実は利用にはすごく注意が必要な相続時精算課税制度について3分で把握

相続をするにあたって事前の対策として調べているうちに、相続時精算課税制度をつかった生前贈与が挙げられています。

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制度を単体として見ると節税効果のあるものですが、相続全体としてしてみたときにはこの制度を使うと節税効果が低い場合があるので、注意が必要です。

このページでは相続時精算課税制度についてお伝えします。

相続税と贈与税の概要

相続時精算課税制度は、贈与税の課税に関する制度です。

相続に関する税制としては相続税と贈与税が密接に関連していますので、まずはこの2つの税金についての概要を把握してください。

相続税とは

相続税とは、「相続」という名前ですが、実際には遺言で財産を得た人にも課税されるものなので、「人の死亡を原因とする財産の移転に着目して課される税金」をいうとされています。

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特定の富裕層に財産を集中させると貧富の差が拡大しますので、相続に課税をすることで富の再分配をする、というのが相続に課税がされる理由といわれています。

日本では相続税法という法律にのっとって課税されることになっており、相続財産に応じて10%から55%の課税がされることになっています。

相続時精算課税制度は相続税に関する制度ではないので注意しましょう。

贈与税とは

贈与税とは、贈与によって受け取った財産に対して課税される税金をいいます。

 

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相続税という税金が発生するのだとすると、親が生前に子に贈与をすればよいではないか、となってしまいますね。そこで、生前贈与による課税回避を防止する目的で制定されているのが贈与税です。贈与税は相続税を補完する役割をもっています、という説明がよくされます。

 

相続税も対象になる財産によって10%~55%の金額の課税がされます。

贈与というのは、イメージですと「モノ(お金を含めて)をあげること」だと思いますが、法律上は「対価が釣り合っていない」財産の移転をいいます。

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1億円の住宅を100万円で売却した場合には、形式上は売買契約でも、対価が釣り合っていないので「贈与」と評価されるので気を付けましょう。
相続時精算課税制度は、この贈与税に関する特別な規定になります。

相続時精算課税制度の概要

相続時精算課税制度は、贈与税に関する特例の制度で、生前贈与の段階では一定額の課税はしないけれども、相続の時にまとめて計算する制度をいいます。

贈与税は年間110万円までならば非課税とされていますが、2018年現在では相続時精算課税制度を利用すると、2,500万円まで非課税とすることができる制度です。

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相続に関する財産贈与の選択肢に幅を広げて、祖父・父・子などの財産移転をスムーズに行おうとする目的の制度です。

そして、相続が発生したときに、贈与により移転した財産と、被相続人の財産をあわせて相続税の納付に計算をするものです。

親族間の財産移転をうまく行うという制度ですので、利用するためには次のような要件が必要とされています。

【相続時精算課税制度の要件】

  • 贈与者は60歳以上であること
  • 受贈者は20歳以上であること
  • 受贈者は推定相続人もしくは孫であること

贈与税は、贈与を行った次の年の2月15日~3月15日までに申告を行って納税します。

相続時精算課税制度を利用するには、この申告のときに贈与税の申告時に相続時精算課税制度を利用する手続きを経なければなりません。

制度の利用は、相続時精算課税制度選択届出書と戸籍謄本などの添付書類を税務署に提出する方法で行います。

相続時精算課税制度選択届出書は国税局のホームページでPDFを公開しています(URL:https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/shinkoku/zoyo/tebiki2016/pdf/27.pdf)

相続時精算課税制度のメリット

相続時精算課税制度のメリットには次のようなものが挙げられます

2,500万円までの相続税の非課税

相続時精算課税制度の最大のメリットは、この制度の適用によって2,500万円までの贈与についての贈与税が非課税とされることです。

相続対策で事前に生前贈与で財産をうつしていくことに決めた場合でも、110万円を超える贈与をする場合には贈与税が課税されます。

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たとえば、相続人ではない孫にマンションを生前贈与します、となったような場合には、110万円はゆうに超えることになります。相続時精算課税制度を利用すれば2,500万円までは非課税で移転することができます。ある程度の金額がするものや、まとめて財産を生前贈与するような場合にはこの制度の利用で課税を回避することが可能になります。

収益物件の贈与の場合には有利

 

この制度を利用するにあたってメリットがあるのは、収益物件が相続財産に含まれる場合です。

たとえば2,000万円の不動産があり、毎月10万円の賃料収益があるとします。

これを被相続人となる人がもっている場合には、10年で相続財産が100万円増えることになります。

これを贈与が完了していると、賃料収益は贈与で財産をもらった人に入ってくることになり、相続税の対象となることはありません。

将来値上がりがする資産がある場合にも有利

たとえば、現在は2,000万円の価値がある不動産が、最寄りの駅に都心部への直通運転の可能性が出てきたような場合には、将来その不動産が大きく値上がりする可能性があります。

相続時精算課税制度において、いくらの資産が贈与されたかの計算方法は贈与時にいくらの財産であったか、で計算がされます。

つまり現在2,000万円の物件が10年後に3,000万円に価値があがったような場合、生前に贈与しておけば2,000万円で評価され、相続までおいておくと3,000万円になってしまうとういことになります。

相続時精算課税制度のデメリット

このような便利な制度ですが、当然にようにデメリットもあります。

相続時精算課税制度を利用すると毎年の基礎控除が使えなくなる

相続時精算課税制度を利用すると、毎年の110万円の基礎控除を利用できなくなります

一度相続時精算課税制度を利用すると撤回ができない

相続時精算課税制度を利用すると撤回することができません。

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やっぱり相続時精算課税制度を使わないほうがよかった…という場合でも後からやっぱり使わないです、ということができなくなり、毎年の基礎控除もうけられなくなるので、最初の戦略は相当身長に選ぶ必要があります。

将来相続財産が値下がりする場合には不利になる

相続財産が値上がりするときにはメリットになるということなのですが、当然逆の値下がりをする場合にはデメリットになるということになります。

不動産の譲渡の登録免許税が高くなる

不動産の持ち主が変わったときには、基本的には登記をすることになっています。

登記とは不動産の所有権者などの権利者がだれなのかを記録するためにあります。

相続をした場合には、被相続人から相続人に所有権が相続されたことを登記します。

生前贈与をした場合には、贈与者から受贈者に所有権が移転したことを登記します。

不動産の登記にあたっては登録免許税の支払いが必要になるのですが、登記の原因が相続である場合には、登録免許税は不動産の価格の4/1000とされているのですが、登記の原因が生前贈与である場合には不動産の価格の20/1000とされています。

同じ移転をするのであれば、相続により移転するほうが安いといえるでしょう。

物納ができない

相続税の支払いは現金でするのが原則です。

しかし、相続財産をそのまま納めることで納税とする「物納」という制度が認められいます。

物納をするには、相続財産である必要があるので、生前贈与で所有権を移転していると、相続財産とならない結果物納ができなくなります

相続税の小規模宅地の特例の利用ができなくなる

相続戦略をたてるにあたって一番気を付けるべきなのが、小規模宅地の特例との関係です。

小規模宅地の特例とは、相続税について、相続財産の評価について、不動産の価格を80%減少させることができる制度です。

相続財産の中でも土地は日本においてはかなりの割合を占めることが多く、特に都心部では居住のための土地を持っていることによって相続税の課税対象になることがよくあり、住居維持の観点から居住するための不動産の相続については評価を下げる特例が認められています。

生前贈与をしてしまうと、相続財産にはならなくなってしまう結果、小規模宅地の特例の利用ができなくなるため、実は相続全体でみるとものすごく不利になってしまうケースが非常に多くあります。

Expert
特に都心部でギリギリ相続税がかかりそうだという場合には、資産のかなりの部分で不動産が占めていることが非常に多いので、相続時精算課税制度を利用するのか、小規模宅地の特例を利用するのかはきちんと考えて利用すべきといえるでしょう。

 

 

 

相続時精算課税制度の上手な使い方

相続時精算課税制度を上手く使うことができるケースをいくつか検討してみましょう。

Aさんの場合:相続時精算課税制度を利用して相続財産を少なくする

 

Aさんには妻Bさん・子Cさんが居ます。

子Cさんはすでに独立して生計をたてており、Aさんは自宅を売却して妻Bさんと賃貸物件に居住しています。

Aさんには収益物件として3,000万円の不動産と約1,000万円の預金があります。

 

Aさんの相続対策としては、収益物件である3,000万円の不動産をどのようにするかという事を検討すべきことになります。

相続税の課税対象は、「3,000万+(600万×法定相続人の数)」という基礎控除以上の財産がある人が対象になります。

Aさんのケースでは、BさんCさん2名の相続人が居るので、基礎控除の額は4,200万円となります。

現段階で4,000万円の財産があるというAさんの場合、このまま資産を増やすと相続税の課税対象になりかねません。

不動産が収益物件であり、1,000万円の預金がある以上、その他の年金などの収入状況にもありますが、預金が増えるような状況という事が考えられます。

そのため、収益物件である不動産を相続時精算課税制度を利用して子Cさんに移転して、AさんBさんは預金をしっかり使っていき、相続時の財産をしっかり減らしておく、という対策が考えられます。

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メリットのところでもお話ししましたが、この不動産が将来値上がりするようなことが予想できるような場合には、余計に相続時精算課税制度を利用して生前贈与しておくことが望ましいといえるでしょう。

 

Dさんのケース:相続時精算課税制度は利用せず小規模宅地の特例を利用する

 

Dさんは、妻E・子F・Gさんの4人の家族です。

Dさんは自宅で妻Eさん・子Fさん夫妻と共に住んでおり、Eさんは独立しています。

Dさんの資産としては土地・建物が4,000万円、預金として1,000万円を保有しています。

Fさんは近隣で勤務をしており転居の予定はないので、この家を継ぐことを予定しています。

 

Dさんの相続を検討すると、Dさんに相続が発生した場合の相続税の基礎控除は、「3,000万+(600万円×3)=4,800万円」になります。

そのため、現在の資産構成のまま相続をすると、相続税の課税対象になるように見えます。

しかし、Dさんの資産である土地・建物は居住用の不動産で、Fさんがこの家を継ぐことを予定しています。

この土地が、小規模宅地の特例の利用ができる土地なのであれば、この不動産の評価は80%減することができ、相続税の申告自体は必要ですが非課税となることになります。

仮に相続時精算課税制度を利用してしまうと、小規模宅地の特例を利用ができなくなるため、相続税の課税対象になることになります。

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これは「相続税」対策という観点だけでお伝えをしています。この場合には相続分は妻Eさんが1/2・子E・Fさんはそれぞれ1/4です。子Fさんは妻Eさんと引き続き同居して面倒を看るので不動産を・子Gさんに現金を…というような分け方をすると、争いになることもあります。遺産分割協議ができないと相続税の申告ができなくなってしまうような場合もあるので、必ず争いにならない方法で行うように検討をすべきことになります。

相続時精算課税制度に関する相談先

相続時精算課税制度を含めた相続に関する相談をしたい!となった場合には、どこに相談すれば良いのでしょうか。

税理士

税金の問題なので、税理士に相談することができます。

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税理士にも得意分野・不得意分野というのがあります。相続に関する税務は個人の資産に関する資産税という分野になります。

相続税に強い税理士の探し方は、銀行などに相談している場合には銀行の担当者で資産税に強い税理士を紹介してくれますし、後述するような専門家と交流があるような場合には、資産税に強い税理士を知っているでしょう。

もしそういった知り合いがいないような場合にはインターネットで探して相続税に関する相談を受けている税理士を探してもよいです。

弁護士

上述したように、税金の問題だけ解決しようとすると、相続分などで当事者間で争いになるような事も発生しかねません。

そのため相続税の心配をしていながらも、法律問題になることもあるので、弁護士に相談することも間違いではありません。

Expert
弁護士も得意・不得意があり、相続は個人法務という分野に属するものです。相続に特化しているような弁護士ならば税金の事も念頭に入れた相談ができるでしょう。

弁護士であれば、相続対策として遺言の相談をして業務をしてもらうことも可能です。

司法書士

相続に関する不動産登記に関する業務ができる関係で、司法書士も相続に取り組んでいるケースがあります。

実際に相続時精算課税制度の利用となって申告する場合には税理士などを紹介してくれるでしょう。

行政書士

遺言書作成にかんする業務ができる関係で、行政書士も相続に取り組んでいるケースがあります。

司法書士と同様に相続時精算課税制度の利用となった場合には税理士を紹介してくれるでしょう。

銀行等の金融機関

相続に関する相談は銀行等の金融機関の窓口でも受け付けています。

税理士や弁護士など必要に応じて専門家を紹介してくれることになります。

まとめ

 

このページでは相続時精算課税制度についてお伝えしてきました。

贈与税の特例として便利な制度ではあるのですが、相続全体で見たときには相続税の小規模宅地の特例を利用したほうが、相続を介して支払う税金は低い場合もあることを知っていただけたと思います。

Expert
相続は節税だけではなく、相続人が円満に相続をする必要というものもあるので、全体的にどのような戦略を取るかを考えていく必要があります。専門家と相談しながら進めていくことをお勧めします。

相続時精算課税制度というものがあることを知っておきながら、どのような戦略で相続をすすめていくのがよいのかは、専門家と相談しながらすすめていくことをお勧めします。

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