21世紀の成長産業として宇宙開発ビジネスが大きな注目を集めています。これまで官主導だったものが、名だたる企業家の相次ぐ参入で海外中心に民需が拡大しています。宇宙開発は IoT や自動運転といった21世紀を牽引する産業との親和性も高いため、今後世界中で開発競争が繰り広げられる可能性が高まっています。
投資信託でも今年になって宇宙関連企業の株で運用するファンドの新規設定が相次いでいます。宇宙開発ビジネスとはどういうものなのか、関連銘柄、ファンドにはどのようなものがあるかをご案内していきます。
宇宙開発ビジネスは今後の成長が期待される分野
宇宙ビジネスは、ロケットや衛星の打ち上げがメインです。2016年の市場規模は35兆円。IT(情報技術)や電気自動車関連のベンチャー起業家が続々と参入しています。宇宙ビジネスが今後の高成長が見込める分野だと見込んでいるからです。
国・地域別で見るとアメリカが42%を占めていますが、EUやロシア、日本、中国といったアメリカ以外の市場が成長しており、アメリカのマーケットシェアは低下傾向にあります。これまでは官需主導でしたが、ベンチャー企業による新技術開発が盛んで、民需は年平均10%以上の高い成長率を誇っています。
これまでの政府主導から民間主導へという流れが宇宙開発技術をめぐる現在のトレンドです。このため世界各国が民間の宇宙開発事業の支援に力を入れており、今後民間企業による国際競争が激化していくと見られています。
日本政府も宇宙ビジネスを成長産業として位置づけており、今後日本でも宇宙開発ビジネスに積極的に支援する動きが増えていくと見られています。2018年3月に今後5年間に宇宙ビジネスに対し1,000億円規模のリスクマネーを提供するなど、宇宙ベンチャー育成の支援パッケージを政府が発表しています。
電気自動車や自動運転で注目を集めている起業家、イーロン・マスク氏が宇宙ベンチャーの「スペース X」 を設立したのは2002年 。ロケット打ち上げがメインで、実績は100件以上。三つの打ち上げ場を擁し、低コストに強みがあります。Amazon 創業者のジェフ・ベゾス氏がブルーオリジンを立ち上げたのは2000年。再利用型ロケットを開発し、エンジン供給も行っています。
ワンウェブは、エアバス中心に連合を結成しスペース X に対抗している企業の代表格です。衛星を用いたインターネットインフラ構築を目指し、地上の利便性向上のために宇宙を利用する立場を貫いています。
これまでアメリカ NASA (宇宙航空局)のロケット打ち上げといえばボーイングでしたが、2006年にスペース X と初めて契約をしました。そのため、ボーイングも巻き返しに本腰を入れ始めています。一方、欧州のエアバスは、フランスのアリアンスペースへの出資比率を上げて2016年に子会社化しました。
アリアンスペースは、12カ国53社が出資して1980年設立の衛星打ち上げ専業で老舗です。低コストが売りのスペース X に対し、実績を売りにその台頭に待ったをかけていく戦略です。
出典:内閣府
アマゾン
ブルーオリジン
2000年設立再利用型ロケットの開発エンジンを供給しています
テスラ
スペース X
2002年設立。ロケット打ち上げがメインで実績は100強あります。三つの射場を擁し、低コストに強みがあります。
グーグル
ピーター・ ディアマンディスが仕掛け人。賞金コンテストを開催し技術革新を促進しています。純民間の月面探査に賞金30Mドルを掛けています。
エアバス
アリアンスペース
12カ国53社が出資して1980年設立。衛星打ち上げ専業の老舗です。5つの射場を持ち、2016年にはエアバスの子会社になりました。
ワンウェブ
衛星を用いたインターネットインフラ構築を目指しています。ソフトバンクグループが10億ドル出資したことでも有名です。
国内勢は依然 JAXA( 宇宙航空研究開発機構)が開発を牽引しています。宇宙ベンチャー登場もまだ黎明期です。堀江貴文氏が出資する宇宙ベンチャーの小型ロケット 「MOMO」が7月に落下して炎上するなど前途多難な状況です。
JAXA
政府全体の宇宙開発利用させる中核的存在です。宇宙科学研究所、航空宇宙研究所、宇宙開発事業団が統合して2003年に発足しました。H2Aロケットの打ち上げを行っています。
H2Aロケット
出典:JAXA
現在、主力大型ロケットとして日本で用いられているのはH2Aロケットです。日本初の純国産ロケットH2ロケットで培われた技術を元に開発され、多様な人工衛星探査機の打ち上げを高い信頼性と低コストで行っています。
13号機からH2Aロケットの打ち上げ事業は三菱重工業に移管され、JAXAは打ち上げ安全管理業務を実施しています。
H2Aロケットは多くのメーカーによって支えられています。システムを取りまとめているのは三菱重工業。エンジン周りは三菱工業とIHI。 送受信機関連はNEC。センサーは日本航空電子、フェアリング(衛生分離部)は川崎重工となっています 。
三菱重工業(証券コード:7011)
国内最大手。H2Aロケットを製造していて、H3を開発中です。部門別売上高(航空・防衛・宇宙)は7,229億円となっています。
川崎重工業(証券コード:7012)
H2Aロケットのフェアリング(先端部の覆い)を製造。宇宙ゴミ除去装置開発も開発しています。部門別売上高(航空・宇宙)は3,302億円です。
ベンチャー企業
インターステラテクノロジズ
ライブドア元社長の堀江貴文氏が出資しているベンチャー企業です。世界最低性能の量産型使い捨てロケット「MOMO」を18年4月に打ち上げ開始。クラウドファンディングで打ち上げ機能を募りました
アクセルスペース
民間主導で超小型衛星の設計・製造・打ち上げを行っています。2015年に19億円の資金を調達し注目を集めました。
SPACE WALKER
2027年に日本初の有人宇宙飛行を目指しています。アートディレクターの大山よしたか氏が CEO を務めています。
宇宙開発は民間企業からの出資が増えている
米国で宇宙開発の影の主役となっているのは、政府系ファンドやベンチャーキャピタル (VC)、ゴールドマンサックスなどの投資銀行です。米商務省は宇宙探査開発をテーマに会議を開きましたが 、ロケット発射や GPS( 全地球測位システム)に関してだけでなく、今後年金基金にどのように宇宙関連企業に投資を促していくかについても活発に意見が交わされました。
現在およそ4,000億ドル(約44超5000億円)の世界の宇宙産業の市場規模が、2040年までに1兆ドルを超えるとみられています。
これまでは政府主導で宇宙開発を行ってきましたが、今後は民間が成長を主導すべきだと米政府は考えています。
米商務省は規制を緩めて企業からの参入を促し、ベンチャーキャピタルやヘッジファンドからの投資だけではなく、年金マネーの出資も促そうとしているのです。
米国には科学研究をまず政府が公的資金で支え、その後に企業からが出資して成長と技術革新を引き出してきた歴史があります。
イギリスの実業家リチャード・ブランソン氏の旅行会社ヴァージン・ギャラクティックの有人宇宙船が12月に宇宙空間への試験飛行に成功しました。アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏は商業衛星の打ち上げ事業に乗り出しています。
米テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営者)が率いる宇宙開発ベンチャーの「米スペース X」 が5億ドル(約560億円)の資金調達を計画していることが明らかになりました。調達した資金は、衛星を使ったネット接続サービスなどに投資する見込みです。
スペースXはNASA(米航空宇宙局)から有人宇宙船のプロジェクトを受託するなど実績を積み重ねており、企業価値は305億ドルと、今年の春に比べ2割近く増加すると見込まれています 。
宇宙関連の新規需要の利益がでるかどうかというのはまだ分かりません。米中の対立など地政学的な緊張の高まりなどにより、どんな影響が出るかも不透明です。米政府は、宇宙が戦争の新たな最前線になるだろうと語っています。
しかし、様々なマネーが未開拓領域である宇宙に出資しているので、関連企業や関連ファンドへの投資は盛り上がっています。
宇宙開発ビジネス関連5銘柄
それでは、宇宙開発ビジネス関連銘柄を見ていきましょう。
出典:内閣府
国別の売上では、アメリカが64%、ヨーロッパが28%とこの二つの地域で90%を超えています。日本はわずか2%程度です。
ロッキードマーチン、ボーイング、ノースロップグラマン、レイセオンなど防衛関連銘柄として有名な企業が多く入っています。
日本では19位に三菱電機が入っているのが最高位です。
6503 三菱電機
三菱電機は、人工衛星本体をはじめ、衛星運用に欠かせない地上管制設備や大型望遠鏡など幅広く事業展開しています。
出典:ヤフーファイナンス
米国市場が軟調なことから日本株も大きく下げ、三菱電機の株価も大きく下がりました。2018年12月現在の株価での予想PERは10.29倍、実績PBRは1.09倍となっています。配当利回りは3.47%。これらの指標から見ると割安感が出てきていますが、日経平均がどこまで下がるかわからないので軟調な展開が続いています。
7011 三菱重工
国内最大手でH2Aロケットを製造しています。 2016年には宇宙ステーション補給機「こうのとり」6号機を搭載した6号機の打ち上げに成功安定ぶりを示しています。
出典:ヤフーファイナンス
現在の株価水準はPER14.53倍、 PBRは0.71倍と1倍を割れています。予想配当利回りは3.35%。ここ数年は安値圏でのもみ合いが続いています。
4275 カーリットホールディングス
カーリットグループは、ロケット燃料や発煙筒などの分野で日本をリードしてきました。 H2A ロケットでもロケット推進薬(過塩素酸アンモニウム)を提供していて、打ち上げにも欠かせません。ロケットの固体推進薬の原料である過塩素酸アンモニウムは、宇宙ビジネスの発展とともに市場の拡大が見込まれています。
出典:ヤフーファイナンス
現在の株価は年初来安値を更新してきていますが、PBRは9.72倍、 PBR は0.59倍となっています。EV関連で電池受託試験の案件が増加。柱の化学が業績を牽引しています。ただ、全体の市況が悪いので軟調な展開が続いています。
6709 明星電気
明星電機は、地震計等の気象・防災観測機器と人工衛星用観測機器が2本柱です。人工衛星に搭載された太陽電池パドルやアンテナの展開の様子を撮影する「衛星搭載モニタカメラ」、小型衛星に搭載する「GPS受信機」など衛星向けの機器を数多く事業展開しています 。JAXA(宇宙航空研究開発機構) の衛星にも豊富な実績を持っています。
出典:ヤフーファイナンス
業績の落ち込みから株価は安値を更新し続けています。予想PERは46.33倍、 PBR は1.37倍となっていて割安感はありません。今後は気象庁はじめ気象防災分野の更新の需要増が見込まれていますが、宇宙防衛機器は契約金額見直しや契約締結の遅れが響いています。
4026 神島化学工業
窯業系の不燃内外装建材が主力。マグネシウム類の化成品を構成比50%目指し生産・販売を拡充しています。宇宙ビジネスの拡大とともに発展が期待できる素材産業です。人工衛星から太陽エネルギーを地球に送る宇宙ソーラーパワーシステムには、同社のレーザー存在が不可欠だといわれています。
出典:ヤフーファイナンス
現在のPERは9.21倍、PBRは0.71倍、予想配当利回りは3.78倍と割安感があります。主力の建材は、住宅向け減少を非住宅向けで補い小幅回復しています。
これらの銘柄はまだ宇宙関連ビジネスとしては売上構成比率が低いものの、今後宇宙関連ビジネス業界が成長していけば、見直し買いが入る可能性が高いと考えられます。
宇宙開発ビジネス関連ファンド3選
宇宙に関連した企業の株で運用する投資信託の新規設定が相次いでいます 。テーマ型ファンドは今年になって人気が高まっています 。宇宙産業は今後「自動運転」や 「IoT」 といったテーマと関連してくることからも大きく注目を集めているのです。
人工衛星を使ったデータの活用が進み、宇宙関連の事業に参入する民間企業の裾野が広がっています。 今年の夏以降、以下のような宇宙関連ファンドが設定されました。
ニッセイ宇宙関連グローバル株式ファンド(ニッセイアセット)
ロケットや人工衛星の製造・打ち上げ・運用等に関する事業展開する企業衛星や、データ等を活用して事業展開する企業などを組み入れています。後発ながら1ヶ月で約110億円の資金を集めています 。組み入れ銘柄の一つであるフランス航空宇宙大手の「サフラン」は、宇宙船のメンテナンスなども手がけます。ロケットの打ち上げが増えるに伴い周辺の業種にも注目が集まっています。
東京海上・宇宙関連株式ファンド(東京海上アセット)
9月12日の「宇宙の日」に設定された東京海上日動アセットマネジメントは、宇宙関連株にバランスよく投資するのが強みです。日本を含む世界の取引所に上場している株式の中から、成長が期待される宇宙関連企業に投資しています。
グローバル・スペース株式ファンド(日興アセット)
日興アセットマネジメントが注目するのは3Dプリンターです。衛生部品の軽量化が進む中、3 Dプリンターは宇宙産業に欠かせなくなっています。グローバル・スペース株式ファンドでは、このような宇宙産業を支える基幹技術分野にも投資しています。米CADソフト世界最大手の AUTODESK が組み入れ3位になっています。
まとめ
ロケットや衛星の打ち上げが主体の宇宙ビジネスは、現在40兆円を超える巨大市場です。IT 技術や電気自動車関連のベンチャー起業家が続々と参入しています。
今後の宇宙ビジネスが高い成長が見込める分野として考えられているからです。これまでは官主導で行ってきた宇宙関連ビジネスですが、民間投資が拡大しています。さらに 金融機関も政府系ファンドやベンチャーキャピタル、ゴールドマンサックスなどの投資銀行に加え年金基金の出資も見込まれています。
国内勢は依然としてJAXA が開発を牽引しています。JAXA を支えるのは、三菱重工業、川崎重工業などの重工大手です。国内はようやく宇宙ベンチャーがでてきた段階です。アクセルスペースやスペースウォーカーなど新興企業がでてきているものの、見通しは前途多難です。しかし、着実に伸びている産業ですので、関連銘柄や関連ファンドは抑えておくようにしましょう。