為替相場に影響を与える海外経済統計を確認しよう

為替相場を大きく動かす材料になる経済統計を知ることによって、相場変動の理解を助けることになりますが、じっくり読み解けば今後の景気を占うこともできます。為替相場を動かす材料は多くありますが、いつ飛び出してくるが分からない材料も多く、常に相場を見ることができない多くの個人投資家はすぐに反応することは難しいです。

しかし、経済統計は発表スケジュールが事前に決まっています。ですから、発表後に為替相場が動く可能性が高いとなれば、トレードに生かすことができます。特に経済統計で注目されているのは米国市場なので、日本時間では21時以降のことが多く、日中働いているサラリーマンの方などでも経済指標を発表狙ったトレードを行うことが可能です。それでは、トレードに役立つ経済統計について見ていきましょう。

経済統計を取引に役立てるには?

経済統計は企業や家計の活動を表し、マクロ経済の動きを把握するのに役立ちます。ただ、経済統計の数は多く何をどのように見たらいいか分かりづらいのが難点です。まずは市場が注目している統計をチェックするようにしましょう。

トレードを行う際、経済統計の結果の良し悪しだけで相場の方向性を見極めることはできません。直近の推移や傾向、マーケットの事前予想などを把握しておくことが必要になります。事前予想と結果が大きく異なった場合は、「サプライズ」といって為替レートが大きく動きます。

必ずしも良い結果が相場が上昇するというわけではありません。事前の予想に対して結果がどうだったか、その数字が市場にどのくらい織り込まれていたのか、といったことを判断する必要があります。

為替相場が動く時ではチャンスもありますが、損失のリスクもあるということを忘れてはいけません。きちんとリスクを回避するために損切り注文を入れておくなど、リスク管理をしっかりしておきましょう。

反応の小さな経済統計では10~20 pips、 中程度の経済統計で20~50 pips、 大きな経済統計では50~100 pips を超える反応があります。いつも大きく動くわけではないため、これらの変動を利益にしようとすればそれなりの経験も必要になりますが、経済指標の発表時間は決まっています。

どの経済統計が動きやすいとかということを把握しておくようにしましょう 。短期的な利益を目指すには、デイトレードよりもさらに短い時間で決済するスキャルピングという取引手法が一般的です。スキャルピングは、数秒から数分のうちにポジションを構築から決済まで行う手法であり、比較的大きめのポジション取ります。その分、損切りを徹底するなどリスク管理が重要になります。

それでは、世界各国の経済統計を確認していきましょう

米国の経済統計

まずは何といっても米国の 経済統計をチェックする必要があります。世界一の経済大国であり、マーケットにも大きな影響を与えます。主な経済統計を見ていきましょう。

雇用統計

経済統計の中で最も注目されるのが「雇用統計」です。雇用の状況は日本と比べてリストラが多い米国企業の景況感をリアルタイムに反映するとともに、個人消費にも大きな影響を与えます。

さらに雇用と物価の安定を目指す米連邦準備理事会 (FRB)は、雇用者数や賃金が急激に増えればインフレを懸念して利上げに動くことがあります。金利を変更するかどうかという金融政策にも大きな影響を及ぼすのです。

それ以外に雇用統計が注目される理由は、事前の市場予想と外れることが多くサプライズが起こりやすいということがあります。サプライズは為替相場を大きく動かす原動力となります。雇用統計では一瞬にして1円(100 pips)以上動くこともあるのです 。

2018年2月の雇用統計では、統計発表前は109円88銭で推移していたものが、発表後に110円31銭まで40pips以上急落しました。さらに為替以上に反応したのが株式市場で、NYダウは660ドル以上下げて、9年2ヶ月ぶりの下落幅を記録しました。背景にあるのは雇用統計を受けた米金利の上昇です。

雇用統計は複数の項目で構成されていますが、特に重視されるのが非農業部門雇用者数失業率です。それぞれ詳しく見ていきましょう。

  • 非農業部門雇用者数

農業以外の産業の民間企業で支払った給料を元に集計したものです。一般に雇用統計というとこの数値を意識することが多くなります。雇用者数は景気が後退すると減少し、不景気から景気回復期にかけて増加する傾向にあります。

  • 失業率

失業者の割合を示す指標で、計算式は以下のようになります。

失業率=失業者 ÷ 労働人口 × 100

ただし、失業者の定義は国によって異なるので、各国の比較には向いていません。あくまでも前回との比較やこれまでの推移を見る指標です。

雇用統計は、原則第一金曜日に労働省労働統計局から発表されます。 夏時間は21時30分、冬時間は22時30分になります。

国内総生産(GDP)

GDP は一定期間内に米国内で売らされた財とサービスの付加価値の総額です。付加価値とは「儲け(利益)」のことです。一定期間内に、米国でどれだけの儲けが出たかということを表しています。重要度の高い経済統計で、雇用統計と並んで重視すべき指標です。

経済成長や景気動向を総合的に判断でき、中長期的な景気動向をつかむのに不可欠な経済統計です。国の経済規模を図るための指標としても使われています。 GDPで最大の国はアメリカです。そして2位は中国、日本は第3位となっています 。

GDP は多くの項目で構成されています。実質GDP、名目 GDP、個人消費、住宅投資、在庫投資、政府支出など様々なものがあります。名目GDPは経済活動の水準を市場の価格で評価したものです。実質GDPは、名目 GDP から物価変動の影響を除いたもの。一般的に実質GDPの方が注目度は高くなります。ただ、鍵を握るのはGDPの7割を占める個人消費です。

公表は3ヶ月ごとで、まず速報値が発表され、翌月に改定値、翌々月に確定値が公表になります。最もインパクトが大きいのは速報値で1、4、7、10月の下旬に発表されます。時間は21時30分(冬時間22時30分)です。

消費者物価指数(CPI)

FRB が重視する物価の統計としては、労働省が毎月発表する消費者物価指数(CPI) があります。小売・サービス価格がどのように変化しているかを示す指標で、インフラ系の最重要指標のひとつです。

物価がどう変化するかを判断する指標として最も広く使われており、金融政策にも大きな影響を及ぼします。 消費者の消費支出構成をもとに、商品やサービスの品目をウエート化し、その変動を指数化しています。食品やエネルギーを除く「コア CPI」 が前年比で2%を大幅に超えるとインフレを警戒するとされています。ただし、季節による影響を受け易い指標でもあることは注意しておく必要があります。日本時間21時30分(冬時間:22時30分)発表。

ISM製造業景況感指数

ISM(全米供給管理協会)が実施した製造業の購買担当役員のアンケート結果を指数化したものです。300社以上に景気マインドを聞き取りしています。生産や在庫、雇用などを前月と比較して、「良くなっている・同じ・悪くなっている」の三つの選択肢から解答し、それをインデックス化して加重平均した総合指数です。50%超は景気拡大、50%未満は景気後退と判断します。

毎月第一営業日に発表されるため注目度が高く、歴史もある経済統計です。当月発表と同時に前月の修正分も発表されます。予測値との乖離に注目が集まります。

米国の金融政策

金融政策も為替相場に大きな影響を与えます。その中でもやはり大注目は米国の中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)が定期的に開く会合である FOMC (連邦公開市場委員会)です。

FRB の幹部のほか、12の地区連銀準備銀行総裁のうち5地区の総裁で構成され、景況判断や金融政策、そしてFF金利の誘導目標を決定します。

FOMCは年8回、2日間にわたって開催されます。2日目には政策金利が発表され、FRB議長の会見や声明文の発表が行われています。FOMCの3週間後には議論の内容が記された議事要旨が公表されます。政策決定が満場一致で行われたのか、反対意見が出たのかといった点にも注目が集まります。

FMOCの2週間前の水曜日には、地区連銀準備銀行がそれぞれ管轄する地区の経済状況をまとめた地区連銀経済報告(ベージュブック)が公表されます。 FOMCではこの概況報告をもとに議論がなされることになるので、ベージュブックを材料に相場が動くことは少ないものの、金融政策の変更時には注目が集まります。

FX 取引においては、前回の FOMC 声明文や議事要旨から当面の相場環境を予想し、2週間前に公表されるベージュブックの内容で相場の反応をチェック。そしてFOMCで政策金利決定を見て、3週間後の議事要旨でさらに内容を確認するといった流れで金融政策をチェックするようにしましょう。

欧州の金融政策

ユーロ圏の金融政策は、ユーロ圏の中央銀行にあたるECB(欧州中央銀行)が決定します。6週間に一度のペースで政策理事会が開かれ、 ECB のトップである総裁・副総裁・専務理事団の幹部に加え、ユーロを導入する19カ国の中央銀行総裁が輪番で構成員となります。

理事会終了後にECB総裁による会見が開かれる他、FOMCと異なりその日のうちに議事録も公表されます。リーマンショック後は米国や日本と同様金融緩和政策を行ってきましたが、最近は金融引き締めに転じる姿勢を見せており、市場の注目度も高まっています。

中国の経済統計

世界第二位の経済大国である中国の統計も重要です。日本の輸出額に占める比率は2割。日系企業の進出先では4割を占めています。 GDP 統計などが正しいかは疑問の余地があるものの、月次の統計は中国の景気を読む上で参考になります。例えば毎月10日頃に発表される鉱工業生産。中国は工業や建設業が GDP の4割を占め、運輸や小売業への波及効果が大きくなります。

改革・開放が打ち出された1978年から2014年までの間の平均GDP 成長率は9.8%にも達していました。経済の工業化やサービス化が凄まじい勢いで進み、一人当たり GDP は1978年のわずか381元から2014年には46,000元まで増加しました。

最近では中国海軍総署による貿易収支にも注目が集まっています。2018年11月は447億ドルの黒字で、対米では355億ドルの黒字と過去最高を更新しました。トランプ大統領は対中貿易赤字を問題視しており、黒字がさらに拡大すれば、米中貿易戦争が激化する可能性があります 。

貿易収支に、旅行によるサービス収支などを含めた経常収支は赤字の月も出てきています。海外旅行先での「爆買い」が大きな原因です。経常収支の悪化は人民元暴落を招きかねません。中国政府が海外旅行を抑制すれば、訪日客に支えられている日本の景気にも悪影響を与えます。

経常収支は国際収支統計で見ることができます。四半期ごとに発表されていて、対米黒字が拡大すれば米中貿易戦争激化の要因になります。

経済統計は市場予想や信頼性に注意

これらの経済統計をきちんとチェックしておけば利益が上げられるかというと、そうとは限りません。市場は統計の数字通りに反応しないからです。例えば、経済統計の内容が良くても、逆の動きになることがあります。

それは、事前の市場予想がもっと高い場合があるからです。最も注目度が高い米雇用統計についても、雇用者数が10万人伸びていても、市場予想が15万人なら期待はずれとなるのです。

雇用統計のように、市場の予想と実際の数値がかけられることが多い場合は、マーケットがよく動きます。雇用統計の発表後の市場の反応は、ほぼ市場予想とのズレで説明できるとも言われています。

同時に発表される経済統計の方向性が違う場合、通常とは異なる市場の反応を引き起こす場合があります。例えば、米雇用統計で雇用者数が予想より下振れしても、失業率が予想より改善していればドル買いになることがあります。

政府統計の信頼性にも注意する必要があります。中国の経済統計は 水増しを行っていたこともあります。地方政府は中央政府の顔色を伺うため、自らの持ち場をよく見せたいために GDP を上乗せしていたのです。

国内でも統計と実際との間に乖離があると懸念される状況があります。厚生労働省が毎月まとめる賃金に関する統計で、2018年1月に新たな統計手法に切り替えたところ、前年同月比の伸び率が跳ね上がりました。これに伴い内閣府がまとめる報酬についての推計も上ぶれています。ところが、その後専門家から指摘が入り、11月に下方修正しました。人員不足やデータ集めの不備が引き起こした精度不足の問題と言われています。

消費者物価指数( CPI) についても算出の問題で家賃が実態より過小に見積もられているとの見方もあります。そうすると、 CPI は本来もっと伸びている可能性があります。このように経済統計は万能ではなく、あくまで相場を見通すツールの一つとして参考にするというのが大切なことだと考えています。

近年は AI(人工知能)やビッグデータを解析して景気動向をつかもうとする動きも広がってきています。大和総研では19年1月から、これまでエコノミスト個人の経験で予測していた企業物価指数や失業率などを、人工知能が予測するモデルでの運用を開始しました。

ビッグデータを正確に分析できれば、速報性や正確性に優れたデータをリアルタイムで把握できるようになると期待されています。これまでも経済統計に対する市場の反応は年々早くなっていますが、さらにこのような AI によるシステム解析が進めば、よりマーケットの反応は早く、そして値動きが大きくなっていく可能性があります。

まとめ

海外の経済統計では、やはり米国の注目度が圧倒的に高いです。しかし、経済統計は発表スケジュールも時間もあらかじめ公表されています。発表時間が決まっていて、その結果によって為替相場が動く可能性が高いとなれば、トレードに生かすことができます。注目の経済統計を抑えていくことは大事です。ただし、経済統計に過度な期待をかけすぎないことも大切です。

経済統計の内容がよくても事前予想に比べて悪ければ売られてしまう時もあるからです。また、経済統計の正確性に疑問が出る事案も出ています。さらに近年では AI やビッグデータの発達により、マーケットの反応スピードがより早くなっています。短期的な値動きを取るのは年々難しくなってくるのかもしれません。しかし、長期でどのような反応があるかということを分析するのは十分可能です。経済統計を為替取引に活かすようにしましょう 。

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一橋大学経済学部卒業。証券会社でマーケットアナリスト、デリバティブディーラーを経て、個人投資家に転身。投資歴は20年以上。現在は、日経225先物を中心に現物株・FX・CFDなど幅広い商品に投資しています。保有資格:証券外務員1種

ブログ:先物オプション奮闘日誌 http://yanta.cocolog-nifty.com/

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