大きく変わる相続法。変わる相続法に適用した節税方法とは?

2019年1月から、相続の法制度が順次変わります。

財産(物権、債権)や家族(親族、相続)に関するルールを定めた民法の改正に伴うものです。

「親は資産家ではないから遺産が少なく兄弟姉妹で争うことなんてない」

「我が家は自分と弟しからおらず家族が少ないので、話し合いで解決できるはず」

そう考える方も多いようですが、遺産の分割をめぐって争う”争族”が増加しているというデータもあるようです。

これから起こる相続に備えるために、相続法改正の主な点を記事にまとめました。

これからの節税法を考えるヒントになれば幸いです。

相続法改正の経緯

相続法制については、昭和55年に、配偶者の法定相続分の引上げや、寄付分制度の新設等の改正がされて以降、約40年間、大きな見直しがされていませんでした。

しかし、その間、平均寿命は伸びました。

そして、社会の少子高齢化が進展する一方で、高齢者間の再婚が増加するなど、相続を取り巻く社会情勢には大きな変化が生じています。

この大きな社会情勢の変化を受けて、相続に関する規律を見直す必要性が高まっていました。

そして、法務省内に設置されたワーキングチーム内での検討、法制審議会が設置した部会での調査審議等を経て、平成30年3月13日に、相続法等改正案が第196回国会に提出されました。

そして、7月6日に参議院本会議において可決・成立し、7月13日に交付されました。

配偶者の居住権に関する改正

相続法改正前は、残された配偶者は遺産分割に伴い自宅を相続したものの、現金が手元に残らないというケースもありました。

残された配偶者の状況によっては、自宅だけを相続するのがよいわけではありません。

住む場所があっても生活に困らないだけのお金がなければ、生活費や医療費、緊急的な出費に困ってしまいます。

相続法改正後は「配偶者居住権」という新しい考えを取り入れ、住み慣れた自宅にそのまま居続けながら、遺産分割時にお金も受け取ることができるようになりました。

具体例を見てみます。

相続人が配偶者と子の2名で、遺産が3,000万円の価値がある自宅不動産と、預金4,000万円があるといったケースを考えてみます。

配偶者の法定相続分が2分の1ですので、配偶者が自宅不動産を取得すると、預金は500万円しか取得することができません。

これに対して、配偶者居住権の制度を利用すれば、自宅不動産の価値を配偶者居住権の価値と、配偶者居住権の負担が付いた所有権に分けることができます。

例えば配偶者居住権の価値が1,500万円と評価されるということになれば、配偶者はその他に預金を2,000万円取得することが可能となり、老後の生活資金を十分に確保することができるようになります。

遺産分割等に関する改正

さきほどの「配偶者居住権」の制度は配偶者の権利が拡大するものでした。

今回の相続法の改正で配偶者の権利が拡大する法律がもう1つできました。

贈与に関する法律です。

対象は結婚の期間が20年以上の夫婦になります。

生前に贈与、または遺贈(死亡時に贈与されたことを言います。)された家は、遺産分割の対象から外れます。

具体例を見てみましょう。

亡くなった夫の遺産が8,000万円の自宅と4,000万円の預貯金だったと仮定します。

相続人は妻、長男と次男の3人です。

法定相続分により、妻は2分の1の6,000万円、長男と次男はそれぞれ4分の1の3,000万円を受け取ることができます。

改正前では、たとえ夫が妻に自宅を遺贈したとしても、8,000万円の自宅も遺産分割の対象となります。

自宅8,000万円と預貯金4,000万円の計1億2,000万円を、妻、長男、次男の3人で分けます。その結果、長男と次男に計6,000万円を渡すために、妻は家を売って現金を用意する必要がありました。

しかし改正後は、夫が自宅を妻へ遺贈すれば、8,000万円の自宅は遺産分割の対象から外れます。

そして、残りの4,000万円の預貯金のみが遺産分割の対象となります。

つまり、法定相続分に従って、妻は4,000万円の半分の2,000万円、長男と次男はそれぞれ1,000万円を受け取ります。

そして、8,000万円の自宅は妻のものとなり、妻の取得額の合計は1億円になります。

住み慣れた自宅を確保したうえで、生活費の原資となる預貯金も得られます。

仮払い制度の創設

亡くなった親の銀行口座が凍結されて現金が引き出せない、といったことで困った方はいらっしゃいませんでしょうか?

私自身はありませんが、職場の上司からそういった話を聞いて、本当に大変だなと感じました。

残された家族のこういった事態を避ける方法が、今回の法改正で実現しました。

遺産分割協議が終わっていなくても、預貯金の引き出しができるようになりました。

1つは家庭裁判所に仮分割の仮処分を申し立てる方法です。

生活費や葬儀費用、相続税の納税資金などが必要な場合には、他の相続人の利益を害しない範囲で、家裁が預貯金の仮払いを認めることができるようになりました。

ただし、調停の申立てが前提になるので、手間と時間がかかります。

そこで2つ目の方法として、一定の割合に限り、家庭裁判所の判断を経なくても預金が引き出せるようになりました。

具体的には、各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、相続開始時の預貯金債権の額の3分の1に、当該払戻しを求める共同相続人の法定相続分を乗じた額(ただし、同一の金融機関に対する権利行使については、法務省令で定める額を限度とする。)までについては、他の共同相続人の同意がなくても単独で払戻しを求めることができます。

例えば、父はすでに亡くなっていて、母が亡くなったとします。

そして、母は1,200万円を銀行に預けています。

この事例で相続人が長男と次男の場合、それぞれ1,200万円×2分の1(法定相続分)×3分の1 = 200万円までが引き出せるようになりました。

残された長男や次男の手元に資金がない場合でも、母の口座から下したお金で葬式ができるようになりました。

遺言制度に関する改正

自筆証書遺言の作成が手軽に

遺言は、遺産の分配方法等に関する被相続人の最終意思を明らかにするものです。

被相続人の最終意思を尊重し、遺産の分割をめぐる紛争を防止する観点から、一般的には遺言の利用を促進することは望ましいと言えます。

相続法改正前は、この遺言書の全文を自筆で書く必要がありました。

高齢者にとっては、慣れない遺言を書くこと自体が大きな負担です。

まして、様々な遺志を盛り込んだ遺言書となると、作業量はとっても多くなってしまいます。

特に重荷となっていた「財産目録」をワープロやパソコンで書けるようになりました。

財産目録は対象財産を特定するだけの形式的な事項であるため、この部分については自筆を要求する必要性が類型的に低いものと考えられるためです。

不動産や預金、株式、借入金などの財産リストをパソコンなどで作ることができるようになれば、自筆での負担が大きく軽減されます。

またパソコンなどで、一覧を作らなくても、不動産登記事項証明書や通帳のコピーの添付によるリストの作成も認められます。

ただし、偽造防止の観点から、自筆証書に自書によらない財産目録を添付する場合には、その目録の毎ページに署名及び押印をしなければならないこととしています。

これによって、財産目録の裏面が白紙である場合に、裏面に新たな目録を印刷する方法で遺言書を変造することもできないようにしています。

遺言執行者の権限の明確化

改正前の民法では、遺言執行者は相続人の代理人とみなすとしていました。

これは遺言執行者が遺言に示された遺言者の意思を実現する限度で必要な処分を行った場合には、それが相続財産についての権利の帰属主体である相続人に帰属することを意図するものであるといわれていました。

そして、遺言執行者は常に相続人の利益のために職務を遂行すべきであるとの誤った認識を抱く方も少なくなく、このために、遺言執行者と相続人との間でトラブルになるケースが相当数あるとの指摘がされていました。

そこで、改正法では、遺言執行者の行為の効果は相続人に帰属するとの表現内容に改めています。

また、改正法では、被相続人による財産処分として実務上しばしば用いられる特定遺贈や特定財産承継遺言(いわゆる相続させる旨の遺言のことを言います。)がされた場合について、遺言執行者の原則的な権限の内容を明確化しています。

保管方法の制度の創設

今回の法改正により、法務局に自筆遺言を預けられる制度が始まります。

これまで自宅などにこっそり保管していた遺言書を法務局が預かることで、第三者に内容を改ざんされる恐れがなくなることが利点です。

法務局に預ける際には、事務官が遺言書を審査します。

もし署名捺印や日付がないなど形式に不備があれば、その時点で事務官が指摘してくれます。

また、すぐに相続手続きを始めることができます。

法改正前は、自筆証書遺言は家庭裁判所の検認(相続人などの立会の下、遺言書を開封し内容を確認することを言います。)が必要でした。

しかし、法改正後はこの検認が不要になります。

そして、すぐに相続手続が始められます。

なお、法務局での保管に関する費用は数百円の印紙代のみです。

遺留分制度に関する改正

旧相続法では、遺留分減殺請求※により当然に物権的効果が生ずることとされているため、減殺請求の結果、遺贈又は贈与の目的財産は受遺者又は受贈者と遺留分権利者との共有になることが多いです。

こうなってしまうと、円滑な事業承継が難しくなってしまいます。

また、共有関係の解消をめぐって新たな紛争を生じさせることにもなりかねません。

例えば、被相続人が特定の相続人に家業を継がせるため、株式や店舗等の事業用の財産をその者に遺贈するなどしても、減殺請求により株式や事業用の財産が他の相続人との共有となる結果これらの財産の処分が困難になるなど、事業承継後の経営の支障になる場合があるとの指摘もされていました。

また、明治民法が採用していた家督相続制度の下では、遺留分制度は家産の維持を目的とする制度でした。

そして、家督を相続する遺留分権利者に遺贈又は贈与の目的財産の所有権等を帰属させる必要がありました。

そのため、物権的効果を認める必要性が高かったわけです。

しかし、現行の遺留分制度は、遺留分権利者の生活保障や遺産の形成に貢献した遺留分権利者の生活保障や遺産の形成に貢献した遺留分権利者の潜在的持分の清算等を目的とする制度となっております。

この目的を達成するために、必ずしも物権的効果まで認める必要性はなく、遺留分権利者に遺留分侵害額に相当する価値を返還させることで十分ではないかとの考えもありました。

そこで、改正法においては、遺留分に関する権利行使により生ずる権利を金銭債権化することとしています。

※遺留分減殺請求とは、遺留分を侵害されている相続人が、遺留分を侵害している受遺者や受贈者に対してその侵害額を請求することになります。

なお、遺留分とは相続人に法律上確保された最低限度の財産のことを言います。

相続の効力等に関する改正

今までは、遺言による権利変動のうち相続を原因とするものについて、登記等の対抗要件を備えなくても、その権利取得を第三者に主張することができるとしてきました。

例えば、特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言のことを言います。)や相続分の指定がされた場合が該当します。

しかし、例えば、相続債権者が被相続人の有していた債権の差押え及びその取立てを行い、被相続人の債務者がその取立てに応じたとしても、遺言と抵触する部分は無効となり得ました。

そのため、遺言の有無及び内容を知る手段がない相続債権者や被相続人の債務者に不測の損害を与える恐れがありました。

そこで、改正法では、相続を原因とする権利変動についても、これによって利益を受ける相続人は、登記等の対抗要件を備えなければ法定相続分を超える権利の取得を第三者に主張することができないこととしています。

また、改正法では、特定財産承継遺言等により法定相続分を超える権利の承継がされた場合については、登記等の対抗要件を具備しなければ第三者に対抗することができないとしています。

そして、承継した権利が債権である場合については、その権利を承継する受益相続人の債務者に対する通知により対抗要件を具備することを認めています。

ただ、相続させる旨の遺言等によって債権の承継があった場合には、その遺言をした被相続人は既に死亡しています。

そして、その相続人についても、どのような状況の下で遺言がされたか認識していない場合も多いです。

そのため、受益相続人以外の相続人に債務者に対する通知を期待することは困難である場合が多いと考えられます。

また、相続させる旨の遺言等の相続を原因とする権利の承継とする場合には、遺贈等の特定承継の場合と異なります。

すなわち、受益相続人以外の共同相続人は対抗要件の具備に協力すべき義務を負わないとされているため、別の手段が設けられています。

具体的には、まず、遺言により権利を承継した場合にあっては、受益相続人が債務者に対して通知を行うに際し、その遺言の内容を明らかにすることを要求しています。

相続人以外の者の貢献を考慮するための改正

旧相続法では、寄与分は相続人にのみ認められていました。

そのため、相続人以外の親族が被相続人に対する療養看護その他の労務の提供により被相続人の財産の維持又は増加について寄与をした場合に、寄与分を主要したり、あるいは何らかの財産に分与を請求したりすることはできません。

このため、相続人以外の者(例えば被相続人の長女の夫)が療養看護等の貢献を行った場合、貢献を行った者が相続人の配偶者であるときは当該相続人(例えば被相続人の長女の夫が貢献した者である場合には、長女)の寄与分として評価されることも実務上しばしば行われています。

しかし、当該相続人が既に死亡している場合にはそのような手段をとることもできず、公平感を欠くという指摘もありました。

そこで、改正法では、相続人以外の親族が被相続人に対する療養看護その他の労務の提供により被相続人の財産の維持又は増加について寄与をした場合には、相続人に対して金銭(特別寄与料)請求をすることができることとしています。

なお、この特別の寄与制度は、民法にこれまでにない新しい制度です。

被相続人と近しい関係にある方が被相続人の療養看護等をした場合には、被相続人との間で報酬の契約を締結するなどの対応が類型的に困難であることに鑑み、これらの方の利益を保護することを目的とするものですので、請求権者の範囲を限定することには合理性があると考えられます。

これらの点を考慮して、改正法においては、特別の寄与に関する請求権者の範囲は、被相続人の親族に限定することとしています。

まとめ

ここまで記事をお読み頂きましてありがとうございます。

今回の記事で紹介した「配偶者居住権の改正」「遺産分割等に関する改正」で紹介した内容は配偶者の権利を拡大する改正でした。

そして、「相続人以外の者の貢献を考慮するための改正」で紹介しましたように、義理の両親を介護した際、金銭で報われるという点も今回改正されました。

また、「遺言制度に関する改正」で紹介しましたように、自筆の遺言書の「形式」と「保管方法」が変わりました。

この記事が皆様の参考になりましたら、幸いです。

なしお
なしお
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公認会計士・税理士として、会計事務所で10年間働いています。専門家として税金の仕組みをわかりやすく解説します。

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