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スマートベータという運用手法をご存知でしょうか。スマートは「賢い」、ベータは「市場平均連動性」を意味します。従来のTOPIX(東証株価指数)など 時価総額型のように、市場全体の平均や値動きを代表する指数ではなく、売上高や配当金、営業キャッシュフローなど財務諸表や株価の変動率など、銘柄の特定の要素に基づいて構成された指数です。
これまでインデックス運用を行ってきた年金運用や、 ETF(上場投資信託)などの連動指数として採用され始めています。中長期的に市場平均を回るパフォーマンスが期待されているからです。それでは、投資信託の運用スタイルについて確認しましょう。
投資信託の運用スタイル
投資信託の運用スタイルには、インデックス運用とアクティブ運用の2種類があります。それぞれ見ていきましょう。
インデックス運用(パッシブ運用)
インデックス運用とは、日経平均株価や東証株価指数( TOPIX) など特定の指数に連動するように運用する方法です。例えば、日経平均株価をベンチマーク(運用成績の基準となる指標)とする場合は、日経平均株価の値動きと同じなるように運用を行います。
それではインデックス運用のメリットデメリットについて解説します
インデックス運用のメリット
①コストが安い
インデックス運用は、コストが安く済みます。投資信託のコストは、主に次の2つがあります。
- 購入時手数料
インデックスファンドでは、購入時の手数料がかからないノーロードファンドが多くあります。一般の投資信託では、3%程度かかるものも多いので、インデックスファンドの購入時手数料がかからないというのは大きなメリットです。
- 信託報酬
信託報酬とは、投資信託を管理・運用してもらうためのコストで、保有している間ずっとかかる費用のことです。長期保有をする場合は、この信託報酬がコストとして主にかかります。インデックスファンドは、運用が指数に連動するため個別銘柄を調査分析する必要がありません。そのため、信託報酬も安く済むというメリットがあります。
②分散投資ができる
TOPIX(東証株価指数)では、東証一部に上場している約2,000銘柄を対象にしているので、2,000銘柄に分散投資しているのと同じ効果があります。分散投資をするとリスクを減らすことができるので、大きな損失を免れる可能性が高くなります。例えば、一銘柄に集中投資していた場合は、下方修正や不祥事など何か問題があると大きく株価が下がります。しかし、複数の銘柄に分散投資していた場合は、他の銘柄でカバーすることが可能です。
インデックス運用のデメリット
①大きな利益が望めない
インデックスファンドは指数に連動するので、短期間で大きく値段が上昇するようなことはあまり望めません。あくまでも長期で指数の上昇を取るといった方針で、インデックスファンドを買い付けるようにしましょう。
②元本保証ではない
リスクを分散させるといっても、元本保証ではありません。インデックスファンドは金融商品なので、損失がでることもあります。あくまでも投資は余裕資金で行うべきです。
アクティブ運用とは
アクティブ運用とは、個別企業の調査研究を行い、ベンチマークと異なるリスクを取って、ベンチマークを上回る運用成果を目指す方法です。アナリストやファンドマネージャーといった運用のプロが調査研究を行うので、パッシブ運用よりコストが高くなります。アクティブ運用の手法としては以下の四つがあります。
トップダウンアプローチ
マクロ経済(経済・金利・為替)などから分析し、その結果にもとづいてファンドに組入れる銘柄を絞り込んでいく手法です。
ボトムアップアプローチ
ファンドマネージャー自らが個別企業に対する調査・分析を行い、その結果に基づいて組入れ対象となる銘柄を一つ一つ選択していく手法です。
グロース投資
個別企業の株価の水準より、将来の成長性(売上高や利益の伸び率)が期待できる銘柄に投資する手法です。
バリュー投資
株価収益率( PER) や株価純資産倍率 (PBR) などの指標をもとに、株価が割安と判断される銘柄に投資する手法です。
ここまで、インデックス運用とアクティブ運用の違いについて解説してきました。それでは、スマートベータとはどういうものかを見ていきましょう。
スマートベータの投資戦略
スマートベータは、市場平均(インデックス)に連動する投資成果を目指す「パッシブ運用」と、ファンドマネージャーが銘柄を選んでベンチマークを上回る投資成功をめざす「アクティブ運用」の中間に位置するものといえます。
スマートベータでは、企業の売上高や配当 、ROE( 自己資本利益率)、株価変動率など日経平均株価やTOPIXなどのインデックスとは異なる、一定の基準で選定した銘柄が選定されています。
世界ではスマートベータの運用は広がりを見せています。例えばスマートベータ型の ETF は、2017年の純資産総額が前年対比で32.3%の増加を記録し、2008年のリーマンショック以降最高の増加率を記録しました。
また、日本では2014年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が国内株式のパッシブ運用及びアクティブ運用の方針を見直し、アクティブ運用においてはスマートベータ型アクティブ運用を新たに採用したことから、スマートベータ型の運用に注目が集まりました。
スマートメーターの投資戦略は主に次の4つに分類されます
①配当利回りの高い銘柄を選定した「高配当型」
②価格変動リスクを最小化するような銘柄を選定した「最小分散(低ボラティリティ)型」
③企業の財務情報に基づいて銘柄を選定し、規模の大きい銘柄に投資する企業規模型(ファンダメンタル型)
④ROE や財務レバレッジなどが良好な銘柄を選定したクオリティ型
スマートベータ運用のメリット
それでは、スマートベータのメリットについて見ていきましょう。
メリット1:アクティブファンドに比べて低コスト
スマートベータ運用はアクティブ運用の一種として捉えられていますが、コストはかなり低く抑えることができます。コストが低い理由としては、基本的に銘柄選定のロジックが決まっているからです。売上高や配当 、ROE( 自己資本利益率)、株価変動率など一定の基準で選択していくため、通常のアクティブファンドよりも銘柄を選定する手間がかかりません。
インデックス運用している投資家の場合、アクティブ運用にはなかなか手を出しづらいものの、スマートベータ運用を取り入れることは十分可能になります。
メリット2:運用の透明性
アクティブファンドでは、どのような運用方針で銘柄を組見入れているのかというのが分かりづらい場合があります。しかし、スマートベータでは運用のロジックが決まっているため、何をどの程度を組みいれているかが明確にわかります。
テーマも決まっているので、例えば高配当型でしたら、配当が高い銘柄を組みいれているということがわかります。また、多くのスマートベータは、スマートベータとして設定された指数に連動するように運用されているため、指数を見ればほぼ運用の中身を把握することができます。
これは、インデックスファンドが特定の指数、例えば日経平均株価や TOPIX などに連動するように運用されていて、値動きがわかりやすいのと似ています。
メリット3:長期的にインデックスを上回る効果が期待できる
投資において最も大切なのは運用パフォーマンスです。運用の透明性が高くて低コストでも、パフォーマンスが悪ければ意味ありません。この点において、スマートベータは長期的にインデックスファンドを上回る成果が期待されています。
それでは、スマートベータのデメリットについても見ていきましょう。
スマートベータのデメリット
それでは、スマートベータのデメリットについても見ていきましょう。
デメリット1:先回りの買いが入る
GPIF( 年金積立金管理運用独立行政法人)や各年金基金がスマートベータを採用したことにより、スマートベータ投資が広がりましたが、どの銘柄が組み込まれるかがわかってしまう問題点があります。スマートベータの透明性はメリットですが、基本的に機械的な運用が行われるため、どの銘柄がいつ組み入れるかを事前に予測することが可能です。組入れられる銘柄を先回りして買っておき、スマートベータ型のファンドがその銘柄を組みいれて値段が上がったところで売れば利益を出すことが可能です。
運用の規模が大きくなければあまり問題はないのですが、ある程度の資産規模になった場合は注意が必要です。
デメリット2:スマートベータは万能ではない
低コストでインデックス運用を上回るパフォーマンスが期待できるスマートベータですが、常に運用益をあげられるわけではありません。また、リスクを軽減させる戦略が多いので、下げ相場には強いのですが、上げ相場では他のアクティブ運用などと比べてパフォーマンスが劣ることもあります。
あくまでも運用手法の1つとしてスマートベータを考えるようにしましょう。
スマートベータに投資するには?
スマートベータに投資する手法としては、投資信託とETFがあります。特に、スマートベータ型のETFの純資産総額が増えているので、スマートベータ型ETFについて解説していきます。
ETFは”Excange Traded Funds”の略で、「上場投資信託」と呼ばれています。日経平均株価や東証株価指数 (TOPIX) など特定の指数に連動する運用成果を目指し、東京証券取引所に上場している投資信託です。株式と同じようにリアルタイムで売買でき、運用コストも安いことから人気が高い金融商品です。
ETF のコストは、売買手数料と信託報酬です。売買手数料は株式と同じなので、ネット証券を利用すれば安くなります。信託報酬とは、ETFを管理・運用してもらうためのコストで 、ETF を保有している間、ずっとかかる費用になります。ですから、長期で保有する場合は、信託報酬の安い ETF の方がより有利になります。
東証にはスマートベータ型 ETFも様々なタイプが上場しており、2018年1月末のスマートベータ型 ETF の純資産総額は、約1,6兆円規模まで拡大しています。
それでは、スマートベータ型ETFを見ていきましょう。(2019年1月現在)
1577 NEXT FUNDS 野村日本株高配当70連動型上場投信
- 投資タイプ 高配当型
- 売買単位 1口
- 最低買付金額 22,310円
- 信託報酬 0.3456%
- 純資産総額 811.8億円
- 運用会社 野村アセットマネジメント
国内の証券取引所に上場する全ての株式のうち、今期の予想配当利回りの高い70銘柄で構成する「野村日本株好配当70」との連動を目指すETFです。スマートベータ型 ETFでは、最も純資産総額が大きい銘柄です。分配金利回りは3.28%あります。
出典:東証マネ部
1478 iシェアーズ MSCIジャパン高配当利回りETF
- 投資タイプ 高配当型
- 売買単位 1口
- 最低買付金額 1,863円
- 信託報酬 0.2052%
- 純資産総額 388.1億円
- 運用会社 ブラックロック・ジャパン
- 利回り2.84%
配当性向や ROE、 負債、自己資本比率など財務諸表の要件を満たした銘柄の中で、配当利回りが高い銘柄で構成される指数である「 MSCI ジャパン高配当利回りインデックス」との連動を目指す ETF です。
運用は、世界最大の運用機関であるブラックロックの日本法人。信託報酬の安さと最低買付金額の低さが魅力です。資産規模はスマート型ETF の中で2番目です。より低コストで運用を行いたいという投資家は、この商品を選ぶといいでしょう。
出典:東証マネ部
1477 iシェアーズ MSCI日本株最少分散ETF
- 投資タイプ 最少分散型
- 売買単位 1口
- 最低買付金額 1,800円
- 信託報酬 0.2052%
- 純資産総額 137.8億円
- 運用会社 ブラックロック・ジャパン
株式ポートフォリオのリスクを最小化するように銘柄選定及び銘柄のウェイト設定を行う最小分散投資戦略を用いた指数「 MSCI日本株最小分散インデックス」との連動を目指すETFです。MSCI 日本株最小分散インデックスは、日本国内の取引所に上場している大型・中型株を対象にした 「MSCI ジャパン指数」から不動産投信( Jー REIT)を除いた銘柄を対象としています。
出典:東証マネ部
JPX日経400連動ETF
近年特に関心が高まっている指数の一つが「 JPX 日経インデックス400」です。東証に上場する企業の中から、「資本の効率的活用」や「当事者を意識した経営視点」など、グローバルな投資基準に求められる諸所要件を満たした400社を選定し、時価総額加重で指数化したものです 。
海外投資家が上場企業への投資において特に重視すると言われる ROE や社外取締役の人数などのコーポレートガバナンスの観点から企業を選定していることもあり、同指数は機関投資家から注目を集めています。
国内で注目が集まったのは、2014年4月にGPIFが「JPX日経インデックス400」を運用指数に採用し、同年10月には日銀も同指数に連動する ETF を買入対象にしたことです。運用純資産総額は順調に増えてきており、日経平均株価 やTOPIX に次ぐ指数へと成長しています。
1591 NEXT FUNDS JPX日経インデックス400連動型上場投信
- 売買単位 1口
- 最低買付金額 13,670円
- 信託報酬 0.216%
- 純資産総額 6340億円
- 運用会社 野村アセットマネジメント
資本の効率的活用や当事者を意識した経営など、グローバルな投資基準に求められる諸要求を満たした魅力が高い400社を対象とする「JPX日経インデックス400」との連動を目指す ETF です。純資産総額は6.346億円と、 JPX 日経400連動 ETF の中でも最大規模を誇っています。流動性には全く問題がないので、いつでも買いたい値段、売りたい値段で売買することができます。
出典:東証マネ部
まとめ
今回は、スマートベータの運用手法についてみてきました。インデックス運用とアクティブ運用の中間に位置する運用手法で、インデックスファンドを上回る運用成果を目指すものです。さらに、アクティブファンドほどコストがかからず、より高いパフォーマンスが期待できます。ただし、スマートベータ投資でも元本が保証されているわけではありません。きちんと組入銘柄や運用手法を吟味して運用を行うようにしましょう。
また、具体的な投資対象としてスマートベータ型 ETF を見てきました。 高配当銘柄、高ROE 、価格変動リスクを最小化するように銘柄を選定した最小分散型など、様々なスマートベータの投資戦略に対する ETF が上場されています。そして、その数は現在も増え続けているので、今後もスマートベータ投資の注目度は上がっていくでしょう。