介護が必要な人の自宅を訪問して、日常生活などの身のまわりの介助を行います。
通所介護
介護サービス利用者が、デイサービスセンターなどに訪れて行われる介護のことです。
訪問看護
看護師や保健師が直接に医療行為を行ったり、入浴や排泄や食事などの直接体に触れる介護を行うことをいいます。
ショートステイ
被介護者が短い期間、施設に入所して介護を受けることをいいます。
その他居宅サービス
特定施設への入所や、福祉用具のレンタルサービスなども含まれます。
施設サービス
介護保険法による施設サービスは、介護老人保健施設と特別養護老人ホームと介護療養型医療施設の3つです。この内、介護療養型医療施設は、2017年度に介護老人保健施設に転換され廃止になりました。
介護老人保健施設
医師や理学療法士の医療ケアやリハビリを受けることで、在宅介護を目指していくための施設です。主に、病状が進行していなくて、入院での治療を必要としていない被介護者が利用します。
特別養護老人ホーム
日常生活を送る上で、身体や精神の障害により常時介護が必要な人が対象の施設です。入居希望者も多く、なかなか入居できない情報です。
地域密着型サービス
市区町村などの自治体に指定された介護事業者が、同じ自治体に住む被介護者を対象に介護サービスを行うことをいいます。被介護者が住み慣れた土地で介護をうけられるので、地域住民と交流しながら介護を受けることができます。
自己負担について
介護保険の利用者負担割合
年収に応じた利用者の負担割合は、以下になります。
介護保険の1ヵ月に利用できる上限金額
介護保険には、介護認定の区分に応じた上限額があります。以下が区分に応じた上限額になります。
月間の介護度別の支給限度額
介護度 | 給付限度額 | 1割負担額 | 2割負担額 | 3割負担額 |
---|---|---|---|---|
要支援1 | 50,030円 | 5,003円 | 10,006円 | 15,009円 |
要支援2 | 104,730円 | 10,473円 | 20,946円 | 31,419円 |
要介護1 | 166,920円 | 16,692円 | 33,384円 | 50,076円 |
要介護2 | 196,160円 | 19,616円 | 39,232円 | 58,848円 |
要介護3 | 269,310円 | 26,931円 | 53,862円 | 80,793円 |
要介護4 | 308,060円 | 30,806円 | 61,612円 | 92,418円 |
要介護5 | 360,650円 | 36,065円 | 72,130円 | 108,195円 |
まとめ
- 介護保険とは、介護が必要な人が適切な介護サービスを受けられるために介護保険法に基づいた国の制度になります。
- 公的制度としての介護保険の位置付けは、疾病や高齢や失業や労災や介護に備えて、保険料の給付やサービスが受けられる社会保険の中に含まれます。
- 介護保険法は、1990年代になって介護が必要な高齢者がどんどんと増えたため、介護の負担を家族だけに負わせるのではなく介護の社会化のために1997年12月に制定されました。
- 介護保険の加入と保険料の支払いは、40歳以上のすべての人に義務づけられています。
- 介護保険のサービスを受けられる被保険者は、第1号被保険者と第2号被保険者の2種類に分かれます。
- 第1号被保険者は65歳以上の人が対象で、要介護や要支援状態と認定されれば介護サービスを受けることができます。
- 第2号被保険者は、40歳から64歳までの医療保険の加入者が対象で、加齢が原因の病気で要介護状態になった場合だけ介護サービスを受けることができます。
- 第1号被保険者の介護保険の保険料の支払い方法は、基本的に年金から直接徴収される特別徴収にて納付します。
- 第2号被保険者介護保険の保険料の支払い方法は、加入している医療保険の保険料と合わせて徴収されます。
- 介護保険を受けられる人は、要介護認定で、要介護または要支援と判定された人です。
- 要介護認定の区分は、自立、要支援、要介護の3種類に分けられ、要介護と要支援に認定されると介護保険による介護サービスが受けられます。
- 要介護認定での要支援は、要支援1と要支援2の状態によっての2段階に分かれます。
- 介護保険のサービスには、居宅サービス、施設サービス、地域密着型サービスの3種類があります。
- 介護保険の介護サービスかかる費用は第1号被保険者と第2号被保険者からの保険料と税金以外に、利用者からの収入に応じて1割から3割の自己負担分で賄われています。