意外と知らない、年金繰下げ請求制度の仕組み。今後の働き方から見た、繰下げ受給のタイミングとは?

老齢年金には、本来よりも早く年金をもらうことが出来る繰上げ支給制度と、本来よりも遅れて年金をもらうことが出来る繰下げ支給制度があります。繰下げ支給を行うことで、本来いもらうはずの年金額よりも多くの年金額をもらうことが出来るようになります。

近年では、定年が延長されたりしているため、本来の老齢年金をもらうことができる65歳から年金を受給するよりも、少しでも遅らせることで1円でも多くの年金をもらおうとする考えの方が増えてきています。

実際に繰下げ支給制度を利用するにあたって、それぞれの年金の種類別に注意すべき点がどこなのか、実際の申請のタイミングとしては、どのあたりが望ましいかについて説明していきます。

1.繰下げ支給制度の仕組み

老齢基礎年金・老齢厚生年金のいずれの場合も共通していることとしては、66歳に達した日以降から申請しなければ、増額された老齢年金を受け取ることができません。また、昭和16年4月2日以前に生まれた者が申請する場合は、増加率の計算が異なりますので、注意が必要です。

老齢年金の受給権を取得した者が、66歳以降に繰り下げて受給するために裁定請求(老齢年金の受給をするために必要な手続き)を行う際に「老齢基礎年金・老齢厚生年金支給繰下げ請求書」を提出することで、繰下げ受給を行うことができます。

なお、66歳になるまでに遺族年金などの他の年金を受給することができるようになってしまうと、繰下げ支給の請求を行うことができなくなりますので、注意が必要です。

2.国民年金の繰下げ支給

老齢基礎年金の繰下げ支給制度は、申し出た人の年齢に応じてではなく、65歳から申し出をした日の属する月までが何カ月あるかで増加率を計算します。

繰下げ支給の増加率 = 65歳に達した日の属する月から繰下げ支給の申請を行った日の属する月までの月数 × 0.7%

(1)昭和16年4月2日以降に生まれた人の老齢基礎年金の繰下げ支給の増加率

請求時の年齢

増加率

66歳8.4%(0.7%×12月)~16.1%(0.7%×23月)
67歳16.8%(0.7%×24月)~24.5%(0.7%×35月)
68歳25.2%(0.7%×36月)~32.9%(0.7%×47月)
69歳33.6%(0.7%×48月)~41.3%(0.7%×59月)
70歳以降42.0%(0.7%×60月)

(2)昭和16年4月2日以前に生まれた人の老齢基礎年金の繰下げ支給の増加率

昭和16年4月1日以前の生まれの人の繰下げ支給の増加率は、昭和16年4月2日以降に生まれた人に対する繰下げ支給の増加率とは異なり、年齢によって増加率が決定します。また、増加率も大きく異なる点が特徴です。

請求時の年齢増加率
66歳12%
67歳26%
68歳43%
69歳64%
70歳以降88%

(3)老齢基礎年金の繰下げ支給の請求を行う際の注意点(参考)日本年金機構HP「老齢基礎年金の繰下げ支給」

老齢基礎年金の繰下げ支給の請求を行うにあたってはいくつか注意しなければならない点があります。

①他の年金の受給資格を取得すると、繰下げ支給の請求が出来なくなる

繰下げ支給の請求を行うためには、65歳に到達した時点で老齢基礎年金の受給権を取得している者が、66歳に達した日の属する月以降に繰下げ支給の請求を行う必要がありますが、65歳に達した日から66歳に達した日までの間に遺族基礎年金もしくは厚生年金保険や共済組合など被用者年金各法による年金(老齢・退職給付を除く。昭和61年改正前の旧法による年金を含む。)を受ける権利がある場合は、繰下げ請求をすることはできません。

66歳に達した日より後に他の年金を受ける権利ができた場合は、その年金を受ける権利ができた時点で増額率が固定されます。つまり、66歳以降に遺族年金等の受給権が発生した場合は、その受給権が発生した日の属する月までの期間の増額率で繰下げ支給の年金額の計算が行われるため、それ以降の期間において繰下げ支給をしたとしても、受給権が発生した時点の増加率で計算することになるという事です。

例えば、67歳に達した日の属する月において、遺族厚生年金の受給権を取得して、その後、68歳になったときに繰下げ支給の申請を行った場合であっても、増加額は遺族厚生年金の受給権を取得した67歳の時点で繰下げ支給の申請を行ったものとみなして計算されてしまうということです。

ちなみに、66歳以降に他の年金の受給権を取得してから繰下げ支給の申請を行った場合は、65歳からの本来支給の老齢基礎年金及び老齢厚生年金をさかのぼって請求するか、増額された繰下げ支給の老齢基礎年金及び老齢厚生年金の請求をするかを選択することがきます。

②66歳以降でなければ、繰下げ支給の請求を行うことが出来ない

繰下げ支給の申請は、65歳になった日から1年以上経過しなければ、繰下げ支給の申請を行うことが出来ません。つまり、66歳に達した日以後でなければ繰下げ支給の請求を行うことはできないということになります。

③繰下げ支給の請求は老齢基礎年金と老齢厚生年金それぞれ別々のタイミングで請求することが出来ます。

老齢基礎年金の繰下げ支給の請求は、繰上げ支給の場合とは異なり老齢厚生年金と同時に申請を行う必要はありません。つまり、66歳になってから老齢基礎年金の繰下げ支給の申請を行い、68歳になった時点で老齢厚生年金の繰下げ支給を請求するといった形の申請方法も可能ということになります。

ただし、昭和17年4月2日以降生まれの方(平成19年4月1日以降に老齢厚生年金を受ける権利ができた方を含む)であることが要件とされていますので、注意が必要です。

④加算額は増額対象とはなりません

繰下げ支給を行った場合、増額対象となるのは老齢基礎年金の部分の年金額です。そのため、老齢基礎年金に加算される振替加算の額については増額はされません。

⑤繰下げ支給請求後の年金の支給開始時期は請求が行われた月の翌月からとなります

繰下げ支給を請求した場合の年金の支給開始時期は、請求をした月の翌月からとなります。そのため、年金支給月である2月・4月・6月・8月・10月・12月に繰下げ申請を行うと、増額された年金額の支給が始まるのが、次回の支給月からとなります。例えば、4月に繰下げ支給を申請した場合は、5月分以降の年金が増額されて支給されることになりますので、6月に支給される分から増額された年金額が支給されます。(この場合は4月分は増額前の年金額となり、実際に増額された年金額となるのは5月分のみとなります)

⑥繰下げ支給の申請は遺族が代わりに行うことが出来ません

繰下げ支給の申請を行うために、66歳になるまで待機していた期間中に老齢基礎年金の受給者が死亡した場合で、未支給の年金の請求が可能な遺族がいる場合は、死亡した者が65歳に達した時点で本来支給されるはずだった老齢基礎年金の額をもって年金額の決定が行われ、その金額で未支給年金の支給が行われることになります。

3.厚生年金保険の繰下げ支給制度

老齢厚生年金の繰下げ支給については、老齢基礎年金の場合とは若干異なる部分が存在するため注意が必要です。また、共済制度による老齢厚生年金の場合についても制度は統合されていますが、旧制度を適用する部分がある関係で調整が行われているところがあるため、こちらも注意が必要です。

(1)繰下げ支給が出来る対象者

老齢厚生年金の繰下げ支給の申請を行うことが出来る者は、昭和17年4月2日以降に生まれた人です。昭和17年4月1日以前に生まれた人のうち、平成19年4月1日以降に老齢厚生年金の受給権を取得した人についても、老齢厚生年金の繰下げ支給の申請を行うことが出来ます。

(2)繰下げ支給の増加率

老齢厚生年金の繰下げ支給による増加率は、老齢基礎年金の場合と同じ計算式で算出されます。また、増加率についても、老齢基礎年金の場合と同じとなっています。

なお、老齢基礎年金の場合と異なり、昭和17年4月1日以前に生まれた人は一部の人を除いて、繰下げ支給の請求が出来ないため、増加率の計算で優遇されるといったことはありません。

繰下げ支給の増加率 = 65歳に達した日の属する月から繰下げ支給の申請を行った日の属する月までの月数 × 0.7%

【老齢厚生年金の繰下げ支給の増加率】

請求時の年齢

増加率

66歳8.4%(0.7%×12月)~16.1%(0.7%×23月)
67歳16.8%(0.7%×24月)~24.5%(0.7%×35月)
68歳25.2%(0.7%×36月)~32.9%(0.7%×47月)
69歳33.6%(0.7%×48月)~41.3%(0.7%×59月)
70歳以降42.0%(0.7%×60月)

(3)老齢厚生年金の繰下げ支給の請求を行う際の注意点(参考)日本年金機構HP「老齢基礎年金の繰下げ支給」

老齢厚生年金の繰下げ支給の請求を行うにあたっては、老齢基礎年金の場合と同様に、いくつか注意しなければならない点があります。

①他の年金の受給資格を取得すると、繰下げ支給の請求が出来なくなる

繰下げ支給の請求を行うためには、65歳に到達した時点で老齢厚生年金の受給権を取得している者が、66歳に達した日の属する月以降に繰下げ支給の請求を行う必要がありますが、65歳に達した日から66歳に達した日までの間に遺族基礎年金もしくは厚生年金保険や共済組合など被用者年金各法による年金(老齢・退職給付を除く。昭和61年改正前の旧法による年金を含む。)を受ける権利がある場合は、繰下げ請求をすることはできません。

66歳に達した日より後に他の年金を受ける権利ができた場合は、その年金を受ける権利ができた時点で増額率が固定されます。つまり、66歳以降に遺族年金等の受給権が発生した場合は、その受給権が発生した日の属する月までの期間の増額率で繰下げ支給の年金額の計算が行われるため、それ以降の期間において繰下げ支給をしたとしても、受給権が発生した時点の増加率で計算することになるという事です。

②66歳以降でなければ、繰下げ支給の請求を行うことが出来ない

老齢基礎年金の場合と同様に、65歳になった日から1年以上経過しなければ、繰下げ支給の申請を行うことが出来ません。つまり、66歳に達した日以後でなければ繰下げ支給の請求を行うことはできないということになります。

③繰下げ支給の請求は老齢基礎年金と老齢厚生年金それぞれ別々のタイミングで請求することが出来ます。

老齢厚生年金の繰下げ支給の請求は、繰上げ支給の場合とは異なり老齢厚生年金と同時に申請を行う必要はありません。つまり、66歳になってから老齢基礎年金の繰下げ支給の申請を行い、68歳になった時点で老齢厚生年金の繰下げ支給を請求するといった形の申請方法も可能ということになります。

ただし、66歳以降であればそれぞれ別々に繰下げ支給の申請を行うことが出来ますが、老齢厚生年金の繰下げ支給の請求を行うことが出来る昭和17年4月2日以降の生まれの人、または、昭和17年4月1日以前の生まれの人で、平成19年4月1日以降に老齢厚生年員の受給権を取得した人が対象とされているため、これらのいずれかに該当しなければ、老齢基礎年金のみが繰下げ支給の対象とされます。

④加算額は増額対象とはなりません

繰下げ支給を行った場合、増額対象となるのは老齢厚生年金の部分の年金額です。そのため、老齢厚生年金に加算される加給年金(配偶者の加給年金・子の加給年金)の額については増額はされません。

⑤繰下げ支給請求後の年金の支給開始時期は請求が行われた月の翌月からとなります

老齢厚生年金の場合についても、老齢基礎年金と同様に、繰下げ支給を請求した場合の年金の支給開始時期は、請求をした月の翌月からとなります。そのため、年金支給月である2月・4月・6月・8月・10月・12月に繰下げ申請を行うと、増額された年金額の支給が始まるのが、次回の支給月からとなります。例えば、4月に繰下げ支給を申請した場合は、5月分以降の年金が増額されて支給されることになりますので、6月に支給される分から増額された年金額が支給されます。(この場合は4月分は増額前の年金額となり、実際に増額された年金額となるのは5月分のみとなります)

⑥繰下げ支給の申請は遺族が代わりに行うことが出来ません

老齢厚生年金についても、老齢基礎年金の場合と同様に、繰下げ支給の申請を行うために、66歳になるまで待機していた期間中に老齢基礎年金の受給者が死亡した場合で、未支給の年金の請求が可能な遺族がいる場合は、死亡した者が65歳に達した時点で本来支給されるはずだった老齢基礎年金の額をもって年金額の決定が行われ、その金額で未支給年金の支給が行われることになります。

4.繰下げ支給の申請のタイミングとは?

繰下げ支給の申請のタイミングについては、それぞれが同時に行う必要はなく、別々に繰下げ支給の申請を行うことが出来る仕組みとなっているので、繰上げ支給の請求を行う場合のように、同時に請求を行わなければならないというわけではありません。

そのため、老齢基礎年金の年金額と老齢厚生年金の年金額を比較して、いずれかの年金額を繰り下げても最低限度の生活ができる収入状況であるか等を考慮したうえで、繰下げ支給をするかどうかについての判断をする必要があります。

【繰下げ支給の請求を行うタイミングを考える際の注意点】

繰下げ支給を選択する場合は、65歳から66歳までは基本的に待期期間となるため、老齢基礎年金・老齢厚生年金とも支払われません。(一部、特例に該当する人を除く)そのため、年金以外の部分での収入が見込めるか、もしくは、最低限度の生活を営むための貯蓄があることが重要になってきます。

65歳から年金を受給する人と繰下げ支給を選択した人とでは、(70差まで支給を繰り下げた場合)およそ81歳を過ぎると、繰下げ支給を選択した方が、生涯もらうことが出来る年金の総額で65歳からもらう人の年金の総額を上回りますので、そこまでのライフプランをしっかりと計画的に立てられることが重要となります。

5.まとめ

近年では、継続雇用制度や定年の引き上げ・廃止などにより、従来までの働き方とは異なる様相を見せるようになってきました。そのため、老齢年金を受給できる年齢になった時点でも、働いている人がどんどん増えて、老齢年金の繰下げ制度を活用することを検討する人が増えてくることが考えられます。

繰下げ支給を考えている場合は、現在の収入状況は年金をもらわなくても生活できる水準なのかどうか?といった点や他の制度との関係によって、実質的にいくらくらいもらうことができるようになるか?といった事を、ある程度計画的に考えたうえで行うかどうかの判断を行うことが重要になってきます。

実際にもらうことができる年金額の予想額については、ねんきん定期便などを活用することで確認できますので、それらの情報を併せて活用することが望ましいです。

岡崎 隆宏
SRFP隆宏
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社会保険労務士・CFP認定者・1級FP技能士

外資系生保会社で6年くらい営業として実績を積み、その中でFP資格を取得し、その時の経験を活かし、お金に関する執筆を始める。

日本FP協会愛知支部の役員幹事として6年、FPとして一般消費者向けのセミナーの講師や個別相談会の相談員などを担当。得意分野は「公的年金・個人年金」「社会保険制度」「出産・育児関係」等。

現在は、社労士・FPとして、労働や年金等のお金についての記事の執筆や資格試験の講師、セミナー講師等を行っている。

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