目次
個人事業主として活動している人にとって、税金の負担は非常に大きなものです。
個人事業主が事業から得たお金に対して課税される「所得税」は、「たくさん稼いでいる人ほどたくさん税金をとられる」という仕組みになっているのです。
多い人では45%もの税金が課せられますから、「今年はせっかく儲かったのに、税金をこんなに払わないといけないなんて…」とがっかりした経験のある方も多いのではないでしょうか。
こうした税金の負担は、節税対策をしっかりと行うことでずいぶん小さくすることが可能になりますので、しっかりと対策を行うようにしましょう。
この記事では、個人事業主の方が選択することができる節税の方法について具体的に解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
節税で個人事業主ができる方法一覧
節税のために個人事業主が選択することができる方法として、代表的なものを一覧にすると、以下のようなものがあります。
- ①専従者給与を使う
- ②青色申告特別控除を使う
- ③少額減価償却資産の特例を使う
- ④赤字の繰越
- ⑤倒産防止共済に加入
- ⑥小規模企業共済への加入
- ⑦iDeCoへの加入
- ⑧社会保険料のまとめ払い
- ⑨ふるさと納税を使う(お得感はありますが、節税対策としての効果はなし)
以下では、それぞれの方法について具体的に解説していきます。
①専従者給与を使う
個人事業主の方の場合、配偶者(奥さんや旦那さん)や家族に、従業員やアルバイトとして仕事を手伝ってもらっているという方も少なくないでしょう。
こうした家族従業員に対して賃金を支払っている場合には、その賃金支払い額を事業所得から差し引きしてもらうことが可能となります。
「賃金」といっても、例えば「奥さんに対して毎月生活費を渡している」という人であれば、そうしたお金の一部を専従者給与として必要経費に含めて問題ありません(もちろん、家族が仕事の手伝いをしているという事実があることが大前提ですが)
実質的には現状と支出額を換えることなく、あなたの事業所得を差し引きしてもらうことが可能となりますから、専従者給与はぜひ利用しておきたいところです。
②青色申告特別控除を使う
個人事業主の方は、1年に1回は必ず税務署に対して税金の申告を行う必要があります。
こうした手続きのことを「確定申告」と呼んでいますが、個人事業主の確定申告の方法には大きく分けて次の2種類があります。
- 白色申告
- 青色申告
ごく大まかに言うと、白色申告は手続きが簡単である代わりに税金の負担額が大きくなるのに対し、青色申告は経理処理が複雑になる代わりに、節税対策として選択できる方法が増えます。
上の①で見た「専従者給与」も青色申告によって節税効果がアップする例ですが、青色申告では「青色申告特別控除」という特別な計算方法を認めてもらうことも可能になります。
青色申告特別控除とは?
青色申告特別控除は、青色申告を利用している事業者の方の場合に、所得から65万円を差し引きしてもらうことができる制度です。
青色申告を利用するためには、年の初めに青色申告の承認申請書を出しておくとともに、簿記のルールに従って会計処理をしておかないといけないなどの要件があります。
もっとも、青色申告の承認申請書は開業届とともに書類を1枚出しておくだけで済みますし、市販の会計ソフトなどを使えば簿記のルールに従って会計処理を行うのもそれほど難しくありません。
青色申告特別控除を適用してもらえば、単純計算で「65万円×所得税率」の金額だけ税金が安くなりますから、非常にお得な制度といえます。
(例えば、所得税率が10%の人であれば、6万円ほど税金が安くなります)
③少額減価償却資産の特例を使う
上で見た「青色申告」を利用している個人事業主の方は、減価償却費の計算で「少額減価償却資産の特例」を使うことができます。
これは、ごく簡単にいえば「30万円未満の資産購入については、全額経費として処理してOK」という扱いのことをいいます。
通常は、10万円以上の資産を購入した場合には、その資産を利用する年数で割り算した金額しか、その年の経費に算入することができませんが、この特例を使うと一括で経費処理を行うことが可能となります。
少額減価償却資産の特例は、年末段階で「今年は所得額が大きくなりそう」ということが判明した場合に、事業で使う物品(パソコンなど)などをまとめて購入しておくといった形で活用することが考えられます。
(その分だけ所得から経費を差し引きできますから、結果として所得税が安くなります)
④赤字の繰越
青色申告を利用している個人事業主は、事業から発生した損失(赤字)を、翌年以降3年間にわたって繰り越すことが可能です。
「赤字を繰り越す」ということの意味は、具体的には以下のようになります(具体例で考えたほうが分かりやすいです)
例えば、2018年~2023年の各年度の事業状況が以下のようになっていたとしましょう。
- 2018年:500万円の赤字
- 2019年:300万円の黒字
- 2020年:150万円の黒字
- 2023年:200万円の黒字
このケースで、通常は2019年~2023年は利益が出ていますから、その金額に応じた税金を負担しなくてはならないところです。
ところが、2018年分の確定申告を行う際に「赤字500万円の繰越」を行うと、2019年~2023年の税金計算上の所得は、それぞれ以下のようになるのです。
- 2019年:所得0円(繰越残高200万円)
- 2020年:所得0円(繰越残高50万円)
- 2023年:所得150万円(繰越残高0円)
2019年・2020年の2年間は、事業は黒字であっても税金計算上の所得は0円ですから、当然ながら所得税の負担額も0円となります。
最後の2023年は、前年から繰り越している残高が50万円ですので、2023年分の所得200万円から差し引きをして、所得は150万円ということになるわけです。
事業開始直後というのは売上がうまくコントロールできないことが少なくありませんので、年間トータルで見て赤字に終わる…というケースは少なくありません。
このような場合には、赤字の繰越の制度を上手に活用し、翌年以降で利益が出た際に税金を安くできるようにしておくのが適切といえます。
⑤倒産防止共済に加入
個人事業主の方は、「倒産防止共済」という公的な保険制度に加入することができます。
これは、簡単にいうと「取引先が倒産してしまったときに無利子・無担保で貸し付けを受けられる」というもので、掛け金として積み立てたお金の10倍の金額の貸し付けを受けることができます。
さらに、その掛け金は必要経費に算入することができますから、節税対策にも使える仕組みといえます。
倒産防止共済の掛け金は年間で240万円まで(過去から累計で800万円まで積み立てられます)かけられますから、利益が多く出た年は年払いで加入することで利益を圧縮することが可能となるのです。
ただし、実際に得意先が倒産し、無利子での貸し付けを受けた場合には、それまでに貸し付けを受けた10%の金額は共済に対して支払うことになって返還を受けられなくなる点に注意が必要です。
例えば、これまでに累計200万円を積み立てていた人が、得意先の倒産にともなって1500万円の貸付を無利子で受けた場合、貸付額1500万円の10%に当たる150万円が積立額から差し引きされます。
この場合、結果として積立金額は50万円まで減ってしまうことになりますので、注意しておきましょう。
⑥小規模企業共済への加入
小規模企業共済への加入も、個人事業主が使える節税対策の方法として極めて有効なものです。
小規模企業共済とは、ごく簡単にいうと、中小企業経営者が将来の退職や廃業に備えて、老後資金を積み立てておくための個人年金のようなものです(退職金受取時には、退職所得として扱われます)
小規模企業共済が生命保険会社の個人年金と異なる点は、積み立てた掛け金の全額を所得控除として扱ってもらうことができる点です。
所得控除とは?
所得控除とは、ごく簡単にいえば「実際に支払った金額×所得税率」の金額だけ税金が安くなる仕組みのことを言います。
例えば、年間で84万円の小規模企業共済掛け金を支払い、所得税率が10%であったとすると、単純計算で8万円ほど所得税が安くなる計算です。
(※実際の税金計算はもう少し複雑ですので、あくまでも税金計算のおおまかなイメージとしてとらえて下さい)
当然ながら、積み立てたお金は将来、事業を廃業したり後継者に引継ぎしたりした際に保険金として払い戻しを受けることができますので、節税効果とあいまって非常にメリットの大きい制度といえます。
小規模企業共済は年間で84万円まで(月額上限7万円)積み立てることが可能ですので、ぜひ活用するようにしましょう。
⑦iDeCoへの加入
最近利用が増えている節税対策の方法として、iDeCoへの加入があります。
※個人事業主としては、大まかにいえば「従来から使えたお得な制度である小規模共済が、2つに増えた」という状況です。
iDeCoとは、簡単にいうと自分で積み立てる個人年金のことで、こちらも小規模共済と同様に「掛け金の全額を所得控除」として扱ってもらうことができます。
将来的にお金を受け取る際には退職所得として税負担が小さい形で受け取れるほか、掛け金の支払期間中は節税対策になりますから、非常にメリットの大きい方法といえます。
iDeCoは、個人事業主の方であれば月額6万8000円(国民年金基金保険料と合算した金額です)まで書けることができますから、利益が多く出そうな年度は加入しておくと良いでしょう。
⑧社会保険料のまとめ払い
所得税の計算上、あなたが1年間のうちに支払った社会保険料は、「所得控除」に含めることができます。
上の「⑦小規模企業共済への加入」のところでも見たように、所得控除として扱ってもらえる支払いは、「支払額×所得税率」の金額だけ節税効果を期待できます。
例えば、「今年は国民健康保険料をトータルで30万円支払った」という人の場合、税率が10%だったとすると、およそ3万円(支払額30万円×税率10%)の節税効果を得ることができるのです。
社会保険料の未納分は「事業が儲かった年」に支払うと良い
社会保険料というものは、本来は支払い義務がある年に支払わなければいけないものですが、さまざまな理由から支払いができない年もあるでしょう。
国民年金の保険料は、将来的にあなた自身が受け取る年金の金額に影響しますから、できれば全額を支払っておくのがのぞましいといえます。
これに加えて、支払いをした際には、支払額全額をその年の所得控除として扱ってもらうことが可能ですから、事業に余裕が出たときに支払っておくのが良いでしょう。
※社会保険料の支払額は、「どの年度分の保険料であっても、支払ったその年の所得控除として扱う」のがルールになります。
⑨ふるさと納税を使う(お得感はありますが、節税対策としての効果はなし)
近年、利用する人が爆発的に増えている税金計算に絡む方法として、「ふるさと納税」があります。
ふるさと納税とは、簡単にいうと「地方自治体に対して寄付をすること」ですが、都道府県や市区町村などの地方自治体に寄付をしたときには、「寄付金控除」という税額控除を認めてもらうことができるのです。
ただし、当然ながら寄付をしたときにお金は出ていっていますから、実質的にはお金の収支はマイナスになるケースがほとんどです。
それにもかかわらず、「節税効果がある」としてふるさと納税が注目されているのは、寄付をしたのと同額か、それ以上の価値がある特産品などが受け取れるからです。
ふるさと納税には実質的には節税対策の効果は見込めないのが実際のところですが、特産品などをお得に手に入れられるというメリットはありますから、検討してみる価値はあるでしょう。
車を買ったら経費で落とせる?
個人事業主の方が、事業用に使う自動車を購入した場合、購入額を耐用年数(その車を使用する年数:法律で決まっています)で割った金額を、毎年「減価償却費」として必要経費に含めることができます。
実際の計算では、償却率という考え方を使って、毎年計上するべき減価償却費の金額を計算することになります(大まかに言うと、購入した初年度がもっとも経費として落とせる金額が大きく、その後年数がたつにしたがって経費算入金額は小さくなります)
一方で、購入した自動車が事業主のプライベートの用途にも使われるような場合には、計上する減価償却費のうち一定割合は必要経費から除かなくてはなりません。
プライベートでも自動車を使う場合の必要経費の計算方法(家事按分)
この「一定割合」は、「その自動車を、どのぐらいの割合で仕事に使うか?」という考え方のもとに計算することになります。
例えば、一週間のうち5日間は仕事をしているので、「営業用として平日5:プライベート用として休日2」の割合で計算したとしましょう。
この場合、1年間で計上できる減価償却費が35万円だったとすると、35万円÷7×5=25万円だけが必要経費として算入できることになります。
残りの10万円(35万円-25万円)は、社長の個人的なプライベートの支出として扱われますから、必要経費に含めることはできません。
こうした計算方法のことを「家事按分」と呼びますが、もし家事按分の計算を行っていない場合、税務調査によって経費の金額が修正されてしまう可能性がありますので、日ごろからこうした計算方法を行っておくことが大切になります。
副業の収入はどう処理する?
個人事業主として活動している方の中には、本業のビジネスの他にも、副業として仕事をしているという方も少なくないでしょう。
こうした本業以外のビジネスから得た収入についても、収入から必要経費を差し引きした金額を「事業所得」として確定申告しなくてはなりません(本業のビジネスによる所得と単純に合算してしまえば問題ありません)
結果として所得金額は大きくなるケースがほとんどだと思いますが、副業の場合、源泉徴収されている所得税がある場合に注意が必要です。
ライターとしての現綱領受取やコンサルティングによる報酬などは、報酬を受け取った時点で得意先があなたの所得税を天引きしていることがあります(得意先には天引きをしてあなたの代わりに税務署にこの税金を納める義務があります)
こうした天引きで支払った税金はあくまでも「前払い」という扱いになりますから、あなたが確定申告をした際に、年間の所得から計算した正確な所得税の年間合計額から差し引きしてもらうことができます(すでに払ったものとして扱われます)
報酬から所得税を源泉徴収された時には「支払調書」という書類を得意先が発行してくれると思いますから、請求書を送った際には発行を依頼しておくようにしておきましょう。
まとめ
今回は、個人事業主の方が節税対策として行うことのできる方法について、具体的な例をあげながら説明いたしました。
すでに顧問税理士と契約している方は、節税対策の方法について具体的な内容をぜひ相談してみてください。
顧問税理士はあなたの事業の内容や、損益の状況について会計数値で把握していますから、きっとあなたの状況に合わせた最適な方法を提案してもらうことができますよ。