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日本国内で収入を得ている人は、1年に1回は何らかの形で税務署に税金の申告と納付(確定申告)をしなくてはなりません。
サラリーマンとして働く会社員の人は、勤務先の会社がこうした手続きを代行してくれていますので、自分自身で手続きをしないで良いのが原則です。
しかし、一定のケースに該当する場合には、会社員であっても自分で税金の計算をして税務署に申告をしないといけない場合があるので注意しておきましょう。
この記事では、会社員として働いている人であっても、自分で税金を計算をして確定申告の手続きをする必要があるケースについて解説します。
会社員でも確定申告が必要なケース一覧
会社員であっても確定申告が必要なケースとしては、以下のような場合があります。
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- 年収で2000万円以上のお給料を受け取っている場合
- 2か所以上の勤務先がある場合
- 副業によって年間20万円以上の収入を得た場合
- 年間10万円以上の医療費の支払いをした場合
- 住宅ローンを組んでマイホームを購入した場合
- 会社でしてもらった年末調整に誤りがあった場合
- 株式投資で損失を出した場合
- 年の途中で退職し、年末まで再就職しなかった場合
- 災害や盗難にあった場合
- 年末調整を受けた後に家族が増えた場合
- 特定支出控除
それぞれのケースについて、順番に説明していきます。
年収で2000万円以上のお給料を受け取っている場合
会社員の方であっても、勤務先から受け取っているお給料による年収が2000万円を超えている場合には、勤務先で年末調整をしてもらうことができず、確定申告が必要です。
年収が2000万円を超える場合、所得税率も非常に高く(33%~45%)、税額もかなり大きくなります。
もし何年間にもわたって確定申告を行わなかった場合には、会社員の人でも税務調査に入られる可能性が高くなりますので注意が必要です。
(税務調査によって申告漏れが指摘された場合、延滞税や加算税を取られる可能性が高くなります)
2か所以上の勤務先がある場合
会社員の人は、勤務先企業の年末調整によって税金の計算をしてもらうのが原則ですが、年末調整を受けられるのは「1つの勤務先からのみ」というルールになっています。
例えば「A社で朝~夕方までメインの仕事をしていて、収入を増やすためにさらにB社で夜勤の仕事をしている」という働き方をしている方の場合を考えましょう。
この場合、メインの勤務先であるA社では年末調整をしてもらえますが、B社では年末調整をしてもらうことはできません。
毎月受け取るお給料からはA社・B社いずれも税金が源泉徴収(天引き)されてしまっていますから、もしB社について確定申告を行わないと、その天引きされた分は調整されないことになります。
確定申告にで「正確な税額」に計算し直す
その人の正確な税金の金額は年末にならないと判明しませんから、源泉徴収によって天引きされる金額は概算額(つまりだいたいの金額)となっています。
しかもこの概算の金額は「正確な金額よりも少し多めの金額」になっていますから、B社のお給料からは「税金を払い過ぎ」の状態になってしまうのです。
結果的に非常に損をすることになりますから、2か所以上の勤務先からお給料を受け取っている人は、確定申告によって正確な金額の税金に調整してもらうことが必要です。
副業によって年間20万円以上の収入を得た場合
会社員として収入を得ている人が、副業などによって年間20万円以上の収入を得た場合には、副業で得た収入と給与収入をあわせて確定申告を行う必要があります。
年間20万円というと月収にすれば2万円弱ですから、「大した収入じゃないから…」と思っていても、すぐに年間収入で20万円を超えてしまう可能性が高いでしょう。
最近ではインターネットの仕事募集サイトなどを通して個人名義で仕事を受注することも非常に簡単になっています。
副収入を得るのが簡単になっている分、確定申告が必要になるケースも増えていますから注しておきましょう。
年間10万円以上の医療費の支払いをした場合
1年間で10万円以上の医療費支出を行った場合、税金の計算上、医療費控除という控除を適用してもらうことができます。
ただし、医療費控除の適用を受けるためには必ず確定申告が必要になることに注意しておきましょう。
医療費控除の申告をするためには、支出した医療費の内容が分かる領収書が必要になります。
医療費控除計算上の注意点
なお、医療費の支出は家族のために支出した金額についても医療費控除の計算に含めることができますが、生命保険会社などから医療費にかかわる保険金を受け取ったような場合には、その金額を差し引きして医療費控除の金額を計算しなくてはなりません。
例えば、年間で20万円の医療費を支出したけれど、加入している生命保険会社から15万円の保険金を受け取ったという場合、医療費控除の適用は受けられないので注意しておきましょう。
また、医療費として認められるのは薬代や手術代、医療機関の診察代に限られ、審美医療やサプリメント代は計算に含めることができない点にも注意しておきましょう。
住宅ローンを組んでマイホームを購入した場合
住宅ローンを組んでマイホームを購入したという場合、住宅ローン控除という税軽減制度を利用することができます。
ただし、住宅ローン控除の適用を受けるためには、会社員の人であっても適用初年度(マイホームを購入した年の分の税金計算)は確定申告の手続きが必要になります。
例えば、2019年8月に住宅ローンを組んでマイホームを購入したとすると、2020年2月16日~3月15日のタイミングで2019年分の確定申告を行う必要があるのです。
住宅ローン控除による税負担軽減額
住宅ローン控除とは、ごく大まかに言うと「年末時点での住宅ローン残高×1%」の金額を10年間に渡って本来の税金負担額(所得税・住民税)から差し引きしてもらえるというものです。
例えば、年末時点での住宅ローン残高が3000万円だったとすると、3000万円×1%=30万円を税金計算上控除してもらえることになります。
会社でしてもらった年末調整に誤りがあった場合
確定申告の手続きは、「年末調整で誤りが見つかった場合のやり直し」としても行うことが可能です。
年末調整によって勤務先企業に税金計算をしてもらう場合、年末までに自宅に送られてくる控除証明の書類(地震保険や生命保険に加入している場合)を勤務先に提出しなくてはなりません。
もしこうした書類を紛失してしまったり、提出し忘れたりしてしまった場合には、後から確定申告によって税金計算をやり直すことが可能です。
具体的には、年末~翌年1月末にかけて勤務先企業で年末調整の手続きをしてもらい、手続きの結果として発行される「源泉徴収票」をもって確定申告を行うことになります。
(年末調整は計算を行う年度の翌年1月31日まで、確定申告は翌年2月16日~3月15日までのタイミングで手続きを行います)
株式投資で損失を出した場合
会社員の人であっても、余裕資金を使って株式投資を行っている方は少なくないでしょう。
株式投資によって得た利益についても所得税や住民税を負担する必要があります。
もっとも、通常は建玉を決裁したタイミング(利益が確定したタイミング)で証券会社がその利益の金額から税金を源泉徴収して納めますから、あなた自身は株式投資の利益について税金の計算をする必要はない、というのが原則的な形です。
ただし、トータルで損失となってしまった場合は別で、確定申告を行わないと損をしてしまう可能性があるので注意しておきましょう。
株式投資で確定申告が必要となる具体例
例えば、次のように年間で3回の株式取引をしたとしましょう。
- 1月21日:利益10万円
- 6月30日:利益20万円
- 8月15日:損失40万円
1回目と2回目の取引では利益が出ていますから、これらの利益からは税金が源泉徴収されます。
しかし、3回目の取引によって1回目と2回目の利益金額を上回る損失が出ていますから、年間トータルで見るとこの人は損を出していることになります。
この場合、「年間トータルで利益が1円も出ていないのに、源泉徴収によって税金を取られている」というおかしな状況になってしまっています。
本来、利益が出ていない場合には税金は1円も負担する必要がありませんから、こうしたケースでは確定申告によって税金を取り戻すという手続きが必要になるのです。
上のケースでは、確定申告を行えば、1回目と2回目の取引によって源泉徴収されていた税金を還付してもらうことが可能です。
株式取引では「年間トータルで利益が出た場合には確定申告は不要・トータルで損失となった場合には確定申告が必要」というようにおぼえておきましょう。
年の途中で退職し、年末まで再就職しなかった場合
会社員の人が、勤務先の企業から年末調整を受けるためには、「年末時点でその会社に所属していること」が条件として必要になります。
そのため、もし年末調整を受ける前のタイミングでその会社を退職し、その後年末までどの企業にも就職しなかったという場合、年末調整は受けられないことになります。
例えば、1月1日~9月30日までは会社員として仕事をし、その後退職をしてどこの企業にも所属しなかったとしましょう。
この場合、1月~9月まで受け取ったお給料からは税金が源泉徴収によって天引きされていますが、その天引き分については年末調整を受けることができません。
確定申告によって税金を還付してもらう
上でも見たように、源泉徴収による天引き額というのは「概算の税額(正確な金額よりも少し多めの金額)」ですから、このままだと損をしてしまいます。
こうしたケースでは、自分で確定申告の手続きを行うことによって年間所得から計算する「正確な税額」と、1月~9月分のお給料から天引きされている」「概算の税額」を調整して、差額を還付してもらうのが適切です。
(ただし、もし「正確な金額」の方が大きい場合には、当然ながら追加の納税が必要となりますので注意しておきましょう)
災害や盗難にあった場合
もし災害や盗難などの被害にあったような場合には、税金計算上「雑損控除」という税軽減制度を適用してもらうことが可能です。
雑損控除の適用を受けるためには、会社員の人であっても確定申告の手続きが必要になることに注意しておきましょう。
雑損控除では、次の計算式で計算したいずれか「大きいほうの金額」を所得控除として課税所得から差し引きしてもらうことができます。
- (損害金額+災害等に関連した支出額-災害に関連して受け取った保険金額)×10%
- 災害等に関連した支出額-5万円
なお、大規模な災害などによって住宅や家財道具に損失が生じたケースでは、「災害減免法による所得税の軽減免除」という制度も利用できます(雑損控除とどちらを適用するかは本人の選択によります)
年末調整を受けた後に家族が増えた場合
上でも見たように、年末調整は勤務先企業で年末~翌年1月までのタイミングで手続きが行われます。
通常は10月末ごろから準備を始め、遅くとも12月のなかばまでにはすべての手続きを終える会社がほとんどでしょう。
そのため、年末のタイミングで結婚をしたような場合、配偶者控除の適用が年末調整の手続きでは受けられない可能性があります。
こうした場合には、年末調整によって勤務先会社から発行してもらう源泉徴収票を使って、翌年2月16日~3月15日のタイミングで確定申告を行うことが適切です。
特定支出控除
平成25年から「特定支出控除」の制度がスタートしました。
これは、会社員の人であっても「仕事していくうえで必要になった支出」を経費として税金の計算に含めてもらえるというもので、例えば「仕事で必要な資格を取るために資格スクールに通った」という場合の受講料などが該当します。
特定支出控除の適用を受けるためには、次の3つの条件を満たす必要があります。
- ①確定申告を行うこと
- ②勤務先の会社から証明をしてもらうこと
- ③支出額が一定金額を超えること
①・②については必要な手続きを行いさえすればクリアできる問題ですが、③については現実にはかなりハードルが高いということを理解しておきましょう。
具体的には、特定支出控除として給与所得の金額から差し引きしてもらえるのは、「特定支出の金額-給与所得控除の金額×2分の1」となります。
「給与所得控除の金額」とは、その人の給与収入の金額に応じて法律上金額が決まっています。
特定支出控除を受けるための条件
例えば、給与収入が年間500万円という人であれば154万円が給与所得控除の金額となります(計算式では「給与所得控除=年収×20%+54万円」)
154万円の2分の1というと77万円ですから、特定支出の金額がこの額を超えない場合には、そもそも特定支出控除は適用されないということになります。
会社員の人で、年間77万円以上の金額を仕事のために個人で支出するというケースはそれほど多くないのが実際のところでしょう。
難関国家資格の資格スクール費用などであればこの水準の金額が必要になることもありますが、特定支出控除の適用を受けるためには、勤務先から「この受講料が仕事をするうえで必須のものである」という証明を受けないといけません。
会社員の確定申告は年末調整との2ステップで行う
会社員の人が確定申告を行う場合は、勤務先の会社が年末調整によって発行してくれる源泉徴収票を「所得金額を証明する書類」として確定申告書に添付する必要があります。
年末調整を正確に行ってくれているケースであれば、社会保険料控除や地震保険料控除といった各種の所得控除についてはすでに計算に含めてくれていますから、あらためて確定申告で計算しなおす必要はありません。
すでに年末調整を受けた人が行う確定申告では、確定申告固有の計算事項を源泉徴収票jの金額にプラスするという形で計算を行うことを理解しておきましょう。
(「年末調整+確定申告」の2ステップで計算を行うというイメージです)
まとめ
今回は、会社員の人でも確定申告をする必要があるケースについて、具体的な例をあげながら解説いたしました。
会社員の人の場合、確定申告が必要なケースというのは多くの場合「した方が得をする(各種の控除を利用できる)」というケースです。
逆にいえば確定申告をいないと、本来は返ってくるはずのお金が返ってこなくなってしまう可能性がありますから、必ず手続きするようにしましょう。
確定申告の手続き方法について疑問がある場合には、もよりの税務署の窓口に相談するか、税理士さんからアドバイスを受けるよにしましょう(税理士は基本的に中小企業経営者をお客さんにしていますが、会社員の人でも相談できます)