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会社に法務部があったり、顧問弁護士を雇っている、といった事情がなければ、債権回収は自分達で行わなければなりません。
債権回収は実務的にはどのように行われているのか、どのようにしてすすめていけば良いのか、法律の知識がないまま専門的な本を購入してみたものの、何をどうすれば良いのか途方に暮れているという方も多いのではないでしょうか。
このページでは債権回収の方法と、実務ではどのようにおこなっているかについてお伝えいたします。
債権回収とは
債権回収とは、未払いの金銭債権を支払いをしてもらうことをいいます。
個人でも、会社でも相手にお金を支払ってくださいという権利(金銭債権)がある場合に、支払いが受けられない場合には支払いをしてもらわなければなりません。
支払いをしてもらうにあたっては、法律に所定される手続きによってされる必要があります。
規模の大きな会社ですと、法務部や総務部の法律に関する手続きをしている部署、外注する際には弁護士・債権回収会社に依頼をします。
債権回収の方法
では、債権回収はどのようにして進むのでしょうか、次のようなケースを想定して、まずは債権回収までの典型的な流れを見てみましょう。
通常の債権回収の流れ
【ケース1】
東京都に本社をかまえるA社は神奈川県に本社をかまえるB社に対して100万円の金銭支払いを2018年12月10日に受ける予定であった。
しかしB社は2018年12月10日に支払いがなく、支払いがないことについての事前に申し入れもありませんでした。
以上のケースで、どのように債権回収をすすめていくのかを見てみましょう。
督促
たとえば12月11日の段階で経理の方から連絡があり支払いが受けられていない、という場合には、通常はまず督促を含めた連絡を先方に入れるのが通常です。
日時 | 当方担当者 | 相手方担当者 | 内容 |
2018年12月11日10:00 | 山田 | 代表電話ー | 電話に出なかった |
2018年12月12日13:00 | 川本 | 代表電話(総務部:鈴木) | 私ではわかりかねますので、上司に確認してお伝えするようにします。返答期限12/18日 |
2018年12月19日14:00 | 山田 | 代表電話(総務部:鈴木) | 本件については私ではわからないので、上司に確認します。返答期限が過ぎているとのことですが、私では返答できません。 |
督促(強めの手段)
もしのらりくらりと返答を引き延ばしているような場合や、電話に出ないなど連絡が付かない場合には、督促という行為でも強めの督促をする必要が出てきます。
この際に実務上よく使われるのが「内容証明」という書面です。
内容証明には次のような事を記載します。
- 請求金額
- 請求の元となった契約の名前
- 本来履行しなければならないのがいつか
- 履行(支払い)をしていないこと
- 支払いを求めること
- いつまでに回答をする必要があるか
- 期日に回答がない場合は契約解除や代金の履行をめぐって裁判を起こすこと
例えば、商品を納入したのに代金を支払わない場合には次のような書類を作成します。
貴社は、平成◯◯年◯◯月◯◯日に締結した売買契約に基づき、金1,000,000円の債務を平成××年××月××日までにする義務を負っていますが、平成□□年□□月□□日現在、当該債務の支払いがされておりません。
つきましては、本書面受け取り後1週間以内に、上記金額の支払いを求めます。
支払いが無い場合には、売買契約を解除し、金銭債権についての履行を法的手段により行うことを申し添えます。
内容証明を作成する際には1行の文字数・列数などが決まっておりますので、所定の書式・提出方法によって行ってください。
民事裁判等の提起
任意の支払いを求めても支払いがない場合には、法的な手段での金銭請求を行うことになります。
法的な手段といっても裁判を提起する方法、支払督促手続き、調停、少額訴訟など様々な制度があります。
裁判を提起する場合には、書面を作成して担当する裁判所に提起することになります。
140万円以下の場合には簡易裁判所、140万円を超える場合には地方裁判所が事件を担当する裁判所になります。
訴訟は法律の規定にしたがった地域を担当する裁判所に訴状を証拠書類とともに提出する形で行います。
訴状は裁判所で民事裁判の申立をする部署で手書きのためのものをもらえますし、インターネットでも取得できます。
またワードなどのワープロソフトで作成してもかまいません。
裁判は、判決をもらう・和解をする・請求を認諾するという終わり方が想定されます。
裁判が終わると、どうやって終わったかによって、確定した判決・和解調書・認諾調書という書面が作成されます。
この書面はこの後の強制執行に利用されます。
支払督促
支払督促とは、簡易裁判所を利用する簡易的な裁判手続きで、2週間以内に債務者が異議を申し立てなければ強制執行ができ、1ヶ月以内に異議を申し立てなければ裁判をしたのと同様の効果になるものです。
異議申し立てがされると、通常裁判に移行することになります。
調停
当事者が同意をすれば、裁判官と調停委員2名が間に入って話し合いを行い、合意をすれば裁判が確定したものと同じ効果が得られることになる手続きです。
話し合いが成立しない場合には通常裁判を改めて起こすことになります。
少額訴訟
少額訴訟は、40万円までの金銭支払いについて、書類だけの審査をする簡易な裁判手続きをいいます。
強制執行
相手から払ってもらうためには、強制執行をする必要があります。
裁判所に申し立てをして債務者の財産を差し押さえてもらって競売で売却してもらい、売却代金から債権分の支払いを受けることになります。
債務者が倒産した場合
債務者が債務の支払いをしない原因として一番考えられるのは、債務の支払いができなくなった、ということではないでしょうか。
その場合の流れについては次のような形になるのが一般的です。
債務者の倒産手続き開始通知を受領
債務者が債務の支払いができなくなったような場合には、倒産手続きに入ることになります。
倒産手続きには、破産・民事再生・会社更生・特別清算といった手続きがあります。
債権回収はこれらの法律上の手続きの中から行われることになるのですが、まず手続き開始をするにあたり代理人弁護士から倒産手続きに入る旨の通知を受け取るところから始まります。
債権の届出
どの倒産手続きをする場合にも、代理人弁護士に対して債権の届出をします。
弁護士から送られてくる書面に記載する方法もありますし、弁護士が単に債権の届出をするように通知してくるだけの場合には、書面を作成して提出することになります。
各種手続きにのっとった回収
倒産の手続きにのっとった回収をすることになります。
民事再生や会社更生の手続きの場合には、いわゆる再建型といわれる手続きになるので、ある程度の配当を見込むことができます。
しかし破産や特別清算のような清算型といわれる手続きの場合には配当が見込めないか、あってもごくわずかとなることが通常です。
債権回収を検討すべきポイント
以上は、「支払いをしてもらえない」というタイミングからの債権回収についてお伝えしましたが、債権回収ということを日常から意識するにあたって、どのポイントから検討をすべきなのでしょうか。
契約開始時
法務部を持っているような会社であれば、実は契約時から債権回収を意識した行動をしています。
契約時から、債権回収のための行動をとらなければならないような場合を想定して調査を行うことを行うのは基本です。
債権回収の最も大きな失敗になる原因としては「取引先が実は存在していない」というような場合が考えられますので、ホームページなどで実態を把握することはもちろん、規模の大きい取引になるような場合には商業登記に関する情報を取得したり、相手の会社に出向くなどして実態調査を行っておくことが考えられます。
大きな取引をする場合には、与信管理といって、相手がきちんと払えるのかどうかを調査して、支払いに確証が持てないような場合には、連帯保証をとったり担保をとるなどして、支払いを確実にする手段を講じておく必要があります。
対象となる会社に関するマイナスの情報が入った
債務者に関して、他社への支払いが滞った・経営状況が大きく変わった、というマイナスの情報を得たような場合にも債権回収のための行動をとるポイントとなります。
契約開始時には支払いに問題がなかったとしても、後に業績が悪化するなどして後の債権回収が危なくなるような場面も考えられます。
会社の支払い能力に問題があった場合には債権回収の手段を考えるようになります。
しかし、債権を回収できるのは基本的には支払い期日がきてからになるので、期日前に支払いを求めることは原則としてはできません。
ですので、次のような事を行うことになります。
- 担保の供与を求める
- 契約条件の見直し(支払い時期を早めるなど、債権回収に関する有利な契約への変更を求めるもの)
- 以後の契約の打ち切り
債権を回収できない場合
ここまで当然のように「債権を回収する」ことを前提にお話ししてきましたが、裁判をしても相手に執行すべき財産がない、破産をしてしまって配当がない、といった事態も考えられます。
そのような場合には、回収不能であることを確定させて、会計帳簿に関する償却処理をして費用として計上することになります。
貸し倒れ償却の処分をするには、民事執行をしても執行で回収できる財産がないことを裁判所が認める「執行不能調書」を入手することで行います。
破産手続きなどでは決定があれば損失処理をすることになります。
債権回収を依頼できる専門家
債権回収は内容証明作成・訴訟などがあるので、自社では対応できないような場合には専門家に依頼することが考えられます。
ではどのような専門家に依頼することができるのでしょうか。
弁護士
債権回収は弁護士法に規定する「法律事務」に該当するため、回収に関する代理・裁判・強制執行のすべての行動を代理することができるのは基本的には弁護士になります。
司法書士
簡易裁判所に提訴する金銭債権についての請求ならば司法書士が代理することが可能です。
そのため140万円以下の回収をする場合には司法書士に依頼をすることもできます。
140万円を超える債権については、訴状の作成のみの対応となるので注意なりますし、裁判において控訴をされたような場合には控訴審では代理人になれないので、少額の争いがないような事件に限って依頼をするような形になるでしょう。
行政書士
行政書士は事実関係に関する書面の作成権限があることから、内容証明の作成の代行をすることができます。
そのため、「裁判まではいかなさそうだが、内容証明くらいは送っておいたほうが良い事例」については行政書士に内容証明の作成を依頼することも選択肢には入れておきます。
なお、行政書士は書面の作成代行のみできるだけであり、交渉をしてもらったり交渉に関するアドバイスをすることはできないことになっていますので、注意が必要です。
債権回収会社(サービサー)
金銭債権に限っては債権回収会社(サービサー)が回収を代行することが認められています。
ある程度まとまった量の債権回収行為が必要な場合には、債権回収会社を利用するのも手といえます。
まとめ
このページでは債権回収の方法と、実務上どのような事をしているのか、という事についてお伝えしてきました。
単発で債権回収が必要になった場合には、督促・裁判・執行となりますので、それぞれの制度について知っておいた上で、手続きの利用については内容証明については郵便局・裁判については裁判所に問い合わせをしたりホームページを見ながらすすめていくようにしましょう。