なぜベーシックインカムが必要なのか?現実的な方法や注目したい産業

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今、ベーシックインカムが注目されている理由

「ベーシックインカムって何?本当に実現する事は可能なの?」

AIを代表的な例としてコンピューターが人間の仕事を奪っていくかも知れない、そんな中で「人間が経済的に生活していく事は可能か?」という点が近年議論されていると思います。

実際に、様々な産業でAIの技術が利用されているケースが見られ、例えばこれまでアメリカで大きな収入が期待出来、高級取りの代表的な士業だった「弁護士」の一部の業務がAIによって代用され人員削減の流れが起きています。(主にパラリーガルやアソシエイトの業務)

日本にもそのような流れは既に発生しており、代表的な例で記憶に新しいのはAIによる「銀行員の削減」でしょう。実際に、メガバンクが大幅な人口削減を発表しており、メディアでこのようなタイトル・見出しの媒体をご覧になった方も少なくないでしょう。

ただ、上記したようなものは一部の例であり、実際には想像しているよりも早く・もっと広範囲にAIに仕事が代用されるという事態は発生していくでしょう。このようなリスクが懸念される中で注目されているのは「ベーシックインカム」です。

ベーシックインカムとは、毎月一定額を国民に支給し最低限の保障を国が提供するというものです。ただ、実際にそんな事が可能なのか?そもそもどんな制度・考え方なのか?という点について疑問をお持ちの方も少なくないでしょう。

これから十数年以内に実現する可能性が高いと言われている新たな形の社会保障である「ベーシックインカム」について

  • 「そもそもベーシックインカムとは?」
  • 「ベーシックインカムって実現可能なの?」
  • 「実現したら伸びる産業」

についてご紹介していきたいと思います。まず、始めにベーシックインカムの概要と歴史、メリット・デメリット等について押さえていきましょう。

ベーシックインカムって何?

ベーシックインカム(略してBI)について簡潔にまとめると「一定額を全国民に国が支給する」という社会保障の事です。

一定額の金額はどのくらいなのか?どのような条件で国民とみなし、支給するのか?については様々な議論が行われていて、実際に実現した際には国によって大きく条件は異なる事が予想されますが、大まかには「国民が最低限の生活を送れるような支給額」というのが、主流な考え方だと思います。

ベーシックインカムの歴史

ベーシックインカムと聞くとAIの発展によって、近年考え出された社会保障だと感じてしまいます。AIの発展等によって人間の労働が奪われるという考え方からベーシックインカムが注目されている側面は存在しますが、実は「1797年」にはその元となる思想は存在していました。

その根拠となるのが、トマス・スペンスという思想家の著書で記述されている内容です。というのも、トマス・スペンスは「幼児の権利」という著書で、以下のような事を主張していました。

  • 年齢・性別を条件とせず
  • 年4回一定額を保障するべき

というような内容です。その後、様々な学者がこの思想を進化させ、黒人差別を問題視し解決のために活躍した有名なキング牧師も「黒人の進む道 世界は1つ屋根のもとに」という著書で、人種に関わらず貧困が深刻な問題である事を指摘しました。

その中で、ベーシックインカムと同じような社会保障の重要性を説いており、その影響もあって1960~70年代では、アメリカを始めとした様々な国で「ベーシックインカムを導入するべき!」という社会的な運動が行われていました。

つまり、昔から考えられていた思想であり、近年初めて考え出されたものではないのです。

ベーシックインカムが近年注目されている理由

ベーシックインカムが近年世界中で注目されている理由は、やはり「コンピューターによる本格的な労働の置き換え」が原因であると言えるでしょう。その代表的な例が「AI」であり、これから数十年以内に「半分以上の仕事が奪われる」とも言われています。

実際の所、どんな仕事が・どのくらいコンピューターに置き換えられるのか?については様々な議論が存在しています。ただ、1つはっきりとしているのは「AIによる労働置き換えに対応するような社会保障が必要である」という点だと言えるでしょう。

労働がコンピューターに置き換えられる未来はそう遠くはなく、それによって失業者が増加、格差が広がる、治安悪化等様々なリスクが考えられます。

また、AIによって奪われる仕事は「賃金の安い仕事」だと想像される方も少なくありません。そのため、貧困層が尚更貧困になってしまうという考え方です。もちろん、そのようなリスクも存在していますが、実際の所はこれまで「頭脳労働」だと言われていた仕事も大きなリスクが存在しています。

ただ、この記事の本題ではないので、これ以上深く掘り下げる事は避けます。どのような仕事が奪われるのか?という点については以下の記事で解説しています。

AIはなぜ注目される?AI関連株のこれからとAIが経済に与えるかもしれない影響

近い将来、ベーシックインカムという形では無くても、新たな形の社会保障が必要になってくる可能性は高いでしょう。

日本とベーシックインカム

先程、ベーシックインカムの概要とベーシックインカムが「今」必要とされている理由についてご紹介させて頂きました。ベーシックインカムについて掴めてきたと思うので、日本とベーシックインカムという観点からご紹介していきたいと思います。

欧米諸国で、ベーシックインカムが必要な理由として挙げられている主な理由は「AIと人間」という観点から来ているものであり、そのような視点から議論される事が少なくありません。ただ、日本にはもう1つベーシックインカムを導入したい特別な事情があります。

それは「これまでの社会保障費の圧縮」です。現在、日本の社会保障費は莫大なものとなっており、少子高齢化が進むことによってより一層社会保障費の確保というものが難しくなってきます。

例えば、現代の若い人は年金を払ったとしても、満足なリターンが受けられないと言われています。少子高齢化によって発生する社会保障費として挙げられる大きなものは「医療費・介護費」等です。

ベーシックインカムをどのような形で運用するのか?によって大きく異なる部分ではありますが、一部ではベーシックインカムを導入する代わりに「医療費・介護費」等を減少させ、社会保障費を圧縮するという考え方も存在します。

現在、日本のベーシックインカム法案を掲げている政党で「医療費の削減」を提唱している政党は存在しませんが、実際に運用するとなった時に、財源確保のために社会保障費の削減は避けられないという意見も存在しています。

財源の確保が難しく運用が難しく見えるベーシックインカムですが、一部では膨らんでいく社会保障費を逆に圧縮できる可能性を持っているのです。

ベーシックインカムは現実的に可能なのか?

ベーシックインカムの概要を理解した所で知りたいのは「本当にそんな事が可能なのか?」という点だと思います。可能か?可能ではないか?という点を左右するのは「財源の確保」という点だと言えるで、主にお金の観点からベーシックインカムの可能性についてご紹介していきたいと思います。

金額によっては可能

ベーシックインカムの財源は、当然の結論ではありますが「金額によっては十分に可能」という見方が大半です。ベーシックインカムが可能か?可能ではないか?については様々な議論が見受けられますが、理論的には「7万円~8万円」程度の金額なら可能という説が多いです。

ただ、社会制度というのはどれだけシミュレーションしても、実際に運用してみないと成功するか?成功しないか?という点は分からないものです。例えば、現在の年金だってシンプルに考えたら「子供が減って、高齢者が増えている」という現状を考えた時に、いつかは維持が難しくなる制度だと言えるでしょう。

しかし、少子高齢社会の世の中でも年金という制度は運用する事が出来ています。つまり「実際にやってみないと分からない」というのが最終的な結論であり、理論的には可能でも法案を通せるのか?等様々な障害がある事は確かでしょう。

なので、この記事では「出来る派」の意見と「出来ない派」の意見のありがちな意見をご紹介し、ベーシックインカムは本当に可能か?という点を押さえていきます。

出来る派の意見

出来る派の主流な意見としては、以下のような条件のベーシックインカムです。

  • 月7万円~8万円
  • ただし、18歳~20歳未満は「1万円~3万円」程度の支給
  • 消費税・所得税などの増税・税率の一律化
  • 無駄な行政サービスは徹底的に廃止
  • ベーシックインカムで代用出来るような社会保障の廃止

というようなものです。日本の税収は現在約「100兆円」程度であり、支出も同じような金額になっています。上記のようなプランでベーシックインカムを運用すると年間「90~120兆円」程度の支出がベーシックインカムだけで必要になります。

一見不可能に思えてしまいますが、ここで増税・税率の一律化の効果が出てきます。「どのような税金を」「どのくらい増税するのか?」という議論は存在しますが、この記事では一例として「所得税」」という観点から財源確保をシミュレーションしていきます。

まず、始めに「所得税」を大幅に増税する可能性を模索します。現在、日本の所得税からの税収は約13兆円です。この税収を挙げるには所得税の増税が必要だと言えるでしょう。

なので、雇用・自営に関わらず所得税を一定の「30%」と仮定した場合に、現在両者の所得を足した金額は「約250~260兆円(年度によって変化する)」です。そのため、大まか「70~75兆円」程度の税収が期待出来ます。

ベーシックインカムに必要な費用が仮に月7万円(20歳未満は3万円)と仮定した場合に、全国民で「約97兆円」が必要となるので、所得税の増税をするだけでその殆どを確保する事が可能になります。

このような増税に加えて、生活保護や基礎年金等の社会保障費を削減すれば(ベーシックインカムが代わりになる)十分に、ベーシックインカムが現実的になってきます。

また、この他にも消費税を増税するという案も存在しており、ベーシックインカムを行うには基本的にどの税金を増税するのか?に限らず、以下の要素が必要になります。

  • 大きな税収アップを期待出来る税金を増税する
  • ベーシックインカムで代用出来るような社会保障費を削る

逆に言うと、上記のような要素を満たせば、ベーシックインカムは「理論的」には可能なのです。

ベーシックインカムは出来ない派

ベーシックインカムが理論的には可能であり、財源自体は調節する事でどうにでもなる事はご紹介させて頂きました。では、なぜ「ベーシックインカムが不可能」という意見が出てくるのでしょうか?それは、主に以下の要素が挙げられます。

  • 日本の国民性的な問題
  • 少子高齢化と選挙権
  • ベーシックインカム導入による労働意欲減少とそれに伴う税収の減少

まず、始めに日本の国民性的な問題という点について解説します。日本の労働に対する価値観は世界的に見ても、かなり意識が高いと言えるでしょう。例えば、日本語の「過労死」という言葉は、世界中で使用されている言葉です。

というのも、主流な言語である「英語」にはそのような文言がそもそも存在せず、日本の独特な労働意識の高さから生まれた過労死という現象に対応する言葉が無かったのです。つまり、過労死という言葉が生まれてしまうほど、日本人は労働に対して大きな価値を見出しており、中にはそれによって命を落としてしまう人もいるのです。

つまり「仕事をするべき」という国民性的な問題から、「国が最低限の保障をするから、働かなくても良い」という法案が提出されたら、どこか日本人にとって違和感のあるものだと思います。

また、ベーシックインカムでは基本的に「全国民に一定額を」というのが絶対条件となっており、場合によっては財源確保に「年金」が利用されるケースも少なくないでしょう。

現在、日本の平均年齢は「45.9歳」です。世界的に見ても高い年齢であり、その分「年金で得をする人が多い」という事です。そのような人が多い日本で、本当に「ベーシックインカムという法案が通るのか?」という点には大きな疑問点が残るでしょう。

また、労働意欲低下による税収の減少が懸念されます。ベーシックインカムを長期間導入した例が無く「ベーシックインカムと労働意欲」というテーマの詳しいデータが存在していないので、この辺りの議論はなんとも言えない所ではありますが、労働意欲の低下によるリスクが存在している事は確かです。

個人的には、日本人は労働意識の高い人が多いので、ベーシックインカムが導入されたとしても、労働を続けている方が多いと感じていますが未知数な部分ではある事は確かです。

出来る派・出来ない派の両者の意見を考えたときに「理論的に可能だが、実際に運用していけるか?」については疑問が残るというのが、日本のベーシックインカムの現状だと思います。

実現すると伸びるかもしれない産業

最後に「ベーシックインカムが実現すると、どのような社会になるのか?」というのが、大きな疑問になると思います。そこで、ベーシックインカムになると伸びる産業についてご紹介していきたいと思います。

「創造的」な仕事が増える?

ベーシックインカムが実際に導入された際に、どのような社会になるのか?という疑問の答えとして最も可能性が高いのは「創造的な仕事・エンターテイメントが伸びる」というのが現実的です。

実際の所、ベーシックインカムが導入されたとして、人々がどのような仕事をするのか?についてはまだまだ未知数な部分ですが「人間にしか出来ない仕事」というものに、大きな価値が付加されると予想されます。

人間に出来てコンピューターに出来ない事であり、成長が予想されるのはエンターテイメント関連です。また、介護士・保育士・教師等と言ったような仕事に就く方も多くなる可能性があります。

ただ、エンターテイメント業界の伸びが予想されるのは、AIに労働を置き換える事によって人類が暇になってしまうという観点と、最低限の生活が保障される事で「漫画家」や「作家」等、成功するまでのリスクが大きい職業を目指す人が増えるという予測からです。

また、介護士・保育士・教師等と言った仕事は、ハードな仕事な上に給料が見合わないという意見も少なくありません。しかし、ベーシックインカムによって最低限の生活が保障されるので、そのような職業の人口が増える事が予想されます。

その他にも、これまででは考えられなかったような職業が次々と創造されていくかもしれません。未知数の多いトピックではありますが、ベーシックインカムによって生活が保障されているので、共通している予測の根底は「お金に囚われない選択肢」が増えていくという事です。

まとめ

ベーシックインカムが注目されている理由

  • ベーシックインカムとは全国民に一定額国が支給する制度
  • ベーシックインカムの思想自体は昔から存在している
  • AIによる労働の置き換えというリスクから注目されている

ベーシックインカムは可能?

  • 財源自体は調節でどうにでもなる
  • ただ、実際に出来るか?については疑問が残る

ベーシックインカム伸びるかもしれない産業

  • エンターテイメント業界
  • お金に囚われない仕事が増えるかも

この記事ではベーシックインカムについて概要から可能であるかどうか?、これから伸びる産業等についてご紹介させて頂きました。

筆者は、ベーシックインカム賛成派です。ただ、実際に日本でベーシックインカムが導入されるまでには「他国での成功」という点が重要になってくると考えており、他の国で成功例があればそのシステムを真似てベーシックインカムが導入する可能性があると思います。

ただ、ベーシックインカムが導入されようが・されまいが、新たな社会保障制度が必要になってくるのは確かでしょう。

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